プレゼント ①
トネールに到着してから宿で一晩過ごし、現在僕達は、運搬依頼の完遂をするべく依頼主のところへ向かっていた。
漁港に着くと、朝一にもかかわらず人が多く、いろんな方向から様々な会話が聞こえて来る。
宿で聞いたのだが、ここにいる人たちは皆、時間を決めて漁を行っているらしく、昼過ぎには漁をしてはならないと言う決まりまであるらしい。
昼過ぎに船を出すと、深海に住んでいる魚の魔物が目を覚まし、船を見つけては沈める。
と言う噂話が広がり、真偽を確かめるために街から調査隊の船が3隻港を出発したのだが、いまだに帰って来ていないらしい。
なので、朝から昼の間に区画を決めて漁をする様になったんだとか…正直、そんなことあるか?と思っている。
あたりを見渡していると、ふと大きな船が目に入る。
馬車から顔を覗かせて見ると、昨日は遠目から、それも、少し火が落ちていたために薄暗く大体の大きさしかわからなかったが、近づいて見て見るとその大きさを実感できる距離にあり、少し感動する。
「これが、水に浮いているかなんて、凄いな」
独り言の様にポツリと呟く、その声は周りの音で掻き消されて誰にも届いていなかった。
すると隣にアクトさんが来て、船の方を指差し言う。
「あれほんまに凄いやんな、あれ実はミラルさんのアニキさんが作ったものらしいで、兄妹揃って凄いよなぁ、ホンマ天才やで」
ミラルさんって確か、魔法具製作部の人だった様な?一度挨拶だけしたことはあるが、かなり物静かなイメージのひとだった、魔法具のこと以外は、兄妹揃って物作りに長けているのだろう、どんな人なのか少し気になる様な。
それからも、船や周囲の様子を見ていると、馬車が停止する。
「着いたわよ」
その後は馬車の荷台から運搬品をおろし、依頼人から報酬を受け取った。
どんな人か気になっていたが、案外普通のおじさんだったのだが、お金を渋ることなく直ぐに渡してくれたし、なんなら少し色をつけてくれた。
そこから報酬は3等分しようとしたが、初任務だからと2人が少し多めに分けてくれ、金貨10枚を手に入れた。
金貨10枚なんてお金手にしたのも初めてだった為に、どう使おうか悩むな。
装備の更新、衣類、それとも美味しいものを食べる、様々な案が浮かんでくる、が、実はクエストを受ける時に一つ決めていたのだが、今までもこれからも世話になる3人にプレゼントを買いたいと思っていた。
馬車に乗り込み、宿に戻っている途中に市場が目に入ったので、御者席の方に近づく。
「レイツェルさん、少し止めてもらっても良いですか?少し寄りたいところがあって」
僕の声に首だけを回して聞き返して来る。
「寄りたいところ?今日はもう何もないし、一緒に行くわよ、どこかしら?」
その返しは考えていなかった、言い訳を考えておけばよかったなと今更思う。
「いやあの…1人で行きたいんです、日が落ちる前には戻るので」
何か不思議がってる様な疑う様な目を向けて来るレイツェルさんに苦笑いをしていると、アクトさんが後ろから割って入って来る。
「まぁ、ええんやない?たまには1人にさしたってもさ、ヒロも年頃の男の子やねんで?」
「アクトさん…ん?」
レイツェルさんの説得に協力してくれる、アクトさんに感謝の眼差しを向けるもその表情を見てこう感じる。
なんか勘違いしてそうだなこの人。
何故かアクトさんはニヤニヤしながら肩を組んでくる、勘違いしているんだろうがレイツェルさんの説得を手伝ってくれるなら、今は一旦このままでいいだろう。
「まぁいいわ、この辺でいいのね?」
「はい、大丈夫です!」
渋々馬車を通路の端に止め、僕が降りるのを待ってくれていた。
降りる途中にアクトさんが、近づいて来て耳打ちをして来る。
「どうやったかまた教えてな」
と、言っていたがどう言う意味なのだろう?わからなかったので、はい?と返したが、ニヤニヤしているだけだったので、まぁいいかと馬車をおりた。
「じゃあ行ってきます!」
「おう!」「早く帰って来るのよ」
そう2人に言われ、再び馬車が動き出したのを見送り市場の方に歩いて行った。
市場の中に入ると、あちこちに人の流れがあり、繁盛しているのが一目でわかるほどだった。
出店が並んでおり、飲食や武器装備、アクセサリーから魔法具まで何でも揃って並んでいるのが目に入る。
「凄い、こんなに色んなものが並んでいるのは初めて見た」
カイタンもそこそこ大きな街ではあるものの、街の半分ほどある市場はなく、あるとしても身内同士で開く小さなパーティーの様なものしか開催されない為、この光景はヒロには珍しく興奮冷めやまぬ状態で市場の奥へと歩みを進めた。
ー1時間後ー
ヒロは市場の隅のベンチに座り、冷や汗をかきながら青ざめた顔で座っていた。
マ、マズイ、オカネツカイスギタ。
市場には、ヒロには珍しい歩きながら食べる料理の屋台が並んでおり、様々な店を食べ歩きながら周りに周り気づいたら金貨3枚が財布から無くなっていた。
市場って恐ろしい!串物、氷菓子、果物にヤキソバ、美味しいものばかり並んでいる為にいくらでも食べれてしまった。
まぁ、財布の中身を見て座っていても仕方ない、そろそろ本命の3人へのプレゼントを見に行くことにしよう。
