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翌日――僕らは、重い気持ちと頭を抱えて、大神官さまの部屋へと足を踏み入れた。

そこには既に、他の人達も集まっていて――けれど、その顔には疲労が色濃く出ている。

王女もまた、その場に居たけれど、彼女の顔にも疲れと……そして紅く腫れた目元が、泣いていた事を知らせていた。

どれだけの人達が、昨日、傷付いただろう。

間違えなく――アロウと王女は、他の誰よりも傷付いていたはずだ。

だけど――僕の隣りで、今も尚、顔を俯かせているガルドもまた、同じように傷付いていた。

自分の身内を殺される――という想いは、きっと、他の誰よりもガルドの方が判るのだ。

まだ、アロウ達よりも――ずっとずっと、彼の方が傷付いている。

それでも――その足で立ち、一緒に歩いてここまで来たのは、決して現実に負けてないから。

今朝――苦い顔をしながらも笑顔で『おはよう』と言ったガルドは、ここに来る前、こう言っていた。

 

『俺は――やっぱり、あいつのしたことを赦せない。自分は、あいつとは違うから――やっぱり、人を自分の持つ力で傷つけることは出来ねぇ。それってさ――弱いってことじゃねぇよな?』

 

その言葉に、僕は素直に頷けていた。

弱くなんか無い――それどころか、他の誰よりも強いよ――と。

それでも、顔を俯かせているのは、本当の意味で傷付いてしまっているからなのだろう。

 

 

「今日こそ――王城へと向かいますよ」

 

決意を新たに言う大神官さまは、僕らへ意志を固めろと目で言ってくる。

アロウが、そっと目を瞑り大きく息を吸い込むと、僕らへと声を掛けてきた。

 

「俺は、あの女のした事が今も赦せない。だが――今は、そんな恨み言を言ってる場合じゃないことも本当だ。俺達の国を取り返す為、ここに来ている皆のため――そして何よりも、俺達と共に戦ってくれるアンジーのために」

 

そう言った途端、その場の空気が変わった気がした。

ふと、セイに視線をやれば、ホッとしたように僕らを見ているのが判った。

彼もまた、きっと心配していた一人。

誰もが、ちゃんとその足で立ち上がれるか心配してくれていたのだろう。

セイが厳つい顔に笑みを乗せている。

 

「では――改めて……王城へ向かいましょう」

 

大神官さまとセイの掛け声で、僕らは昨日辿った地下通路を使い、今度こそ王城へと向かうことになったのだった。

 

 

 

 

本当は、正々堂々と正面から行ければ良かったのだけれど、大神官さまはもちろんのこと、セイもまた王城へ同行してくれるということから地下通路を使うことになった僕ら。

王女は――もう、危険がないのなら一緒に、と駄々を捏ねていたけれど、問題の占術師であるファースを捕らえはしたものの、まだキリクが残っている。

また、そのキリクの手の者が何をするか判らないということから、彼女達にはやはり大神殿でお留守番をしてもらう事になった。

昨日と同じ顔揃えではあるけれど、何よりも心強いセイとガルドのお陰で、皆の足取りは今朝の疲労を感じさせないほどに軽やかだ。

アロウの、あの言葉だけで皆が立ち上がった。

それだけのことで、皆がまた一致団結した。

僕は、それがとても凄いことだと思える。

何よりも――それこそが、何かの鍵になっていると思えてならなかった。

そう、僕が解き明かさなくてはならない、竜に会うための鍵。

まだ、先は判らない。

それでも、どこか確信めいたものがあったのだ。

 

首尾よく王城の真下までの通路を辿れば、皆の顔に生気が漲る。

その、どの顔にも、お互いに信頼を置いているのが判った。

それぞれの分担された仕事。

それらをやり遂げる自信が、どこからともなく湧いてくるから不思議だ。

 

「まずは、ガルド――通路を出たところの警戒を頼む――その後、ハルとブレアンが先頭を行く。宰相の所まで行ければ、後は王の許まで直ぐだ」

「キリクは――あの占術師が居ない事に気付いている頃です――きっと、それなりの手の者が動いていると思いますから気をつけて」

 

アロウの言葉に大神官さまが一言付け足すと、皆も頷いた。

そして、今度はセイが忠告を入れる。

 

「ファースの掛けている術は、いつ解けるか判りません。今のところ、術の反動は少ないと思いますが――キリクに限っては心が違うもので囚われています。そのせいで、どんな手を使ってくるか判りませんから、皆さん、気を引き締めてください」

 

それを聞き、皆の顔がグッと引き締まる。

そんな彼らを見て、僕は感動していた。

それと、少しの興奮。

今までにない事を、今、僕らはやろうとしているのだ。

勇気ある行動――なんて、少し恰好良すぎるだろうか。

それとも、浮かれすぎているだろうか。

 

 

 

「出てきていいぞ、誰も居ねぇ――ってか、見えねぇ」

 

