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日々は、決して待ってくれない。

どんなに無駄な時間であろうと、どんなに懸命に生きている時間であろうと、それは勝手に過ぎていくもの。

僕達の時間も同じ。ただ、起きているだけでも時間は過ぎていく。

確かに急ぐ旅ではなかった。けれど、急いででも早くここまで来たかった。

それなのに……刻一刻と時間は過ぎていくのに、大事な事は前には進んでくれない。一番重要な事は、何も判っていないし解決の糸口すら見つかっていないのに――時間だけは過ぎていくんだ。

 

 

翌日になって、ハルとブレアン、そしてブレアンの兄弟が僕の所へ顔を出した。

 

「すまなかった――」

 

そう頭を下げたのはブレアン。

僕は、そんな彼に何も言わず、見つめているだけだった。

今にも額を机に擦りつけてしまうくらいな状態のまま動かない彼は、その状態のままで話を始めた。

 

「俺達のした事が、アンジーを傷つける行為だと理解もせず、ただ――自分達の計画ばかりに気を取られていた――」

 

ブレアンの告白は、けれど予想していたものばかり。

それでも――彼は、僕の本当の気持ちに気付いてくれたのだと、そう思えた。

 

「アロウを王城へ連れて行くこと、正妃さまに会わせること――何よりも、国王陛下に自分の間違えを正してもらうことが、俺達の計画だった。今のままでは、この国は愚か、この大陸が腐敗していくばかり。そう信じていたから……だから、目的のためには必死にやるしかなくて――周りのことなんか、まるで気に掛けていられなかった……それが、仲間になってくれたアンジーを傷つけても良い理由にはならないと知っていたくせに」

 

デニアの神殿で、散々レン神官さまから言い聞かせられたのに――と言う彼は、それでも僕の存在が重荷だったのだと言った。古の言葉にある、【伝説の乙女】というのが僕だと知り、ある意味では使えるかもしれないと思いながらも、女だと知って邪魔にさえ思えたのだと――。

それは判らないことじゃない。だって、彼らには彼らの目的があり、目標があったのだもの。

だけど――仲間、だったのだろか?今はもう判らないけれど、あの時、僕達は仲間だったのだろうか?

 

「お前の実力を考えたら、決して女だとか伝説の乙女だとか、そんな事は関係なかったはずなのに――そこを見落として…いや、勘違いしていたのは間違えない。その為に、お前を邪魔者にした。恥ずべき行為だと王女に言われて……何よりもガルドに言われて……今は深く反省している。許して欲しいとは言えない。けれど、昨日、アンジーが言った通り、初めからやり直したいと、俺は思っている――」

 

ずっと頭を下げたままの状態で、ブレアンは僕を見る事も無く告げる。

それは――僕が、欲しかった言葉だったのかも知れないけれど……。

 

「勝手だよなあ……」

 

と、隣りに居たガルドが呆れたように言う。

その言葉に、僕はつい笑ってしまいそうになった。だって、この間、自分もブレアンと同じように言ってたくせに。

だけど、それを押し隠したのは、彼も真剣に色んな事を考えてくれていたから。僕だけの事じゃなく、本当にはブレアン達の事も、王女の事も、そして今はここに居ないアロウの事すらも心配してくれているのだ。

 

「いや、お前のことだけじゃなくって――俺もなんだけど……許してもらうって簡単じゃないんだと思う。それをさ……アンジーは優しすぎるんだよな」

 

僕の視線に気付いたのだろうガルドは、少し焦っているように付け足した。その言葉に苦笑しながらも、ブレアン達に意識を戻した僕は、彼らがどう思うかなんて気にせず言葉を発していた。

 

「ガルド――僕は優しくもないし、お人好しでもないよ。それに、ブレアン――貴方達のした事、僕は忘れる事は無いけれど…だからって、何時までもこの状態で良いとも思ってなかったんだ……だからさ――」

 

一からやり直そう――そう言った途端、ブレアンがガバリと顔を上げて、そして僕を見つめてきた。

 

「俺は――俺は……確かに、アンジーを仲間だと思ってなかったと思う――あの時、お前の本当を知って……だけど、これだけは言える……王女を助けに向かったお前は――他の誰よりも頼りになるやつだったって……だから…」

 

ごめん――と今にも消えてしまいそうな声で言ったブレアンを、兄弟たちが支えるよう背中に手を添える。

それを見て、僕は少しだけ羨ましくも思えた。僕には――そうやって、手を添えてくれる兄が――本当は居たはずなのに…と。もしも、そんな彼が傍に居てくれたなら、僕はどうして居ただろう?こうして、この人達に出会うことがあっただろうか?それとも、やっぱり出会う事なく、兄に助けられて旅をしていただろうか?

