魔女
リベラル本拠地は、大陸中央部の南側に位置しており、北部からの魔界侵攻とそれを抑える地界の民による、【地魔界戦線】と呼ばれる位置よりも少し下の場所にある為、これまで魔災の影響を直に受けることは無かった。
ヒロが蝶の一族に連れ去られてから、1年。
「レイ先輩、待ってくださいよ〜私も行きますから」
「ただの買い出しだし、別についてこなくて良いのよ?」
ここは、リベラル本拠地 地下一階にあるリベラル第二パーティーの生活している階層である。
ヒロが連れ去られてから、半年後に第二パーティーは新しい仲間を迎えていた。
名を【アジサイ】と言う、13歳の女の子であり、その特徴的な黄金色に輝く髪が生えており、整った容姿を持っているのであるのだが、首に四角形を斜めに倒し3つ横に繋いだ様な紋様が入っている。
戦闘面でも、弓と細剣の扱いを故郷の村でみっちり鍛えられたのか、即戦力になりうるレベルであり、魔法の方も【武器を作る魔法】を得意にしており、基本武器は持ち歩かないのが彼女のポリシーである。
「レイ先輩、さぁ行きましょう!」
アジサイは、レイツェルの方を向き手を差し伸べながら走る、レイツェルは彼女の行動に慣れた様に注告する。
「分かったから、走ると転けるわよ」
「大丈夫ですヨォブフォ、イタイョ」
フラグを回収するが如く、盛大に顔面から地面に倒れるアジサイに、レイツェルは呆れた様に頭を抱える。
そして心の中で思う(やっぱり1人で行こうかしら)と。
街の市場は、トネール程ではないがそこそこの大きさがあり、そこで今日の夕飯の買い物をしていた。
「レイ先輩!この髪飾り可愛くないですか?」
「そうね」
「レイ先輩!あそこの見てくださいよ、カマイタチの肉串ですって」
「美味しいわよ」
「レイ先輩!…レイ先輩!………レイ先輩!……」
市場に出た途端、アジサイはレイツェルに話しかけ続けて簡素な返答をもらうのを繰り返し続けていた、彼女からしたらレイツェルと話すことが楽しいのだろう。
アジサイは、リベラルに来て1年ほどなのだが、レイツェルにかなり懐いていた。
アジサイの故郷は、【ザハール】と言う名前であり、魔災に対抗するべく全町民が幼い頃から戦闘訓練を受けている戦闘民族である。
例に漏れず彼女も戦闘訓練を行なって居たのだが、ある日、何処からかその噂を聞きつけた魔族が3名ほど村を壊滅させる為に送られて来てしまった。
魔災に対抗する為に鍛えて居たとは言え、複数の魔族に健闘したものの魔族1名と1人を残した村の壊滅を交換する形で幕を閉じた。
その時の生き残りがアジサイである。
リベラルが到着した時には、もう村は焼き払われており、残りの魔族2人は、死骸を貪り食していたのだが、第二パーティーの手により2体とも討伐に成功した。
その時の、戦闘を眺めたアジサイはその時初めて見る、レイツェルの戦闘に心を惹かれ、それ以来レイツェルにベッタリなのである。
「取り敢えず、暗くなる前にご飯を買いに行きましょ」
レイツェルは少し疲れた様に言う、アジサイが空を見上げると日が傾き始めていた。
「あれ、もうこんな時間なんですか?早い所帰ってご飯作りましょう!」
元気に返事をして、アジサイはレイツェルの手を引いて歩き出す、レイツェルは引かれるがままに本来の目的地へと歩き出した。
「いやぁ、たくさん買いましたね!今日は何作るんですか?」
買い出しを終えて帰路についている頃、アジサイは荷物を体の前で抱える様に両手で持ち顔だけをレイツェルの方に向け言う。
「もう遅いし簡単なもので良いんじゃないかしら、野菜炒めとか?」
少し考える様返すレイツェルの言葉を聞いて、アジサイは少し顔を曇らせて言う。