ガルドの合図に、ブレアンとハルが隠し扉を抜ける。

そして、ブレアンが手で合図をしてくると、僕らは静かに後を続いた。

目標は、宰相の居る場所。

王城の地図は、既に宰相さまと大臣から受け取っている。

彼らが言うには、城の警備隊もキリクの息が掛かっている者も多いらしい。

それらは先頭を行くガルドとブレアン、そしてハルが請け負う。

セイは僕らの一番後ろを守ってくれているのだけれど、何もない場合は一切の手を出さないとのこと。

彼も彼なりの考えがあるらしく、出来るだけ人間のすることには介入したくないらしい。

大神官さまとテオ神官さまは、真ん中辺り、僕とヤズの近くで一緒に行動している。

アロウは――ブレアン達の後ろ。

ザイは、そのアロウを守るよう隣りで移動中だ。

仲間というのは、本当に心強いものなのだと、この時こそ、感じた事は無い。

途中、何度となく警備兵とのやり合いがあったけれど、心配することもなく――彼らは小さな傷を負うだけで、殺すこともなく拘束しておいた。

その辺に転がしておくわけにもいかないので、一応、それなりに見えない場所へと移動させたけれど、皆が皆、それぞれの仕事を判っているように行動し、そして前進していく。

僕もまた、彼らと同じように戦いたいとは思ったけれど、出来るだけ静かに移動することを心がけているため、彼らの指示されたように大人しくしておいた。

というか――出る幕なしっていうのが、本当のところなんだけど……ちょっとだけ悔しい。

 

そうして――あっという間に、僕らは目的の場所である、宰相が居るであろう執務室までやってくる事が出来た。

と言っても、この執務室付近は、やたらと厳重で(当然なのだろうけれど)警備兵が一定感覚に置かれていたから、手は掛かった。掛かりはしたのだけれど、一致団結をし結束の固い僕らには怖くなどなかったのだ。

相手は、本来城の警備兵なのだから、それなりの力を持ち、人を守るということに長けた人達がなるものだろうと思う。

けれど、ここの面々は違っていた。

自分の身を守る事ばかり考え、城を守っているのだという意識が低すぎるのだ。

そのせいで、僕らの方が優勢だと判ると我先に逃げ出そうとした。

一気に押したのが良かったのだと思う。

走り逃げ去る前には、皆が分担して一人残らず捕まえる事が出来た。

もちろん、この時には僕も参加させてもらった。

何しろ、体術に関してはここに揃ってる人達よりも上なのだ。

他の人も出来ないと言う訳ではない。ただ、剣術の方が勝っているため、そちらを頼りすぎるというだけの話。

今回のような場合には、僕の小さな体も役に立つのだ。

 

「よし――後は父上の所へ」

 

ザイがそう言うと、皆が静かに頷き、宰相さまが居るだろう執務室へと乗り込んでいった。

そして―――。

 

 

「ようこそ――ミードラグース城へ」

 

そう笑って迎え入れてくれたのは―――予想していなかった人間だった。

本来、そこに居るはずの宰相さまはどこにもおらず、文官らしい人達も誰一人として居なかった。

居るのは――今、僕らに声を掛けてきた、褐色まではいかないまでも、この大陸ではあまり見ることのない肌の色をした男二人。

髪の色は、この世界ではありきたりの茶だけれど――金に近い色合いをしている。

 

「宰相には、少しお休みを言い渡しました。何しろ、賊と手を組んで城を乗っ取ろうなどと考えている方ですもので……今は牢に入り、静かにしてもらっておりますよ?」

 

くすりと笑う男は、屈強とは言えないが、決して侮れない体つきをした男。

もう一人、その男の横に並んでいるのは、筋骨隆々という感じの男。

これは、手強いかも――と思って、体に緊張が走った。

けれど、次の瞬間には考え直してしまっていた。

だって―――僕らは一人じゃないのだ。

何よりも、心強い仲間がいるじゃないか……こんな男二人――ううん、何人来たって、僕らは決して負けるはずは無い。

負けていられないという言葉の方が、本来はあっているのだろうけれど……違う――負けることなどないのだ。

ほら――もう、皆の顔が変わってる。

ブレアンは、確かに顔を強張らせては居るけれど、それ以上にザイがしっかりと相手を見据えているし、他の人達も何時だって彼らと戦えるよう心の準備が出来ている顔。

そして―――ほらね――アロウが、決して怒りだけを顔に出してないもの。

そう、これが僕の――心強い仲間。

 

「さあ、貴方達も、素直に牢へ入ってもらいましょうか」

 

相手の言葉が掛け声になった。

いきなり他の扉から数名の兵士が出てきて、僕らを取り囲む。

けれど、その兵士達の目には、戦う意思など見受けられない。

目の前の、二人だけは腕にも自信はありそうだけれど――これなら、皆の力を合わせれば大丈夫。

そう思った瞬間には、僕らに斬り掛かって来ていた兵士達。

そうして―――。

 

 

 


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