第十一話 牙を剥く
空の大穴の光が、少しずつ暗くなっていく。
大型の異形の怪物。異様な存在感。それは――球体に脚が生えたような受け入れ難い見た目。
「――――――――—!!」
音にならない響き。それが咆哮だと気づいたのはほんの数人だった。
そして。球体の上に、人間が乗っていた。確かに、人間だった。
黒い大剣を握っている。
「……刀剣……?」
慎吾は呟いた。
「――葬れ」
その人物が呟くと、球体の中央から光の柱が伸びた。それが地に触れた瞬間、砂埃が立ち、広範囲が深くえぐれた。
「…………やるんだな」
千鶴も呟く。
「……俺らで、勝ちましょう!!」
コアレ。
「……行くしかない、よね?」
アロマ。
「……一致団結だ!!」
紫香楽。そして将雅、萌。十番隊の極隊たち。
「――戦おう」
刀也隊長。
「……私たちも」
いつの間にやら集まった一番隊隊員と、その隊長百鬼早紅夜。副隊長、庄司メラ。
「――来いよ」
球体の上の人物が、鋭い視線でこちらを貫いた。
百鬼が魔法陣のようなものを展開した。ここに来てからあまり見ることがなかった「魔法チック」な能力に、慎吾は若干浮き足立つ。
「――烈火吹雪」
百鬼は刀剣の名を呼んだ。すると――激しい火柱が上がり、球体の怪物を貫いた。
「――――!!!」
また咆哮が響く。もはや耳は使い物にならないかもしれないと思う程、鋭い咆哮。
「洌鎌っ!!」
慎吾も刀剣を解放する。薙刀が少し、延びた。
「……苦しめっっ!!!」
球体の上の人物が叫ぶ。一瞬にして、全員の元へ落雷。
「……ぐっ!!」
だが誰もヤワではない。しかと刀剣で受け止める。
「……成程」
球体の上の人物が、初めて名乗った。
「――平塚レンヤ。元刀剣士だ」
「……元、刀剣士」
慎吾が反芻する。
「……慎吾くん」
百鬼が近づいてきた。慎吾は僅かに警戒する。
「……今の保守派にあたる隊も全て、最初は転生者を受け入れていたのですよ。ですが――ある事件を境に、保守派と新革派に分裂した」
嫌な予感が走った。
「……もうわかりますよね。彼、平塚は元刀剣士にして、恐らくは八岐大蛇の幹部。そして同時に、転生者です」
慎吾は言葉を失った。
「……転生者の受け入れが始まり、各隊に十人前後の転生者が集まった頃でした。転生者は団結して反乱を始めたのです。死者は千人近い。それ程までに転生者は強かった」
そして。
「……敵側の転生者も、かなりの数減った戦いだったと思います。その戦いを生き残った八人が、八岐大蛇を名乗った。今なお暗躍している転生者の元刀剣士八人組です」
ようやく戦争の納得出来る理由が掴めた。今となっては逆に、新革派の目的がわからない。
「なぜ、新革派はそれでも転生者を受け入れるのですか?」
「それについては後で話したいところですが、一言で言ってしまえば、転生者はある種の希望、と考えているのでしょう。全員が全員反乱を起こすような人ではないと。それに対し、過去の過ちを二度と犯さんとするのが保守派です」
話をしている間にも、球体は複数回ビームを放ってきていた。慎吾は刀で受けつつ後退し、百鬼と話していた。時々舌を噛む。他の隊員も、ビームを避けるのに精一杯で、攻撃に移れない。
「……私たちも、戦争はあまり望んでいなかったのですよ」
平塚が球体から落ちた。いや、降り立ったように見えた。
「……コイツは扱いが難しいんだよなぁ。なら――俺がやるか」
だが――無茶ではないか?
「……おいおい、は?」
コアレが首を傾げる。それもそのはず、こちらの方が圧倒的に人数有利で刀剣士最強も従えている。
のこのこと下ってこようとは。
「……いける」
全員が再び刀剣を握り直す。
その時だった。
「――まだだろ」
庄司メラの低い声が響いた。
「……撤退だ。この地は捨てよう」
慎吾たちは息を呑んだ。刀剣士最強一番隊――その副隊長が撤退の命令を出すとは。それ程までに、平塚は強いと言うのか?
「……何でだ。数的有利だし勝てるだろう?」
コアレが尋ねる。他の隊には敬語を使わないらしい。
「……奴の目的は恐らく、刀剣士の数を減らすことだ。そのためには自分が死んでも厭わないというかもしれないし――そもそも奴自身が平塚レンヤ本体、かはわからない。分身か何かかもしれない」
「……人数が多いと、逆に誰かが欠けるリスクが高まる。さらに言えば――犠牲を払って戦ったとしても、奴は八岐大蛇ですらない――ただの分身かもしれない。そういうことですか?」
「大正解だ」
慎吾と庄司が会話した。
「……メラの言う通りです。この地は捨てましょう」
「……なんだよ、せっかく降りてやったのに」
平塚は不服そうだ。
「……お前らに良い事を教えてやるよ。俺は別にここを滅茶苦茶にしてやろうとか思ってるわけじゃねぇ。だからお前らが撤退するんなら俺も仕方なく撤退する」
ただし、と付け加えた。
「これだけは言っておくぜ。八岐大蛇は新たな指導者を得た。ここからは今まで以上に、確実にお前ら刀剣士の命を狙い続ける。死ぬ覚悟は出来てるよな?今のうちに美味いもんでも食っとけよ」
慎吾たちは動揺するばかりだった。そして平塚は天に昇っていく。球体の中に吸い込まれたかと思うと、再び空を裂いて光の中に消えた。
ここからの戦いは――激しくなる。千鶴たちは、その言葉の重みを噛み締める。
そして慎吾は――初めて経験した刀剣士との戦いの味を思い出しつつも、それ以上に苦しくなるであろう八岐大蛇との戦いに身震いした。




