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王女がその場を去り扉が閉まると、ハルを待つことなく僕らは半精霊への尋問を始めた。
初めこそ、決して口を開こうとしなかった彼女は、けれどセイの術により口を開かざるを得なくなった。
それは――セイにとって苦渋の選択だったらしい。
実のところ、僕らには理解出来ないその力は、本来使って良い場所とそうでない場所があるのだという。
元来、彼らの使う術とは、人を傷つけるためには存在しない。
それなのに、このような状態で使うのは、ある意味人を傷つけるのと同等なのだと彼は言っていた。
『封印されている術』と言った彼の言葉は、凄く重々しいもの。
それを使うことになったのは、それだけ半精霊が僕らを――ううん、全てを拒絶していたから。
「妖魔のくせにっ!人間の味方をするなど、情けないとは思わないのかっ!」
彼女の第一声は、そんな言葉だった。
セイは、そんな罵声にも顔色一つ変えることなく、そんな彼女をただ見据えているだけ。
「こんな何も出来ない人間など――自分達の欲にしか忠実になれない人間など――」
顔を怒りに歪め、搾り出すような声で言う半精霊は、未だ名前も言おうとはしていない。
それを決して咎めずに眺めていたのは、ただ単に、彼女の怒りがあまりにも強すぎたから――。
「お前も、その人間の血を半分受け継いだ者だろう。何故、そこまで人間を憎む?」
セイがいつもとは違う言葉遣いで、けれど静かに言えば、彼女はギッと目を剥いて睨みつけてきた。
「人間などではないっ!そんな低俗な者達と一緒にするなっ」
「だが――それでも半精霊。お前には人間の血が混ざっているのも消せない事実だ」
「お前に何が判るっ!自分の中にある人間の血を一滴残らず消し去れるものなら消し去ってやる。だが、その前に人間を――王族などという汚らわしい者達を、まずこの世界から消し去ってからだっ」
その怒りに満ちた目は、暗く冷たい恨みを抱いているようにすら見える。
否、実際、恨みなのだろう。
それを感じながらも、僕は何故か彼女を怖いとは思えなかった。
何よりも――王族というものに対して、どうしてここまでの恨みを抱くのか、そちらに気を取られてしまったのだ。
ジッと、彼女を冷たく見下ろしているアロウもまた、その目に恨みを孕んでいるのが見て取れた。
それに気付いているのだろう、ブレアンが、そっと彼の肩に手を乗せる。
僕は――そんな彼らと半精霊の彼女を見ながらも――どこか似ている気がしていた。
「殺すなら殺せばいい――けれど、我らの恨みは消えぬからなっ」
それが何を意味しているのかは判らないまでも、その声があまりにも狂気を孕んでいてゾッとしてしまった。
彼女の存在自体は怖くないけれど――その恨みという感情が、それだけ重苦しいものに感じられたのだ。
「何故、それほどまでに人間を――王族を恨む?」
それでもセイは、あくまでも冷静そのもので、何をも恐れていないようだった。
けれど、彼の声はいつもよりも威力があり、そして重く感じられる。
また、その言葉遣いも――だ。
僕らと話をする時とは大違いで――だけど……何だろう……少しだけ温かい感じもする。
そうだ――よく、僕が悪い事をした時に父が――こちらの世界の父が、話し聞かせてくれた時に似ているんだ。
そう思ってしまうと、何だかセイが今まで以上に、偉大な人に感じられた。
「人間など――王族など、生きる価値などないっ」
深い恨みで、暗い色を纏うその目が僕らを射抜く。
そして――まるで息をするのも忘れたかのように、彼女を睨みつける、やはり恨みの篭った目をしたアロウ。
その目は――彼女の程の威力はないまでも、深い憎しみがそこに根付いている。
「私は――何故、恨むのかと聞いている」
諭すような言い方をするセイに、尚も食って掛かりそうな彼女は、けれどセイの目を見た瞬間に小さく唇と戦慄かせた。
