第六話 刀剣士大戦 弐
「……誰か」
追い込まれていた。身体は疲弊し切っている。
わかっている。相手が悪すぎる。
極隊になら勝てたかもしれない。副隊長の実力にはひれ伏すほかない。
「……日が浅いにしては、ここまでよく頑張ったものです」
シンラが称える。慎吾は地に伏せながらシンラを睨む。
その時だった。上空から――雷が落ちてきた。雨は降っていない。
「……!?」
「……クソッ」
シンラが逃げようとしたのがわかる。だが彼の進行方向は、残留する落雷――電流の柱で塞がれた。
「……おイタが過ぎたな、小瀬」
聞き覚えある声。――刀也隊長の声。
「隊長のお出ましですか」
シンラはそう言うと、両手を上げて降伏した。刀也の刀剣から放たれた電撃は、容赦なくシンラを貫いた。
沈黙が落ちる。シンラは死んではいない。だが確実に、戦う気力をなくしていた。刀也隊長はやはり強かった。
「――シンゴ、行ってもらいたいところがある」
そう言われ、慎吾は気を引き締めた。
「……いよいよ、始まってしまいましたね」
小柄の女性が呟いた。
「あぁ――そういうものだ。転生者を請け負う身である以上、仕方ない」
男が返す。
「まぁ――この私の手にかかれば楽勝ですよ、隊長!」
女性が男の方を向く。
「――頼りにしてるぞ。副隊長、霧矢ラン」
「この六番隊は私たちが守りましょう」
六番隊の男女――隊長と副隊長は、歩き出した。
「……こんなものか?」
縷紅アロマは連弩卯ガンマと戦っていた。アロマとコアレも刀剣士になったばかりだ。前回の刀剣士大戦には裏方として参加していたので――対人戦は実質的に初めてとも言える。
「――まだ、まだ」
「……女に刀剣士は向いていない」
男尊女卑と取れる発言。女性が優位に立てないのは事実だった。それでも確かに――アロマは怒りを覚えた。
「……刀剣士に男女はそこまで関係ないと思いますよ。事実、うちの副隊長は千鶴さんだし、他の隊にも極隊以上の実力を持つ女性刀剣士は多くいますよね」
「……そいつらは運が良いだけ――」
「違いますよね」
被せて即答。
「男女はそこまで関係ない――あなたにとってはそのことが悔しいんだ」
「…………そろそろ黙れ」
ガンマが向かってくる。アロマは刀剣で受ける。
「それでも」
アロマが静かに言う。
「私はお前より強い!!」
アロマの刀剣が赤く光り燃える。ガンマは後退した。
「――力を開放せよッ!!冠城!!」
近く。魁朱コアレもまた、闇夜シグマと戦っていた。
だが――コアレはアロマ以上に苦戦を強いられていた。
「……強え」
「……貴様が弱いだけとも言える」
「謙遜すんなよ。お前は強え」
コアレは刀剣に力を込める。
「だからさ。もう言葉じゃねえよな」
「…………」
二人は一歩、近づく。
「――懸けるぜ、夜摩嵐!!」
コアレが刀剣の名を呼ぶ。鋭い日本刀型の刀剣が、光を帯びた。
「……打ち砕くぞ、瘡藝無」
シグマもまた、短剣型の刀剣の力を解放する。
大戦は、まだ始まってすらいない。
千鶴は五番隊の極隊二人と対決していた。
「……流石、十番隊副隊長」
「流麗と名高いだけある」
圧倒されているわけではない。拮抗。二対一でようやく五分。
「……私の力は、こんなものではないぞ」
千鶴の目線が再び鋭くなったその時だった。
「――洌鎌!!」
上空から、慎吾が降り立つ。
彼は刀也隊長から、千鶴と合流するよう頼まれていたのだった。
「――千鶴さん!」
「……敬語やめろ!!」
「……それって敬称も入るのか!?」
「入る!!」
二人は背中を合わせた。
「……チッ。加勢か」
「いや、よく見ろ。こいつ――例の転生者だぞ」
「あぁ?……本当じゃないか。ならば余裕とみた」
五番隊の極隊も会話を交わす。
「……随分舐められてるな」
「転生者反対派、だからな。無理もないだろう」
慎吾と千鶴も会話する。
二人は同時に向かっていった。五番隊の極隊二人は応じた。
だが――勝負は一瞬だった。千鶴の斬撃と慎吾の一撃が混ざり合うと、五番隊の極隊二人は瞬時に呑み込まれ、倒れ込んだ。
新米刀剣士の周囲には、静寂が落ちていた。
「……アロマ」
コアレが近づいてくる。彼もまた、辛うじて勝利したのだろう。
「お互い、上出来ね」
「最初にしてはなぁ!」
残るは五十嵐と戦っている九番隊隊長――市木。二人は震える手で刀剣を握り直し、静かに五十嵐の方へ向かった。




