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それから数日間、僕達は大神官さまとテオ神官さまとで、王城へ向かうにはどうすれば良いのかという話ばかりしていた。
というのも、あの時――聖域で僕が呟いた言葉がキッカケになっている。
『裏切り』と呟いた時の僕は、自分で意識せずにその言葉を口にしていた。
それを大神官さまへ伝えると『それは、もしかしたら竜の言葉かも知れない』と言い出したのだ。
そして、あの夢――夢の話も、大神官さまとテオ神官さまには伝えてある。
彼ら曰く、真実は判らないけれど、可能性の話として僕と竜の心がシンクロし、彼の今の状況を夢で見ていたのかも知れないという事で、もしもそうであるならば『裏切り』という言葉の意味を調べる必要があるということになったのだ。
それは、僕も大賛成なのだが――実のところ、それに関する資料が大神殿の中には一つもないということが問題で――王城にも、実際、それがあるかどうかも判らない状況。
だからこそ、王城の中にある聖域にも似た場所へ行かなくてはならない。
けれども大神官さま達は、王城へ入ることが禁止されているしということで――相談をしているのだ。
そんなある日、宰相さまから訪問の知らせを貰った。
次に来るのは随分後になるだろうとの事だったのに、予想を反して早い時期の訪れだった。
「カール宰相さま、ようこそ――」
「お邪魔をするよ、大神官殿。あ、アンジーもガルドもそのままで良い。堅苦しい挨拶は抜きだ」
僕達が立ち上がって挨拶をしようとすると、彼は手でそれを制し、口上のみの挨拶を許してくれた。
「とにかく、今は急いで報告を――と思ってね。ノル王女とエイルは?」
「お部屋にいらっしゃいますが――お呼びしますか?」
「いや、良い――それよりも近々、正妃をこちらにお願い出来るだろうか?」
「――正妃さまを――ですか!?」
「そうだ――最近になって、王女が居なくなった所為だろうか……キリクの態度が大胆になりつつあるのだ……正妃に先日は毒を盛ろうとしてくれた……」
毒と聞いて、僕達はその事態の重さに口を閉ざした。
「前々から、そういう事はあったのだが――今回は、その所為で正妃の側近が一人、命を落としてしまった……」
「何という事をっ……」
嗚呼、と大神官さまが嘆きの声を上げ、僕達はあまりの事にショックを隠す事が出来なかった。
「正妃は無事なのだが――側近を喪ったショックも大きかったのだろう……今は臥せってしまっていてね……そんな状態では、王城の離宮という場所でも危なくて仕方ない……安心して眠る事も出来ないだろうからと、安全な場所へ移動させることにした――」
「陛下は何も仰らないのですか?」
「今は、あの王に何を期待しても無駄だろう……我が兄ながら、情けないものだと思う……政務だけでもこなしてくれるだけ、ありがたいけれどもな…」
「もう――どれだけの命を犠牲にすれば良いのでしょうか――」
「そうだな……本当に、悲しいことだ」
悲しい事――そんな言葉で片付けて良い問題なのだろうか…。
そんなに簡単なものじゃないはずだ……たかが、と言ってしまえばそれまでなのだけれど――王城の中の事で、幾人もの尊い命が喪われたということなのだ――大神官さまが口にしたのは。
それを――たった一言で済ませてしまって良い事なのだろうか…?
