初クエスト
半ば強制的に酒場を追い出されたヒロは、クエストの紙を見ながら歩みを進めていた。
場所は、リベラル本拠地の近くにある街【カイタン】からそう遠く無い場所ではあるものの、魔災などの影響もあり魔物の数が増えている【ユドル大森林】と言う場所である。
一度、リベラルに戻り今回のクエストのことをパーティーの皆んなにも伝えると、アクトは付いてきたがり、レイツェルは少し怒っているふうに感じたが、ジールさんに1人で行け、と言われ泣く泣く1人でユドル大森林に向かっている。
道中特に変わったことはなく、ユドル大森林には安全に到着する事ができた。
そう、道中までは…。
「ワァァァァァァッッッ!!!な、何あの魔物!デカすぎッ!怖すぎッ!」
ヒロはユドル大森林に入った途端、そのままサイズを80cm程にしたバッタの魔物に遭遇し、追いかけ回されていた。
「どんだけ、ハァ、追いかけてくるんだ?」
幸いこのバッタには、人を食べたり危害を加えたり出来るほどの能力は持ち合わせていない、だが、動くものを見かけると目で追い足で追いかけてしまうと言う習性を持ち合わせている。
その習性を知らない者は、バッタに追いかけ回された挙句、他の危険性の高い魔物と遭遇して、命を落とすなんてケースも数多くのある。
もちろん、ヒロはそのことを知らないのである。
それから10分ほど、ヒロはバッタとの駆けっこに夢中で、逃げ切れたはいいもののかなりの体力を消耗していた。
「ハァハァ、もう、キツイ、とにかく、ハァハァ、一旦休もう」
息も絶え絶えになりながら木に寄りかかり、息をつこうとする。
「ギ、ギィイ」
ん?上からの何かきこえたような。
首を上に傾けると蜘蛛のような形をした、人の大きさくらいある魔物がこちらを狙うように見ていた。
もう帰りたい。
今回の討伐目標である【カマイタチ】は、ユドル大森林の外側にいる虫型の魔物を主な主食にしているらしく、外側を移動していれば見つかるらしいのだけど…こんなの耐えられないよ!虫型の魔物が想像以上にでかすぎる、それにどこにでも潜んでいる、こんなに多いとは言ってなかったけど。
疲れた表情で立ち尽くしているヒロの耳に先ほどまでとは違うするどい物で、木々や葉を素早く切るような音がきこえてくる。
「この音、もしかして?」
ヒロは、音の主を探すために森の少し深い場所へ入っていく。
森の外側から中心に向かうほど虫型の魔物は姿を減らしていく、それどころか、中心に進めば進む程魔物自体の数も減って行った。
シュパッシュパッ、と音がかなり近づいてきてはいるのだが中々姿を表さないでいた。
「どこだ?こっちから音は聞こえるんだけどな」
首を左右に動かしながら辺りを見る、かなり近づいていると思うが姿が見えない事に違和感を感じる。
音が反響して正確な位置が分かりにくくはあるものの、すぐそこでなっているのは分かる。
すると、先ほどまでなっていたシュパッという音が止まる、森はすぐに静寂に包まれ、ヒロはより一層警戒心を高める。
精神を尖らせゆっくり周囲を一周見渡す、風で揺れる草木の動き一つ見逃さないように慎重に。
ヒロが、ゆっくり息をのんだ瞬間に、カチカチッ、と硬い物体をたたき合わせる音が聞こえる。
ヒロは動揺してしまった、その音は自分の真上から聞こえたからである。
「上!?」
咄嗟に上を向くとそこには、爪をこちらに突き立てた魔物が飛び掛かってきていた。
「危ッ!うっ」
攻撃を交わすために大きくのけぞるも、タイミングを逃して、左腿の上を切り裂かれる。
幸い深くは入らなかったものの、血は出ており機動力を削がれた事に変わりはなかった。
「血が出てるし痛い、けど大丈夫、動けないほどじゃ無い」
初めての実践であり、ダメージを受け痛みも感じる、だが、ヒロはこれまでに無いほどに冷静だった。
カマイタチの方を見る、相手もこちらの様子を伺って爪を真っ直ぐ突き出していた。
カマイタチの最大の武器は、その脚力にある、最高速度は、時速にしておよそ80km程の速度で移動する事ができ、その移動速度を生かし両手についた体の半分ほどの大きさの鋭い爪で獲物を切り刻む。
ヒロはゆっくりと、持っていた剣を抜刀して構える、その間もカマイタチから目は離さずに。
ヒロは理解していた、次にカマイタチを見失った時、視界に入ってくる様なことはしないだろう、そうなったら最後、最速の攻撃を喰らう事になるだろう。
どうする?左足に怪我を負っているので長期戦は分が悪い、逃げるのも万全の状態ですら自殺行為にしかならないだろう。
頭を回し全力で戦略を考える、そして一つの考えに至る。
【魔法で相手の意表をつく】
だけどもし、失敗すればここでやられるかもしれない、でも、それしか無い。
