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次の日は、睡眠不足の上に、悩みすぎたせいで頭が朦朧としていた。

それでも約束だからということで朝食もお断りし、大神官さまに挨拶をした後、大神殿を後にしてアロウ達の居る宿屋へ行く事にした。

大神殿の前で警備をしていた神殿騎士には、既に大神官さまからの連絡がいっているらしく、今後も自由に出入り出来るようになったと事を伝えられている。

その為にも、僕がアンジーであるという証拠が必要だということで、大神官さまから手渡された小さなボタン。

それをマントの首に付けておくだけで良いというもので、僕ではない人が付けるとなくなるという術が施されているらしい。

それは、ガルドも一緒に貰っている。

二人は、それを今朝受け取って、神殿騎士にも挨拶をしつつ、出かけたのだった。

実のところ――約束などなければ、アロウ達の所などには行かず、大神殿でゆっくりとした時間を貪りたかったのだけれど……約束がある以上、そんな事も言ってられないのも事実。

そんな風に、重い頭と気持ちを抱えて、僕らは大神殿を後にしたのだった。

 

 

 

「アンジー、悪いが急いで来てくれ」

 

神殿を出た途端、ハルが外で待っていてくれた。

どうやら迎えに来てくれたらしい彼は、何だかとても苛立っている様子で、僕達が出てきたのを確認すると走り寄ってきてそんな風に言ったのだった。

 

「どうしたの?」

「どうしたんだ!?」

 

僕とガルドの声が重なって、ハルに問い掛ける。

けれど、彼は『とりあえず、急いでくれ――話は後』と言っただけで、僕達を急かし歩き始めた。

その歩みが、あまりにも速くて、どれだけ急いでいるのか、慌てているのかが窺える。

ガルドと僕は、首を傾げはしたものの、それ以上の質問はせずに彼へ従って足早に街を抜けていった。

その間、僕の頭にあったのは、アロウと自分のこと――。

 

彼は、王城へ行って何がしたいんだろう。

王にでもなるつもりなのかな?

その場合――彼には大神殿で行われていたという血の誓いを受けることが出来るのだろうか――。

 

僕は、これから彼らと王城へ行って、何をすればいいんだろう。

何かをしなくてはいけないんだろうか――。

何よりも――僕が欲しかった答えは、結局何一つとして貰っておらず、これからどうすれば良いのか?ってことも同様だ。

 

歩きながらも、僕はずっと悩み続けていた。

だからといって、僕自身の中に答えは存在していない。

まずは――アロウの本当の気持ちを聞かないといけないのかも知れないのだろうけれど――。

 

そうこうしてる内に、ハルが一軒の家へと案内してくれた。

昨日、彼らは信用のおける宿屋で泊まると言っていたはずなんだけど――と疑問に思いながら、ハルの後を付いて中に入れば、看板こそないものの作りは間違えなく宿屋そのもので――けれど、どうやら営業自体はしてないらしいことは、受け付けなどのカウンターが無くなっている事から察する事が出来た。

そのまま、彼の後に奥へと入っていく。

すると、既にアロウを含め四人がその場で待っていたようで――というよりは、ずっと一晩中その場に居たという感じだ。

当然のことだろうけれど、王女と侍女は部屋で待機しているらしい――というか眠っていたんだろうね。

 

「おはよう」

 

ガルドが挨拶をすると、皆の目が赤い事から夕べは起きていたのだろうと確信した。

 

「二人とも急かして悪かったな――」

 

ハルはそう言いながら、彼らの近くに僕達用の椅子を用意してくれる。

それを見て、僕達はマントを脱ぐ事もなく椅子に腰を降ろす。すると、ブレアンの兄ザイが、怖い顔をして僕達を睨んだ…ように見えた。

 

「悪い――お前達の存在が、キリク達にバレたらしい」

 

一瞬、何を言われたのか判らないまま、眉根を寄せる。

何のことだろう――と思っていれば。

 

「アンジーとガルドの正体がバレたらしい――まあ、名前や何やらは気付かれていないが、俺達と共に行動しているということがバレたようだ」

 

ふむ――と、鼻で返事をし、そして頭の中で彼の言葉を整理する。

それは――僕が、大神殿で言われた所の御子ってヤツで、ガルドが半妖だって事が、バレたってことでいいのかな?