そこからと言うもの市場を周り目星をつけていたお店を転々としながら、色んな品を見ていたのだが、これと言ってしっくり来るものはなくヒロは困り果てていた。
うーん、プレゼントって言っても実際何を渡せば良いんだろう。
3人の好みがイマイチわからない、ムズカシイヨ。
ヒロが悩みながら歩いていると、それを見つけたのか、ある人物が声をかけて来る。
「やぁ、ヒロくん何か悩み事かな?」
ヒロは声に気付き、声の方を見て嫌な顔をする。
「あ、昨日の、確か…イズミさん?」
当の本人であるイズミは、笑顔で笑いながらヒロに話を返す。
「イズミさん、なんてやめてくれよ、君は命の恩人なんだ、イズミって呼んでくれたら嬉しいな」
笑顔のイズミを見て、すぐにこの場を離れようとする。
「わかりました、イズミさん、ではさようなら」
関わりたくないので、直ぐに逃げようとするも人混みの中ではあまり早く動けずに、正面をイズミさんに塞がれる。
「ちょっと待って、まぁ仲良くしようよ、そうだ今から遊びに行かないかい?」
「すみません急いでいて…あの、何で前に塞がって来るんですか…ど、退いてください!」
イズミを避けて前に進もうとするも、巧みなステップで進路を妨害して来る。
「実は少し困っててさ、ちょっとだけ話を聞いて欲しいんだけど」
進路を妨害しながら話しかけ続けて来るイズミを避けようとし続けるも、かなり執念深く、諦めて話を聞くことにした。
「はぁ、分かりました、要件を言ってください、手短に」
「本当!?ありがとう、やっぱり君は優しいね」
喜ぶイズミの顔を見て、長いこと進路妨害されて話を聞いてくれと言われ続けたら誰でもそうするでしょ、と思ったが口には出さなかった。
軽く苦笑いをして話を聞く姿勢を見せると、イズミは少し真面目な顔をして本題に入る。
「ヒロくんってさ、魔法使えたりしない?」
「魔法?一応使えますよ」
カマイタチ戦以来、コツを掴んでそれなりには使える様にはなったものの、どうしてそんなことを聞いて来るんだろう?
そんなヒロの疑問に答えるかの様にイズミは話しだす。
「やっぱりね、今僕が受けてる依頼がさ、魔法が使えないとちょっと厳しくてさぁ、手伝ってくれない?」
これは、断る事も逃げることもできないだろうか?できないだろうな、どう答えても強制的に連れて行かされそうな気がしてならない。
一応、断ってみるか。
「これって拒否権はありますか?」
僕の返事を聞いて笑顔のまま言う。
「どうだろう?」
「じゃあ、一応言いますね、お断りし…」
「頼むよぉ、ヒロくん!人助けだと思ってさぁ!」
断りを入れようとしたのに気付いた途端に、市場にある大通りのど真ん中で、子供の僕が言うのも何だが、子供みたいに駄々を捏ね始めてしまった。
人目が痛い、この人はプライドというものがないのだろうか?。
今更ながら本当に関わらなければ良かったと思い、後悔する。
この人本当にめんどくさいな!
その後はというと、ヒロがイズミを避けて通り抜けようとしても、転がって道を塞ぎ何を言っても聞かなかったので仕方なく、イズミの依頼に渋々同行することに決めた。
ヒロ達は現在、トネールから4、50分程歩いたところにある、【ネフィリ遺跡跡地】にきていた。
今回の依頼は、ネフィリ遺跡跡地でかつて遺跡を守護していた【遺跡ゴーレム】のコアとなる部品を持ち帰るのを目的としている。
遺跡ゴーレムには凄まじい物理耐性力が有り、魔法が使えないと危険度が跳ね上がる魔物らしい、だが逆に、魔法の耐性は無く、魔法で装甲を攻撃すると簡単に壊れたりする為に、魔法を使える人物を探していたらしい。
「じゃあ今回の目標は遺跡ゴーレムだから、見つけるまでは休んでて良いよ、準備運動がてら他の魔物は僕がやっちゃうからさ」
そう言い終わると体全身を伸ばして、軽くストレッチをする。
「本当に大丈夫なんですか?僕も少しは戦えますよ」
その言葉を聞いて少し驚いた顔をした後に、何かを思いついた様にハッとする。
「そうだなぁ、じゃあこう言うのはどうだい?ゴーレムを見つけるまで魔物を狩るのは早い者勝ち、これなら文句ないよね?」
「まぁ、それなら…」
そう口に出した途端、遺跡であったであろう瓦礫の山から蛇のような巨大な魔物が一匹飛び出してきた。
凄まじい勢いと砂埃に目を細め、身を低くし構えると、横にいたはずのイズミがいないのに気がつく。
「イ、イズミ!」
巻き込まれたのかもと心配していると、次の瞬間、魔物を中心に広がっていた砂埃が、一瞬、綺麗に2つに分かれた様な気がした。
「何だろう?」
砂埃が晴れるまで魔物を警戒していたものの、動きはなく、その理由を理解するのはそう時間はかからなかった。
「なっ、凄い、こんな綺麗に一体どうやって?」
視界の先にあったのは、蛇の魔物が綺麗に頭と体が切断されている様だった。
僕が驚いた顔をしていると、イズミが歩き寄ってきて笑顔で言う。
「魔物は、早い者勝ち、だったよね?」
「は、はい」
勝てる気がしない、この依頼本当に僕いるのかなぁ?。
そんな僕の不安はよそに満面の笑みで、先へ進もうと促して来る。
本当にもう、帰りたい。




