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「本当に金は平気なのか?」
朝からギルドへ向かうという僕に、尚も必死で聞いてくるガルドは、どうやら昨日のことをまだ半分だけ信じ込んでいたらしい。
確かに、裕福って訳じゃない僕達には、それ程の余裕があるわけじゃない。
けれど、だからと言って、旅が続けられないくらいお金が足りないということもないのだ。
「大丈夫だよ。ただ、少しでも余裕を持っていたいってだけ」
「でも――俺だって金くらい、ちゃんと持ってきたぞ?」
「知ってるよ。昨日だって、ちゃんと自分の分の食事代、払ってくれてたじゃない」
「ならっ!」
「そうもいかないんだ。僕達は、まだミードラグースに入ったばっかりで、次の目的地までだって結構あるんだよ?」
「判ってる…けどさ…」
「まあ、次の街で宿屋に泊まるくらいのお金は残るだろうけど、そこで慌てて仕事を探すよりも、普段から余裕を持って仕事をしたり、無駄遣いを減らしたりしないと駄目なんだ」
ガルドが何を心配してるのかは、判らないわけじゃない。
たぶん、だけど――僕も一応は女だってことで、体調を崩すんじゃないか?と心配してくれているのだ。
彼の村に居た時、僕は一日だけ熱を出して寝込んだ事がある。
まあ、それは――月のモノが来てただけなのだけれど…彼にはそれを伝えてなかったから、凄く心配されたのだ。
もちろん、マルやテイトにも心配はされたけれど、母がテイトに日付を確認したことから、彼だけは気付くことが出来たらしい。なので、ガルドとマルだけは、未だにその時の理由を知らない。
と言う事で、彼なりに心配してくれているのは判っているのだ。
けど――。
「ガルド――僕だって別に無理をしようって訳じゃないんだ。ちゃんと自己管理してるだろう?」
「……」
「大丈夫――というか、ガルドも手伝ってくれるでしょう?」
そう言った途端、ガルドが僕の事を凝視した。
「うぇっ!?俺もかっ!?」
「……ガルド…もしかして、自分だけは仕事しなくてもいいとか、考えてたわけ?」
僕が脅すように言えば、ガルドは大袈裟なくらいに首を横に何度も振って『いや、そうだな!働かなくちゃな!』なんて言ってくれた。
まったく――もしかしなくても、こいつは自分だけ知らん顔をするつもりだったらしい。
本当に、何てやつなんだろう…そう思いながらも、ついつい顔が綻んでしまっていた。
ギルドは、街の中心から少し離れた場所にあった。
この街のギルドは、国からの仕事も引き受けているらしいことを宿屋の店主から聞いてきた。
お陰で小さな仕事から大きな仕事まで揃えられているとのことで、僕達は安心してギルドに足を踏み入れたのだった。
中には、壁一面に仕事の依頼書が張られており、また随分と多くの人が中で受け付けを待っていることに驚きを隠せなかった。
そして何よりも――その仕事の幅広さ。
小さなお届け物から、盗賊狩りの依頼、また人を襲う動物の駆除と、様々だ。
僕達は、今日中に出来そうな仕事をいくつか探しながら、奥の方へと移動して行った。
と――。
「あれ?アンジー?」
聞き覚えのある声が後ろの方から聞え、振り向いて見れば、そこにはアロウが何時ものようにブレアンと二人で立っていた。
「アロウ、それにブレアン」
「お前達、漸くここに着いたのか」
そう笑いながら気軽く声をかけてくるアロウに、僕も気さくに返事をしながら近づいていこうとして失敗した。
それもそのはず。後ろからガルドが僕のマントをしっかりと握り締めていたのだ。
何だよ、いきなり――とガルドへ視線を向ければ、小さな声で『うぅ』と唸る声。
おいおい――動物じゃないんだから…と思いながら『前、一緒に働いた事がある人だよ』と教えてやれば、どうにか安心したらしく、マントを引っ張るのだけはやめてくれる。
が、しかしながら、僕と離れるつもりがないらしい彼は、僕が彼らの方へ行くのにくっついてきた。
「アンジー、の…連れか?」
そう問い掛けられて、一瞬頭が止まった。
