第十四話 鍛錬の日々
十番隊の極隊である刃萌は、五番隊に来ていた。
五番隊隊長は子座蛇暢。そして現在、副隊長不在だ。
「……実力は備わっているだろう」
そのように切り出した。
「だが。戦闘中の判断――ミスが多い。ここに集められているのはそんな奴らだ」
萌は気を引き締める。
そして九番隊。市木セン。
「……お前か」
皆に対して話し始める前に、五十嵐を見つけたようだ。五十嵐は気まずそうな顔をする。
千鶴はその横でソワソワしている。
「……危機回避、機転を利かせる能力。お前たちには足りていないと見た」
そこにいたほとんどの者が、頷いた。
十番隊はもちろん刀也が稽古をつける。紫香楽と将雅はそのことが既に嬉しかった。自分の隊内で隊長から稽古をつけてもらえることは滅多になかった。
「……基礎体力づくり、皆気合い入れていくぞ!」
オー、という大きな掛け声が響いた。
二番隊。
コアレとセラフは模擬戦をさせられていた。お互いがお互いの弱さを指摘し合う稽古。
「――コアレ、息が上がってるぞ」
「セラフの方こそ!!汗びっしょりで余裕なさそうだぜ?」
木刀でひたすらに打ち込む。
やがて。疲労で生まれた一瞬の隙をついて――セラフの木刀が、コアレの木刀を叩き割った。
「勝負、あったな」
「クソッ――何でだよ!」
そこへ神名志賀がやって来た。
「拝見させてもらったぞ」
二人は即座に神名に向き直り、頭を下げた。
「セラフ――君の動き、なかなか正確だった。本番も冷静さを欠くことなく正確に刀剣を扱えれば、苦戦することはないだろう」
「……ありがとうございます」
「そしてコアレ。君も全くもって悪くなかった。暴発しがちな心拍数を抑えようという努力が見えた。言われたことをすぐ飲み込める、君は素晴らしい子だ」
「あ……ありがとうございます……!」
気づけば就寝時間直前だった。二人は神名に連れられて温泉へ向かった。
「……安定性とパワーは紙一重だということを、忘れるんじゃないぞ」
「はい」
神名の一言に、二人は同時に反応した。
神名は褒めて伸ばすタイプなのだろう――二人とも優しく接してくれた。今となっては、彼が保守派として自分たちと対立していたことすら忘れてしまう。
三番隊。
アロマと霧矢は長距離の走り込みをさせられていた。
「あぁ……疲れたぁ……」
「もう少しだよアロマちゃん!頑張ろう!!」
「……はい……」
しかも決してスタミナ作りではないからと――この長距離は全力で走らねばならない。それでも霧矢はあまり辛くなさそうだ。ここが副隊長クラスと一般隊員との違いなのかと、アロマは実感する。
走り込みが終わった後、二人は隊舎に戻ってきた。不思議なことに、あれほど余裕を見せていた霧矢も、隊舎に戻ってきた途端ぐったりしているのだ。
「霧矢副隊長……大丈夫ですか?」
「いやぁ……走ってる時は大丈夫、なんだけどね。終わった途端、限界を超えて身体を動かした反動が来る――戦いでも同じ」
それだ、と思った。機動力を上げるのは戦闘中だけで良い。戦闘中だけでも良いから、なるべく長く持続させるべきだ。
どんな反動が来ようと厭わない。霧矢副隊長のように。アロマは――そう決心した。
五番隊。
萌は単なる鍛錬ではなく――特訓の一環として、グループで魔物討伐に向かっていた。五番隊隊長の子座も同行する。
その魔物は思いの外強かった。仲間が一人戦線離脱し、撤退するか戦い続けるかの選択を迫られる。
萌は叫んだ。
「――一時撤退!」
判断力の試練。迷っている暇はない。
瞬時、魔物は崩れ落ちた。子座が告げる。
「……この魔物は幻影――俺が生み出した子だ。試練のために活用させてもらっただけで殺傷能力はないし、好きな時に消すことが出来る」
若干、ホッとする。そして子座は萌に向き直った。
「……一番判断が早かったな。名はなんだ」
「……萌。刃萌、十番隊極隊です」
「合格だ。君は本番でも十分活躍しうるだろう」
萌はそれを聞いて嬉しく思った。彼女らの試練はまだ続く。グループは先程戦線離脱した仲間を回復した後、森の深くへと進んで行った。
十番隊。
紫香楽と将雅は互いに模擬戦。
彼らは同期だった。互いに高め合った仲。口調も似ている。それは意図的に合わせたのではなく。
「……剣捌きの精度上がってるみてぇだな」
「お前の方こそ――お互い何度でも打ち込もう!」
木刀同士がぶつかり合う音が、広い道場に響く。何度も何度も、素早く剣を振るう。
お互い、倒れない。速度も、落ちない。
その時。戸が開いて刀也が入ってきた。
「そろそろ就寝時間だぞ」
「刀也隊長」
「ヒートアップするのは悪いことじゃないが」
「……紫香楽」
将雅の合図でその日の稽古は終わりになった。
九番隊。
隊員は稽古を終え、温泉に向かっている。千鶴も既にいない。
だが五十嵐禊は道場に一人残って、素振りを続けていた。百回、千回、一万回。
自分は技術が足りないと自覚していた。刀也が千鶴を副隊長に任命した時から、ずっと。市木と最初に戦ってから、勝利した今でさえ、ずっと。
そんな禊の元に、市木は現れた。
「……ご苦労。そろそろ風呂の時間だぞ」
禊は聞こえていたが、素振りを止めなかった。
「……五十嵐」
「……市木隊長」
名を呼ばれて初めて、手を止めた。
「……俺はお前の実力を認めている」
「市木隊長……」
自分はまだまだです、と言い返したい。
「……あまり自分を下げ過ぎるな。お前は十分強い。俺に勝てたのもその証明になるだろ」
「………………」
だが。強い者に弱い者の気持ちはわからない。禊自身、強くわかっている。だから。鍛錬を止められない。
気配がしたのは、その時だった。
「――!!」
「…………!」
禊と市木は顔を見合せた。
確実に、近づいている。異様な気配。――恐らくは、八岐大蛇かその一味。
「……五十嵐、戦えるか」
「…………はい」
素振りのし過ぎで痺れる手を床に打ち付けて、二人は立ち上がった。




