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「それにしても、俺達は縁があるなー」

 

夜、約束通り、アロウ達が僕達の泊まっている宿屋へ迎えに来てくれて、そのまま小さな食堂へと案内してくれた。

彼らは、この街に着いてもう二週間近く滞在しているらしい。

というのも、この先へ旅に出る商隊を探していたらしいのだけれど、なかなか良い商隊に出会わなかったのだと言う。

 

「確かにね――」

 

そう返事をしながら、僕は目の前に出た美味しそうなスープを一口飲んだ。

それがまた、凄く口に優しくて――温かくて――昨日、宿屋の食堂で口にした物なんか比べ物にならないくらいに美味しかった。

 

「これ、美味いっ!」

 

と、僕が感動していた横で、ガルドが叫ぶ。

それはもう、店の店員に聞える程の大きな声で――。

すると、店員さんが嬉しそうに笑顔を送ってくれたんだけど、周りの人からはクスクスと笑われてしまっていた。

まったく、この男ときたら――。

 

「そりゃそうだ。この街で一番美味い店だって教えてもらって、俺達も毎日通ってるくらいだからな」

 

なーんて、今度はアロウまで嬉しそうに大きな声で自慢する。

その隣りでは、僕と同じように頭を抱えたブレアンの姿。

何だか僕達――とっても同じ境遇だったりする??

なんて、思いながら食事の時間は進んで行った。

 

 

「そう言えば、アンジーはこの後、どこまで行くんだ?」

「え?言って無かったっけ?」

「いや、大神殿を目指してるってことは聞いた覚えがあるけど――忘れた…」

 

と、視線を泳がせるアロウに、僕はつい噴出す。

まあ、知られても困るもんじゃないし、かと言って忘れられても困るものじゃないからいいんだけどね。

 

「この後はデニアの街の神殿へ行く予定なんだ」

「へえ――デニアだったんだっけか…ふーん」

 

と、何となく意味深な返事。

ブレアンが少しだけ顔つきが変わったように思えたけれど、一瞬で普段の顔つきに戻ったせいで気のせいだろうと思うことにした。

何か――うーーん、この二人って、どこか普通に旅をしてるって感じじゃない気がするんだけどな…。

 

「そういう二人は?」

「え?」

「僕達の話ばっかりで、二人がどこに行くとか、どんな目的か?とか聞いた事ないよね、そう言えば」

「……ああ、そうだったな」

 

ブレアンが歯切れの悪い返事をする。

それはまるで、何か秘密があるかのようで――。

もしかしたらガルドが食いつくんじゃないか?って思っていたのに、どうやら彼には興味がないらしい。

と言うよりも――食事が終わったら、もうこの二人に興味もないみたいだ。

まったく、本当に現金だって思うんだよね、こういうところ。

 

「俺達も大神殿のある王都を目指してはいるんだけどな――」

「そうなんだ」

「ああ――けど、今はまだ――なんて言うか、色々と準備中」

「…準備?」

 

何を準備するんだろ?とは思いつつも、旅をするには準備が欠かせない、と思い直し、僕はそれ以上聞くことはしなかった。

いや、聞けなかったのだ。

ブレアンの顔が、その時から渋くなりつつあったから。

僕にも秘密があるように、他の人にも秘密は多少なりともある。

それを考えて、僕はそれ以上聞くことはしなかったのだ。

だって――彼らの秘密を暴いたとしたら、僕もまた自分の秘密を言わなくてはいけない。

それが、ルールってものでしょ?

 

「僕達は明日の朝、出発する予定」

「え?商隊とかには入らないのか?」

「うん…だって――母が一緒の時には無理出来なかったから、それなりに考えてはいたんだけど……今は僕達だけだしね……それに、男二人がこんな恰好だから――さすがに雇ってくれるような人達はいないだろうし」

「ああ…まあ…この大国じゃあ、人手に事欠かないからな…」

「そうなんだよね」

 

笑って返事をしつつも、真実を覆い隠す。

確かに、こんな二人が商隊に入るのは難しいのも事実なんだけれどね――何よりもガルドの本性を知られたくないのだ。

僕はまだしも、彼は――命に関わってくる。

そんな危ない目になんか、遭わせられない。

それでなくても、今日の昼間に仕事をさせてもらったんだけど、彼らは凄く僕達の容姿に不安そうな顔をしてくれてたし、半妖の話題も出ていた。

しかも――半妖なんかいなくなればいい――という台詞つきで――。

もう二度と会うことのない人達だろうけれど、本気で殴ってやりたかった。

ガルドは何も言わなかったけれど、間違いなく傷ついている。

僕だって、もし自分の事だったら傷つくもの。

それなのに、いつもの短気なガルドらしくなく、とても大人しくしてくれていた。

もしかしたら――凄く傷つき過ぎて、何も出来なかったんじゃないか?って心配するくらいに。

なのに、彼は強いんだろうな。

仕事を終え、ギルドに報酬を貰いに行った帰りには、既に夕飯の話題で嬉しそうにしてくれてたんだから。

僕に気を遣わせないようにしてくれてたんじゃないかな?って思うんだ。

 

