酒場
あの日、第二パーティーに入ってから、3週間が過ぎた頃。
「おーい、大丈夫か?」
現在ヒロは、リベラル所属の冒険者になるべく第二パーティーと魔法と剣術の訓練をしていた、のだが…。
「は、はい、痛いけど大丈夫です」
ヒロは頭を抑えながら涙目で、アクトに返事をする。
現在ヒロは、アクトに剣術の稽古をつけてもらっているのだが、アクトは勝負事になると手加減というものができない性格なのか、毎度やり過ぎてしまいその度にヒロに傷が増えていく。
「いやぁ、すまんすまん、模擬戦とはゆっても勝負事になったらやり過ぎてまうねん、許してな」
言葉ではこう言ってはいるものの、一本取ったことに何処か嬉しそうにしている風に見えるのは気のせいだろうか?
「まぁ、僕が弱いだけなので気にしないでください、もう一本お願いします!」
ヒロは、木刀を両手で前に構え直しアクトを見つめる。
そんならヒロを見てアクトもニヤリと笑い、片手で剣を構える。
「ええやん、本気でやらな怪我するからな!」
その言葉を掛け声と捉えたのか、ヒロは攻撃に出る。
木刀を縦に振り下ろすも簡単に横に受け流されてしまう、体制が崩れたところをアクトは狙うが間一髪ヒロは身を逸らし避けて少し後ろに距離をとる。
「おっ?今のええやん、でもこれはどうや?」
後ろに距離を取ったヒロに素早く近づきしたから木刀を振り上げる、ヒロは咄嗟に木刀でガードするも、アクトの力に木刀もろとも少し宙に打ち上げられ、背中から地面に打ち付けられた。
「痛ッ、ハァハァ、この、ままじゃ、ダメだッ」
ヒロは、痛みや疲労に耐えながらも立ち上がり再び木刀に力を入れる。
「もう一本、お願いします!」
ー2時間後ー
「もしかしてと思っていたのだけど、あなたバカなの?」
レイツェルとの魔法の訓練のために、合流するなりヒロの状態を見て、アクトに少し怒った様な声色で首を傾げる。
「いや、これはその、なんて言うか、男同士の〜なぁ…」
「はぁ、言い訳は良いわ、取り敢えず医療部隊のところに行きましょう」
顔を逸らし、歯切れ悪く訳のわからないことを言うアクトにため息を吐きながらもヒロに肩を貸して医療室まで連れて行くことにした。
ヒロはと言うと、全身に傷や打撲痕の様なものが見られるが、流石のアクトも弁えていたのか致命傷になる様な傷はなかった。
「レイツェルさん、僕がお願いしたことなので大丈夫ですよ」
「貴方も大概ね」
レイツェルは、呆れた様にヒロを抱えながらリベラル本部にある医療施設にて、簡単な医療魔法を受けさせ、もう一度訓練場にヒロと戻ってきていた。
「今日教えるのは、魔法の基礎の放出の部分よ、これまで3週間ほどで、魔力感覚を鍛えてもらったけどの、これからはその魔法を操作して体外に放出する練習をしてもらうわ」
魔法の基礎は、主に三つである。
1つ目は、【魔力感覚】これは体内を巡っている魔力、空気中にある魔力、この2つを知覚する、そして流れを読むことである。
2つ目は、【魔力放出】これは体内の魔力を自ら操り、任意の形に変えて体外に放出、もしくは体内の一部に流し自らの身体強化を図る事である。
3つ目は、【属性付与】これは名前の通り、魔力の中に自然のエネルギーを組み込ませる事により、魔力そのものの性質を変換し行使する事である。
ヒロは、魔力感覚を研ぎ澄ませ体内を流れる魔力を知覚する。
「魔力を感じれたわね?じゃあその流れを手のひらに集めるイメージをしてみて」
様々な方向へ身体中を巡っている魔力を手に集めるイメージをすると、掌に魔力が流れているのを感じる。
魔力を流すことは出来たが留めておくことがうまく出来ずに手から流れ出てしまう。
「それじゃダメね、手の方に流れるイメージは出来ているけれど留めるイメージが、まだ薄いわね、2つのイメージを同時にいい塩梅で出来てやっと、魔力操作が出来ている、と言えるのよ」
レイツェルさんが教えてくれてはいるものの、うまくイメージ出来ないでいた。
そのまま、30分ほどが過ぎる。
レイツェルさんは、細かいアドバイスをくれながら見てくれているものの、前進することはなくただ時が流れていた。
「ヒロ、今日はそろそろ終わっておきましょうか、これ以上魔力を放出し続けるのは危険よ」
レイツェルさんは優しく休む様に促してくれるも、ヒロは魔力に集中する。
何かを悟った様に、はぁとため息一つ付いてカバンを探り始めるレイツェルに気付かずに、そのまま手をの方に魔力を流す。
手に魔力を留める、そうか!手の先にも別の方向から魔力を流し逃げ道を塞げば良いんだ!そう思い立って、実践しようとした途端、視界が歪み始めた。
「あ、あれ?なんだ、これ?」
「忠告したのに」
呆れたレイツェルさんの言葉を最後に意識がゆっくり遠のいていった。
倒れるヒロを受け止め、レイツェルは小さく呟く。
「本当にバカなのかもしれないわ、この子」
先程カバンから取り出した、小瓶の蓋を開けヒロの口に溢れないように流し込む。
レイツェルはヒロを背負い、再び医療部隊のいる部屋へと戻っていった。
そんな日々を繰り返し時は流れ、半月の日々が過ぎた。
