第二十三話 再起
紫香楽と将雅は同時に向かって行った。
敵は狂人だ。まともに言葉を話せていない。
「ア……アアアアア!!」
その狂人が、駆けずり回る。獣のように。狂気を露わに。見ると、刀剣を手にしていた。短剣型だ。
気づくと紫香楽と将雅は切り裂かれていた。肩から血が流れている。
「……速いな」
もしかしたら――この狂人は八岐大蛇の幹部の一人かもしれない。それ程までに研ぎ澄まされた動きと剣技。
「…………ハハハ……ハハ……」
「おい狂人。言葉が利けないのか」
「……ア?アアアアア……何を言って――フゥゥゥ……言葉ぐらい話せる――ハナセルワァァァ!!」
呂律が回らない。それでいて不自然。
「……なら名乗れ。それと、お前は幹部か?」
「……フゥゥゥ――軒屋ガンク――俺の名前、ダァァア――オレハ、カンブ――幹部だ!!」
やはりそうだった。此奴は――八人しかいない幹部の一人。上位種だ。
「……将雅、一旦退くぞ」
「……近くに隊員がいるか探そう」
「逃げるナ!!ニゲるな!!!」
紫香楽と将雅は猛スピードで駆けていく。しかし――軒屋は追いついた。
「……アハ、ハハハ!!追いついた!!」
「クソッ」
なかなかの実力者だ、と二人は思う。
「……紫香楽!」
「将雅、どうする。追いついてくるのは予想外だ」
「どうするも何も、逃げられないなら戦うしかない」
「戦ったところで、勝つか負けるかだろ。俺たちの目的は千鶴奪還。死ぬ気で走って逃げ切れる可能性が少しでもあるならそっちのがいい」
やはりいつでも結果重視だ。
「…………言ったな?」
「……逃げるぞ」
短い問答。二人は逃げ続ける。だが――既に、二人の脚は限界を迎えていた。
「……将雅?」
紫香楽は、将雅の速度が僅かに落ちたのを見逃さなかった。軒屋もまた、見逃していなかった。
「――将雅!!」
軒屋の短剣が将雅に突き刺さった。
「……紫香楽」
紫香楽は足を止めた。
「……千鶴を助けたいのなら、逃げろ」
将雅に比べて、紫香楽は体力がある。逃げようと思えば、まだ逃げられる。
いつもの彼なら、そうしていた。合理性だけを選ぶ彼なら、確実に。
だがそうしなかったのは、将雅という、何よりも大きな存在。未来、過程、両方を重視する。合理的でなくとも、味方を守る。彼の生き方に影響されることが、ないと言えば嘘だった。
――しかし。彼は、一瞬迷った。その迷いが、命取りだった。
目の前で、将雅が制圧された。鋭い音が響いた。人間から出たとは思えない音。
「――将雅!!」
遅かった。
「……逃げ…………ろ」
その瞬間。紫香楽は全てを失った。怒りの咆哮と共に、合理性を捨てて軒屋へ突っ込んで行った。
「…………コアレ!!」
慎吾たちは紅鷹と対峙していた。アロマの撹乱と慎吾のサポート、そしてコアレの爆発的な一撃。見事な連携で、紅鷹と戦う。
だが――紅鷹もまた、一流。
「――面白い!!」
回旋しながら慎吾たちへ突っ込む。その手には刀剣。慎吾たちは確かに一瞬、怯んだ。
そこへ爆発。三人は吹き飛ばされる。
「……やるな」
さらにここは広大な砂漠。砂煙が、視界を揺らす。
「……まだまだ!!」
慎吾が刀剣洌鎌を手に近づく。真後ろからはコアレも。二人で挟むようにして、紅鷹を攻撃。
だが紅鷹は、その攻撃すらいなした。
「……ちょっとばかし、お仕置しないとね!!」
紅鷹の反撃。刀剣のツカで殴られ、慎吾は血を吐いた。
「…………ッ」
「おい。お前らの力はそんなものじゃないだろう?」
紅鷹が挑発する。
「――裏解放だ。やって見せろ。使わないと勝てないぞ?」
裏解放はかなりの体力を消耗する。コアレたちは挑発には乗らない。逆に煽り返してみる。
「……お前ごときに使うのなんて勿体ねぇ!!」
コアレ。アロマも頷く。慎吾は、起き上がる。
「……ふん。ならば見ていればいい」
そう言うと、突如紅鷹の刀剣が風を発した。
「…………なん……だよ、これ」
目の前に竜巻のようなものが姿を表す。紅鷹はその中だ。
「……これはな、お前ら刀剣士の使う裏解放と似たようなもの――我ら八岐大蛇の秘技、漸化術だ!!」
風圧が、砂煙をさらに激しく踊らせる。
「裏解放を使え。さもないと――終わりだ!!」
その時だった。紅鷹の竜巻から伸びる具現化された刃が、慎吾を貫いた。
――ように見えた。実際にはそれは、慎吾の元には届かなかった。偶然居合わせたある人物によって遮られ、迎撃された。
「…………お前、誰だ?」
紅鷹が言う。
「――そうだな、名乗っておくか」
静かに答える。
「十番隊極隊、五十嵐禊。今からお前を殺す者だ」




