304日目①
冬の早朝。カーテンの隙間から差し込む光は、窓に張り付く結露の水滴を床に映して、水玉模様の影を描いていた。
室内は温かく、適度な湿度があった。魔導具様様だ。
しかしながら、ウーノの唇にはひび割れがあった。
ソファから起き上がった彼は、欠伸をした拍子にパックリ割れた唇の痛みと血の味に顔をしかめながら、床に足を付いた。
ギィ。小さく音が鳴る。
そのまま歩いて、ベッドに歩み寄った。
「おはよう、ミーシャちゃん」
寝台の上に横たわる、毛布に包まれた小さな塊。2週間前と変わらない、ガラス塗れの体。
返事は無い。分かっている。
それでもウーノは寝台の横に膝をつき、毛布をめくった。
まず、おむつの確認。腹部の布を開いて、汚れていないかを見る。
最初こそ色々と迷いがあったが、イネッサのスパルタ教育の成果で、今ではすっかり手慣れた物だ。布を外し、湯で絞った布巾で丁寧に拭き、新しい布を当てる。
魔導具で手を洗うと、次は流動食の準備だ。
すり鉢に根菜と乾燥豆、粉ミルクを入れて、すりこ木で潰す。水を少しずつ足しながら、滑らかなペースト状にする。粒が残ると喉の穴に詰まるから、念入りに。
筋トレが趣味で栄養学の知識が多少なりともあったウーノは、色々と配合を工夫していた。
その成果か、2週間前よりミーシャの肌、下腹部の肌の艶が、良い気がする。
喉元のガラスに空いた穴に、匙で少量ずつ流し込む。
嚥下反射。ミーシャの喉が、かすかに動いた。水魔法が使えないウーノは、匙を止めて、慎重に呑み込むのを待った。
イネッサは細い水流で胃の中まで無理やり流し込んでいたが、ウーノにそれは出来ない。喉を詰まらせないように、丁寧に、焦らず進めて行く。
「ミーシャちゃんは、ポツカの黒パン、食べたことある?少し酸味があって、味の濃い料理に合うんだよ。次のご飯は、パン粥とかにしてみようか?」
笑いながら話しかける。返事は、やはりない。
流動食を与え終えると、次は体を拭く。
湯で温めた布巾を絞って、ガラスに覆われた首筋からそっと拭いていく。
腹部に差し掛かる。生身の肌が残る部分、へそから下腹部にかけて。ここを拭くときだけ、布巾の温度を確かめる。熱すぎないか、冷たすぎないか。
ふと、ガラスの境界に目が止まった。臍の少し上、昨日まで生身だった場所に、うっすらと青い膜が張っている。
ゆっくりとだが、ガラス化がまだ侵食しているのだ。薄皮程度の厚さのガラスが、残りの皮膚を覆いつつある。
指で触れると、ミーシャの体が微かに身じろぎした。腹筋が、ガラスの殻の内側でほんの少し収縮するような、小さな動き。
その身じろぎに合わせて、薄い青のガラス膜が、パキリと割れた。
肌が露出したそこを、慎重に布で拭く。ミーシャの肌が傷つかないように、慎重に。
その際に、ガラスの破片が指先をかすめ、細い赤い線を残す。ちくりとした些細な痛み。しかしこれも、今までの介護の中で何度か遭遇したことだ。今更驚きも無い。
ガラスを取り除くその手には、小さな切り傷が無数にある。
それは一般的に苦労の跡だが、ウーノには名誉の負傷であり、誇らしい傷跡だった。
「……大丈夫だよ。ほら、割れた。ちゃんと、押し返してる」
下腹部にガラスが張ろうとすると、ミーシャの体は拒絶する。それが無意識のただの反応なのか、それとも何か別のものなのか。今はまだ、ウーノには分からない。
ともあれガラスの破片を丁寧に取り除き、体を拭き終えた。
傷だらけの手を膝で拭い、汚れた布巾をまとめる。回収したガラス片を、専用のくず入れに納める。
最初のころは一連の作業を終えるのに、1時間以上かかった。しかし今は30分もかからない。
「さて。今日は何の話をしようか」
一通り作業を終えると、椅子を引き寄せ、ミーシャの傍に座った。
ガラスの額をそっと撫でる。冷たく、硬い。それでも朝の挨拶だ。
「……何を話そうか。もう、ルカ君の話はしたし……ああ、そうだ。昨日、エカテリーナがさ……」
話しかける。毎朝、ずっと。返事が無くても、声が届いていなくても。
ただ今朝は、少しだけ、話題を探す時間が長かった。
話題に詰まりつつ、生身の皮膚を撫でながら、ひたすら話しかけてしばらく。日が完全に上がって、宿が面している通りから日常の雑音が聞こえて来たころ。エカテリーナが宿に戻って来た。
部屋の戸をリズミカルに3回連続。その後に続く『わたくしですわ』という声で、ウーノは立ち上がって走って行き、戸を開けた。
最近は、エカテリーナもイネッサも、二人とも外出することが多い。
防犯のために、色々と合図を決めているのだ。
「お帰り、エカテリーナ。お疲れ様」
戻って来たエカテリーナは、目の下にクマを作っていた。
最近の彼女は、あまり休めていない。冒険者をしているのだ。