日を重ねるごとに、アクトの剣術を受けれるようになっているのだが、属性付与の部分でつまずいていた。
魔力放出はできるのだが、属性付与になると自然エネルギーを活用するので、難易度がかなり跳ね上がるため、ここで属性魔法を諦めてしまう人が大半を占めている。
そして今日、ヒロは冒険者になるべく修行を一時中断し、リベラルの依頼管理を担当している【ギル】と言う人を訪ねに酒場まできていた。
酒場の前に来て思う。
なんか1人でここに入るの怖いんだけど。
一応リベラルが運営している酒場なのだが、リベラル所属でない人達にも開放しているため、中には様々な人種が混在しており、世界中の至る所から冒険者に向けての依頼が殺到している。
そんな場所を仕切っている、ギルさんってどんな人なんだろう、パーティーのみんなに聞いても。
巨漢、飲兵衛、クセェといい話は聞かなかった。
ジルの酒場の前でじっと止まったまま入るか悩んでいると背後から男が声をかけてくる。
「おいおい、僕ちゃんこんなところで何してんだ?ここはガキが来る場所じゃねぇぞ、さっさと帰りな」
ヒロは、突然聞こえてきた声に少しビクッと体を震わせ後ろを振り向く、そこには頭を綺麗に丸めており、体の重要な部分には鉄製のプレートで守られたアーマーを着ており、見るからに冒険者なのだろうと見た目でわかる。
ヒロが何故ここに来たのか話そうとすると、男がヒロの声を遮る様に絡んでくる。
「どうした僕ちゃん、怖くて声も出ねぇか?ガッハッハ」
男は笑いながらヒロを押し退けて、酒場へと入っていった。
地面に尻餅を付いていたヒロは立ち上がり、お尻についた砂を払う。
まぁ、ここでウジウジしてても仕方ない、一回入ってみよう。
ヒロは意を決して、少し重い扉を開くと内装は思っていたよりも広く、中は数多くの人で賑わっていた、ざっと数えても50人程の人達が、各々席に座り、仕事の話や日常的な話などをしているのが聞こえてくる。
「広い、こんなに人がいるなんて…ん?」
周りをキョロキョロしていると、カウンターの中から視線を感じる、なんだろう、怖いな。
チラリと目線をやると、2メートル程の身長のガタイのいい顎鬚の生えたおじさんがこちらをみていた。
怖い何あの人、もしかしてあの人がギルさん?
そう思い咄嗟に逸らしてしまった視線をもう一度戻す、やはり鋭い眼光でこちらを見ていた。
再び目を逸らしガタガタ震えていると、その男はカウンターから出てきてヒロの方へと歩を進める。
や、やばい、近付いてきたどうしよう、もう帰りたい。
ヒロの目の前に立ち、顔を覗き込んで低い声を発する。
「おぉ、あんちゃんがジールの言ってた奴か?確か名前は、ヒロ…だったか?」
「は、はい!僕がヒロです!」
ヒロは勢いよく、素早く返事をした。
カチコチになったヒロを見て、ギルは高笑いをする。
「ワッハッハ、あんまり緊張しなくていいぜ?カチコチじゃねぇか、もっとリラックスしろって」
そう言い、ヒロの方をポンと叩く。
叩かれた事により何処か楽になった様な気がしたが、気のせいだろう。
軽く挨拶を済ませ、奥の部屋へと案内された。
部屋には横に2、3人座れるソファーがテーブルを挟む様に二つ設置されており、ジルとヒロはそれぞれ対面に座っていた。
「これを見ろ」
そう言い、机の上に一枚の紙をヒロの方に見せる。
紙には【カマイタチの討伐】と大きく書かれていた。
その紙をヒロが確認したのを見て、説明を始める。
「このクエストをヒロ、君に頼みたい、まぁ、あんまり強い魔物じゃないから、気楽に行くといいさ、じゃあいってらっしゃい」
唐突に終わる説明にヒロは動揺して聞く。
「行ってらっしゃいって、僕まだ冒険者じゃないですよ!?それに、まだ、魔物の討伐なんてやったこともないですよ!」
「そうなの?じゃあ辞めるか?冒険者になるのは諦めるんだな」
ギルは、抗議するヒロにあっさりと言ってのけ黙らせる、言いたい事がありそうなヒロを見てニヤッと笑い、自分の腰についているマジックバックから球体の鉄の塊を取り出し、ヒロに向けて受け取る様に促す。
「ボール?これ、なんですか?」
「いやいや、ボールじゃない、それは通信用の魔道具だ、とは言っても一方的なものだがな、そこの中心の部分を見てみろ」
言われたとうりに視線をやると、黒い球体の中心部に、赤いボタンの様なものが付いているのが見てとれた、なんだろうすごく押したくなる。
ヒロが指をかけようとした時、ギルが止めて魔法具の説明をしてくれた。
「そのボタンを押すと、その魔法具に魔力を注いだものに場所や距離関係なく、その魔法具のボタンが押された事が伝わる、だから緊急時にそのボタンを押すと俺に信号が来るって、しろもんだ、まぁ詳しくはどうなってるかわからねぇけどな」
「緊急時?やっぱカマイタチって恐ろしい魔物じゃ無いですよね?」
ん?あれ?目が合わないんだけど、本当に大丈夫なんだよね?本当に大丈夫なんだよね!?
そんなヒロの不安をよそに、ギルは笑いヒロを酒場から追い出す様に出発させた。
アクトさんやレイツェルさんについて来てもらえば良かった、不安だ。




