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刀剣呪伝~力を宿して敵を討て~  作者: パチパチ火花
三章 刀剣の裏解放
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第十五話 魔の手が伸びる

 いつにも増して空の色が暗かった。

 禊と市木の二人が隊舎の裏に向かった時、既に一人の男がそこに鎮座していた。

 その男が放つ異様な雰囲気は――八岐大蛇のものだった。

「……よォ」

 禊と市木は、刀剣を構える。

「……俺は死麗(しれい)ザビレア。よろしくな」

「……八岐大蛇か?」

「間違ってねェ」

 ザビレアは立ち上がった。背筋が曲がっている。次の瞬間、禊の胸元が切り裂かれていた。

「……あらァ、頸を狙ったんだがなァ……この超速移動はまだ慣れねェ」

 明らかに、速すぎた。

「……何の目的でここに来た」

 市木が問う。

「良い事聞いてくれるじゃねぇか!俺はこんな命令を受けてんだァ――隊長格を一人殺してこい、ってな」

 一人ずつ確実に減らすという戦法か。禊は背筋が凍るようだった。

「……悪いがそんなことはさせない。隊長格を舐めすぎだ」

 市木は怒りを露わにする。そして、刀剣の名を呼んだ。

「――雨臥(サメガ)」

 刀身が分裂した。極めて薄い刃が鞭のようにしなる。そして、禊も。

「――彌仔(やこ)!!」

 刀剣が淡く光る。硬度が上がる。

「ヘェ。どちらも解放ってか」

 そして。

「……唸るぜ――宵(よい)の明星(みょうじょう)・桜繊靡(さくらせんび)」

 ザビレアが手にしていたのも、刀剣だった。彼の刀剣が二本に分かれる。――二刀流。

 禊と市木は気を引き締める。

 二人同時に向かっていく。刃がぶつかり合う音が響く。だが――ザビレアは余裕の表情。

「……どうしたァ。そんなもんかァ!!」

 隊長と極隊の二人を相手にしているとは思えない実力。鞭のようにしなる市木の予測不可能な攻撃さえ、刀剣で受け切ってしまう。

「……クソがっ!!」

 市木が珍しく声を荒らげた。そして下から鋭い一撃を加えた。刀剣がザビレアの顎を切り裂き、僅かに隙が生まれる。禊が重い一撃をぶつける。

「面白い」

 だが、足りなかった。ザビレアは二本の刀を振り回しながら突進し、反撃。禊は動きに怯み、斬撃を受け流すことが出来なかった。

 市木の方は何とか受け流している。だが――余裕の表情はない。

「……この斬撃――」

 一度食らった斬撃。ビリビリと痛みが走る。

「毒……?」

「まァ似たようなもんかな。本来の力ではねェんだが」

 禊の動きが鈍る。市木も同じだった。

 禊は立ち上がったが――膝をついて血を吐いてしまった。

「……もう終わりか?――お前、隊長格じゃねぇな」

 禊に対する一言。

「……貴様」

 市木の声。

「……刀剣士を侮辱するとはいい度胸だな」

「……ほう?お前はどうなんだ?隊長格か?」

「……今からわかる」

 市木は、雰囲気が変わった。禊は疲弊しながらも刮目する。

「……五十嵐。これが隊長となる条件の一つだ」

 風が発生する。

「……刀剣の裏解放が出来ること」

 そう言った市木の足元に、魔法陣が展開される。経験の浅い五十嵐はそれを見るのが――初めてだった。

「……何だ、これ」

「……フハハハハ!!お前やっぱり強いだろォ!!隊長格かァ!!」

 ザビレアも興奮している。

「……死麗ザビレア。刀剣士の志を理解出来ない貴様のようなやつは――これでも食らって大人しくしていろ」

 魔法陣の色が周期的に変わる。やがて、青一色に染まった。

「……我流、水遁魔王術(すいとんまおうじゅつ)」

 発生したのは――波だった。水だった。質量が。ザビレアを襲う。

 そして水はたちまち球体を生み出した。二人はその巨大な水球の中に消えていく。

「――市木隊長……!!」


 やがて、水球が弾けた。水が爆裂し、再び波が発生する。その中央に二つの影があった。

「――市木隊長!!」

 市木は立っていた。だがその胸には――ザビレアの刀剣が貫通していた。

「――素晴らしい!!これが隊長格の裏解放か!!いいもの見たぜぇ!!俺も出来るようになりてェ!!」

 禊は声を出せなかった。

「……五十嵐」

 よく見ると市木の頭部は血にまみれていた。

「……逃げろ、五十嵐」

「隊長……!」

「逃げろ」

 その顔が、全てを語っていた。禊は言われた通り――逃げるしかなかった。

「――ああああああああああああッッ!!」

 禊は走った。隊舎へ向かう。隊員を避難させるためだ。その後すぐに一番隊へ向かう。この流れを、刀剣士トップの百鬼に報告するためだ。

 一度だけ振り返った。そこには市木が仰向けに倒れ伏していた。ザビレアの姿はもうなかった。

 胸の中がぐちゃぐちゃだった。

 やはり足りてないではないか――市木の生前の言葉が嘘に思える――禊は咆哮を上げながら涙を流し、そして走った。

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