第二十四話 時間は動く
強い人に守ってもらいながら戦うのは、自分一人では勝てないと認めるようなものだ。
それも悔しかった。だが何より、その人が殺されること――自分がいたところで何も変わらなかったという事実。足手まといだったという真実。それが一番屈辱的だったことには間違いない。
誰にも守ってもらわない。誰よりも強くなる――それが不可能でも、せめて目指す。
目指すことで、何かを変えたい。そう思った時、止まっていた時間が確かに動き出した。
「残念――お前を殺すのはこの俺だ!!」
紅鷹はその甲高い声を、しぶとく響かせる。
「……裏解放してみせろ」
また同じこと。
「……うるさいな」
禊が紅鷹を睨む。その瞬間、紅鷹が俄に、怯えたような表情を見せた。
「……そんなに見たいなら見せてやるよ。これがお前の見たがっていた――裏解放だ」
慎吾たちは驚いた。裏解放を習得する特別稽古に、禊は姿を見せていなかった。
自分一人で習得したのだろうか。
「…………悪いが、一瞬だぞ」
紅鷹の表情から、笑みが消える。
「一瞬でお前は、塵と化す」
「待っ――」
轟音が響いた。紅鷹の展開している竜巻よりもっと太い光の柱が、紅鷹を飲み込んで爆裂した。
煙が高く上がった。その煙はしばらく上昇を止めなかった。
慎吾たちは見とれていた。耳がほとんど聞こえない。それ程までに轟音だった。
やがて煙が晴れてきた。紅鷹のいた場所には、黒い影のみが残っていた。
「シンゴ」
禊が呼んだ。
「……はい」
「千鶴を助けたいんだろ」
「……はい!」
「先に行け」
慎吾とコアレ、アロマは走り出した。禊は新たな刺客に備えた。
二番隊隊長、神名志賀は、副隊長の太鼓轍と共にいた。
「……分断された、のか」
だが。神名の口元には僅かに、笑みが浮かんでいた。
「おや。神名隊長ですか」
小瀬シンラが近づいてくる。近くには闇夜シグマと、連弩卯ガンマ。
「……やぁ、小瀬か。随分偉くなったんだってな」
「皮肉はよしてくださいよ。まぁ確かに――市木隊長が亡くなって、埋め合わせで隊長にはなりましたけど」
シンラはそう言った。
「あぁそうそう、闇夜くんもこの度副隊長になったので。変な真似はよしてくださいよ」
「あぁ、よろしくな。闇夜シグマくん」
シグマが頷いた。
「――本当に、今会えてよかった!実はちょうどお話したいことがあったんですよ!近くに敵もいなさそうですし、どうですか?」
「……あぁ」
神名の顔が、ほんの少しだけ、険しくなった。
「二番隊は特別九番隊と仲が良かったのは、以前からご存知ですよね?」
「……聞いたことがあるな。確か初代隊長が親友同士だったとかで」
「そうそう!そうなんですよ。その親睦が今も続いていますよね。九番隊にとっても一番仲がいいのは二番隊、二番隊にとっても一番仲がいいのは九番隊!」
「……そう、だな」
「だから!これからも仲良くやっていきましょうよ!」
小瀬シンラの脳天気な一言に、神名は内心ホッとする。だが。
「……話を変えます」
シンラの声が低くなった。
「……通常、各隊の隊舎というのは場所を秘密にする義務がありますよね。例えば我々は一番隊隊舎がどこにあるのか詳細には知らないし、二番隊隊舎も三番隊隊舎も、全て同様。先の特別稽古でも、移動の際は隊員を穴の空いていない箱に入れて極隊が馬車で連れて行ったり、窓からの景色は締め切ったりと徹底していたはずです」
「…………そうだな」
「……ではなぜ特別稽古の最中、隊舎にいた市木隊長が襲撃されたのか?」
脇の下を冷や汗がつたるのを感じる。
「隊員でさえ知らないはずの隊舎の位置を、八岐大蛇が知っているなんておかしい。さらに――前々から言われていましたよね、刀剣士内には八岐大蛇と繋がっている内通者――裏切り者がいるかもしれない、と」
「………………」
「もうわかりますよね?九番隊と仲が良く、頻繁に九番隊隊舎に来ていて詳細な位置がわかるのは――二番隊隊長のあなたしかいないわけですよ」
シンラが鋭い目を向ける。
「……あなたが、内通者ではないですか?神名志賀二番隊隊長」
「……これだから勘のいいやつは放っておけない。なのになぜ隊長だけを殺して満足して帰ったのか――」
次の瞬間、太鼓轍がシンラに刀剣を向けていた。
「殺せ」
神名が命令した。小瀬シンラは自分も刀剣を抜き、太鼓轍と対峙した。
岩山を駆けていく影があった。八番隊隊長の讃美冥夜と、副隊長の凛音ルキだ。
「……ルキ、奇襲には気をつけろ」
「はぁ〜い、たいちょ〜」
その二人の目の前に、人間が現れた。――恐らく、八岐大蛇。
「……貴様らを喰らう。喰らって喰らって――俺はもっと強くなる――幹部になる!」
「……聞いたか?こいつ、幹部じゃないぞ」
「……瞬殺ですね〜、たいちょ〜」
冥夜とルキは同時に刀剣を構えた。そうして飛び上がると、その八岐大蛇を深く斬り裂いた。
「ぐあああああ!!」
「……気をつけろよ。俺はそんなに優しくないぞ」
冥夜が刀剣を、もう一度構えた。




