第九話 刀剣士大戦 伍
「……クソッ!」
慎吾と千鶴。対するは、百鬼早紅夜と庄司メラ。慎吾は一撃入れようとしたが――防がれる。
――圧倒的な実力差。まともに戦ったら、死ぬ。そんな気がする。
「……だってのに……一番隊隊長って女性なんだな」
「……刀剣士としての実力に男女の体格差は関係ない。一流の刀剣士程体感する客観的事実だ」
千鶴が答える。そう――一番隊隊長の百鬼早紅夜は、刀剣士最強にして女性刀剣士最強でもあるのだ。
「日下部慎吾さん」
突如、名前を呼ばれた。慎吾は怯む。
「……はい?」
「……あなたは転生者が刀剣士となることについて、どうお思いですか」
「…………はぁ?」
質問の意図がよく分からない。だが――新革派と保守派はこの一点で対立しているのだ。ここは慎重に答えるべきだ。
「……逆に聞きますが、転生者にはどんな道が残されているというんですか?この世界で刀剣士になれなければ――その辺の魔物に食われるか野垂れ死ぬ。あなたは――転生者とはいえ人間を、見殺しにしたいのですか?」
「……私たちは、不純物が混じるのが嫌なのですよ、日下部慎吾さん」
「……はぁ?」
問答が続く。
「通常、刀剣士となることが出来るのはこの世界に生まれ落ち、この世界で育った人間のみでした。それが普通、だったのです。ところがある日――出自不明の人間が、周囲に仮想空間を形成しながら現れた。聞いてみると人間界からの転生者だと言うではないですか」
「……何が言いたいんですか、一番隊隊長」
「……あなたは知らないのかもしれませんが、人間界の人間は元々の身体能力がこの刀剣世界の人種よりも高いとされています」
「……ははぁ、なるほど」
察しの良い慎吾は百鬼の言葉が飲み込めてきた。
「……刀剣士という職業が、転生者によって奪われる。そういうことですか」
「もちろん他にも理由はありますが、第一の理由はそれ、です」
「いや、お言葉ですが馬鹿げていると思いますよ。この世界ではスキルを購入出来ますよね。それを利用しちゃえばこの世界の人間も人間界の人間も大差ないでしょう。人口が増加するにつれて刀剣士の数が増えるのも自然なことでしょうし、八岐大蛇というグループを討伐するのなら数は多い方がいいに決まっているのでは?」
「……人数が増えすぎるのは困るのです。八岐大蛇にこちらの拠点がバレることも然り――内通者が現れる可能性も高いですからね。現に今、刀剣士の十パーセントは八岐大蛇と繋がっているとの噂です」
「隊員を信じなくてどうするんですか」
正直、これ以上問答に付き合っても無駄だと思った。向こうの意見に軸がない。恐らくただ転生者を拒みたいだけだ。慎吾は憤りを覚えた。
それでも最後に一つだけ、聞きたいことがあった。
「……あなたたち保守派は、転生者を見つけた場合、どうしているのですか」
「……一番隊では回収を義務づけていますが、刀剣からのお告げを受けた場合でも刀剣士となることは許していません。現役刀剣士のサポートが主ですし――他の隊には、回収を禁止しているところもあります」
「……放置するということですか」
「端的に言ってしまえば」
「……許せませんね。同じ人間だとわかっているのですか」
「……私に人間界の亡者の気持ちはわかりません」
百鬼の冷徹な表情。慎吾は怒りをさらに加速させた。
その時だった。
「――シンゴ!!」
魁朱コアレの声だ。彼と同時に駆け寄ってきたのは、縷紅アロマ。
さらに数秒後。見た事のある顔が集まってきた。十番隊の極隊だ。
「――シンゴ隊員!助けに来たぜ!」
紫香楽悠聖の声。後ろには将雅トラと、刃萌。
「――来てくれたんですね」
慎吾は先程の問答で、千鶴が終始無言を貫いていたことが気になっていた。そして百鬼の「転生者を拒む理由」も曖昧で弱い。
何か別の理由があるのかもしれない。そしてそれを、他の刀剣士は知っているのかもしれない。
勝って聞きたい。人数では圧倒的に有利――
「皆さん――俺、勝ちたいです!協力してください!」
六人は戸惑いながらも勢いのある声を発した。
七人は四と三に分かれる。百鬼早紅夜の相手をするのは、慎吾、千鶴、紫香楽、将雅。庄司メラの相手をするのが、コアレ、アロマ、萌。
「――一番隊隊長、とりあえず倒させてください。その後続きを話しましょう」
「――無用です。あなたたちはここで声を発せなくなるのですから」
――――
早速、戦いは幕を開けた。
庄司メラは物静かな青年だ。百鬼への忠誠心は非常に高い。そんな彼が、刀剣の名を呼んだ。
「……影撃」
刀剣が黒いオーラを纏う。コアレ、アロマはまだ万全ではない体力で、庄司へ向かっていく。
数秒後、二人は既に突き飛ばされていた。壁に身体を打ち付けられて圧迫感に襲われる。
「――近づくと狩られるわけね」
萌は冷静に分析しつつ刀剣の名を呼んで解放する。
「――新蓮」
淡いピンクの光が空から落ちてきた。
「庄司副隊長、失礼します」
萌は女性とは思えない初速度で庄司に突進する。庄司は黒い刀剣で受けるが、反射速度が遅れて若干後退した。
「……良い」
しかし庄司は体を捻って、空に着地した。風を切って上空から萌に斬りかかる。萌は間一髪で回避すると、庄司の頭を狙って刀剣を振るう。庄司もこれを回避する。
回避合戦。どちらが先に攻撃を当てられるかで、全てが決まる。予感がする。
その回避合戦は長い間続いた。そしてある瞬間、いよいよ萌の刀剣が庄司の肩に入った。
「――いった!」
だが。
「……重く、ないんだよな」
庄司は動かない。そして。萌の腹に庄司からの反撃が直撃した。
――――
百鬼戦は庄司戦以上に苦戦だった。
「はぁ……はぁ……」
そもそも攻撃が当たらず、通らないのだ。それは慎吾だけではない――紫香楽や将雅、千鶴の攻撃も同じ。
「……また、いつもの違和感すね」
「……そうだな。何か種があるはずなんだ……」
千鶴は慎吾の方を向いて耳打ちする。
「毎年そうなんだ――百鬼隊長には触れることすら出来ず倒される。何か、その的確な動きの原動力たるものを見つけてほしい。それがまずは勝利への一歩だ」
慎吾は何となく理解した。目をこらして、百鬼を睨む。
百鬼は微笑を浮かべていた。




