表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
71/84

70

 

 

 

今、僕らは漸く到達した目的の場、王の間にやってきていた。

対峙するは、元凶の妾妃キリク。

国王陛下は、どうやら術が解け始めているのか、僕らを見る目に生気が宿っていないにも関わらず、何故かアロウを見つめていた。

それも当然かも知れない。

アロウの顔は、どう見ても王と酷似し、正妃さまの面立ちにも似ているのだから。

赤に近い、その目は間違えなくこの王から受け継いでいるもの、そして、この珍しい色の髪は正妃さまから貰ったもの。

それは、誰の目から見ても疑う事のない事実。

何よりも、この王の目がしっかりとしていれば、間違えなく精悍で雄々しい顔つきをしていることだろう。

それは、この僕らの前でキリクに対峙しているアロウそのものだ。

 

「妾妃キリク――お前の企みは、全てこちらの手に落ちた。いい加減、大人しくその身を投じろ」

 

アロウの声が王の間に響き渡る。

その声は、威厳ある上に立つのに充分過ぎるほどのもの。

決して、目の前の者にすら怯む事もなく、そして跪くこともない――。

 

「国王陛下――そろそろ目を覚まして頂こう――あまりにも長い時間、好き勝手してきたキリクを断罪する時がきたのだ」

 

アロウが続けざまにそう言った途端、キリクが高らかに笑った。

まるで――どこか気が狂っているかのような笑い声は、甲高くて耳障りな、そんな声だった。

 

「何を馬鹿げたことを――この私が何をしたと言うのです?」

 

今だ余裕なキリクは、悠々とそう言い放ちながら、王の腕から手を離すこともない。

王は、そんなキリクをぼんやりと見つめている。

何だか、本当に人形のような、そんな感じのする王。

僕は、そんな彼らを見ながら気色悪くて吐き気がした。

 

「残念ですけれどキリク、貴方の大事にされていた占術師は私達が捕らえてあります――もちろん、ここには連れてきておりませんし、貴方が手を出す事も出来ない場所におります。そろそろ観念して下さい」

 

大神官さまの通る声が部屋に響き、そしてその姿を二人の前へと見せる。

と、同時に、キリクの眉がピクリと動いた。

顎を上げ、僕らを見下すような態度は女王然としている癖に、それすらも品の無い女にしか見えない。

ガルドが、僕の隣りで鼻を鳴らしたけれど、誰一人として咎めたりはしなかった。

 

「だから、どうだと言うのです?お前達は――この城を乗っ取ろうとしている賊ではないのですか?」

 

しらっと言ってのけた彼女に、少しだけ拍手を送りたくなった。

今さら、あのファースの力がなければ何も出来ないだろう彼女は、それでも虚勢を張ろうというのだ、これを賞賛せずに何を賞賛するのか――。

けれど、だからと言っても本気でそう思っているわけでもない。

ただ、本当の意味では呆れているだけ。

けれど、アロウ達は違った。

それはそうだろう――今までの、自分に起きた事を考えたら、そんな風になど思えるはずも無い。

だけど、そのアロウが何かを言う前に、セイが彼らの前へと進み寄った。

 

「妾妃キリク――今より直ぐに、その王から手を離すと良い。そうでなければ、死を選ぶことになるぞ」

 

セイの――あまりにも低く恐怖をそそる声が響き、彼女が何かを言うよりも早く、その手が彼らへと向いた。

そして、次の瞬間には、王がキリクを突き飛ばし剣を腰から抜いていたのだった。

僕らも、何が起こったのか判らなかった。

だって、セイが何をしたのかすら気付けなかったのだから。

だけど、その王の横顔を見て僕らは何が起こったのか気付かずには居られなかった。

そう――あの王の目に、生気が戻っていたのだ。

曇っているようにも見えた、あの王の目が――僕らの先頭に立ち、キリク達と対峙する、あの目と同じ色を放っている。

 

「王よ――まずは、殺すよりも先に、その者を捕らえよ。そうでなければ、真実を聞くことは出来ぬ」

 

セイは、王が剣をキリクに向けて下ろされるよりも早く、告げた。

すると、王は一瞬だけ、こちらへと視線を向けた後、キリクの足に剣を突き刺した。

醜い悲鳴をあげ、のた打ち回るキリクは、剣の先が床に固定されているせいでドレスを血に染めていく。

そして―――。

 

