第十八話 燃える闘志、静謐なる戦い
コアレが一歩踏み出す。
セラフも、一歩踏み出した。
両手で刀剣を握る二人。
「……どうした?皆が見てるからって緊張してんのか?」
コアレの煽るような台詞。
「……誰がだよ。それに――この戦いでは勝ち負けはあまり関係ないしな。気楽にやれる」
セラフのその台詞を最後に、二人は静かになった。
次の瞬間。刀剣同士が音を立ててぶつかる。セラフが押し出し、コアレが一歩後退。そして、もう一度ぶつかる。
「……重いな」
今度はセラフが後退した。
「セラフ――俺はもう、お前の知ってる俺じゃねぇぞ!!」
コアレが刀剣を振り回す。セラフはコアレの動きを予測して、的確に攻撃を避け続ける。
刹那、彼らはかつて――同期として刀剣士になった直後の、特訓について思い出していた。
「……痛ってぇ!」
「こんなんでウジウジしてんじゃねぇよ!刀剣士たるもの、打たれ強さがないとやってられねぇだろ!」
こう言ったのは、セラフ。当時の立場は――今と真逆だった。
コアレは刀剣士になりたての頃、打たれ弱く、物静かなタイプだった。対照的に、セラフは気が強くて情熱家。
「……もっと打ち込んで来い!!」
それでも――セラフが力強く叫ぶと、コアレは臆することなく向かっていく。何度も打ち砕かれ――何度も倒れ――それでも、勝ちたいという一点の思いから、向かっていく。
同期のアロマも、そんな二人の様子をよく見ていた。彼女は、コアレとセラフの両方から意識される存在でもあった。
ある日のことだった。
「聞いたかコアレ――合同任務だってよ!しかも高難度!新人の俺らでも、極隊になれるチャンスだ!」
「……え?」
コアレとセラフは同じ任務に配属された。それは六番隊との合同討伐任務。通常通り、魔物を討伐する。運が良ければ六番隊から実力を認められ、極隊に推薦されるかもしれない。
ただそれだけの任務のはずだった。
「……よろしくお願いします」
「あぁ、よろしくなー」
軽い調子で話す、当時の六番隊極隊。だが彼は――とてつもなく強かった。少なくとも当時のコアレやセラフにとっては。
すぐさま魔物の討伐を成功させてしまったので、コアレやセラフの出る幕はなかった。
しかしそこへ、一人の刀剣士が現れたのだ。彼は保守派を主張する。刀剣士大戦以外の場面でも保守派と争うことは珍しくなかったので、三対一で制圧しようとした。
だが途中で様子がおかしいことに気がついた。彼の服には隊番号が書かれていなかったのだ。それだけでない。確実にこちらの命を狙っているようにも見えた。
一緒にいた六番隊極隊は、そのことに気がついている様子だった。だから逃がしたのだ。コアレとセラフを。
上の立場のものはすぐに下の立場の者を守ろうとする。自分が命の危機に瀕した時、自分より弱い者を、命を懸けて守ろうとする。
それは合理的ではない。下の立場の者が盾となってでも、上の立場の者は生き延びるべきだ。
そのように考えるようになったのは、彼らが逃げた後六番隊の極隊が殺害されたと聞いたからだった。
彼は本当は保守派ではなく、刀剣士でもなく、八岐大蛇の一味だった。嘯いてこちらを油断させた上で命を奪った――卑劣な野郎だった。
その日からセラフは変わった。より静かに、冷徹に過ごすようになった。静かに燃える憎しみと闘争心を隠して。
逆にコアレは憎しみをパワーに変えようと、明るく振る舞うようになった。セラフやアロマなど、仲の良い者の前では特に。そんな風に変われるコアレのことが――セラフは好きだった。
だが。自分は今まで通り暮らすことが出来なかった。刀剣士の世界での運命を知ってしまった今。自分は強さを追い求めることしか出来ない。
そう言い聞かせた。
今こそ、憎しみを力に変えるべきだ。コアレはそう思っていた。
彼の刀剣が、赤く光り出した。
「……おぉ、あれは――もしかして!?」
慎吾が興奮する。
一方でセラフの方も。青白い光を放つ――
「……コアレ」
認める。彼は自分より強い。
「――全力をぶつけて見せろ!!!」
「……セラフ」
コアレも、叫ぶ。
「――お前が感じた全部を、隠してないで……俺にぶちまけてくれ!!」
咆哮が響く。
「ああああああああああああ!!!」
コアレの刀剣から霆が放たれる。赤い霆。セラフの方も同じ――霆が放たれる。色は違う。青色。
ぶつかり合い、白く弾ける。爆炎がフィールドを包み込む。
「――セラフ!!」
コアレの声が響く。だが――彼は応じない。少しだけ、悔しかった。でも、清々しかった。
「……お前の勝ちだよ」
「……二人とも、合格ですね」
百鬼が戦いを見ながら、静かに告げる。慎吾たちも、僅かに緊張する。
しばらく経って、コアレとセラフは戻ってきた。互いに笑みを浮かべながら。