覚悟を決めて魔力を練り始める、が、動くのを待っていたかまいたちが自慢の脚力を駆使した、ノーモーションによる攻撃が腹部に目掛けて飛んでくる。
「グッ」
カマイタチの鋭利な爪により、ヒロの腹部切り裂いた、剣で軌道を逸らしたために致命傷は避けたものの、腹部には爪痕ができていた。
「ま、マズイ」
分かってはいたものの反応できなかった、素早い身のこなし、目で捉える頃には目の前にカマイタチがいた、剣で受けたものの勢いを殺しきれずに、お腹を貫かれた。
血が出過ぎてるし、身体が鉛のように重たく感じ、ここで死んじゃうかもしれない、怖いな。
片膝をついてかろうじて立っている状態のヒロは、もうカマイタチの姿すら捉えられないでいた。
カマイタチも勝ちを確信したのか爪を突き立てながら、ゆっくりとヒロの背後に迫る。
「ハァ、ゼェ、本当に、帰ればよかった、かな」
最後にポツリと呟き、ヒロは地面に伏して倒れてしまった。
そんな無防備なヒロを見て、カマイタチは爪を上に掲げ大きく振り下ろす。
瞬間、ヒロの体に一筋の光が走る、それに気づいたカマイタチは驚いたように少し距離を取る、その広を包み込む暖かな光がヒロの腹部と左腿の傷に集中しているようだった。
光がヒロを包み込むと同時に目を覚ます。
傷を受けた事などなかったかのようにヒロの体は正常な状態になっていた。
「な、なにこれ?」
確かカマイタチにお腹を切られて頭がクラクラし始めて、それからえっと?どうなったんだろう、でも体から痛みは消えている、それからこの体内を巡る暖かなものはなんだろう?もしかしてミネアさんが何かかけてくれていたのだろうか?そんな魔法あるのだろうか?わからない、ん?あれは?。
ヒロを包み込む光が消えると同時に、1匹の多量の魔力を纏う蝶がヒロから離れて行くのが目に入った。
その蝶に不思議と気を惹かれ、触れようとするもひらりと避けられてしまい、そのままどこかへ飛んでいってしまった。
そしてヒロはその視線の先にいた、脅威を思い出す。
カマイタチはこちらを驚いたように見ており、かなり警戒しているように感じる。
こちらをギロリと見るその眼光に先ほどの痛みを思い出し逃げたくなる、だが何故だろう、どこか勝てる気がしている自分もいた。
ヒロは剣を構え、魔力を練り始める。
魔力の放出を体内で行い、身体能力の向上を測る、すると何か違和感を感じる。
今までは精度も安定せず不安定でムラがあったのだが、今は何故か安定しているし出力も申し分ない。
理由はわからない、でもこれなら勝てる。
「よしっ!」
声を出し、かけ出すといつものヒロの1.2倍ほどの速度で動けている事に気づく。
ヒロはカマイタチの近くで剣を振るもカマイタチに避けられる。
「やっぱり早いな、でも近づける」
このまま攻め続けて相手の隙を作る、そして確実に決めれる時に、魔法を叩き込む!。
確証はない、でも今なら魔法を使える、そんな気がする。
そのまま、もう一度近くまで行き、今度は足を目掛けて剣を振る、カマイタチは上に大きく飛び上がり木に飛び移ろうとする。
「今だ、【ライトスピア】ッ!」
空中にいるカマイタチ目掛けて、手をかざし魔法を宣言する。
それに呼応したかのように、ヒロの魔力と自然のエネルギー合わさり、青い雷で生成された槍の形状の魔法が発現し、カマイタチ目掛けて放たれる。
カマイタチは、反応するもの空中では身動きが取れずにそのまま着弾する、全身を覆うほどの雷を受け、カマイタチはそのまま地面に落下する。
「や、やった、1人で魔物を倒せぇたぁ」
ヒロは喜びと同時に、疲労感と頭を打ったような苦痛により、そのまま再び地面に倒れて気を失ってしまった。
ヒロが気を失って少し立った後、近くの草むらがカサカサと音を立てて揺れている。
その者は、ヒロが気絶している事に気付き確認すると、キョロキョロと周りを見渡し状況を確認する。
「どうしよう、私1人じゃ運べないよ」
そう言うとヒロの腰の部分に付いていた球体を発見する。
「うーん、使っていいよね?」
その者は、迷いながらもヒロの腰についている球体の魔法具を手に取りそのボタンを押す。
すると球体は光を放ち、魔力で信号を飛ばし始める。
「動いたね、よし、また会えるよね、芦毛の君、次は話そうね」
ボタンを押し、魔法具が作動したのを確認してからヒロに語りかけ、森の中に再び姿を消してしまった。
その20分後、信号を受け取ったジルが現場に到着し、ヒロを発見した時には、周囲に簡易的な者ではあるが、魔除けの魔法がかけれていた。
そんなこんながあり、不思議がりながらも気を失っているヒロを町まで連れて帰り、ヒロの初クエスト【カマイタチの討伐】は、成功?した。




