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大神殿へ着くと、早々に出戻ってきた僕達を神殿騎士は快く迎え入れてくれた。
何よりも、人数が増えているにも関わらず、僕達を信用して受け入れてくれた事に、ありがたい気持ちが溢れてくる。
中に入ると、僕達を見つけた神官見習いの方が、大神官さまに取り次いでくれて、そのまま皆で彼のもとへ挨拶に向かうこととなった。
「ノル王女――ようこそ、大神殿へ起こし下さいました。こちらで出来る限り、貴方さまの安全を約束させて頂きます」
僕達は、まず大神官に王女を紹介し、そして何故一緒にいるのか説明すると、優しい眼差しで彼女を受け入れてくれた。
また、態々他の部屋を用意し、侍女と一緒に居られるよう取り計らってくれる。
僕達は、夕べ使った部屋をまた使えば良いだろうと言われ、その言葉に甘える事にした。
「それからアンジー。君は少し休養が必要だと思う――今日は、ゆっくりしていなさい」
と、僕の顔色に気付いたのだろう大神官さまは、少し諌めるように言ってきた。
確かに――夕べは色々と考えていて眠れず、すっかり寝不足な僕には反論すら出来なかった。
「では――皆さん、朝食を食べた後は、それぞれゆっくり自分の部屋で寛がれませ」
それを最後に、僕達はそれぞれの部屋へと戻る事になった。
朝食は――彼らの言葉に甘え、それぞれの部屋で頂く事にして――。
朝食を食べた後、やはり昨日の寝不足と今までの疲れが出たのだろう、僕はそのままベッドの住人になってしまったらしい。
次に目を覚ましたのは、それから何時間も経った夕刻近くになってからの事。どうやら昼食も食べずに、寝入ってしまったらしい。
漸く目覚め、部屋から出ようとすると、タイミング良く神官見習いの方から、夕食だと声をかけられた。
王女からの伝言らしく、彼女達の部屋で一緒に食事をしましょうとのことらしい。
既にガルドへも声を掛けたこということで、お言葉に甘えて一緒に部屋へ招待されることにした。
「それにしても、アンジーは、とてもお強いのですねぇ」
食事をしながらのおしゃべりは久しぶりな感じがして、とても楽しく思えた。
そんな中、侍女の方からそんな風に言われたのだ。
「そんなことは――」
「あるある!アンジーは、他の誰よりも強いっ!俺が言うんだから間違えない!」
ガルドが僕の言葉を遮り、自分の事のように自慢する。
その顔は、嬉々としていて、いつものガルドだ。
そして、その時になってふと思った。
「そう言えば――侍女さんのお名前、僕達、聞いてませんよね?」
「あらっ!何て失礼を―――っ!私はエイルと申します」
「エイルさん――」
「敬称は要りませんわ。私は、王女ノルさまの乳母をしていただけで、決して身分なんか高くありませんから」
朗らかに笑うエイルは、王女に同意を求めるよう、顔を向ける。
すると、彼女もまた何時もの彼女に戻ってしまったらしく、静かに微笑むだけだった。
「それにしても、あの方達は、少しでも反省されたのでしょうかしら」
「さあな。あいつ等、自分達の事しか考えられないみたいだし、仕方ないんじゃねえの?」
「――確かに、辛い事ばかりで大変なのは判りますが――ねぇ?ノルさま」
「……ええ…」
少し頬を染めながら返事をする王女は、どうやらエイルに今朝の事を揶揄われたと思ったらしく、エイルを小さく睨んでいる。
けれど、その顔はどう見ても拗ねているようにしか見えなくて――本当に可愛らしく目に映った。
「でもさ、王女さん達も思い切ったことするよな――」
「――何が…でしょうか?」
「だって、あいつ等を置いてこっちに来ちまって」
「まあ、当然じゃございませんか!アンジーとガルドの方が、あの方達よりも何十倍も頼れますもの!」
「エイルったら……それもそうですけれど……大神殿に居た方が、安全なのでは?と考えたからでも、あるんです」
「え?」
「そうなのか!?」
王女の言葉に、僕たちは大げさ過ぎるくらいに驚いた。
だけれど、彼女達は小さく笑っただけで、そんな僕達を咎めるつもりはないらしく、会話が続く。
「そう言えば、最近では大神官さまにお会いする事も許しては貰っておりませんでしたけれど――彼らの力は普通の人間とは違うものですものね――」
「ええ、その通りよ、エイル。本来、王族にも備わっているだろう力はなく、けれど彼らには未だ竜の恩恵があります。そのお陰で、他の者達では出来ない守りの力も強くあります」
「守りの――力?」
「そうです。守りの力――それは、大神殿では特に強く働いているようですけれど、その力で危険だと思われるものは排除されるよう、出来ているのです」
「――でも……それなら、神殿騎士が居る必要が……」
「いいえ、その神殿騎士達の力もまた、守るという力に入ります。ですから、より強力になるのです」
