第五話 刀剣士大戦 壱
人間界で死亡し、「刀剣士」の暮らす刀剣世界に転生してきた日下部慎吾。十番隊の愛川千鶴や魁朱コアレ、縷紅アロマと共に、転生者を受け入れる「新革派」と転生者を拒む「保守派」との戦い「刀剣士大戦」に身を投じることとなる。
さらに日数は経つ。
慎吾は化け物を倒して賞金を稼いだり、鍛錬や稽古で自分を磨いた。だが――不安は拭い切れない。対人戦は恐怖そのものだ。
「……大丈夫だ、何も功績を残せなくとも、存在があることが既に功績だ」
千鶴はそのように元気づけてくれた。
「意外と、何とかなると思うよ。私も去年の戦いについて詳しくは知らないけど――力になれたらなって、軽い気持ちで挑んでみる」
こう告げたのはアロマ。
「シンゴなら大丈夫だろ!!お前は俺が認めた人物だ。何があっても死なねぇ。俺たちが全力で支える!」
コアレ。
みんなが元気づけてくれても尚――淡い何かに、閉じ込められている。
その日、悪い夢を見て目が覚めた。だが起き上がってみると、どうにも内容が思い出せないのだ。
水を飲んで、宿舎の屋上に出てみた。風が心地よい。
そう言えば長く、昼の空というものを見ていない。この世界ではもう、一生見られないのか。
「……どうしたんだい?」
聞きなれた声。やはり隣に、刀也隊長が座っていた。
「……隊長」
素直に打ち明けてみる。
「正直、怖いです。自分は刀剣士になって日も浅いし――何も残せない気がして。それどころか、俺のせいで誰か死ぬんじゃないかと思って」
刀也隊長は一瞬黙った。
「……皆、元気づけてくれたろう。俺の気持ちも皆と同じだ」
「――ありがとうございます。でも……」
二人は黙った。刀也隊長が口を開いた。
「……自然なことだ。わかっている。突如転生して――世界も飲み込めていない中、戦争へと駆り出される。それを飲み込めないのは普通だ。飲み込むためにどれ程強い精神が必要なのか――計り知れない」
少し安心する。わかってもらえるのが嬉しかった。
「……戦争、来てくれるというのなら。無理はしないでくれ。戦闘もしなくても良い。ただ――出来ることを尽くせ。そして、死ぬな。俺が言いたいのはそれだけだ」
二人は再び黙った。
「……ありがとうございます」
刀也隊長は笑った。釣られて慎吾も笑った。
転生してから、体感にして一ヶ月が経った。
その日は、爆音で目が覚めた。
「――来たぞ!!敵襲だ!!」
戦争は突如として始まった。他の隊員に流されて、水中のシェルターに隠れる。
爆音が鳴り止んだ頃、一同は配置に着く。
「――シンゴ!こっちだ!」
慎吾はアロマやコアレ、禊と共に九番隊の偵察位置についた。
「――おい、あの軍勢は?」
コアレが指す方向を向く。程なくして、六人の刀剣士が現れた。着物の背には隊番号が書かれている。六人のうち四人は九番隊だが、残り二人は五番隊のようだ。
「――おやまぁ、待ち伏せってわけですか」
「配置だ」
九番隊の一人が話しかけてきた。慎吾は薙刀、洌鎌を構える。
刹那、その人物が消えた。次の瞬間、薙刀は金属音を立ててその人物の持つ刀剣と衝突していた。
「……ッ!」
「……あれぇ?君、刀剣士になってから日が浅いのかな?」
鋭い。その煽るような口調に苛立ちを覚える。だが――気圧され、押し出され、気がついたら初めにいた地点からかなり離されてしまった。
「……なるほど、最近転生してきたわけか」
ここも、鋭い。
「僕らは転生者、嫌いだから。悪いけど手加減しないよ――」
その人物は、名乗った。
「――九番隊副隊長、小瀬シンラ」
「――シンゴが!!」
残された三人の元にもまた、九番隊の軍勢が押し寄せる。五番隊の二人はアロマたちを抜けて、別の隊員の元へ駆ける。
「……ぐっ」
「……彼、シンゴというのですか」
コアレの刀剣と九番隊の刀剣がぶつかる。
「――我が名は九番隊極隊、闇夜シグマ」
「……俺は十番隊、魁朱コアレだッッ!!」
名乗る。そして刀剣が爆ぜる。二人もまた、最初の地点からは遠く離れたところへ。
「……九番隊極隊、連弩卯ガンマ」
「十番隊の縷紅アロマよ。よろしく」
アロマもまた、九番隊と激突する。
そして。
「――久しいな」
禊は、冷や汗をかいていた。
「……お久し、ぶりです」
目の前の相手は——
「――九番隊隊長、市木セン」
別の地点。千鶴は五番隊の隊員たちを退けていた。
「……弱い弱い弱い!!もっと打ってこい!」
挑発。そこへ、慎吾たちの元を抜けてきた、二人の五番隊が忍び寄る。
「愛川、千鶴様」
「お前ら――五番隊の極隊か」
いくら副隊長の千鶴とはいえ——極隊二人を同時に相手するのは厳しいかもしれない。
「――いや、いいだろう」
歯を食いしばった。
「ご紹介に預かった通り――この私が十番隊副隊長、愛川千鶴だ。お前らを殺す!!」
「……やれるものなら」
慎吾は小瀬シンラと戦っていた。
しかし――まるで、歯が立たない。圧倒される。既に逃亡が視野に入っていた。
「――そんなものなのか?転生者」
「俺は十番隊の……日下部慎吾だっ!!」
「シンゴ……僕と名前が似てるね」
二人は吠えた。恐ろしいのは――シンラはまだ刀剣の名を呼んでいない。真の力をまだ秘めている。
「……洌鎌っ……どうすれば」
慎吾は既に解放済だ。
「窮地こそ、自らを映す鏡となる!!」
シンラが吠える。同時に、向かってくる。
「アナタはどうですか――シンゴ!!」
慎吾は彼の刀剣を受けつつ――考える。逃げたら他の者が襲われてしまう――勝つか、戦闘不能にさせるには。どうするのが良いだろうか——