「我が王子よ――よくぞ無事に帰還してくれた――」

 

王はそう言うと、ガクリとその体を床へと落としていったのだった。

 

 

 

 

それからの僕らは、本当に大忙しだった。

宰相さま達も無事に牢から開放され、王の間へと来たのだけれど、長い間、ファースから掛けられていた術のせいで身も心も疲労しきっていた。

それをセイが無理やり術を解いたせいで、余計に体力を消耗したらしい。

というのも――セイは、僕らがキリクと対峙している間に、王の心と会話していたのだと言う。

内容を簡潔に教えてもらったところによれば、真実の心は何を求めているのか?と問い掛け、王は『今の状態からの開放』を望んだとのこと。

そこで、セイは無理にでもファースの掛けていた術を解いたのだと、そう説明された。

 

王は、正妃さまの事も全て覚えていた。

もちろん、双子が産まれた事も、そしてそれを喜んでいた事も――。

その後は、術に操られてはいたものの、心の奥底では足掻いて足掻いて、時々戻る正気の間に、メモを残しては彼らの安全を誰がしかに依頼していたらしい。

それは、宰相だったり大臣だったり――時には、自分が信頼している者達だったり――。

だからこそ、彼らが今まで命を取られる事がなかったのだと言う。

まあ、その辺のところは僕らにも判らないし、勝手にやってくれって感じなのだけれど……どうやら、心を痛めていたのは、この操られていた王もまた同じだったらしい。

 

妾妃キリクと、その手の者達は、全て拘束した後、地下の牢屋へ――と言っても、宰相さま達が入っていたという牢屋ではなく、それよりも深い場所にある、大昔の大神官さまが術を施したという牢屋へと連れて行かれた。

今まであった事――全ての真実は、まだ聞き終えてはいないものの、王自身が知っていることも多く、それらをアロウ達に聞かせられるよう準備だけをしている。

と言っても、王の体が万全ではないため、後日――ということにはなるだろうけれど……。

 

正妃さまと王女は、当然だけれど王城へと戻る事になるだろう。

けれど、今の状態では危険がまだあると言っても過言ではない。

何しろ、兵士や下働きに至るまで術を掛けられていた者が多くいる。

それだけでなく――実のところ、このような警備兵程度では、神殿騎士の方がまだマシな状態なのだ。

だから、王城へ戻るのはまだ少し先になるかも知れないと言う。

けれど――それでも、今まであった状態から開放されたのは事実で――。

 

なのに、僕はまだスッキリした感覚がなかった。

というのも……僕らがしなくてはならない事が、多く残っているから。

それと――もう一つ……。

この城を取り巻く禍々しい感じは、まだココに残っているから――。

 

それには、どうやらセイもガルドも気付いているらしい。

もちろんだけれど、大神官さまやテオ神官さまにも、それは判るだろう。

だけど、他の者達には、どうやら判っていないらしい。

それもその筈。

漸く――そう、漸く、王城の呪縛が解けたと、そう信じているのだから……。

一つの問題は解決して、それはそれで確かに判らないでもないのだけれど――。

 

だけど、アロウ達は忘れないでいてくれた。

自分達の問題は解決したけれど、まだ僕の問題があるってことを――。

 

「アンジー。俺達に出来ることがあれば、何でもする――ここまで、助けてくれてありがとう……お前が居なければ、ガルドもセイも来てはくれなかっただろう。そうすれば、こんな簡単には、城を取り戻すことなど出来なかった」

 

そう言いながら頭を下げるアロウは、僕が何度『止めて』と言っても頭を上げてくれる事はなかった。

もちろん、それは皆一緒で……どんなに『お願いだから』と頼んでも駄目で……ある意味、ここで失神できたら凄く楽なのに――とすら思えた。

 

そうして、僕らはどうにか無事に城を取り戻す事が出来たのだけれど――王の間では、宴会をする気分などではなかった。

王もまた、彼の寝所に入るのを躊躇い、他の部屋へと移ったほど、そこは気分の良いものではなくなっている。

だけど、そうも言ってられなくなるだろう。

これからは、この王城を再生せねばならないのだから。

そう――王城の再生。

出来ることなら、その間に、僕らの探す答えも見つかれば良いのだけれど――。

 

 

 


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