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次の日。
村で貰った食料を計算に入れても、この街で水以外の物を仕入れる必要がなかったのもあって、引き続き次の街へと向かった僕達。
この次に通る街ではギルドもあるし、少し滞在して路銀を増やすことも出来るだろう。
目指すはデニアという街。けれど、その前にゴゾというこの辺りでは大き目の街に行く。
日程としては、二日ほど歩くだけというその街には、神殿もあるらしいけれど、アスレン神官さまに言われた通りデニアまで神殿への寄り道はなしだ。
術の方は、どうやらカズリー神官さまとアスレン神官さまの掛けてくれたものが強かったため、心配はいらないらしい。
実際、先日の国境を越える際に受けた審査の時、役人にチラリと手の傷跡を見られ、少しだけずらしたフードから顔を出さなくて良いと言われた。
ガルドも同様――兄弟ってことにしてあったので、同じ事故で負った傷跡だと言えば、それ以上の事を質問されることはなかったのだ。
それは、ガルドからお供が嫌だと散々愚痴を言われての配慮。
それで納得したガルドに、僕は内心ウンザリしてしまったのは秘密だ。
二日間、何事もなく予定していた街に着けば、ガルドはその街の大きさに喜びを隠せないようだった。
と言っても、実のところ、彼の目当ては食事だ。
途中にある屋台で売られた食べ物を、子供のように欲しがるガルド。
それを制しながらの宿屋探しは、本当に骨を折った。
何しろ、自分も路銀があるからと普段から無駄遣いをしようとするのだ、この男は。
「何で駄目なんだよ…いいじゃんか、少しぐらい」
「宿屋を探すのが先!」
「けち、けち、けーーち!」
小さな声ではあるけれど、ガルドは僕に悪態をついてばっかりだ。
それでも我慢出来たのは、僕にとって心強い仲間だと思えばこそ。
だけど、それが余りに酷いと僕だって我慢の限界ってのが近くなる。
それなのに…宿屋が見つかるまでの間、ガルドはずっと文句ばっかり言い続けていた。
どうにか僕達に見合った宿屋を見つけたのは、街に入ってから三十分ほど経ってからのこと。
宿屋自体は大きな作りだけれど、部屋数を多くするためだろう、随分と狭い部屋ばっかりだった。
それでも小奇麗にされたその部屋は、とても清潔感がある。
「今日と明日はこの宿屋で過ごして、明後日には出発するから」
僕がそう言うとガルドが、これまた唸る。
「うーー…また、あのどうしようもない食事かよ…せっかく街に来たんだから数日くらい美味しいものを堪能しようぜ!?」
マントを脱ぎながら言うガルドに、僕も同じくマントを脱ぎ捨て、そして言い返した。
「じゃあガルドだけ、この街に残るといいよ。僕は先に行くから。後からゆっくり来ればいい」
もう、僕は知らないよと付け足して、ベッドに腰を降ろせば、同じく隣りのベッドへゴロリと横になっていたガルドが威勢良く起き上がった。
「そんなん駄目に決まってるじゃん!何言い出すんだよ」
「言い出すも何も、ガルドはココに居たいんでしょう。だから、ご自由にって言っただけ」
こんな口喧嘩も慣れたものだ。
ガルドと居ると、こういう会話が当たり前で、普通に意思の疎通をするような会話にならない。
だから、僕は時々文句ばかり言うガルドを置いて先に歩くこともあった。
まあ、宿屋の中じゃ、そうもいかないんだけどね。
「アンジーってセコイよな」
「はあ?」
「だって…あれは駄目、これは駄目とかって…少しくらい楽しいことをしたっていいじゃんか。一緒に旅してるんだから」
思わず肩を落としたくなる台詞に、僕は言いようのない脱力感を味わった。
本当に、まるで子供だよ、この男は。
村に居たとき、歳を聞いたけれど、僕より二つも年上だと言っていた。
それなのに……剣の腕前は最高だし、術もまた――ほんの少しだけ見せてもらったけど結構頼りになるとは思う。
思うけれど、性格がこれじゃ釣り合いが取れないよ、ホントに。
「あのね、ガルド――僕達の旅は、遊びじゃないって何度言わせたら判ってくれるの?」
その言葉に、今度は口を尖らせて『うう』と唸る。
