第十九話 極隊としての責任
「二人とも素晴らしかった。合格です」
「……ありがとうございます」
コアレとセラフは静かに頭を下げた。間違いなく――隊長格に一歩近づいた。
その時、セラフはコアレに近づいた。セラフはコアレに耳打ちする。
「……アロマちゃんのことが好きなんだったら、さっさとしないと俺が取るからな」
「はぁ!?……っ」
何故唐突にそんなことを言い出したのか。コアレにはよくわからなかった。
だが――焦りに似たものが胸中を支配していくのを感じたのは間違いない。
紫香楽と将雅が、フィールドへと歩んでいく。
「……負かすぜ」
「……やれるもんならな」
言動の似た二人。いつも一緒にいる二人。同期にして、同じタイミングで極隊に任命された二人。
刀剣が衝突する。紫香楽は振り払った。将雅は体勢を立て直してもう一度向かっていく。
「……泥臭くやっていこう!」
「上等!!」
最初、十番隊には極隊がいなかった。前隊長が死亡し、刀也が新たな隊長として任命されたタイミングで――副隊長に千鶴、極隊に紫香楽と将雅が任命された。萌や禊はそのしばらく後。
現在十番隊にいる中でも、かなり古参の二人。
「……オラァ!!」
熾烈な戦い。刀剣が何度も激しくぶつかり合い、火花が散る。
「――クソッ、まだだ」
だが――拮抗している。誰の目から見ても明らかだった。これは泥試合になる――
「……言ったろ?泥臭くいこうぜ!!」
両者引かない。安定思考で、隙を見つける。
「……どのタイミングで攻めるか、見所だな」
コアレが遠くで呟いた。
紫香楽悠聖と将雅トラの二人が入った頃、十番隊は「落ちこぼれ」と言われていた。
前隊長の頃――副隊長と極隊が何者かの襲撃を受けて全滅した。恐らくは八岐大蛇か――もっとタチの悪い何か――目的不明の刀剣士集団「ブラッドムーン」の仕業かもしれない。尤も最近は、「ブラッドムーン」の目撃情報はない。
それ以来前隊長が一人で仕切っていたが――まとまりがなく隊員のレベルも低い。おまけに前隊長は病にかかって倒れた。
再建を目指したのが刀也だ――彼は新たな隊長となると同時に副隊長と極隊を整備し、隊員の士気も高めた。
紫香楽と将雅は、その時からずっとライバルであり、戦友だった。
「――極隊として恥じない実力を手に入れようぜ」
二人の口癖だった。辛い時もこの一言で追い込んで共に高みを目指す――そんな関係だった。
だがそんな二人にも違う点があった。紫香楽は結果至上主義だが――将雅は過程や未来も見る。結果だけには拘らない。
きっかけはある日の魔物討伐。町への被害を考えて一体でも多く魔物を倒そうとした将雅に対し――紫香楽は町を守ることを放棄し、任務として受け入れた分の魔物だけを倒して帰った。
紫香楽は、報酬を第一に考える。冷酷にではなく、あくまでもそれが普通という顔で。将雅は町の未来まで考えて行動する。
似たようなこと。紫香楽は、負けたら負け。将雅は、負けたら次に活かす。その点でのみは、対立を続けている。
だから――今日せっかく戦うのなら、その対立にも決着をつけたい。
「――紫香楽!!」
将雅が叫ぶ。
「俺らは今高め合っている――それは裏解放を習得するために大切なことじゃないか?」
紫香楽は首を振った。
「裏解放を習得出来ればそれでいいんだよ!手段は問わない」
「でも――」
「……はっきり言おう、この戦いに意味を見出していない!!」
将雅は僅かに苛立ちを感じる。
「……そうか――なら負けない!!」
「本気でかかってこい!!将雅!」
その時だった。二人はまた――淡い色の輝きを発した。
「あれ――また、裏解放の兆し?」
慎吾は驚く。先程と似た展開だ。
「……この一対一は自らの過去を整理し――自らと極限まで見つめ合い、その上で相手を如何に討ち果たすかを考える試練。自らを理解することが、裏解放に繋がる」
百鬼が言った。
「……似たようなことにはなるでしょうね。その試練さえ達成出来れば――裏解放の習得は容易いのですから」
紫香楽は黄色い光を纏う。将雅も同じだった。
「――今度は、同じ能力」
慎吾が呟く。
二人の刀剣から同時に、光が発された。
「紫香楽!!!」
「将雅!!!」
ぶつかる。
「どっちが正しいかな――なぁ将雅!!」
だが僅かに、紫香楽が押す。
戦いが終わった時、将雅は地に倒れ伏していた。
「合格ですね」
百鬼の一言。紫香楽も将雅に声をかける。
「……いい勝負だった」
「紫香楽……どっちが間違ってるとか、そういうのを考えるのはやめにしよう」
「何を今更――」
「だけど。やっぱりお前との違いは受け入れられない――それだけさ」
「…………そうか」
紫香楽は将雅から離れた。結果重視と、過程、未来重視。二人が分かり合う日はいつか来るかもしれないし、来ないかもしれない。