「えぇ〜、私野菜苦手ですよぉ」
「わがまま言わずに食べなさい」
「うぅ、分かりましたよぉ」
苦い顔をするアジサイを見て、レイツェルは少し笑う、そんな普通の会話をしながら帰宅していると、辺りはすっかり暗くなって居た。
「【サンマグニード】」
何処からかそんな声が街に響く、アジサイが声が聞こえて不思議そうな顔をしながらレイツェルの方を見る。
「レイ先輩、今何か聞こえました?レイ先輩?」
後ろを振り向いて大きく動揺しているレイツェルを見て不思議がりながらもアジサイは振り向く、すると暗くなって来た空が紅く照らされているのに気づく、そしてその原因がすぐ目の中に飛び込んでくる。
「な、なんですかあれ!はっ、魔族!?」
「まずいわね」
その正体は、太陽と見間違うほど大きな火球だった、その火球はゆっくりと、だが確実に、この街カイタンへと降下して来ていた、どれほどの被害が出るかは一目瞭然、街が燃え尽きるのは確実だろう、それからカイタンが大混乱になるのに数分と掛からなかった、人々が火球から逃れる為、様々な方向へ走り出したが、誰もその火球からは逃れられないと分かる、それ程までに絶大な威力と大きさを秘めているのが見て取れる。
レイツェルは少しの迷いの後、決心する。
「アジサイ!なるべく多くの人を集めてちょうだい」
なぜその指示をされたのかをアジサイは理解しては居なかった、だが、レイツェルのことを信用して居たのですぐに行動に移す。
「皆さーん!ここに集まってください!出来るだけ早く!」
逃げ惑う人々の悲鳴や怒号が飛び交い、現場は収拾がつかなくなって居た為に、アジサイの声は誰にも届かずに、困り果てた顔をして居た。
その頃、レイツェルは全身から魔力を練り上げ手に集中させて居た。
「【code 0】起動…」
レイツェルの黒い角が、これ以上無いほどまでに、水色の光を放つ。
「これじゃ足りない、もっとよ」
そう呟いた後により光を強く放つ、レイツェルの綺麗な赤の髪が水色に染まるほどに、そのまま両手を下にかざす。
「【皆さーん!助かりたいならこっちに集まってくださーい!!】」
周囲一体にアジサイの声が響く、先ほどとは違い騒がしい民衆の声を押し除ける様に遠くまで、はっきりと聞こえる。
その声に藁にもすがる思いで皆が集まる、だが、自らの力で助かろうとする者もおり、それほど人は集まらなかった。
この間も魔法はカイタン目掛けて降下を続けている、レイツェルはその様子を見て一言呟く。
「すまないみんな」
次の瞬間、彼女の中に蓄えられた魔力を一斉に放出する。
放出された冷気は、数秒と経たないうちに街全体を包み込む、街自体がそんなに狭いわけでは無い、だがそれ程までに素早く広がっていったレイツェルの冷気に帯びた魔力が街全体を覆い、それを確認したレイツェルは魔法を唱える。
「【グランデシア】ッ!少しの辛抱だ、許してくれ」
魔法の発動と共に、先ほどまでの騒がしさが嘘の様に、人や動物、水や自然さえも街全体を一瞬にして凍てつかせた。
直後、火球は街に衝突する、轟音と凄まじい振動こそするも、その高温を持ってしても、氷を溶かすことはできなかった。
「ガハッ!」
レイツェルは魔法を唱えた後、血を吐いて地面に倒れてしまう、ここまでの大規模魔法を行使できたのは、ツノのおかげであり、彼女自身の身体はとうに限界を迎えていた。
周囲一帯はレイツェルから10メートル圏内はのみ、氷の魔法が解除されていった。
「レイ先輩ッ!大丈夫ですか!?」
アジサイはレイツェルが床に倒れているのに気付くと近づき声をかけるが、レイツェルは完全に意識を失って居た。