「まあ、俺達もまだ良い商隊に巡り会ってないからな。お前達の入れるような商隊を探すのを手伝えないから何も言わんけど――気を付けろな?」

「うん。それは大丈夫」

「ああ、お前の剣の腕前なら大丈夫だろうけどさ」

 

アロウが、彼なりの気遣いなのだろう言葉で慰めてはくれたけれど、僕達は最初から商隊に入るつもりも無かったため、笑ってその話は終わらせた。

その後は、他愛ない会話で盛り上がり、ガルドが眠いと唸りだすまで、随分と長い時間、皆で笑いあった。

久しぶりの有意義な時間だと思えた程に。

 

「じゃあ、またどこかで会えたら――」

「ああ、またどこかで――それまで体に気を付けろよ」

「またなー」

「…気を付けていけよ」

 

皆それぞれの挨拶を交わし、お互いの宿屋へと戻っていく。

部屋に戻った時には、風呂も適当に入っただけで、即ベッドの住人になった僕達だった。

 

 

次の日、僕達は朝早くから街を出る支度をして宿屋を後にした。

昨日の夕方、買い足した荷物のお陰で、随分とバッグが重く感じたけれど、水やら何やら一番重そうなものはガルドが全部請け負ってくれている。

今までなら、全部僕が任されていたものをガルドが担うことになり、申し訳ない気持ちにはなったけれど、女二人の旅をしていた時よりも量が多いので仕方ないと思う事にした。

だって――その殆どが、ガルドの食料なんだもの…。

 

「俺は育ち盛りなのっ!」

 

と僕が恨めしく見たのに気付いたのだろうガルドが、豪語してくれる。

まったくもう――とは思いつつも、僕はそれ以上何も言わないでおいた。

 

後少しで街を出るという時のこと、後ろから僕達を呼ぶ声が聞えてきた。

振り向いて見てみれば――そこにはアロウとブレアンの姿。

何だろう?と、首を傾げて彼らを見れば、手には大きな荷物が一つ。

 

「間に合ったっ!!」

 

と大きな声で言うアロウの隣りで、あんなに一杯走ったにも関わらず、息すら乱していないブレアンが立ち並んだ。

 

「これこれ!」

「え?」

 

いきなり僕達に押し付けてきたのは、何とも大きな荷物だ。

何?と、二人に問い掛けてみれば。

 

「昨日の食堂のオヤジさんからだ」

「は?」

「お前達が、散々美味しい美味しいって連発してくれたお陰で、あの後注文が殺到してたんだとさ」

「へ??」

 

それが何だというの?と、つい間抜けな返事をしてしまえば、ブレアンが苦笑しながらアロウの持ってる荷物を受け取れと言ってくる。

 

「これ、お前達の今日の飯らしい」

「はあ!?」

「お礼なんだとさ。受け取っておけ!」

「で、でもっ」

「いいじゃん、いいじゃん!貰っておこうぜ!俺達、良い事をしたっていうお礼なんだろ?!」

「…ガルド……」

 

能天気な事を言い出すガルドを嗜めるように言えば、アロウが『そうそう』と相槌を打ってガルドを甘やかす。

もう、勘弁してよ――。

 

「俺達の宿屋だけは知ってたから、こっちに届けてくれたんだよ。今日、お前達が旅に出るのだと、店員が聞いてたって言ってさ」

「でも、受け取れないよ――」

「受け取っておけって。じゃないと、親父さんが作ってくれた好意が無になる」

「……」

「そうだよ、貰っておこうぜ!せっかくの気持ちなんだから!」

「…そう、だね」

「そうだそうだ!あ、お礼言っておいてくれよな!」

「ああ、もちろんだ……っていうか、お前、食い物のことになると、いきなり元気になるのな?」

 

ガルドの態度にアロウが笑いながら返事をする。

その隣でも、ブレアンが苦笑をしていた。

 

「ありがとう――僕からもお礼を言っていたと伝えておいて」

「任せろ」

「アンジー…君とはまた、どこかで会えそうな気がする」

 

唐突にブレアンがそう言ってきて、僕達は言葉が止まってしまった。

それなのに、ブレアンは気にすることなく続ける。

 

「また――会うことになると思うけど――その時には、昨日のように食事でもしよう」

 

笑って手を差し出してくるブレアンに、僕は少しだけ吃驚しつつも、手を差し出した。

そして、硬く手を握り合う。

まるで大人と子供のような差のある手のひら。

けれど――僕も、どこかで彼らとはまた出会うことになりそうだと、そう思っていた。

だから――僕達は笑って別れを告げられたのだと思う。

またね――という気持ちを込めて。

 

 

 


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