試練の門 ②
「じゃあ、行ってくるよ」
そう言うと、少年は剣を腰に携えて、自信に満ち溢れた表情で屋敷を出る。
その少年の背中からは、もうが弱い子供の背中ではなく、立派な男の背中になっていた。
「頑張ってね、私応援してるから!」
気合いを入れる様に、背後から声をかける、そんな彼女に少年は笑顔で手を振る。
「うん、今日こそ、終わらせてくるよ」
そんな少年の笑顔に、少女は何処か悲しそうな顔をする、少年が試練の門をクリアしてしまえば、この屋敷で一緒に暮らすのももう終わってしまうのだ。
意中の相手とそう簡単に会えなくなるのは、年頃の子には、簡単に受け入れられることではないだろう、それでも彼女は笑顔で少年を送り出す。
屋敷を出た後は、これまでのことを思い出し気合いを入れ直す。
少年は何処かで確信して居たのだろう、今日で試練の門を踏破すると、もう直ぐみんなに会えるのだと、だからこそ、今日はより一段と慎重になっていた。
そして少年は門の前につく。
「フゥー、よし、行こう!」
深く一つ呼吸をして、少年は勢いよく門を両手で開ける。
門の中は、例の如く薄っすら霧に覆われている、だが少年は迷いなく歩みを進める。
試練の門第一の試練【ホワイトデビル】
「キョルキョル」
「そこかッ!」
声に反応した少年は、素早く地を蹴りホワイトデビルに切り掛かる。
その間、脅威の“2.5秒”ホワイトデビルは反応する間もなく少年に切り捨てられた。
「ふぅ、結構慣れてきたな、よし次だ」
試練の門第二の試練【ブルケンタウロス】
この魔物は、上半身がヒトの形下半身が馬の形をした異形の魔物であり、その大きな戦斧を武器に、馬の機動力を使い振り回してくる厄介な魔物である。
少年が歩いていると、何かが近づいてくる音がする、少年はこれまでの経験から直ぐにその正体を察し戦闘体制に入る。
「オゥリャァァ」
背後から雄叫びと共に時速50キロほどの速度で近付いてくるブルケンタウロスに気付き、右手を突き出して宣言する。
「【スパーク】」
宣言と共に、雷の魔法がブルケンタウロスの体を貫く。
それでもその強靭な体で受け止めてより加速する、そしてその戦斧を少年の首目掛けて振り下ろす。
ガキンッ!そんな大きな音共に、戦斧は空高く弾かれブルケンタウロスは、驚きの表情をする、そう、少年の自分の物とは違う、小さな剣で弾かれたのが信じられなかったのだろう。
「ハァッ!」
少年は、振り上げた剣を振り下ろす動作で、ブルケンタウロスの胴体を二つに切断する事に成功した。
試練の門第三の試練【レッドサラマンダー】
このモンスターは、獲物を見つけると赤い体液を吐き出し攻撃する、その体液は触れただけで炎に焼かれる様な痛みが接触部から全身へと広がり、やがて痛みで気を失うか死に至る、そんな危険な魔物である。
「うぅ、ここっていつ通ってもジメジメしてるし歩きにくくて嫌なんだよなぁ」
歩くたびに、ネチョグチョと言った感触が足から伝わる様な、泥に塗れた大地であった。
「さっさと抜けよう」
それを最後に無言でそそくさと通り過ぎようとする少年を黙って見逃す様な魔物は、ここには居なかった。
「キィシャッ!」
その鳴き声と共に放たれた赤い液体は少年に向かって放たれた、だが、少年は反応して避ける事に成功するがしかし、避けた時の勢いのまま、泥に足がはまってしまう。
「あれ、抜けない、ちょっ、ちょっと待ってね」
必死に抜こうとするも完全にはまってしまっている、それを好機と見たのかレッドサラマンダーは少年に目掛けてもう一度赤い体液を吐き出す。
少年は上半身は避けた者の埋まって居た足にその赤い体液を浴びてしまった。
「最悪、これ痛いんだよなぁ」
そう呟いた次の瞬間、少年の足に激痛が走る、何回くらおうともなれる物ではない、足から徐々にその痛みが広がり始めるのを感じる。
「【アケリー】」