けれど、その後には『そうだよ』と気軽に返事をしていた僕。
考えてみれば、彼らと出会ったのはガルドと合流する前だったし、その時には母と旅をしていたんだから、相手が変わったというのに不審を抱いても仕方ない。
けれど、慌てることなく、僕は彼らにガルドを紹介した。
「母を助けてくれた人の息子さん。ガルド、この人たちは僕と以前、一緒に仕事をしたことのある人たちだよ」
そう言ってガルドを二人の前に連れ出した。
二人は、一応手を差し出してくれたけれど、ガルドはその手を完全に拒んでいた。
ふんと言わんばかりに顔をそっぽへ向けて。
困ったヤツだな、ホント――何が気にいらないのか判んないけどさ。
けれど、二人はそれでも嫌な顔もせず、自分達の手を引いてくれたりして――ああ、大人だなぁなんて感想を胸に、大勢の人が集まっている場所から少し体をずらすことにした。
「それにしても、母さんを助けてくれたって??」
壁際に移動すると、アロウが心配そうな顔で聞いてきた。
「うん、あの後――あの街を出たくらいから急に寒くなり始めたじゃない?」
「ああ、確かに――冬だしな…」
ぶっきらぼうに返答したのは、言うまでもなくブレアン。
妙にガルドの事が気になるのか、チラチラと見ながらも、僕達の会話に参加する意思はあるらしい。
「そのせいで、まあ、過労というか、なんて言うか――」
「でも、あの先に村も何もないだろう?」
「あ、うん――そう――なんだけど」
と、思わず口篭もる。
確かに、そう言えば民家らしい民家も無かったっけ…と思い出すと、どうしようって事になるわけで…慌てて色々と頭の中で言い訳を考え出そうとしていたら。
「俺達の住んでるとこは、街から外れたとこにある小さな集落みたいな場所だよ。たまたま国境付近へ人を運んだオヤジがアンジー達を見つけて連れ帰ってきたんだ」
ガルド、ナイス!と思わず心の中だけで拍手を送った。
すると、アロウが『ああ、あの辺かな?』なんて見当がついたのか相槌を打ち、それに合わせてブレアンも納得してくれたらしい。
僕は、うんうんと頷くだけ。
余計な事を言って、何かあってからでは遅いのだ。
ましてや、アロウとブレアンが彼らを危険な目に遭わせないとも限らない。
まあ――悪い人達ではないと信じたいけれど……。
「じゃあ、母さんは置き去りか?」
「…そんな…酷い言い方しないでよ。一応、母にも許可を貰ってきたんだから」
「ああ…悪い悪い――まあ、何だ…凄く仲の良い親子だったからさ…」
「うん…僕が一人で旅をするって言ったら、たぶん聞いてもらえなかったと思うけど…ガルドが一緒に行くって言い出してくれたお陰でね…」
これは真実だ。
ガルドが居なければ、たぶん母は意地でも一緒に行くと言っていたことだろう。
けれど、ガルドが意地でも一緒に行くと豪語したもんだから、母も安心してあの村で休んでくれることを決意してくれたのだと思う。
本当は、凄く心配だっただろうけれど……。
「そっかーー。で、彼も傷を??」
と、ガルドの恰好を見て、アロウが最後だけは小さな声で僕に聞えるよう問い掛けてきた。
すると、その隣りに居たブレアンが渋い顔をして、アロウを突っつく。
でもって――。
「あの辺の集落は、何度となく焼かれてる…」
その声は、本当に小さな声で、下手をしたら聞えないくらいのもの。
だけれど、それがガルドを気遣っての声だと知って、少しだけ安堵した。
まあ、ガルドにはその声すら聞き取れていた様だったけれど。
「ああ……まあ、何だ。久しぶりの再会だし――さっき俺達、結構な給金が入ったトコなんだ。今日の夜、食事でもどうだ?」
「え?」
「奢りか?!」
ちょ…ガルド、何をいきなり張り切ってんの!?と、思わず言いそうになった瞬間、アロウが大笑いをしながら頷いていた。
「おう!任せろ!お前らの分くらい全然だ!」
なーんて、アロウまで張り切って返事をしてくれちゃって……。
その隣りでは、額に手をやるブレアンの姿が見えて――僕は、今度こそ大きく肩を落とした。




