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翌日、大神官さまに呼ばれて彼の部屋に行くと、中で渋い顔をしているガルドが居た。

何か仕出かしたのだろうか?と慌てて中に入れば――。

 

「アロウ達から面会の連絡をここ数日何度も受けております」

 

という大神官さまの言葉に、ガルドが唸っている。

嗚呼、と呆れながら溜め息を漏らせば、ジロリと睨まれてしまった。

大神官さまと二人、苦笑しながらそんな彼を見ていると、テオ神官さまが小さく咳払いをする。

 

「ガルドがお怒りになるのも判らないではないですが、そろそろ彼らの行いを正し、赦す事も大切ですよ?」

 

言われてみればその通り――だとは思うものの、ガルドは納得できないとばかりに鼻を鳴らした。

 

「別に――赦さないとは言ってない――けど、どうせあいつ等のことだから、上辺だけの謝罪で終わらせると思うぞ、俺はっ」

 

と決め付ける彼に、僕は尚も苦笑するしかなかった。

実のところ、僕はもう、ある意味では彼らを赦していたりするのだ。

いや、そんな言い方は傲慢かも知れない。

僕も子供みたいに、何時までも『裏切り』に似た彼らの行いを責め続けるのも可笑しな話だと気付いただけ。

よくよく考えてみれば、彼らの置かれている状況は、かなり大変なものなのだろうと思う。

大体において、何故、王城へ戻りたいのかすら聞いてなかったし、あそこまで必死になるにはそれなりの理由があるのだろう。

それなのに、僕はその理由の一つも聞くことはないまま、こうして彼らから離れてしまったのだ。

この間、ガルドと仲直りをして以来、僕はずっとその事を考えるようになっていた。

だからこそ――アロウ達が僕らに会い、何を言うのかも聞いてみたい気がしているのだ。

 

「ガルド――許すも許さないも、彼らのことを見てからでも遅くないんじゃないかな?」

 

僕がそう言うと、今度こそガルドは本格的に唸りだし威嚇し始める。

まるで犬か猫のようだ。

けれど、彼がここまで怒ってくれることに、少しだけ嬉しく思える自分が居るのも本当。

この間までの頑なな自分であったならば、きっとこうは思えなかっただろう。

それもコレも――ガルドのお陰なんだけれど……。

 

「大神官さま。僕は、出来たら彼らに会いたいと思います――けれど、その前にガルドと二人で話をしますので、それまで返事は待って下さい」

 

素直な気持ちでそう言える自分に、ガルドへの感謝が広がる。

自分がこうして変われたのは、ガルドのお陰――そう思えるのだから。

 

「判りました。では、ゆっくりと二人で相談すると良いでしょう」

 

大神官さまも判って下さっているのだろう、僕の言葉に優しく温かい微笑みを見せて頷いてくれた。

 

 

その後、ガルドを無理やり部屋まで引き摺っていき、ゆっくり話をすることにした。

と言っても、始終、ガルドは唸りっぱなしだったのだけれど……。

 

「ねぇ、ガルド――僕がこうして思えるようになったのは、ガルドが僕に心からの言葉を聞かせてくれたからなんだよ?」

 

そう話し始めた僕に、ガルドはそれでもそっぽを向いて聞くことを拒否している。

 

「あのね……彼らのしたことは、僕にとって凄く悲しいことだったんだと思う――裏切られた気分だったし……ガルドに対しても同じ気持ちを持っていたんだ……だってさ、僕は君達の事を本当に信頼出来る仲間だと思ってたんだから……」

 

ふっと、ガルドの視線が僕に向いて、ほんの一瞬彼と視線が合った。

けれど、すぐにそれは逸らされ、ふんと鼻を鳴らされた。

 

「今は、ガルドの本当の気持ちを知らされて、僕も子供みたいだったなって思うんだ…だからって、アロウ達を許せるのか?って聞かれたら、判らない。だけど、何時までもこのままで良いとも思えないんだよね」

 

唇を尖らせて、今も尚唸っているガルドだったけれど、どうやら彼なりに思うところがあるらしい。

 

「君が僕のために怒ってくれるのを、少し嬉しいって感じるよ……でも、ガルドだって、このままで良いなんて思ってないでしょう?」

「だけどっ!別にあいつ等と一緒にお城へ行かなくても良くなったんだし、それだったらもうどうでもいいじゃねぇか!」

 