けれど、宰相の顔を見て、僕は言葉を飲み込んでしまった。
だって、その顔には悲しいという言葉以上のものが浮かんでいたのだ。
大の大人である、しかも宰相だという彼が、唇を噛み締め、悔恨に顔を歪ませながら拳を握り締めている。
そんな顔を見てしまえば、僕なんかが勝手な事を口にして良いとは思えなかった。
それは、僕だけじゃなく――隣りに座っていたガルドも同じように感じたらしい。
一瞬、何かを言おうとし、体を前に乗り出そうとした瞬間、そこで勢いを失い大きく息を飲み込んでいたのだ。
彼も――命の大切さを知ってる者だ。
自分達の仲間を殺され、苦しんだ事がある被害者でもある。
だからこそ、何か言いたかったのだろう――けれど、こんな宰相さまの顔を見てしまえば、言えるはずもなく――ガルドは勢いを失い椅子に体を預け、そして大きく息を吐き出した。
「知らせというのは、それだけですか?」
大神官が、その場の空気を察したのだろう、話題を摩り替えるべく、そう言った。
「いや、それだけではない……まあ、一番は正妃を守るために、こちらで預かって欲しいというのがあるが……何よりも、ガルド、君のお手柄だよ」
ガルドに向かい、そんな風に言う宰相さまは、さっきとは別人のように優しく微笑んでいた。
けれど、その顔にはまだ少しだけ痛みが残っているようだったけれど……。
「俺の?」
「そうだ――君が言っただろう……占術師の話だ」
「ああ…あれかあ」
「どうやら、ガルドの言うように、半精霊ではないか?という話なのだ。後宮に入っていた警護の女性を連れ出して白状させたのだが……その者の話では占術師の顔は――どう見ても人間の肌の色をしていなかったというのだ」
「――と言うと?」
「ああ……私自身も見た訳ではないから何とも言えないのだが、見た者の話では透き通るような肌の色をしていたと言うのだ」
「ああっ!んじゃ、間違えねぇな!俺達黒に対して、やつらは白だって話は、昔に聞いた事があるから」
「そうか……では、やはりガルドのお手柄だ……それにしても、まさかそのような者が、あんなキリクと一緒に居るとは」
「本当に――可笑しな話ですね」
本当に――半精霊だったなんて…と、ガルドを見ながら、感心してしまっていた。
彼の、その突拍子もない発言から真実が判ったのだ。
「そこで――やはり、王城へ入るのは厳しい状態なのですか?」
「……そうだな…今は正妃を守ることで必死なのだ……まずは、彼女を安全な場所へ移らせた後、改めて作戦会議をしよう――私も、そうそう、こちらへ出入りするのが難しくなっている。何よりも、アンジー、君の存在をキリク達が突き止めているのは知っているね?」
「はい――ここに到着した次の日には……」
「この大神殿に居る事も、彼らは知ってる…だが、幸い彼らはここに手を出す事が出来ない。なので――もう少し、君もここで大人しくしていて欲しい」
はい――と神妙に返事をすると、彼も安心したのか胸を撫で下ろしながらも大きく頷いてくれた。
「まだ、不確定な事も多いから不安になることもあるだろうが――今は、忍耐の時期だ。すまないな…」
「いいえ、気になさらないで下さい。ここに居れば僕も、王女達も無事でいられるというのであれば、態々出て行くつもりもありませんから……」
「うむ――ガルド……君にも悪いが、この大神殿で守りを固めていて欲しい……頼めるかね?」
「判ったっ。任せておけって。アンジーはもちろんだけど、王女達のことも俺は守るつもりで居る。今は大事な友達だからな!」
そう言ったガルドに、僕は微笑まずには居られなかった。
宰相さまも、どうやら彼の言葉に随分と心が軽くなったのだろう、安心したと言いながらガルドに心からの感謝を言っていた。
「そう言えば――報告が無いところを見ると、竜にはやはり会えなかったのかね?」
その問いかけに、僕達は全員失念していた事を今更ながらに気付いた。
慌てて、あの時のことを説明し始めた大神官さまとテオ神官さま。
僕もまた、あの日にあった事を説明し、彼の意見を求めた。
すると――。
「裏切り――か……何だか嫌な予感がする……私も、また王城で調べられる限りのことを調べてくる。もしも――大神官の言葉通りであるならば…我ら王族に何かしらの問題があったのかも知れぬ――」
と言い残し、早々に彼は帰宅していった。
何よりも――人目を忍んで、大神殿へと来ているらしいのだ。
まあ、それは着ていた服からも想像はついたけれど……でも、あの髪と目では、なかなか難しそうだ、という感想を持つ僕だった。
だって――いくら町人の恰好をしていたって……あの髪の色と目の色は、どう見ても王族の象徴なのだもの……。
そう大神官に言えば、少し苦笑しながらも、一応彼なりに考えているのだから――と言っていた。
まあ、大きな帽子を被ってる辺りは、頑張っているところが窺えるけれどね……。