ああ、そう言うことか、と思わず納得してしまった。
彼らには神官さま達のような特別な力はないものの、どこか他の衛兵達とは違うものがあった。
雰囲気でしか感じられない僕だけれど、それでも判るくらいなのだから、きっとその力が作用するのだろう。
僕は納得して、大きく頷いていた。
「そのお陰で、今、私達が無事でいられるのですわ」
エイルは嬉しそうに、また楽しそうに笑うと、それに釣られるよう僕達も笑っていた。
「――ねえ、アンジー」
「はい?」
「あの――ガルドにもお願いしたいのですけれど……」
「何だ?」
「出来たら、私を――ノルと呼んで下さいませんか?」
「え?」
「何だ、そんなことかっ。全然構わねぇ……けど……」
ガルドが最後の方で言葉を濁らせたのは、僕が足を踏みつけたから。
だって――そんな簡単な話じゃないのだ。
彼女は、この大国の王女なのだから、そんなに気安くする訳にはいかない。
それでなくても、ガルドの言葉遣いには、ヒヤヒヤしっぱなしだというのに……。
「お願いです――私……貴方達とお友達になりたいのです」
両手を握り締め、僕達なんかに懇願する王女は、けれど真剣な眼差しで――その隣りにいたエイルは、ただただ微笑んでいるだけ。
「私――私には、お友達というものが、今までおりませんでした――」
「は?!」
「えっ!?」
「ですから――どうか、貴方達にお友達になって欲しいのですっ」
王女の言葉に、少しだけ吃驚しつつも、『嗚呼、そうか』と納得するものがあった。
だって、彼女達は大国の王室に居るわけで、気軽に近づける人達などいないのだ。
それだけじゃない。
しかも、王女は今の今まで、ずっと妾妃キリクの監視下にあり、自由な行動など一切出来なかったのだろう。
そう考えれば、王女の『友達が居なかった』という言葉も当然だと思えた。
だけど―――何か意外な展開になってきたような――と思わずにはいられない彼女の言葉に、気付けばガルドは僕の制止など無視して大きく頷いていた。
「判ったっ!俺は友達になるぜ!」
「ちょ、ガルド!」
「だってさ、王族が友達だぜ!?すっげぇっ!」
ガルドは一人大はしゃぎをしながら、嬉しそうに叫び、それを聞いていた王女は目をきらきらとさせて喜びの笑みを零し、エイルはまるでそんな二人を我が子供のように優しく見守っている。
まったく――何て楽天的な性格なんだろう――。
ガルドを横目で見ながら、つい呆れてしまった。
「アンジーは……無理ですか?」
ガルドに気を取られていて、彼女から声を掛けられた瞬間、僕は思考が飛んだ。
嗚呼――そっか、僕にも言われてることだったんだよね…と、どうにか本題を頭に戻して考える。
でもまあ、考えるような事なのかどうなのか――という問題でもあるのだけれど……。
何よりも、ガルドの軽薄とも思える言動でさえ、彼女は『友達』という言葉に喜びを感じているのだ。
それを僕が壊してしまうのも、気の毒にすら思う。
だけど――。
「王女さま――お友達になるのは構いませんが……」
「嗚呼、本当ですか!?」
僕の言葉を最後まで聞かず、彼女は嬉しそうな声をあげる。
それでも、僕は自分の言うべき事を口にしないと駄目だと思っていた。
「はい。友達になるのは構いません。だけど、お約束もして下さい」
「え?……約束、ですか?」
「そう、約束です」
王女は、僕の真剣な声に気付いたのだろう。すぐさま彼女は真剣な顔つきに戻り、そして大きく頷きながら神妙に『はい』と返事をした。
「僕の勝手な考えかも知れません。だけど、お約束――決して相手を傷つけるような嘘や行動はとらないこと」
そう言った途端、彼女は破顔し、そして大きく頷きながら微笑んだ。
その微笑は、まるで無垢な子供そのもので――。
「判りました。相手を決して傷つけない――これが、お約束ですね?」
「そうです――」
「大丈夫です。私、きっとお約束を果たします。決して、アンジーもガルドも傷つけたりしないよう、努力します」
そう言い切った王女は、僕達に向かって誓いを立てた。
すると――。
「じゃ、俺も――改めて、王女さんとアンジーに誓いを立てる」
「それでは、私も――ノルさまとガルド、そしてアンジーに誓いを立てますわ」
「まあっ、エイルまで!?」
「あら、私は仲間外れなのですか?」
エイルの言葉に、皆が笑い声を上げ、一頻り笑いあうと、僕もまたこの場の皆に誓いを立てた。
「僕も――貴方達皆に誓いを立てます。傷つけるようなことをしないよう努力すると――」
その言葉に、王女とエイルの顔が嬉しそうに微笑を作り、そしてガルドが隣りで大きく何度も頷いているのが見えた。
僕達はその日、久しぶりに温かい時間を過ごせていたと思う。
ここ数日にはなかった、穏やかで優しい気持ちになる、そんな時間を――。




