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彼女――半精霊の名は、ファース。
元はムールスタインという南の大陸にある、大国にいたという彼女は、父が精霊だったと言う。
母は、彼女の小さい頃には亡くなり、父はガルドの父と同じように精霊の森へと戻っていってしまったと話していた。
そんなファースは、ガルド達と同じように、隠れた場所でヒッソリと生活していたのだそうだ。
けれど、半精霊というのは、精霊と同じようにプライドが高く、その力を誇示する癖があるらしい。
半妖達は、いつでも人から隠れるように生活し、けれど人を傷つけるような事が出来ない特性を持っているのに対し、反対に半精霊というのは人を傷つける事も戦う事も怖れないどころか、ある意味好戦的と言った方が良いかもしれない。
けれど、そのどちらも当然だけれど、皆が皆、そうだというわけではない。
このファース達が暮らしていた集落では、人を傷つける事を由としない者達が多かったらしい。
その為、人間に見つかるとガルド達と同じようにその場を追われ、焼かれることもあったと言う。
また――その容姿から利用される事も多かったらしい。
ファースもそうだった。
元々は、大人しい性質だったというファースは、姉妹のように仲の良かった仲間が数人居たと言う。
姉のように慕っていた人たち、妹のように可愛がっていた者たち。
彼女達は、それなりの生活ではあったけれど、小さな、小さな集落でそれでも幸せだったのだと言っていた。
そんなある日の事――姉のように慕っていた一人が、王族の一人と恋仲になったと知らされた。
幸せそうに笑う彼女を見て、誰が反対など出来るものか――と、ファースは辛そうに語っていた。
そして――それが悲劇の始まりだったのだと言う。
彼女達の集落は、その王族が入り込んだことにより、様々な変化が起こったという。
それぞれが憎み、妬み、争い、戦う。
何故、そんなことになったのか――。
それは、人間の欲望が彼女達を支配したから。
王族は、彼女達の容姿を気に入っていただけ。
また、その力を利用することを知っていただけ。
彼女達の集落は、無残なほどに荒れていったと言う。
そして、ファースは……彼女だけは、それに囚われる事がなかった。
何しろ、王族などというものが、どれだけの力を持ってるかなど、彼女には判らなかったのだ。
まだ子供のように幼く、そして無知だった彼女には――それが理解できなかったのだという。
姉のように慕っていた人たちが、段々と変わり果てていく姿を見て、恐ろしいと思いはしても、決して嫌うことなど出来なかったのだそうだ。
そして――とうとう、ある日の事――悲劇の時が訪れた。
王族だという者と、その一団がやってきて、彼女達を襲ったのだ。
そう――ガルドの時と同じように――その集落が襲われたのだ。
女達は、その容姿を買われ、散々玩ばれた。
不器用にも、その力を使う術を知らなかった者達を良いように扱い、快楽へと溺れさせ、そして―――――。
中には、逃げようとした者も居た。
時には術を使い、彼らを攻撃した者も居た。
けれど、その力は結局、セイの言うように中途半端な力しかない。
それらをファースは、匿われるようにして押し込められた場所から見ていたのだと言う。
ずっと――永遠にも近い間。
術を使えない訳じゃなかっただろう。
けれど、使うことができなかったのだ。
最後には――彼女達の集落に火を放たれた。
ファースが無事だったのは、途中で逃げ出す事が出来たから。
彼らは、享楽に耽り、ファースがいた事すら見逃していたのだろう。
そうして――彼女が逃げ延び、振り向いた先では、火が放たれていたという。
戻って、彼らが無事かどうか確認したのか?というセイの言葉に、後日、こっそり戻ってみたと唸りながら言ったファース。
そこで見た現実は―――きっと、言葉になど出来なかっただろう。
それと同時に――ガルドも唸っていた。
きっと、自分の事を思い出してしまったのだろう。
実の母を失ったことや、自分達の仲間を失ったこと――ガルドも同じ思いをした者だ、その気持ちが判らないはずもない。
そして――彼女は誓ったのだと言う。
穢れている王族を根絶やしにしてやる――と。
けれど、その者達に容易く近づく事が出来なかったと、悔しそうに言うファース。
だって――相手は王族なのだ。
初めは貴族に取り入り、どうにかとも考えていたらしい。
だけど、そのどれもが上手くいかなかったという。
そんな時に、キリクと出会ったそうだ。
彼女は、丁度、このミードラグースに嫁入りをするところだったらしい。
王族に嫁入りをする――その言葉が、ファースを動かすキッカケになったと、そう言っていた。
まずは、このミードラグースを奪い、その力を使ってムールスタインの王族を陥れてやる――。
それが、彼女の考えていた事だと、最後に語ってくれた。
僕は、それを聞いて気分が悪くなりそうだった。
確かに――彼女の気持を考えたら、それは同情するのに値するだろう。
けれど、だからと言って関係のないミードラグースの王族に、何故このような仕打ちをしなくてはならないのか。
それを考えたら、アロウを見ることすら出来なかった。
彼らは――ただ利用されただけなのだ。
いや、利用されただけなどと、軽々しく言える問題ではない。
どれだけ彼らが苦しめられてきた事か――。
ファースが、苦しみながら生きてきたと言うのは判るとしても、それ以上に関係ない人々が命を落としたり、苦しめられたのだ。
彼女は『同じ人間なんだ――苦しめられて当然だろう!』というけれど、それならば僕も思う。
彼女達のしたことで、アロウ達が同じように半精霊に対して復讐をしても良いのか?と――。
いや、そうじゃない。
同じ種族であったとしても、同じ人間ではないのだ。
それと同時に、彼女の仕出かした事で、半精霊が襲われても――復讐の対象にされても良いということはない。
それは――ガルドを見ていれば判るはず。
彼は――人間に、自分の大切な者達を殺された。
相当の憎しみや苦しみがあったはずだ。
けれど、それをガルドが復讐に使ったか?と聞かれたら、答えは『否』だ。
いつだって、彼は人間の中にあった。
いつだって、復讐する事が可能だった。
彼の力があれば、それを誇示して人間を傷つけることも出来たはずだ。
それでも、彼は一度としてそういうことをしたことはない。
確かに――人間へ悪戯程度の事はしていたけれど……子供のするような悪戯は、決して人を傷つけるものではなかった。
だから――――。
「お前は――自分の事ばかりなんだな……」
ボソリと呟いたガルドの言葉は、僕の心の中に沈んでいく。
それは――彼の悲しみが滲んでいるようで、とても痛々しく感じられたから。
「ガルド――今は、この者が施した術の事で聞き出さなくてはならない」
セイが言うと、ガルドは僕の方へと歩いてきて、隣りにストンと座った。
そして――いつもの彼らしくない行動……コツンと僕の肩に頭を乗せて、小さく震えているのだ。
僕は――動くことすら出来なかった。だって、どれだけガルドが傷付いているのか、その時になって気付いてしまったから。子供みたいに、小さく震えて、まるで泣いているみたいに……。同情に似た感情――だけど、それ以上に……胸が痛い。どうしたら、彼の痛みを和らげる事が出来るんだろう――そう思うと、何も出来ない自分が悔しくて仕方なかった。
セイも、それに気付いたのだろう――何も言わず、僕らを見ながらゆっくりと目を閉じた。
その隠された目には――悲しみと苦しみが見えた気がする。
「ガルド……」
「ごめん……今だけでいいから……」
何も言うな――と言うガルドに、僕はただ、肩を貸すだけ。
それだけしか出来ない自分は、本当に頼りないと痛感してしまう。
出来ることなら――彼の痛みを少しでも、癒す力があったら良いのに……。




