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村を出てから二日。

僕達は、予定通り国境まで辿り着いた。

この大陸では、国境を渡るということに、それ程大変な手続きが必要な訳じゃない。

というのも、それだけ国家が安定しているからとも言えるのだけれど、脅威になるような国が少ないからとも言えるだろう。

その代わり、大陸を渡るには正式な手続きが必要だ。

身分を保証するもの、大陸を渡る理由、他にも様々な審査もあるという。

それだけ、大陸を渡るのは大変だと言える。

 

「それにしても、予定通り、何事もなく、国境か――なんか拍子抜けだな」

 

近くの小枝を拾って振り回していたガルドは、ぶつぶつと文句を言っている。

てか、拍子抜けとか言うなっての。

何事もない方がいいじゃないか。

と、ぶつぶつ言い返したのは必然なこと。

けど、それはガルドの耳には届いてない。

何しろ、この男と来たら、僕の言うことの半分も耳に入れないんだ。

母との旅は、日々緊張があったけれど、ガルドとの旅は違う意味で緊張する。

時々、畑で仕事をしてる人を見ると、悪戯をしかけてくれたり(半妖の術なんだけど、まあ子供の悪戯程度なんだけどね)、馬車が通るとその中に人が嫌う虫を投げ込んだりと、絶対に大人しくしていてくれない。

一体、セイに何を教えてもらってきたのか判りはしないって感じだ。

 

「あの塀のとこが国境だな」

「うん」

「何だっけ?色々と質問とかされるんだっけ?」

「そうだけど――お願いだからガルドは黙っててくれよ?」

「……何でさ」

「何ででも……」

 

こんなやり取りは、二日間ずっと当たり前のように続けられている。

今も絶対、フードの下で口を尖らせているに違いない。

 

「僕は神殿のお使いで国境を越えるんだ。ガルドは僕のお供ってことで」

「はあ?!俺がお供おっ!?」

「…何か文句でもあるわけ?」

「……ちっ…何でお供なんだよ」

「ってか、それは旅に出る前の日に言ったじゃないか」

「……聞いてねぇ」

「ガルドが聞いてなかっただけだろお?」

「……」

「あんだけ色々と話してたのに、旅の用意があるとか何とか、人の話も全然聞かないし――」

「うるせぇなあ……いいじゃねぇかよ、そんくらい」

「遊びじゃないんだから、頼むから大人しくしててっ」

「……わあーーーかったよ…ふん」

 

ガルドは不服そうに鼻を鳴らし、僕の歩いてる方とは反対側に顔を向けた。

その仕草は、本当に子供のそれで――思わず苦笑するしかなかった。

 

 

国境に着くと、人が多くひしめき合っていた。

当然だけど、一応の審査みたいなのがあるので、一旦はこの国境で足止めを食らう。

それは、村の神殿で教えてもらっていたし、国境を越えるために必要な審査の話も聞かせてもらっている。

とは言っても、形式上の話。

何で大国に入るのかって事を役人に話すだけなんだけどね。

受け付けの人に名前を告げて、役人に呼ばれるまで少し待つ間、野晒しの茶屋で一服。

その間、ガルドが苛々としている様子が気になって仕方なかった。

途中で何かしでかしそうな雰囲気もあったし、ハラハラしながら呼ばれるまでの時間を過ごした。

それはもう、何時間にも感じられる程に――。

 

役人に呼ばれたのは、本当に数十分もしない内。

さっさと用件を述べて、神殿からの書状を見せるとあっという間にミードラグースへと足を踏み入れる――と、すぐ近くに少し大きめの町が見える。

役人に質問されている間も、待っている間も、ガルドは大人しくしてくれていた。

確かに少し、苛ついてはいたみたいだけれど、それはそれ――ちゃんと弁えてくれていたのが嬉しくて仕方なかった。

どうやら、随分とセイに言われてたらしい。

国境の先にある街で、宿屋に入るとその事をブチブチと言っていた。

それも、まるでイジケてるかのように…。

その姿が可愛らしく思えて、つい噴出してしまったくらいだ。

 

「それにしても、国境付近の街にしては小さいよな、ここ」

「うん――この先に、貿易を兼ねた大きな街があるからね――きっと、ここは旅人用の街なんじゃないかな?」

「ふーーん…それにしても、シケてるな」

「…そんな言い方……」

「だって、メシも美味くねぇんだもん」

 

ぶぅっと頬を膨らませて見せるガルドは、僕と今同じ部屋でマントを脱いでいる。

本当は別々の部屋にしたかったんだけど、そこまで無駄遣いは出来ないってことで、仕方なく同じ部屋。

と言っても、ガルドが僕をどうこうすることは出来ない。

何しろ――約束の呪文を掛けられてるから。

旅の前日、セイから呼び出されて屋敷に向かうと、旅での注意事項やら色々と説明された中に、その話もあった。

約束の呪文とは、妖魔がよく子供を躾る時に使うものらしく、悪い事をしたら罰が下るのだということらしい。

ガルドの罰がどんなものなのか好奇心が擽られるところだけれど、また機嫌が悪くなっても困るので口に出すことはしなかった。

 

「ここの宿屋の良いトコは、風呂が部屋にあるとこだけだな」

 

むっすりとしながら言うガルドに、今度こそ笑いを止めることが出来なかったけれど、ある意味同感。

だって、本当に料理は最悪だったんだもの。

料理が下手なのかな?ってくらいに、萎びれた野菜とか、どうにも味の濃い肉、ついでにスープなんか温くなってて味付けも最悪――。

パンなんか、いつ焼いたものなの?ってくらいに硬かったし。

けど、他に宿屋は後二軒しかなくて、その内の一つはお金持ちさん用。

作りからして高そうなそこは、僕達のような一般人が入れそうな所じゃなかった。

もう一つは既に客が一杯で、申し訳ないと断られたのだ。

それで、結局の所、今の所に入ったのだけれど、部屋の中の清潔感はまあ普通としても、他は最悪だった。

と言っても、そんなにお金を持っていない僕達には文句など言えたギリじゃないんだけどね。

 

「ガルドが先に入る?」

「いや、お前からでいいよ。先に入って、先に寝ろよ」

「……どっかに行こうとか…」

「考えてねえよ!こんなシケた街」

 

彼は投げ捨てるように言うと、口を尖らせながらそっぽを向いた。

そして……。

 

「一応は、お前は女なんだし…優先順位ぐらいは譲るに決まってるだろぉ。俺だって、いつまでもガキじゃねえんだから」

 

だって――。

思わず笑いそうになったのを必死に止めて、ガルドのお言葉に甘える事にした。

それもさり気なく、『そっか』と返事だけして。

 

風呂から出てくると、ガルドは順番とばかりに着替えを持って風呂場に入った。

こんな部屋の割には綺麗な風呂(元の世界にあるような風呂場とは全然違うけれど…)だったので、随分と旅の疲れを癒すことが出来たと思う。

そうして、僕達は無事に国境を越える大国、ミードラグースでの初めての夜を迎えたのだった。

 

 

 


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