少年のその詠唱によって、痛みが引いていく、そして次第にその痛みを完全に消し去ってしまった。
そう、これは蝶の一族に伝わる回復魔法である、身体の中に入ってしまった毒やアルコールなどの異物を取り除く魔法である、強くなる為に全てを試してきた少年は、回復魔法も覚えて居たのだ。
その少年の様子を見て、レッドリザードは不思議そうに首を傾げて居た、なぜ自分の攻撃が効いていないのだろう、そう考えていたのかもしれない。
「お返しだよ【ライトニング】」
少年は、右手を突き出し指先をレッドサラマンダーに向ける、そして詠唱と共に、その指先からバチバチとうねるか雷が顕現し、放たれたそれはレッドサラマンダーの顔面を貫いて、一撃で絶命させてしまった。
そして少年は思う。
「この足、どうやって抜こう」
そこから、少年は、試練の門を順調に進んで行き、試練の門第四の試練【ブラックカル】第五の試練【イエローバード】第六の試練【パルプルブル】第七の試練【ブロンズオーク】第八の試練【シルバーゴーレム】第九の試練【ゴールデンピート】の全10ある試練の内、9の試練までを順調にクリアしていった。
残すところは最後の試練。
試練の門第十の試練【レインボースライム】のみとなった。
少年も、レインボースライムと、数回しか戦ったことが無く、どれもあまり動きを見れずに退場させられている。
このスライムに勝つ為に、試練の門に潜らずに、5ヶ月外で修行をしていたのだ。
なので少年は今、かなり緊張してはいる者の、少しの自信はあった。
最後の試練と言うともあり、神殿の様なところで奥に重厚な扉が見えており、あそこが出口なのだろうと分かる様になっていた。
手を伸ばせば届いてしまう様なそんな扉を守っているのが、このレインボースライムだった。
大きさで言うと、少年の3倍ほどあり、縞々に色んな色が流動的に動いているそんな見た目をしていた。
「目がチカチカする」
少年はこう考えていた、基本的なスライム系の魔物と一緒で、体の何処かにある核を捉えれば倒せるのだと、だが、スライム系は身体の大きさに関係なく、半径5センチの球体である事、それを知っていた少年はそして、縦の大きさだけでも自分の3倍ほどのレインボースライムの核を破壊するのが、どれほど難しいことか、少年は今になって思う。
「これどうすれば良いんだよ」
そんなことを呟いている少年に、レインボースライムは容赦なく攻撃を仕掛け始める。
レインボースライムの表面色が赤一色になる、すると、レインボースライムから、火球が2、3発放物線を描きながら少年に襲いかかる。
少年はそれに合わせて走り出し、火球を避けると、少年がいた場所に着弾すると、地面を焦がす勢いの火柱が立ち上がる。
「凄い威力だな」
火柱を見つめそんなことを言っていると、レインボースライムの表面が青くなっている事に気付く、そして水の扇形の薄い刃が四方八方あらゆる方向へ攻撃を開始する。
触れる者全てを切り裂きながら壁や床、天井にまで切り傷を刻みつけていく、少年は目で追い避け続けるも、これ以上は体力が奪われ続けるだけだろと感じ、反撃に出る事に決め、両手を突き出す。
「【デュアルスパーク】」
少年は、両手から二発の雷の魔法を放ち、その魔法は真っ直ぐレインボースライム目掛けて放たれる。
しかし、レインボースライムはそれを察知し、表面の色を茶色に変化させ、土の魔法で土の鎧を纏い防御されてしまった。
「何属性使えるんだよ、もしかして全部とか言わないよね?」
少年は驚いていた、だがその少年に答え合わせをするかの様に、レインボースライムは表面を黄色に変え、雷の魔法を全身から放出し始める。
「マズイッ!」
雷の魔法は水の刃よりも不規則に扉のある部屋全体を攻撃し始める、少年はかろうじて避けてはいる状態であり、なんとか反撃の機会を伺っていた。
