第十二話 刀剣の裏解放
時間にして約一週間が経った。無論、正確にはわからない。
ここのところ、空の色が変化するようになってきた。澄んだ青になったことはまだないが、生前見ていた夕日の色に近いオレンジや鮮やかな紫など、時折彩りを感じられるのが、慎吾は嬉しかった。
だが慎吾以外はと言うと、悠長なことは言ってられないようだ。空の色が変わるのは――この世界では不吉と言われるらしい。
考えられる理由は一つ――やはり、八岐大蛇が宣戦布告したことだった。
大戦は中断された。にも関わらず、誰も安心出来ない日々が続いていたのだ。
そんな時だった。十番隊の隊舎――宿舎から少し離れたところにある稽古場に、慎吾は呼び出された。
「……シンゴ、来たか」
刀也隊長に名前を呼ばれる。
「……百鬼隊長がお呼びだ」
気を引き締める。戦闘中、思ったことを全てぶつけてしまった負い目がある。今思えば反抗的な態度をとったのは失礼にあたるのかもしれない。もしかしたらこれから、怒られるかもしれない。
案内された広間に腰を下ろした。刀也隊長はそのまま部屋を退出した。しばらく一人の時間が流れた。
襖がノックされた。百鬼が庄司メラを従えて部屋に入る。
「メラ。ここまで来れば大丈夫です。二人で話したいので隊舎に戻っていて」
「……御意」
どうやらボディガードとして着いてきたらしい。そんな庄司も消えたところで、慎吾の方から言葉を発した。
「……百鬼隊長、戦闘中とは言え――失礼な言動、深くお詫び申し上げます。感情的になってしまいました」
「……そんなこといいんですよ。あなただって正しいことを言っていました」
ホッとする。説教しに来たわけではなさそうだ。何より百鬼隊長は優しい人だ。
「むしろ、あなたに感謝しに来たのですよ」
それには驚いた。
「……大戦条約、というものを結びました。あなたに言われて気がついたのです。確かに戦争に人材と時間を割いている暇があるなら、対八岐大蛇の能力を高めた方が良い」
慎吾は静かに頷く。
「……転生者の受け入れは、今まで通り各隊の判断に任せることとします。ただし――以後、各隊の思想、価値観の違いによる一切の殺生、戦争は大戦条約によって禁止します」
「……えっ」
かなり驚いた。ということは――これ以降刀剣士大戦が行われることはないのか。
「……それは、何というか。良かったです――本当に」
「……こちらこそ。あなたの存在のお陰ですよ。私は保守派ですが、新革派が人材確保等の目的で転生者を快く受け入れるその思いはわかります。まぁ保守派新革派という呼び方も差別用語みたいなものですから、以後なるべく使わないようにしなくてはね」
何だか嬉しくなって、涙が出そうだ。
「……それでは、本題に入ろうと思います」
まだだったのか。慎吾はもう一度気を引き締める。
「……数日後から、全隊員に稽古を義務づけます。内容は個人によって違います。個人の弱みを理解し、個人の強みを伸ばす。特別な稽古令です」
「……おお、それはまた大掛かりな。――どういった内容で指導していくんですか?」
この話には興味があったので、自分から聞き返してみる。
「隊長が十人いますよね。各隊長に、専門分野を与えます。例えば機動力が課題の隊員は三番隊に行き、月夜隊長から体捌きを教わる。例えば耐久力が課題の隊員は十番隊に行き、刀也隊長直伝、基礎体力向上稽古に取り組むといった感じです。そうして各々の能力の真髄を理解し――」
一呼吸置いて。
「――刀剣の裏解放を目指します」
慎吾はドキッとした。
「……裏解放?」
「自身と向き合い、刀剣とより心を通わせると――刀剣の技術をさらに伸ばした特別な術、裏解放を習得出来ると言われています。あなたも先の戦いで、私の裏解放を見ましたよね」
最初はピンと来なかった。だが明らかに初めて見たものがあったことを、思い出す。
「……あの魔法陣……」
「そう。それなんです。裏解放の能力というのは魔法に近いんです。私もそうでした」
成程、新たに魔法を習得すると考えれば容易い。自分も魔法を撃てるかもと思うとワクワクした。
「……いつから始まるんでしたっけ?」
「もうすぐ全隊員に行き先が指定されます。何せ全隊員ですから、各々の個性を把握するのに時間がかかっているのです。それともう一つ――一番隊隊長、この百鬼は、一般隊員の行き先には指定されません」
「……あら?何故ですか?」
「……今日一番大事な話が、そこです」
慎吾はまたまた身を引き締めた。
「……日下部慎吾さん。特別稽古の期間、あなただけは私と一対一の稽古をします」
「…………は?」
「あなたが唯一、行き先が一番隊に指定されている隊員です」
「…………はぁ!!?」
何故だ。
「何故だ、という顔ですね」
バレた。
「……あなたには潜在能力があると思うのです。これは先の戦いで感じた――言わば直感です」
そして。
「あなたとその刀剣は将来的に副隊長クラス、もしくは隊長クラスに匹敵する能力を手にする。私の目が腐ってなければ――ほぼ確実に、です」
慎吾は気が遠くなりそうだった。




