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目を開けていられないほどの光の中から声がする。

何か、僕には判らない言葉で問い掛けてきているのが判るのに、それに答えたのは僕ではなく――。

 

「とっとと助けろ、このボケ老人っ!」

 

あの喧しくも頼もしい友人、ガルドの罵る声だった。

漸く、僕が目を開けてみれば、そこには見覚えのある後姿――それを見た瞬間、僕の体から余計な力が抜け落ちた。

 

「セイ……」

 

僕が呟くと、周りに居た仲間は混乱したように、その人を見ていた。

 

「アンジー、漸く思い出してくれたようだね――いつになったら呼び出すのか、ヒヤヒヤしたよ」

 

余裕を持って笑うセイの声は、あの村で聞いた時と同じく、温厚で優しい雰囲気を纏っている。

周りに居た皆は、呆気に取られているのか、セイを見つめたままの状態で立ち尽くしているという感じ。

ただ、占術師はその様子を見て余裕を無くしていたのかも知れない。唐突なまでに現れたセイに放つそれは殺気に満ちているような感じが、僕にも伝わってきていた。

その者が放った術は、ガルドや仲間を通り越し、セイへと向かってくる――と同時に、彼は向かってきたものに対して手を上げたかと思うと簡単にそれをかわしてしまった。

そして、セイが改めて占術師へ手を翳した瞬間――その者が宙へと舞い……『あっ』と、全員が口を開いただろう、その時には、占術師が地面へと叩きつけられた後だった。

 

「無駄に力を使うから、こういう事になるんです」

 

くすり、と笑ったセイの気配。その隣りでは、肩で息をしているガルド。そして周りには――傷付いた、僕らの仲間。

僕らは、その成り行きを呆然と見つめていた。

だって、本当に何も無かったみたいに、簡単に終わってしまったんだもの。誰だって呆然としてしまうよ、これは。

それなのに、彼はそんな僕らの事なんか知らん振りで、余裕を保ったまんま占術師を見下ろしていた。

 

「拘束の術を使いましたから、もう大丈夫ですよ」

 

セイの言葉に、皆一様、呆気に取られて言葉すら出なかった。いや、声なんか出るはずも無かったんだ。

あまりにも、呆気ない結末――とでも言おうか……僕らは、そのまま重力に負けて、地面へと崩れ落ちたのだった。

 

 

占術師を文字通り拘束し終えると、僕達は一旦、地下通路へと戻る事にした。

あれだけ激しい戦い――と言えるかどうか判らないけれど、騒がしくしていたにも関わらず、後宮からはもちろんのこと王城からも誰一人として出てくる事が無かったのは、ガルドが必死に結界を張ってくれていたかららしい。

二つの術を一気に使うのには慣れてなかったというガルドが、あれだけ長い時間耐え切れたのは、セイから受けていた訓練のお陰だと後から知ったけれど――実のところ、彼自身も驚いていたという。

セイに関しては――僕らのことを見る事はできないまでも、感じる取ることが出来ていたらしい。

そのせいで、ガルドが危ない目にあっている事も気付いていたのだと言う。

けれど、何時まで経っても僕が預かった石を使わないので、ヒヤヒヤしていたのだと笑っていた。

何にしても、どうにか占術師を――僕らの一番懸念していた人物を捕まえる事が出来て、ホッと一息、というところ。

それでも、まだ終わったわけじゃないのも本当。

 

「まだ、拘束の術は外せませんね――随分としぶとくていらっしゃる」

 

セイが皮肉りながら言うと、占術師の口から唸り声が聞えてくる。

仲間達は、そんな占術師から視線を外すことなく、大神官さまとテオ神官さまから傷の手当てを受けていた。

ガルドは――セイから術を掛けてもらっていた所為もあったらしく、思ったよりも酷い怪我はしていなかったものの、彼が持参した薬草を全て使わなくてはならないほどの傷を受けている。

他の人たちは――どちらかと言えば小さな切り傷ばかりで、後は打ち身程度らしい。

 

「まずは、そのベールを脱いで頂こう」

 

アロウが厳しい声で言うと、一番に傷の手当てが終わったブレアンが占術師のベールに手を掛ける――と、そこには……。

これが半精霊というものなのだろうか――。

ランプの光だけでも、その姿は映えるといえる。

綺麗な水色の長い髪に、透き通るような肌――髪と同じ色の、眉に睫毛、そして瞳――まるで、人形と見紛うような女性だった。

髪の下には、ガルド達と同じように少しだけ尖った耳が見え――やはり精霊なのだと、そう思える。

けれど―――。

 

「半精霊――だね」

「だな――髪の色がまだらだ――」

 

まだら?と思わず、聞き返したくなった。

だって、綺麗な水色をしているのに?