少年は体内に魔力を循環させる、すると少年の動きは徐々に素早く鋭敏になって行く、魔力の循環によって身体能力を向上させているのだ。
「これなら見える」
少年は、蝶の少女から授かった、蝶の一族伝統の製法で造られた剣を手に取る。
そして、雷の間を抜ける様にレインボースライムとの距離を詰めていく。
それを良しとしなかったレインボースライムは表面の色が茶色に変化し、周囲に岩で剣山を生成する。
それを見た少年は上に高く飛び上がり、レインボースライム目掛けて、上から急襲し、剣山諸共縦に真っ二つにしてしまう。
「無いッ!」
核を潰した感触がなかった為にすかさず横にも斬撃を入れ、直ぐに斜めにも2撃斬撃を入れる。
すると、斬撃によって切り離されたレインボースライムは各々が様々な色に変色する。
「ワーキレイー」
少年はこれから起こることを察知したのか、ふざけて見せる、だがレインボースライムは止まらずに4色に光を放つ。
少年はそれに合わせて後ろに飛び大きく距離を取ると同時に、自分の前方に魔力を集中させて守りの体制に入る。
少年が地面に着地することなく、レインボースライム達による、一斉射撃が始まった。
火、水、土、雷の魔法による、途切れることのない魔法は、5分間と言う短くも長い時間少年目掛けて休みなく放たれた。
魔法を撃ち終わり各々がまた一つの体に戻ろうと地面を這う様に、一箇所に集まる瞬間に、ピカッと光が差す。
それを察知してレインボースライムは避けるも一部は避けきれずに魔法が直撃する。
「あぁ、折角タテハが作ってくれたのに、次会ったら謝っておかないと」
なんと、少年は魔法で5分もの間狙われていたのだが服が少し焦げるほどのダメージで魔法を返していた。
レインボースライムは一部を失い、大きさが3分の2ほどの大きさになっていた。
レインボースライムが怒ったのか、自分の体を大きくして体の色を様ざな色に変色させて少しずつ、徐々に光始める。
「最後の大技?ってところかな?じゃあこっちも本気出さないとね」
少年も身体に魔力を集中し始める、それは、レインボースライムをも凌駕する速度だった。
もともと、魔物は生まれた時から身体の一部である、魔石を心臓の代わりとして持ち、生まれた時から魔法を使う、言わば魔法のスペシャリストである。
だが今、少年の魔力操作はそれを上回り、より多くの魔力をより短い時間で集め、自然エネルギーと融合する。
少年だけでなく、周囲の空気までもが変化し始める。
そして、少年は両手を前に突き出す、レインボースライムも少年を見つめる様に、魔法を蓄え切り、発行していた、両者同時に魔法を放つ。
「【ライトスピア】」
レインボースライムが身体を様々な色に変え、4色の魔法を同時に放つ、それぞれが渦を巻く様に回転しながら混ざり合うことはなく、4色のまま少年に向かって放たれる。
それに対して少年は、雷の魔法一つで最大出力で迎え撃つ。
両者の魔法が衝突する。
事はなく、少年の雷の魔法がレインボースライムの魔法の中央部をすり抜ける、レインボースラムの魔法よりもかなり速い速度ですり抜けていき、本体の核を貫く。
魔法は操作を失い、少年を躱すように周りに飛び去っていった。
「やっっっったああぁぁぁぁぁ!やっと出れる!やっとみんなに会いに行ける!」
少年は両手でガッツポーズをとり、駆け足で試練の門の出口であろう場所へと駆けていく。
少年よりもかなり大きな扉を目の前にして、これまでの苦労が蘇って、目が潤んでくる。
だが、それらをが堪えて少年は門に手をかけた。
扉を開けた後は、光に包まれ気がついたら少年は森の中に立っていた。
そして森の空気を大きく吸って、少年は笑う。
「あれから4年かぁ、みんな元気にしてるかなぁ」
少年…いや、ヒロがカイタンに起きた事件を知るのは、まだ少し先の話。
「出口はユドル大森林って聞いてたけど、なんか寒くない?」