そんな風に考えても、決して答えは見つからないと知っていても、こうしてブレアン達を見てしまうと、つい考えてしまうのは、羨ましいという気持ち以上に、帰りたいという気持ちが大きくなりつつあるからかも知れない。

それが、今現時点では出来ないと判りきっているくせに――。

 

「ハルたちは、何か言う事無いのか?」

 

僕がブレアン達に気を取られていると、ガルドが機嫌悪そうに言い放つ。と、彼らは少しだけ渋い顔をして、けれど僕に向かっていった言葉は――。

 

「俺は――確かに悪い事をしたのかも知れないが――謝る気は無い……だって、俺は…アンジーを頼りにしていたし、だけど女だと知ったら身を守ってやりたいと思うのが当然のこと……決して、アンジーの存在を邪魔にした覚えは無い」

 

とハルが言い切る。

確かに――彼は僕を邪険に扱いはしなかった。

再会を喜び、確かに正体を知った時には戸惑いはしたけれど、決して僕を邪魔にはしなかった。

それどころか、何時だって僕のことを心配してくれて近くに居てくれたし、ガルドの言葉も無視して助けてくれた事もある。

だから、僕はにっこりと微笑みながら『判ってる』とだけ言っておいた。

そして――。

 

「私達は――今までのアンジーを知らぬ……ただ、知っているのは、自分達を助けに来てくれたアンジーだけだ……けれど、女性だと言うことで――確かにお荷物のようには思っていたかも知れないが……決して邪険にした覚えはないぞ」

「私は――あの時、馬車から飛び出した時に助けてくれたアンジーを、その様には思った事も感じた事もありません。何を謝って良いのかも、判りません――けれど、兄のした事を償えと言われるのであれば、いくらでも何でも致します――この命――アンジーが居なければ、間違えなく失っていたものなのですから……」

 

ザイとヤズは、そう言ってガルドの言葉に答えた。僕はと言えば、そんな彼らに対してただ笑って頷いただけ。

だって――本当にそうなのだから――。

けれど、彼らが最後に言ってくれたのは、『アロウとブレアンに、心からの謝罪をせねばならないと言うことを自分達がきちんと説得出来なかったのは最低な行為だった』と謝罪してくれた事。これだけは、僕としても凄く嬉しい言葉だったと思う。ハルも、ザイやヤズも、僕の事をきちんと見てくれていたのだろう。

散々、僕は彼らに酷い仕打ちをしていたにも関わらず…。

 

「気にしないで――僕は、初めから貴方達を拒否していたのだから、今から始めたら良いだけの事。ハルに関しては――仕事で少し知り合ってただけ――それだけなんだから」

 

苦笑しながら言えば、彼らの緊張も和らぎ、ホッと胸を撫で下ろしながら溜め息を吐いていた。

そして、ブレアンは改めて僕を見つめ直すと――。

 

「アロウのことだけど――もう少しだけ時間をやってくれないか?」

「え?」

「あいつも、それなりに考えているのだと思う――だが、今は母親に再会したことで、頭が混乱してしまっているんだと思うんだ。元々、あいつが一番王城へ戻りたかった理由は、母を救い出したい一心だった――その母との思わぬ再会で、心が乱れている――」

 

ブレアンの言葉に、僕は大きく頷いた。そんなこと、言われなくても判ってるから――と。

だってね…もしも、僕が同じ立場に居たとしたら、やっぱりアロウと同様になってしまうのが判ったんだ。

ガルドは、そんな甘いことをって言うけれど、僕だって甘いとは思うけれど……だけどさ、人間ってそんなに上手い事、感情を操る事なんか出来ないと思うんだよね。

アロウも、きっと…判ってるんだって思いたい。僕の気持ちも、自分の愚かな気持ちも…そして、皆がどれだけ心配してくれているのか?っていう事も。

 

そうして僕達は、また一から自己紹介をやり直し、そして改めて友人になろうという話をした。

友人――そう、僕を女とか、伝説の中の人間とか関係なく――友人として認めてくれたのだ。

僕もまた、彼らを友人として受け入れる事が出来たと思う。

ガルドも――たぶんだけど、大丈夫…彼だって、子供じゃないんだから。

 

 

その日の昼は、彼らと共に食事をした。

もちろん、王女がそれで黙っているはずも無く一緒になったのだけれど、その間、自分だけ除け者にされたと少しだけ拗ねた顔をしていたが、それでも楽しいひと時を過ごせたと思う。

彼らが来てからまだ三日。それでも、こんなに早く打ち溶け合えるとは思えなかった。

だから、この件はこれで終わり――と言いたい所なのだけれど――。

その日の夕食時、ガルドが食事を取りに行くと言って部屋を出た後のこと――扉を叩く者が居た。それは――言うまでも無く――。

 

「アロウ……」

「二人で――話をしたいんだが……良いか?」

 

そう言われて、僕は素直に返事をすることが出来たのは、きっとガルドのお陰だったに違いない。

だって――彼が居てくれたからこそ、僕はこんなに強くなれているのだから――。

 

「いいよ……けど、ここだとガルドが」

「大神官さまの部屋を貸してもらえるんだ……そこで…」

 

俯き加減で言うアロウは、僕と視線を合わせることもしない。それだけ、彼も思うところがあるのだろう――。

僕は承諾すると共に、ガルドへメモを残して部屋を後にした。きっと、ガルドの事だから、そうなる事くらい予測しているだろう。

うん――大丈夫。

僕は、一人じゃない。

 

 

 


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