ネフィリ遺跡跡地
「ゴーレムいないですねぇ」
僕は歩きながらイズミに向けて落ち着いた声で、話しかける。
別に警戒を解いているわけではない、ただ、剣を鞘に収めたまま周囲をキョロキョロしながら歩いている。
「えっ?なんか言った?聞こえ…危なッ!」
僕とは別に現在、蠍の様な魔物と交戦中のイズミが3本ある蠍のしっぽを一本せかほその細い刀で切り落としながらも、声が聞こえなかったのか聞き返して来るも、残りの2本の尻尾に襲われ躱し反撃の斬撃を浴びせていた。
少し離れたところからから少し大きな声でイズミに話かける。
「手伝いましょうか?」
「いいや、大丈だよ!おっと、すぐ終わるからさッ!」
言い終わると同時に、強く踏み込み地面を蹴ると、尋常ならざる速度で一太刀食らわせて討伐してしまった。
今日一緒に探索して分かったことがある、イズミはアクトさんよりも強いんじゃないか?それにあのイズミが使っている刀と言っていた武器、すぐ折れてしまいそうな見た目なのだが意外にも頑丈なのか刃こぼれ一つしていなかった、何で作られているのかは分からないがぜひ一度握ってみたいと、そう思えた。
本人は魔法が使えないと言っていたが、身体強化なしにあの動きをしているのは何か仕掛けや特殊な技?でもあるのだろうか、目を凝らしたり魔力の波動を見たりしているが特に変わった様子はなく、それが本来のイズミさんの身体能力なんだろうと思わされる。
彼がリベラルに力を貸してくれれば、不幸になる人を減らせるかもしれない、また機会があればジールさんにも紹介して反応を見てみたい。
戦闘を眺めながら座っていると、魔物を片付けたイズミがこちらに戻って来る。
「じゃあ、魔物も片付けて肩慣らしも済んだし、本命のゴーレム退治に行こうか」
「ん?場所が分かるんですか?」
「うん」
「え?」
「行こっか」
イズミは、こちらの驚く顔を見て見ぬふりをして、先を歩き始めた。
本当にこの人は…。
「場所知ってるなら先言ってくださいよ!」
僕の声にビクッと体を震わせるも、気まずそうに言い訳を述べる。
「いやぁ、聞かれてなかったからさ、それに肩慣らしに付き合ってくれるって言ってたし」
「それは…そうですけど、えぇ〜、まぁいいです、早くゴーレムを倒しに行きましょう」
「そうだね!あっちだよ」
指を差した方向へと先頭で歩いて行くイズミの後ろを付いて行き、考えを改める。
ジールさんには、紹介しないでおこう!
それから2人は、10分ほど歩いて現在ゴーレムの前で物陰に隠れて様子を伺っていた。
遺跡の中は迷路の様な作りになっており、所々に大きな広間があり、アリの巣の様な構造になっていた、のだが、イズミは道を違えることなく一直線にゴーレムがいる部屋へとヒロを案内することに成功していた。
「ほらヒロくん、あれが今回のターゲットであるゴーレムだよ」
指を差して説明するイズミに色々言いたいことはあるも、今はグッと堪えて指の先を見る。
大きさは大体5メートル位で、胸の部分に大きな魔石が埋まっているのが見える、どうやらあの魔石がゴーレミのコア、心臓の部分なんだろう。
「あの胸の部分にあるコアを魔法で狙えば良いんですか?」
僕の質問に頷き、今回の作戦を説明してくれる。
「まずは、僕がゴーレムの注意を引くから、ヒロくんにはその間にあのコアを狙って欲しいんだ、コアが壊れると体を維持できなくなってそのまま消滅する、逆にコアさえ壊れなければ何度でも再生し、復活するのがゴーレムの強みだね」
その話を聞いて、一つ疑問に思った。
「そのコアを切れば良いんじゃないですか?イズミさんなら簡単に壊せると思うんですけど」
その僕の質問を待っていたかの様にイズミは答える。
「僕もそう思って何度か試して見たんだけどダメだったよ、あのコアは【スタチウム】製だね、斬撃や打撃にめっぽう強く、どちらも通さない物質なんだから、遥か昔、人間がまだ魔法を使えない時代には戦争の鎧として使用されてたらしいよ、でも魔法にはめっぽう弱く、簡単な攻撃魔法で砕けるために、今では使われなくなった鉱石だよ」
【スタチウム】聞いたことはあったけど、実際に見るのは初めてだ、確かレイツェルさんが「ゴミね」とか言っていた様な、でも現に今、魔法を使えない人が攻略に困っているのを見て、対処する術を持っていなかったら凶悪極まりない鉱石なんだと思い知らされる。
「わかりました、じゃあ気を引くのは任せました」
イズミにそう言い頷くのを確認すると、素早い速度で物陰から飛び出し、遺跡ゴーレムに切りかかる、反応して反撃に出ようとするも、イズミの速度が上を行き、ゴーレムに動く隙を与えない。
上、下、右、上、と素早い速度でゴーレムの周りを縦横無尽に駆け回り様々な異なる方向から斬撃を浴びせていた。
その光景を見て、本当は、斬撃だけでも倒せてしまうんじゃないだろうかと思い込んでしまう。
戦いを眺めながら側で魔法の準備をする。
「よし、そろそろ始めないと」
