第二十話 修行、懐古
「……どうした?」
「……くっ……」
女性刀剣士は男性刀剣士に比べて少ない。故に――特訓において重要視されない。百鬼や千鶴など、隊長格の例外を除いて。
だからこそ。地位の高い女性刀剣士には、新入りの女性刀剣士へ特訓をつけることが義務付けられている。
――刃萌は、その一人だった。
「――今年はね、女性刀剣士が一人、男性刀剣士が二人加入する予定だよ」
最初に刀也からそのように言われた時、少しだけ浮き足立った。十番隊にはただでさえ女性が少なかった。是非、仲良くしたいと思った。
「……萌。君には、その子のお世話係――所謂師匠役をお願いしたい」
「……御意、喜んで」
そうして始まった――縷紅アロマと、刃萌の師弟関係。
「……初めまして、だね。縷紅アロマ隊員」
最初に会った時から、憧れていた。コアレとセラフ――同期の隊員との関わりが少なかった当時だから、萌との会話はよく覚えている。
「――よろしくお願いします!刃極隊!」
「……まぁ言っておくけど、私はあんまり甘くないよ」
しかし萌は――冷たい目を向けた。アロマは、そのように感じた。
特訓はいつも一方的だった。走り込み、体力作り、打ち込み――全てにおいて、褒められたことはなかった。
だが。萌の方も意地悪をするつもりは全くないというのは伝わる。
「……今の動き、ちょっとだけ無駄が多いね。戦いだと命取りになるよ」
この「戦いだと命取りになる」は、萌の口癖でもあった。だがこの一言は、萌がアロマを大切に思っている事の証明でもあった。
褒めては、もらえない。いつも、アロマの動きは指摘されるばかり。一方で、他の先輩隊員からは褒められる機会が多かった。
アロマは気を引き締めていた。萌からはまだ、認められていない。一番褒めてほしい人から褒めてもらえるまで、努力を続けたい。
「――刃極隊」
今。紫香楽と将雅が退場したフィールドに、萌とアロマは上がった。
「……縷紅、顔つきが大人になったね」
微笑を浮かべる。
「……なぁ、萌って後輩にはあんな感じなのか?」
近くでその問答を聞いていた紫香楽が静かに、慎吾へ尋ねる。
「え――俺はあんまり関わりがないんでわからないですけど、優しいってイメージよりかはかっこいい寄りかと」
「そぐわないな」
怪我の治療をしている将雅も言った。
「……あいつは、明るくて優しい奴なんだがな――」
「――失礼」
萌が突進する。速い。アロマは素早く反応して刀剣で受けた。
「ぐっ…………」
アロマは努力家だ。いつも――萌に認められる方法を考えてきた。
萌の知らない自分を魅せる。――機動力の特別稽古。霧矢ランと身につけた瞬発力を魅せる。一瞬にして萌の目の前へ。
――だが。速力は萌の得意分野だった。
「――まだ、遅い」
気づくと萌は目の前から姿を消し――後ろに立っていた。力一杯刀剣をぶつけられる。
まだ、終われない。
負けてばかりじゃ終われない。
「……百鬼隊長、大丈夫なんですか?」
「……何がですか」
「いや……もしかしたら、裏解放発動前に試合が終わるかもなと」
「……そんなこと、ありませんよ。アロマさんの方から波動を感じます」
アロマは深く息を吸って、また立ち上がった。
「――裏解放の波動を」
白い光の柱が立つ。
雪のようにしなやかで――美しい輝き。
「――煌めけ!!!」
アロマが叫ぶ。萌は、目を丸くしている。
「…………」
声も出せない。だが。
「……私も、だよな!!」
萌の目に再び光が宿った。彼女の身体からもまた、紫色の光が立つ。
「やっぱり――また同時だ」
慎吾は離れたところから呟いた。
「――縷紅!!行くぞ!!」
「刃極隊!!!」
雪が辺り一帯を覆い尽くす。紫の波もそれに対抗する。だが――
「……っ!?」
押される。白の方が僅かに密度が高い。白が紫に覆い被さる。
「……縷紅……」
次の瞬間、弾け飛んだ。萌の身体は空中に投げ飛ばされた。
「……お二人も、見事でしたね」
百鬼が呟く。
「……合格です」
しかも、アロマの勝利。萌は静かに近づいてきた。
「…………的確に隙をついて大技を叩き込む動き――美しい流れだった」
アロマは顔を赤くする。初めて恩師が、褒めてくれた瞬間だった。




