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雑魚の兵士は、僕とハルだけでも充分なくらい簡単に倒す事が出来た。
けれど、僕らを迎え入れた二人だけは、そんなに簡単ではなさそうで…実際、アロウとブレアン、ザイの三人でどうにか相手を出来ているという感じ。
けれど、誰一人として手出ししなかった。
何故なら、僕らは彼らを信じているから。
既に他の兵は、僕らの手で取り押さえられている。
それを横目に見たアロウは、安心して戦う事が出来ているのだろう。
体躯の良い男にはブレアンとザイが挑み、もう一人の、狡猾そうな男にはアロウ一人で戦っていた。
僕らは、その間に出来ることをする。
ガルドとセイが、自分達の力を使い、王が居るところや宰相さまが囚われているだろう牢の場所を確認し、他にこちら側の人間達が囚われていたりしないかどうかを調べてくれていた。
既に――ガルドの体にあった火傷の跡は、今朝、出かけてくる前、セイに取り払われている。
それを見て、怯む者も多い。
その上、セイの存在もまた彼らに畏怖を与えている。
やはり、と言うべきだろう。彼らのお陰で、僕らは有利に動けているのだ。
ただ、アロウ達が苦戦している二人は、どうやらそんな事など気にならないらしいけれど……と言うより、見ている余裕がないのかも知れないけれど――。
剣の打ち合う音が部屋に響き渡る。
捕らえられた兵士達が負っている傷からは、血の臭いもする。
そんな中で、僕らは三人を見ていた。
本来なら、ここで応戦するのだろうけれど、アロウ達の戦い振りを見ていれば応戦する気もなくなる。
何しろ――後少しで、二人は床に両膝をつくところなのだから……。
そう思ってから僅か数分後、予想した通りに彼らはアロウ達の手に堕ちた。
小さく舌打ちする音がしたけれど、僕らは気にもならない。
彼らの体から、全ての武器を奪い去り、その状態で縄を使って拘束した。
もちろん、セイの術と大神官さまたちの術を施した縄だから、そう簡単には外す事は出来ないだろう。
「父上は――」
「ああ、心配すんな、生きてるぞ――この丁度下の辺りにある牢屋の、一番手前に大臣と…二人とも無事だ。他にも人が居るけど……」
ザイが二人に尋問しようとした瞬間、ガルドが声を掛けてきた。
口の中には、やっぱりという感じで食べ物が詰め込まれていたりして…いくら力を使ったからって、この状況で物が食べられるガルドの神経を疑いたくなるけれど…、まあその辺には目を瞑ることにした。
「ありがとう、ガルド」
ブレアンが、ホッとしたように礼を言えば、テレたように笑みを浮かべるガルド。
「お前達は、キリクの手の者か?」
アロウが冷たく問いただせば、転がっている二人が鼻で返事をする。
それだけで、僕らの問いに答えたというもの。
「後何人いる?」
「教えるはずもないだろう」
狡猾そうな方の男が答えると、彼の顔がある真横にアロウの剣がズサリと刺さった。
その男が目を見開いているのが、僕の居るところからでも判る。
「言え――」
端的に、そして冷酷に言うアロウは、怒りを露に言い放つ。
けれど、その怒りは――決して自分個人だけの物じゃなくて……。
それに気付いたのだろう、体躯の良い方の男が、狡猾な男の止めるのも聞かずに答えた。
「キリクさまの近くに二名、牢を見張る三名、後は王の側近として二名だ――」
全部で七人。
それを聞いても、安心は出来ない。
この男が本当の事を言っているのかどうか、信用すら出来ないのだから。
セイへ視線を向ければ、静かに微笑まれてしまった。
その顔が、僕らに大丈夫と言ってる気がするのは、きっと間違えではないだろう。
「まずは、牢へ行く者と王の居る場所に行く者とで分けるか?」
「いや、この場合は、皆で行動した方が良いだろう――」
