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連載版 アラマーのざまぁ  作者: ジュレヌク


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第七話一度芽生えた感情を消し去ることはできない

アラマーの踊りは、彼女の守護神『ビックリマーン』に捧げる舞。


彼女の魔力を最大限に底上げし、術の威力を増す秘術。


多少時間がかかることと、振り付けが恥ずかしいことだけが、欠点だ。


途中、誰かに止められはしないかとヒヤヒヤしたアラマーだったが、身に滾る魔力を感じ、ゆっくりと口角を上げた。


今、時は、満ちた。



バサッ



扇を一振して広げると、面を上に向けて突き出す。


何事かと観衆の視線を集める中、



『お二人にとって、心地よいものだけが、その目に映りますように。『blessing(祝福)』」 



アラマーが、囁くような小さな声で、呪文を唱えると、扇自体が光り出す。



『フーーーー』



そして、ハコイーリとナガシメーヌに向かって息を吹くと、扇からキラキラとした光の雫が放たれ、二人に降りかかった。



「ぷはっ、な、何をする!」


「やだ、目が、目が痛い!」



粉が目や口に入り、慌てふためくハコイーリとナガシメーヌに向かって、



「さようなら、お馬鹿さん達」



アラマーが、ペロリと小さな舌を出した。


その赤さが、目に焼き付いた。


しかし、数秒もしないうちに、彼女の姿が、サラサラと砂の城が崩れるように溶けていった。



「アラマー!何処へ行った!逃げるなど、卑怯だぞ!」



この場で華々しく婚約破棄を叩きつける予定だったハコイーリは、間抜けな面を晒し、辺りをキョロキョロと見回した。

 


「アラマー様!魔法で隠れるだなんて、卑怯ですわ!負けを認めて、潔く婚約破棄されなさいよ!」



キャンキャン鳴き喚く駄犬のようなナガシメーヌの甲高い声が響けば響くほどに、失笑も広がっていく。


旗色が良くないことに気付いたハコイーリは、目の前に立つユートウの馬鹿にするような笑みに、更にカッとなった。



「貴様!今、笑ったな!」



腕っぷしの弱さも忘れ、ユートウに掴みかかろうとする。


しかし、



パシッ



軽々と両手首を拘束され、グッと腕を引き上げられた。


足が床から離れ、身体が宙に浮く。


更にユートウが腕を上げると、ハコイーリと彼の視線が合った。  



「くっ……無礼者め……」


「私が無礼者なら、貴方は、何者なのでしょうね?」



ユートウが、パッと手を離すと、大きな音を立ててハコイーリが床に転がった。 



「うっ…………」



痛みに顔を歪めながら、ハコイーリは、目の前の大きな優男を見上げた。


その姿は、すでに半分溶けてなくなっている。



サラサラサラ



ユートウの髪の毛が、砂金のように風に舞った。



「たぶん、貴方は、何者にもなれない、ただのハコイーリなのですよ。では、さらば」



パサッ



形をなしていたものが、砂のように地面に落ち、そして、消えた。



「お、おい!逃げるな!」



慌てて立ち上がり、地団駄を踏んだハコイーリは、近くにいた護衛騎士に、



「お前!あの無礼な二人を即刻捕まえて、地下牢に入れろ!さもなくば・・・」



『死罪だぞ!』



と叫ぼうとした。


だが、騎士の凍るような視線の冷たさに、ヒッと小さく悲鳴を上げる。




「さもなくば?」




言葉を促す騎士に、ハコイーリは、ギリギリと奥歯を噛み締めた。



「この・・・裏切り者め」



なんとか絞り出した声に、


ニヤリ


騎士が口角を上げると、そのまま姿は薄くなり、ハコイーリの視界から消えた。


ここまで来ると、流石に背中に冷や汗が流れてくる。


ハコイーリは、慌てて顔を前に向けた。


すると視線が合う者全てが、自分を嘲笑っている。



「わたくし、ずっと、ハコイーリ殿下が嫌いでしたの」




そう言ったのは、昔、彼に髪の毛を切られた令嬢。



「あぁ、私も、大切な時計を壊されたっけ」



そう言ったのは、祖父の形見を2階の教室から投げ捨てられた令息。



「今更、文句か!」



ハコイーリが怒鳴った瞬間、二人は、笑みをたたえたまま姿が透けていき、最後には見えなくなった。



「私も……」



「俺も……」



「自分も……」



次々に手を上げ、次々に消え去っていく。




「な………なにが……」




困惑したハコイーリは、アラマーの最後の言葉を思い出した。







お二人にとって、心地よいものだけが、その目に映りますように。







その意味に気付き、ハコイーリは、ガクガク震えながら虚空を見つめるしかない。


これは、単純な魔法などではない。


『blessing(祝福)』という名の『curse(呪い)』。


自分にとって不都合な者が、どんどん見えなくなっていく。


救いを求めるように視線を動かせば、あんなに沢山居た生徒も、父兄も、一人も居ない。


王座にいた両親を見れば、目を真っ赤にし、失望のまなざしを自分に向けていた。



「父上……」



ハコイーリは、手を伸ばし、二人に救いを求めた。


しかし、



「ゲフッ」



魔法契約で命を差し出していた国王は、吐血し、そのまま倒れていった。




「貴方のせいよ、ハコイーリ!産むんじゃなかった!」




親として、絶対口にしてはならない言葉を口にした王妃は、一瞬で視界から消えた。


そして、気づけば、ナガシメーヌ以外の人間は、全員消えていた。



「そ、そんな」


「ハコイーリさまぁ」



二人して手を取り合い、その場に座り込む。


もう、頼る者は、互いしか居ない。


それなのに、1分、5分、10分と経つにつれ、こんな状況に陥ったのは、今隣にいる人間のせいなのではないかという仄暗い感情が芽生え始める。



「お、お前のせいで」



つい口を突いて出た言葉に、ハコイーリが、ハッと我に返った。


ナガシメーヌを見ると、ショックを受けた顔をしている。  



「なによ……王子だから媚を売ってあげたのに……」



泣き出しそうな彼女の顔が、半分崩れ落ちた。



「ま、待て!今のは、違う!違うんだ!」



どう取り繕っても、一度芽生えた感情を消し去ることはできない。



「ナガシメーヌ!!!!!」



叫んだのと、彼女が消えたのは、同時だった。



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