その疑問にセイも気付いたのだろう、ふと僕らへと視線を寄越してから答えてくれた。

 

「本来の精霊は、もう少し色がハッキリとして光り輝く――というのでしょうかね……我らとは正反対の色をしています。妖魔は、暗い色に――精霊は明るい色に、と。半分でも人の血が混ざると、どうしても人間の色も取り込んでしまいます。ほら、良く見ればこの者の髪には茶も混じってますでしょう?」

 

そう言われて、よくよく見てみれば――確かに、と言えた。

周りに居た皆も一様に頷く仕草を見せ、半精霊をジッと見つめている。

 

「今は、ランプの光で判り辛いですが、日の光に曝せば簡単に判別できてしまいます」

 

うぅぅ…と唸り声を上げる占術師は、セイとガルドから視線を逸らすことなく睨みつけている。

その目は、僕らのことなど、どうでも良いと言っているようにも見えて――。

 

「そろそろ、口をきけるようにしたいところですが――何を聞いても、きっと話などしてくれないでしょうね……嗚呼、文句を言っても無駄だよ」

 

どうやらセイは、彼女と声を使わずに会話をしてるらしい。

この力は、精霊も妖魔も関係なく使えるとのことだけれど、半妖と半精霊は自分から使うことが出来ないのだと教えてくれていた。

こういうの、確かテレパシーって言ったっけ?

 

「何か――言いたい事があるみたいですが――聞かないよ?」

 

ニコリと笑うセイは――何時も以上に厳つい顔となり、彼女を威嚇してるようにも見えた。

そして――。

 

「一つの問題は解決しても、これに連なる問題は解決しておりませんね――さて、どうしますか」

 

と、僕らに向かって言うセイ。

それは――僕らと一緒に居てくれるということなのだろうか?

そんな僕の疑問は、どうやら皆の中にもあるらしく、仲間達の目が不安そうにセイを見つめていた。

確かに彼の力があれば、僕らも心強いだろう。だけど、そこまで甘えてしまっても良いのだろうか?という疑問もついてくる。それは、皆が同様に思っている不安と疑問なのだろう。

 

「それは――貴方も手を貸してくれる――と言うことですか?」

 

と、皆を代表したかのようにアロウが問い掛ければ、セイは一瞬だけ視線をアロウに向け、その後には半精霊を見据えて答えてくれた。

 

「王城の事は、貴方達の問題――だが、半精霊が絡んでいるのであれば、残念ながら手を貸さざるを得ないでしょう」

 

チラリ――と、半精霊を見下ろし、そしてガルドへ視線を向けるセイは、呆れたように大きく息を吐いた。

 

「どこかで腰を据え、この者と話をせねばならないでしょうね。この王城には、どうやら術を掛けられている者が多数いるようですし――とは言っても、数日もすれば術は解けてしまいますでしょうけれど。その反動がどこに出るか判らない」

 

え?!と皆の顔が一瞬にして凍りつく。

術を――やはり、術を掛けられていた?

でも――解けるというのなら――と少し安堵した直後の言葉に、皆一様に固まったのだ。

だって、反動って…それって何か副作用があるってことなんじゃ?

それは、誰よりもアロウが不安に感じていた事だろう。一瞬にして青褪めたその顔が、不安以上のものを表していた。

また、他の者達も同様――その中には、家族も王城に居るのかもしれない。その顔には、不安と混乱が見え隠れしている。けれど、今は目の前に居る半精霊をどうにかする方が先だと、セイは考えているのだろう。ジッと睨みつけてくる彼女を、セイもまたジッと見据えながら僕らに促したのだ。

 

「取りあえず――移動する事が先ですね……ここでは、皆さんも疲れるでしょう」

 

一番に気を取り直した大神官さまが言う。けれど、僕らはまだ固まったまま、動く事が出来なかった。

何しろ、あまりにも心配する事が多すぎるのと同時に、せっかくここまでやってきたのに――という気持ちがあったからだと思う。

それなのに……そんな僕らを動かしてくれたのは――。

 

「何でもいいけど―――腹減った――俺」

 

ガルドの、またしてもその場に相応しくない言葉だった。

 

 

 


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