もう、ホントに子供過ぎる。
「いっそのこと、セイを呼んで迎えに来てもらおうか?」
と、言った途端だった。
ガルドがブルブルと顔を横に振り、そして『判った!明後日だな!?判ったよ!』と言い出した。
その慌てぶりを見て、セイに随分と絞られてきたんだろうなって想像がついた。
そして――僕の頭の中で、これは使えると判断した。
今度から、あんまり酷い文句を言ったら、セイの話題を出そう――と。
ここまでの汗や汚れを落とすため、順番制の方の小さな風呂場へ行ったのは、宿屋についてから一時間ほどしてからだ。
この街に着いたのは、もう夕方になった頃だったし、彼もそれなりに空腹を感じていたのだろう。僕が先に汗を流そうと言い出せば、判ったとばかりにのってくれた。
順番制の風呂場は、階下の一番奥にあり、宿屋の主人に一声掛ければ何時でも入れると教えられていた為、僕達は主人に一言伝えてから二人、順番で入る事にした。
他の客は、通常大きな風呂場へ行く。
それは、大きくて広々とした湯船があるから。
旅の疲れは、そういうので取る習慣が出来てるのだろう。
その点、僕達が使う風呂場には、小さくて一人が入るにも足を曲げなくてはいけない湯船しかない。
それでも入れるだけ、マシと言うもの。
そんな訳で、風呂に入り汗と汚れを落とした後は、二人で食堂に向かい、夕飯を摂る事にした。
食堂は広く作られていて、宿屋の受け付けの所とは別に設置されている。
食堂だけを使う客もいるのだろう、既に席は満席状態だった。
けれど、泊まり客の為に設けられている場所があったため、僕達の席もどうにか確保できた。
「今日のオススメでいいですかね?」
食堂の小母さんに言われて僕が頷こうとした瞬間、ガルドが他の物まで注文し始める。
「なあなあ、これとこれも頂戴。後さ、これも――」
と次々に注文していく姿を見て、うんざりしながらも苦笑するしかなかった。
随分と空腹だったのと、この二日間は三食共、保存食ばっかりだったから飽き飽きだったせいだと思う。
これからも、外へ出たらそんなものしか食べられないんだし、今日くらいは――と笑って許すことにした。
食事が運ばれてくると、その量に驚いたものの、ガルドの食べっぷりときたら凄いものだった。
彼らの村で食事をしてた時には、一度として見た事のないがっつき方。
思わず吹き出してしまったほどに。
そうして食事を終えた僕達は、早々に部屋へ戻る事にした。
それでなくても食堂は大賑わいで、さすがに落ち着かない。
そんな場所ではゆっくりも出来ないというのもあったけれど、早くマントを脱いでしまいたかったのだ。
部屋に戻ると、早速二人で重苦しいマントを脱ぎ捨てる。
で、顔を見合わせホッと溜め息を吐いた。
「やっぱ、さ。部屋に持ってきてもらったら良かったかな?」
「いや、それだったら、あんなに頼めなかっただろ?俺、まだ食い足りねぇし」
「ええ?!まだ?!」
「何だよ…いけねぇのかよ」
なんて拗ねているガルドをよそに、僕は思いっきり驚いてしまう。
だって、あんだけ食べて、まだ足りないだなんて…想像しただけでゲップが出そうだ。
「そう言えば、明日はどうするんだ?」
「うーん…出来たらギルドで、何か仕事があればいいんだけどね……」
「商隊とかってヤツに紛れ込むのか?」
「じゃなくて、明日一日とかで出来る仕事だよ」
「…そんなに…金、足りないのか?」
「ガルドが大喰らいだって知ったからね」
僕が真剣な顔をしながら言ってみると、彼は本気に取ったらしく、ガルドにしては珍しく真剣な顔つきで悩みだした。
その様子が可笑しくて、思わず吹き出してみれば嘘だったことに気付いて今度はブツブツと文句を言い出した。
そんなやり取りをしながらも、僕は何でこんなに楽しく出来てるんだろうと疑問に感じる。
だって――これから僕は、何が起こるか判らない世界へ足を踏み入れようとしているのだ。
それでも、今のこのひと時が嬉しくて仕方なかった。
何よりも、ここまで気を許せる人が僕に出来るなんて想像すらしてなかったのだから。
こうして、一緒に旅をしたり、ふざけたり…今まで一度として想像すらしたこともなかったのだから。