その変わりように、彼が術でも使ったのだろうか?と思ったのだけれど、どうやらそうではなかったらしい。
見れば――セイの目が、いつもの色ではなかったのだ。
金色に輝いていたはずの、その目には――僅かだけれど、違う色を乗せていて……。
「もう一度聞こう。何故、そこまで王族を恨む?」
その途端、彼女の体が小さく揺れた。
まるで――小さな子供が親に叱られて、必死に言葉を探しているかのように――。
そして………。
彼女が語りだしたのは、僕らにとって、許し難い真実だった。
「俺達は、何も関係ないじゃないかっ!」
そう怒鳴りつけているのはアロウだった。
「俺達は、単に、お前の恨みを晴らすために利用されたってことかっ!?それだけのために、何人が命を落としたっ!?」
ブレアンが、今にも飛び掛っていきそうなアロウを押さえつけてはいたけれど、それでも足りずザイとヤズもまた力を貸さざるを得なかった。
それだけ、アロウの怒りは凄まじいものだったのだ。
いや、それは当然の話だ。
彼女の語った話は、アロウには何ら関係のない話なのだから。
何よりも、その辛い現実を聞いても尚、同情など出来ないほどのものだったのだから。
「俺の、兄妹になるはずだった者達までも、お前の手に掛かって死んでいっただとっ!?そんな事が許されていいはずはないっ!」
「悪いが――お前の妹達を殺したのは、私ではなく、キリクだぞ?」
くすりと暗い笑みを称えて言う彼女は、けれどアロウの気持ちを逆撫でただけだった。
「お前の進言のせいだろうっ!お前が実際に手を掛けてないだけで、全部がお前の――」
そう言った途端、アロウがガクリと両膝をついた。
その気持ちは、僕らには計り知れないものがある。
あまりにも酷い真実に、僕らですら口を閉ざしてしまったのだから――。
セイが、ゆっくりとアロウの傍まで歩み寄り、その体に手を乗せるとアロウの体から力が抜けた。
その体が、床へと沈む瞬間にはブレアンとザイが受け止め、そしてアロウの体を抱え込む。
「今は、少し休息が必要です――彼を部屋へ――」
そう言ったセイの目には、悲しみの色が溢れ出していた。
「他の者も――今は少し休みなさい。時間も時間――今からでは王城へも行けません」
その言葉で、皆が静かにゆっくりと立ち上がった。
そして――。
「ガルドとアンジーは、今少しここに――」
そう言われて、僕らは小さく頷く。
セイがそう言うことを僕らはきっと気付いていたのだと思う。
疲れを隠す事の無い僕らの仲間達は、それでも小さくお辞儀をして次々に部屋を辞していく。
それと同時に、大神官さまがガクリと体を揺らした。
「大神官、お疲れになられたか――誰か――大神官とこの神官を部屋まで送ってくれますか?」
セイが扉の方へ向けて言えば、数人の仲間が戻ってきて大神官さまとテオ神官さまに手を貸し、静かにその場を離れて行く。
その姿は――戦場で戦った兵士よりも疲れを見せ、そして――悲しみに塗れているようにすら見えた。
僕らは、そんな彼らを見送り、それからガルドと二人でセイの傍へと歩み寄る。
そして―――。
「今から先は、私達がこの者を見なくてはなりません――ガルド――疲れているとは思うけれど、後少し力を貸しなさい。アンジー…貴方の力も」
そう言われて僕は首を傾げてしまった。
僕の力?
そんなものはどこにもないのだけれど――そう思いながらセイを見れば、困ったような笑みを返されてしまった。
「貴方の姿を――この者に見せれば良いだけ――それだけで良いのです」
セイは、優しく諭すように僕へと告げる。
その――セイの目は、とても温かくて優しくて――僕は少しだけ泣き出しそうになってしまった。
だって――あまりにも辛い話を聞いてしまった後だったから……。
だけど、それが出来なかったのは、僕自身に起こった事でも、僕自身が受けた傷でもなかったから。
それでも――僕は少しだけ俯き、大きく息を吐き出しながら、その辛い気持ちをやり過ごす事にした。