首を傾げ、ガルドへと顔を向ければ、彼は難なく理解出来てしまっていたらしい。

 

「この後の計画とか、俺達は聞いてないんだけどさ。一緒に行動しない方が安全だってことか?」

「そう言うことになる」

「ふーん」

 

何だか、ガルドらしくもない態度に、僕はまたしても首を傾げてしまう。

 

「まあ、それなら俺達は大神殿でお世話になっとくのが良いかもな――まだ、全部の話は聞いてない事だし――」

「え?……って、ガルド」

「だって、こいつらと居たら、殺されるかも知れないんだろう?んじゃ、この先は俺達だけ安全な場所に逃げておくのがいいと思う」

「――それは……だけど、彼らを王城へ連れて行くのが……」

「アンジー。俺はお前を守るって、お前の母さんと約束したんだ。こいつらの事は、確かに面白そうだから付いてきたけど、アンジーを信用も出来てない連中とは、一緒に居たって危険が伴うだけだろっ!」

 

唐突に――いつものガルドとは思えない発言をされ、僕達は全員、その場で固まってしまった。

一体――こいつはいきなり、何を言い出したんだろう。

 

「ここ数日、こいつらと一緒に居て思ったんだよな、俺。――こいつら、確かにアンジーが貴重な存在だからってことで、色んな面で遠慮してるように見えてた。けど、本当の所は、アンジーのこと、お荷物にしか思ってなかっただろう?」

 

アロウに向かって、ガルドが言い放った途端、アロウとブレアンの顔が引きつったように思えた。

それ以上に――ブレアンの兄弟二人もまた、顔色が変わったのが目に入り、僕は彼らと過ごしたここ数日を思い返す。

確かにね――そんな感がなかったとは言わないけどさ……ガルドに言われたくらいで、顔色を変えていてどうするんだろうね。

なんて、少し皮肉るように彼らを見やれば、唇を噛み締めるアロウが居た。

 

「ハルは、何か――腫れ物に触るみたいな態度もしてたけど、それでも王女を助けてからというもの、アンジーの事を頼りにしてた。それなのに――あんたら、自分達の事で精一杯なのは判るけど、その態度はないだろう!?」

 

何だか――本当に……何で、ガルドがこんなに怒っているのか、まるで判らないや。

しかも、僕が言いたかった気持ちを思いっきり代弁してくれちゃって――それは、僕の言いたかった事で、けれど言いたくなかった事。

それをガルドが口にして良いものではないような気がした。

確か、王女を助けた時にも、怒り出したことがあったっけ。

 

「何で、お前らの為に、アンジーが辛い思いをしなくちゃいけないんだ?!どうせ、アンジーの事を必要としてないんだったら、勝手にやれよ!俺はごめんだからなっ。俺はアンジーが居るところへ行く」

 

そう言い切ったガルドに、僕は何を返せば良いのか判らなかった。

というよりも、彼の勢いに負けて、全員が押し黙っているようだった。

確かに――彼の言いたい事は判るけれど、僕の気持ちまで代弁してくれとは言ってない。

それなのに、何を――。

そう思いつつ、僕は冷めた感情でガルドを始め、皆の事を見ていた気がする。

 

「これからの作戦とか色々、お前らは忙しいだろうから、俺達は大神殿へ戻るぜ。まあ、王城へは一緒に行ってやる。けどな、その時も俺の力を当てにすんなよ?!俺の力は、アンジーと自分の為にあるんだ」

 

言い終わった途端、ガルドは席を立ち上がり、尚且つ僕の腕を引き上げる。

そして、僕の言葉も待たないうちに、出て行こうとした。

けれど、その時――。

 

「勝手にしろ――」

 

アロウが投げやりに言った途端に、バシンと大きな音が聞えてきた。

瞬時、僕とガルドが振り向いてみれば、そこには頬を抑えたアロウと、小さな体を震わせている王女の姿があった。

 

「アロウ――貴方が私の兄だと判った時には嬉しく思いました。けれど――私の命の恩人に、なんて態度をされるのです!?」

「ノル――王女」

「何て恥知らずな事なんでしょう」

 

ここ数日しか一緒に居なかった王女だったけれど、とても控えめで、どこか引っ込み思案を彷彿させる静かな女性だと思っていた彼女が、そんな事をするとは思えず、また声を荒げるなんて事も想像さえしてなかったから、ガルドと共に固まってしまった。

そして――。

 

「私も、アンジーと共に大神殿へ参ります――きっと、あそこの方が貴方とご一緒に居るよりも安全でしょうから――その間、少しでも冷静になり、頭をお冷やしになられませ!」

 

愕然と王女を見つめる幾多の目と――まるで、王女を指示しているかのように隣りで立ち並ぶ侍女。

そんな彼らを見ながら、ガルドが小さく口笛を吹いた。

 

「じゃあ、王女さんは俺達と一緒に行こうぜ。今ならまだ、人も少ない――早いとこ、用意してこいよ」

 

結局、何もかもガルドが仕切ってしまい、その場で未だ固まっている彼らを放置したまま、僕達は大神殿へと出戻ることになったのだった。

 

 

 


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