今回は少し離れた場所から魔法を届かせなければいけない、15〜20メートルくらいか?魔法を当てるにはカマイタチを倒した【ライトスピア】じゃないと届かないと思う、けどそんなに成功率の高い魔法じゃないのがネックの魔法だ。
あの時は、咄嗟に魔法を放ち成功したがそれ以降は一度しか成功しておらず、失敗すると魔力をただ放出するだけなため、日数もそんなに立っていないために数もそこまでこなせていない。
「いや、やってみよう」
覚悟を決める、あの時の感覚を思い出すんだ。
魔力を右手に流し放出する準備をする、自然エネルギーを取り込みその魔力と組み合わせる。
自然エネルギーがヒロの魔力に反応して雷を顕現させる、バチバチと音を立て周囲を明るく照らす。
その魔力の動きを感じ取り、遺跡ゴーレムがヒロの存在に気付き、迎撃しようと近付こうとするもイズミの斬撃の雨により妨害される。
ヒロは手を前に突き出し遺跡ゴーレムのコアに向けて魔法を詠唱する。
「【ライトスピア】ッ!」
掛け声と共に放たれた雷で象られた槍はヒロの手を勢いよく離れた、次の瞬間、少し進んだ場所で爆発する。
「うッ!」
凄まじい爆風がその周囲を吹き荒らす、その衝撃でヒロは地面に叩きつけられて初めて気付く。
失敗したんだと、だがいつもとは少し様子が違った、いつもなら発動する事なく霧散する、しかし今回は、発動した、したが失敗した、ヒロはなぜ失敗したのかが、理解できないでいた。
周囲に立ち上がっていた砂埃が、晴れて周囲を見渡す、するとそこに答えがあった…あったのだがその答えを見て驚きの声が出る。
「なっ!?」
ヒロの驚きを無視するかの様に、その者が口を開く。
「ちょっと〜僕のゴーレム壊す気ぃ?やめてよね、結構時間かかったんだからさぁ、君ちょっとムカつくなぁ」
その者は、子供の姿をしているもののうちから湧き出る魔力は異質なものだった。
黒く暗い、そして重い魔力を放つ少年が宙に浮いて立っていた。
そして何よりも、額から外側に伸びる2本の流れる様にうねるツノ、腰の辺りから生えた尻尾、背中から広がる黒い翼、これら全てがこの者が普通の人間ではないと存在で証明している。
そう、彼こそが人間界を侵略している【魔族】である。
「ヒロくんッ!大丈夫か!」
遺跡ゴーレムの相手をしていたイズミが、魔族と対面している僕の元へと駆けつけ、魔族から目を離さずに僕に聞く。
だが正直、故郷の光景を思い出し、震えて声が出なかった。
あの光景がトラウマとなり、体の自由を奪っていた。
「まずいな、魔族は、僕も苦手なんだよ
苦虫を噛み潰したような顔で言うイズミの手を見ると、小刻みに震えてるのが見える。
イズミも魔族にトラウマがあるのだろうか、そうだ、怖いのは僕だけじゃない、それに魔族に怯えていたら何も始まらないじゃないか!お前はみんなを救う様な人になりたかったんじゃないのか!立て、今立たないとこれから一生魔族に立ち向かうことなんて出来ないぞ!良いのかそれで、良いわけないだろ。
自分の頬を強めに叩き、気合を入れ直す、立ち上がり震える手を握りしめ剣を構える。
「僕は、大丈夫です!」
声を振り絞り叫ぶように言うと、イズミは振り返り少し笑う。
イズミの横に立ち、魔族を見つめる。
「え!?なになにぃ?僕の遊びたいの?今回の目的は君たちじゃないんだけどなぁ、まぁ少しくらいなら良いよね?」
魔族は笑う、ただそこから読み取れるのは恐怖しかなかった、全身が寒気に襲われ、ビクッと体が震える。
「ヒロくん、今回は僕が無理やり連れてきたわけだから、君は逃げて良い、そう長くは無いけど時間は作れる」
震えを押し殺すように刀を握りしめ、魔族に聞こえない程度の声で話す。
そんなイズミを見て少しカッコいいとまで思ってしまった、そんな彼をこんな場所で死なせたくない。
歯を食いしばり、大きな声で宣言する。
「イズミだけこの場に残るなんてダメだ、今この状況を僕達で打開するッ!」
その言葉にイズミは驚いたような表情をした、目の前の魔族は言うとお腹を抱えて笑い始めた。
「僕を、君たち2人でどうにかするって?」
笑いながら言う魔族は内から出る魔力が増大していくのがわかる。
その悍ましい魔力に額に汗が流れる。
先程までとは急変して怒りのこもったセリフを投げ飛ばす。
「やっぱり君はムカつくなぁ!舐めるのも大概にしろよ!」
叫ぶと同時に、魔族は黒い球をこちらに飛ばしてくる。
素早い速度で飛んでくるもなんとか反応して避けると、地面に着弾した途端に小規模の爆発と共に、その場を円形に綺麗に抉り取っていた。
その痕跡を見て2人は魔族の強さを再確認した、魔族が1秒と経たずに打ち出した魔法一発が致命傷になるのだ。
「これ、かなり不味いんじゃない?」
「そう、ですね…」
体勢を立て直して再び魔族を見つめる。
魔法を避けられるのは予想外だったのか、少し驚いた顔をしているのに気付くが、直ぐに次の魔法を作り出していた。
放たれ続ける魔法を避けながら、ヒロとイズミは息を切らしながら走り回っていた。
「これ、どうするんですかー!!!」




