第十三話 特別稽古開始
思っていたより早く、その時はやって来た。
全隊員特別稽古――刀剣の裏解放のために、自分を見つめ直す稽古。
「……すっげぇ大掛かりなことをやるもんだなぁ」
コアレの感想は慎吾と同じだった。
「皆、行先はどこなんだ?」
千鶴も興味津々だ。
「俺は安定性重視、でしたよ!確かにパワー型だからなぁ。それで行き先は、二番隊ッス」
コアレはそう返した。
「私は機動力……三番隊ね」
アロマ。そして極隊たちも口々に。
「……体力づくり、十番隊が行き先になってるから、ここに留まっていればいいか」
紫香楽。
「俺も体力づくり、同じだ」
将雅。
「私は五番隊で判断精度の向上だって〜」
萌。そして。
「………………」
「……五十嵐?」
五十嵐禊が、紙を開いた。
「…………九番隊」
「プッ」
皆が吹き出す。無理もない。去年、そして今年と、刀剣士大戦で禊がバチバチに争って戦ったのは、他でもない九番隊隊長の市木なのだ。
「……運命の巡り合わせじゃん?」
「気まずいだろうな〜あんなにバッチバチだったもんな!」
「……内容は、機転。危機を覆す能力を鍛える、との事だ」
五番隊での稽古とは似て非なる。
「五十嵐!私と同じだな!よろしく頼む!」
そう言ったのは千鶴だ。今までになく目をキラキラと輝かせている。
「……よ、よろしくお願いします……」
「……そういや、シンゴはどこなんだ?」
案の定、コアレに聞かれた。
「そうよ、今ここにいる人の中だとあんただけ言ってないじゃない」
アロマ。そして千鶴も。極隊たちも、催促する。
「…………一番隊」
空気が凍った。
「……俺、単独」
鳥のさえずりに、今初めて気がついた。
「……初めて顔を合わせる者も多いだろうが、俺が二番隊隊長の神名志賀だ。今回はよろしく頼む」
隊員の規則正しい整列の前に立った神名。そして、丁寧な挨拶。既にコアレは浮き足立っていた。
「……おい」
隣から声をかけられる。
「……お前、落ち着きなさすぎだぞ。神名隊長が話してらっしゃる」
龍吾セラフ。同じ十番隊から来ている隊員だった。
「だって楽しみなんだもん――仕方ないだろ!」
「お前な……」
セラフとコアレは同期。だが実力は少しだけセラフの方が上――そんな立ち位置だった。そしてこの二人はアロマとも同期でもある。
「……それで、この二番隊での稽古内容だが。戦いの基礎となる安定性を鍛えることになっている――特に君たち、恐らく毎回安定した高火力を出せなかったり、戦いが長引くほど疲れてきたりという作用に悩まされているだろう」
「前者はまさに俺だ」
「後者は俺だな!」
セラフとコアレが順に呟く。
「……そこで、だ。安定性とは――なんだと思う?そこの君」
突然指されたのはセラフだった。
「――はいっ!?えーと……体温とか、心拍数の安定性、ですか」
「悪くない返答だ」
「……あ、ありがとうございます」
少し照れる。隊長格に褒められた。
「それが全てじゃないが――まぁ、身体の状態とまとめてしまえば正解だな。通常時の体温、心拍数、呼吸数や筋肉の収縮状態まで――全て脳で記憶し、再現する。それだけでも安定性はちょっとは上がるさ」
「緊張するとドキドキするもんな!!」
「お前は緊張とかしなさそうだけどな」
コアレが目を輝かせている。セラフは返答しながら、思っていた。
コアレは周りに合わせるのが得意なタイプだ。目上の人が多い環境では、熱血系でありながらも冷静さを失わない頼れる男という印象が強い。だが――親しい友人の前でのみ見せる、本当の意味での熱血系である彼の姿こそ、セラフの好きなコアレだった。
場所は変わって三番隊。
「……俺が月夜捌だ。ここでは機動力の向上訓練を行う!」
月夜は普段冷静沈着で物静かなタイプだ。そんな彼が全体に向けて声を張っているのを聞くと新鮮な気持ちにもなる。
アロマはそう思いながら――静かに話を聞いていた。
「……諸君は機動力が足りていないと判断された――冷静に状況を見て、即座に行動に移す能力。それを徹底的に鍛えてこそ一流刀剣士だ」
話が終わった頃。
「――君、何番隊から?」
声を掛けられてドキッとした。その方向を見ると――六番隊副隊長、霧矢ランがいた。
「これはこれは、霧矢副隊長――十番隊から来ました、縷紅アロマです」
「アロマちゃん――よろしくね!機動力訓練って言うには女性刀剣士が少ないからさぁ!仲良くしようね」
フレンドリーな話し方。アロマはそれが嬉しかった。
そして、一番隊隊舎。
「――そんなものですか?」
「ぐっ……」
慎吾は木刀で百鬼に打ち込んでいた。休憩なし。既に手には疲労が走っている。
「……動きの精度を上げてください。あなたなら出来るはずです――」
「――押忍」
この二人の訓練は恐らく、他のどこよりも過酷だ。