うん、確かに――と、ちょっとだけ思ってしまった僕でもあるけれど、まさか本当にこのままで良いなんて思ってないのも事実。

彼らと共に行動はしないかも知れない。

だけど、きちんと話し合いたい――と、そう思えるんだ、今の僕は。

 

「そうだけど、だからってアロウ達のチャンスを潰すのは良い結果を生まないと思うよ」

「チャンスって何だよ!あいつ等は、アンジーを傷つけ続けてたんだぞ?お前、腹が立たないのか?!」

 

いや――感じなかった訳じゃないんだけど……ガルドが変わりに怒ってくれるからな…なんて、呟けば、ムゥと口を突き出して睨みつけてくるガルド。

その顔があまりにも拗ねた子供のように見えて、思わず笑ってしまった。

 

「何笑ってるんだよ!」

「ごめんごめん――けどね、僕は彼らと話がしたいんだ…もちろん、ガルドも一緒に居てくれるだろう?」

 

笑いながらも必死でそう言うと、ガルドは嫌だとも良いとも返事をしてはくれなかった。

けれど、その顔には『仕方ねぇな…』と言ってる気がして――。

 

「ありがとう。ガルドが居てくれたら、心強いよ」

 

僕の言葉に、彼は『チェ』と一度舌打ちをしただけで、どうやら本当に了承してくれたらしいことが窺えた。

 

直ぐに大神官さまの所へ返事をしに行くと、彼らもまた僕達の結果などお見通しだったようで、笑いながら『明日にでも使者へ返事をしておきます』と言ってくれた。

 

その日の夜、王女達にもアロウ達の話を告げ、皆で会おうと言う話をした。

王女達曰く、『私が彼らの事を監視致します』とのことらしい。

この大神殿へ来てからというもの、彼女は随分と変わりつつあるとエイルは言う。

今までは、王城で静かに目立たず、決して自分から意見を言ったり行動をしたりするようなことはなかったのだと。

けれど、僕達と出会ってからというもの、伝えたい事は言葉にするようになったし、何か興味を持つと調べるということをするようになったという。

僕達にもそうだ。

気になる事があったり、興味のある事には何でも聞いてきた。

僕もガルドも、そんな王女と話をするのが楽しいと思える。

だからこそ、今回、アロウが会いに来ると聞き、自分もその場に居ると言い出したのは、とても良い事だと僕達皆は思っていた。

もちろん、歓迎するかどうかは別問題として――。

 

 

けれど、アロウ達が来ると思われた日、先に大神殿へ足を踏み入れたのは、僕達の予想していない人であった。

それは――。

 

「お母さまっ!」

 

大神官さまの部屋に入るなり、王女は叫びながらその女性に飛びついた。

そう、その人は、王女の母親で、この国の正妃さまだったのだ。

 

「嗚呼、ノル――よくぞ無事で―――」

 

二人が抱き合うのを、僕達はただ見つめているだけ。

エイルは涙を流して、そんな二人の再会を喜んではいたけれど、そこに居る人はこの国の正妃さまなのだ。

僕達が、本来近寄ることなど出来ない人――そんな人が目の前に居るのだから、呆然としてしまって当然だろう。

王女と同じように、とても清楚な感じのするその人は、身につけているものも上級なものばかりで、それなのに派手さがまるでない。

少し痩せ過ぎなのでは?という感はあるけれど、それもこれも、今までの心労があったからなのだろう。

それでも、彼女の持つ雰囲気は、正に正妃さまのものなのだろう。

とにかく、僕達を圧倒させるだけのものを持っているという感じなのだ。

 

「貴方達が、ノルを助けて下さったアンジーとガルドですね?」

 

まさか、自分達に声を掛けてくるだなんて予想もしてなかったから、二人して思いっきり固まってしまった。

それでも、必死に何度か頷き、また首を横に振るという、何とも可笑しな行動をとってしまった僕達。

そんな二人を見ても、彼女は気を悪くする事もなく、『ありがとう』と微笑んでくれる。

 

「お母さま。この二人は、私のお友達でもあるのです――大事な方達なのですよ」

 

そう王女が言えば、正妃さまは嬉しそうに笑みを浮かべ、また僕達にお礼を言う。

そんな彼女達に、僕達は返事らしい返事も出来ないままだった。

 

「正妃さまのお部屋を用意しましたので、当分はそこにて療養を」

 

と大神官さまの声がした瞬間、僕達は漸く自分達で身動き出来るようになった。というより、はっきりと息をする事が出来るようになった…と言った方が正解。

何しろ、あまりにも驚きすぎて、息をする事すら忘れていたらしいのだから。

 

 

 


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