アロウとザイがそう言い合うと、セイがコホンと一つ咳払い。
そして――。
「先に王の方へ――そこにキリクも居ます。牢屋の方は、それ程の力を持つ見張りがついていませんから、四人も居たら助け出せるでしょう。一つの牢の中には、五人ずつ入れられています。宰相と大臣――それに、その側近達が一緒に居ります」
そう言ったセイは、どうやら普段は使わない力を使ってくれていたらしい。
「王は、この通路を真っ直ぐに行った先で、キリクと共に居ますね――その周りには、その者達の言う手の者というのが数人。けれど、心配はないでしょう」
ニコリと微笑むセイは、けれどその厳つい顔のせいで少しだけ怖く感じた。
いや、いつもの笑顔じゃなかったのだ。
まるで――そう、何ていうか悪巧みをする時の顔っていう感じ。
それを見たガルドが、小さく溜め息を吐いた。
どうやら、彼はこの顔を見慣れているみたいだ。
だけど、他の人達はそんな風に感じなかったのだろう。大きく頷いて、今すぐにでも戦えるよう、準備をしていた。
「では、この二匹も抱えて、向かいますか」
そう言ったのは、ここに来るまでの間、あまり活躍出来なかったと文句を言っていたヤズ。
今も、少しだけ拗ねている感じで、そんな姿に皆が苦笑した。
どうやら、僕らは本当に余裕があるらしい。
もちろん、気を緩めている訳じゃない。
ただ、自分達の仲間の力を信じて疑わないからこそ、この状況でも余裕でいられるのだ。
「では――今度こそ、決戦ですよ」
大神官さまの掛け声に、僕らは大きく頷き、そして邪魔ではあるけれど、捕らえたキリクの手の者も連れて移動することにしたのだった。
王の居るという場所へ行くと、その部屋の前には屈強な男が二人、僕らを出迎えてくれた。
その二人は、ハルとヤズが抱えている者を見ると、ギョッとした顔をして僕らを見やる。
それと同時に、ガルドが先頭へと歩み寄り、二人へと手を翳した。
もちろん、彼の力では大したことが出来るわけではない。
ただ、声を抑えただけ――。
彼らは、それに驚き、余計に固まっているようで――その隙を狙って、アロウとブレアンが二人を拘束に掛かる。
当然だけれど、簡単にやられてくれそうな二人じゃない。
力の限り、僕も加勢に入った。
と言っても――剣は使わない。
彼らの後ろ手に回って、蹴りを一発入れただけ。
よろめいた所で、多勢に無勢。
申し訳ない気持ちもあるけれど、実際にはそんな甘い事など言ってられない。
そうして、入り口の二人は撤去――というか、拘束することが出来た。
後は、中に居るだろう王とキリク、そしてその側近達を拘束するのみだ。
ここに来るまでの間にも、かなりの警備兵と遣り合ってきた僕らだというのに、誰一人として疲れを見せる者はいなかった。
まあ、ガルドだけは何度となく口に食べ物を入れては居たけれど――。
ダンッと大きな音を立てて、部屋の扉を開け放つ。
と、同時に側近らしい二人が、予想でもしてたかのように飛び出してきた。
けれど――先頭に居たアロウとブレアンが、その二人を交わした瞬間、他の者が一気に剣を向ける。
既に四人を拘束していた僕らを見た二人は、どう足掻いても無駄だと知っていたのだろう、そのまま剣は構えても決して斬り掛かっては来なかった。
剣を奪うのが先か、縄を掛けるのが先か、どちらにせよ二人が抵抗を見せることはなかった。
呆気ない結末――。
部屋の奥には、物音を聞いて扉を開けたキリクと王。
王の目は、少しだけ曇っているようにも見えたけれど、キリクの方は禍々しい色に輝いているようにすら見えた。
僕らを見たキリクは、けれど決して慌てては居なかった。
それも当然だろう――自分の手許には王が、国王陛下が居るのだから。
そして――。
「何事ですか――?」
静かにそう言い放ったキリクは、僕らの目から見ても、ガルドの目から見ても、気味の悪い生き物にしか見えなかった。