アジサイは動揺しながら周囲を見渡す、周りには20人にも満たない数しか残っておらず、皆が動揺しているが、その中に見覚えのある顔を見つけたので呼ぶ。
「カイリー先輩!レイ先輩を助けてください!」
カイリーを真っ直ぐ見つめて、今にも泣き出しそうな声で懇願する様に言う。
その状況に気づいたカイリーは、まだ状況が飲み込めて居ないが、真っ直ぐアジサイ達の方へ歩いていく。
カイリーは現在、医療部隊の見習いを卒業し、正式に医療部隊所属になっていた。
レイツェルのそばにきて、カイリーは脈を測る、手には確かな脈が伝わってくる、生きてdaいるのだ。
「だ、大丈夫ですぅ、い、生きてはいますけど、体温がかなり低いので、温めてあげないと行けないかもですぅ」
その言葉を聞いて、アジサイは一息つく、だが今の状況は全く息をつける状況では無かった。
周囲を見渡すとほぼ全てが氷に包まれていた、この状況を見て、少し自分が先輩と呼び馴れ馴れしくしていた彼女の力に少し恐怖する。
それは勿論、アジサイだけでは無かった。
「バ、バケモノ…」
レイツェルが助けた住民の口からポロリと漏れてしまったかの様な、か細い声が出る。
だが、それで十分だった。
「ツノが生えてるぞ!アイツも魔族なんじゃ無いのか!?」
「確かにそうだわ!街を元に戻してよ!」
「早くそいつの息の根を止めろッ!」
民衆は口々に恐怖からか、レイツェルに罵声を浴びせる、そんな状況にアジサイは動揺していた、そして震える声で反論する。
「ど、どうして…ですか?貴方達は…レイ先輩に助けられたんじゃ?」
そんなアジサイの声を聞いて、少し苦い顔をしたと思ったが、直ぐに民衆も反論する。
「そ、それはそうだが、じゃあこの氷はどうするんだ!?俺の家族はどうなるんだよ!」
「そうよ、私の家族だって、この氷の中で生きているかどうか、わからないじゃ無い!」
「自分の命だけ助かっても、素直に喜べないんだよ!娘がいないと、なんで、俺じゃなくて娘を助けてくれなかったんだ」
そんな言葉の数々に、アジサイは怒りすら覚える、そして怒りのままに言い返そうと立ちあがろうとした時に、気絶していると思っていたレイツェルに腕を掴まれる。
「レ、レイ先輩、大丈夫なんですか!?」
「えぇ、大丈夫よ、ちょっと寝てただけだから」
レイツェルは、血を吐きながらもフラフラしながらアジサイの助けを借りて立ち上がる、そして、みんなの方を見て頭を下げる。
「聞いてほしい、今の私の力ではこの氷を解除することはできないわ」
その言葉を聞いて少しざわっとするが、民衆が話し始めるよりも早く、続きを話す。
「だが、安心して欲しい、氷の中の人達は生きているし、必ずこの魔法を解除すると約束するわ、それでも不満がある人は出てきてちょうだい、満足がいくまで、私に不満をぶつけるといいわ」
その堂々とした姿に、皆が無言で注目して居た、彼女は本心で話しているのだろうと、だが、じゃあ一体この苦しみややるせ無さは何処にぶつければ良いんだと、何処に吐き出せば良いんだと、皆がただ無言で立って居た。
心の奥底では分かっていたのだ、この目の前にいるツノの生えた女性が自分を守ってくれたのだと、なので誰も前に出るものはいなかった。
そして無言で立ち去ろうとしている彼女を自責からか、誰も引き止めることはできなかった。
その後、この時助けられた人々以外からは、1人の化け物が、国一つを氷に閉じ込めた大事件として取り上げられ、世界中に指名手配される事になった、事件の名を【カイタン永久凍土】と言われ、首謀者とされているのは、ツノの生えた“青髪の魔女 レイツェル”と伝えられている。
この事件をヒロが知るのは、まだ先の話だった。