「ただいまですわ。朝の世話、もう終わりましたの?」
「ああ。流動食も食べたし、おむつも替えた。体も拭いたよ」
エカテリーナが外した手甲を受け取り、脱いだ外套をハンガーにかけながら、ウーノは答える。
体が軽くなった彼女はグウゥと伸びをして、ソファに座り込んだ。
「そう。ご苦労様ですわね」
空いたドア越しに、エカテリーナはちらりとミーシャの方を見た。
寝台の上の、変わらぬ姿。ただ沈黙する、半分無機物になり果てたミーシャ。しかしよく世話された痕跡の残る、すり鉢や干された布巾を見て、彼女は小さく微笑んだ。
エカテリーナは懐から巾着を取り出してテーブルに置いた。マズールイ魔境での冒険者家業で得た報酬だ。
かつてイネッサから渡された、冒険者の越境許可証。それを流用して、ミーシャの名義で魔物討伐をこなしている。お陰でいきなりBランク扱いで仕事を受けられた。
Aランクのブランシェより強い彼女からすれば、色々と冒険者の常識を知らずとも、Bランクの依頼は軽くこなせるのだ。
「今日の討伐報酬は、これですわ。宿代と食費を引いて……まぁ、ギリギリですわね」
「ごめん……本当に、負担ばっかりかけて。俺も何か、稼げれば良いんだけど」
ウーノは眉を下げた。路銀は、とうに使い果たしていた。
元々イネッサの捕虜解放で、手持ちの資金はだいぶ減っていた。
そして1週間前、緊急回復薬を購入した。それによって、残りはすっからかん。
今はエカテリーナが冒険者家業で、路銀を稼いでくれていた。
緊急回復薬はと言うと、喉の穴から流し込んだのだが、結果は不発。
回復魔法をかけた時のように、何の変化も見られなかった。
禁術に詳しい魔法使いを冒険者から探して、ミーシャの容態を見てもらったこともある。
診断によれば、ミーシャの体内には回復に必要なエネルギーが十分に蓄積されている。回復魔法の力も、エリクサーの効力も、確かに届いている。
しかし、ミーシャ自身がそれを使おうとしない。取っ手の無いバケツのように、注いでも注いでも、溜まりこそすれ使い道が無いらしい。
申し訳なさそうにするウーノに対して、エカテリーナは大きな笑顔を見せた。
「恩返しなら、日ごろしてもらってますわよ。ウーノが甲斐甲斐しくミーシャの世話をしている、その事実だけで、わたくしは随分と満たされますの」
「……本当に、ごめん。いや、ありがとう」
再び頭を下げる。そんなウーノを見て、エカテリーナは目を細めた。
「あら、ウーノったら覚えてくれてましたのね。どういたしましてですわ……っと、ウーノ、また手を切りましたの?」
細めた目が見開かれる。
小さな切り傷が、両手の指先から手の甲にかけて、幾重にも重なっていた。古い傷の上に新しい傷。癒えかけた上に、今朝の赤い線。
エカテリーナは手袋越しにその手を取って、回復魔法をかけようとした。しかしウーノは取られた手を引き抜いて、首を振った。
いつもの肌を触れ合わない用の手袋をはめる。
「いいよ、もったいない。どうせまた切るから。それに、その分をミーシャちゃんに回して欲しい」
エカテリーナは口を開きかけ、閉じ、それから複雑な表情で息を吐いた。
ウーノの手を見つめるその目は、痛ましさと、それから言葉にできない別の感情が入り混じっていた。
彼女は気持ちを切り替えるように、テーブルに広げた書類に目を向けた。スーラフの一団から奪った文書。解読作業も、仕事の合間に進めている。
「分かりましたわ。ところで書類の解読ですけど……スーラフが各地に魔導戦車の開発拠点を設けている計画の、断片が見えてきましたわ。ただ、全容はまだ掴めませんの。この街にも、蒸発委員会の支部がありそうな気配はあるんですけど」
「大使館には送れそう?」
「それが……ポツカは今、金の流出を警戒して、西から東への移動の検問が厳しいんですの。普通の郵便は危険ですわ。ブランシェが無事に着いていれば良いのですけど……情報の確度をもっと上げてから、確実な方法を探したいですわね」
情報共有をしながら、エカテリーナは立ち上がりミーシャの寝台に歩み寄った。掌をかざす。
表面上は無反応でも、体の中に回復の力が溜まっている以上、何か意味はあるはずだと、希望的観測で。
今日も変化なし。2週間、ずっとそうだった。
「……ありがとう」
「……ええ。でも相変わらず、ですわね。ガラスの進行はほとんど止まっていますけど、後退もしていない。小康状態、としか言いようがありませんわ」
ウーノは頷いた。
分かっている。分かっているけど、毎日確認せずにはいられない。毎日期待して、毎日同じ結果を聞いて、それでも翌日また期待する。
「……エカテリーナ」
「何ですの?」
「1日くらい、完全な休暇日を作ったらどう?毎晩出て、戻って来て書類も解読して、ろくに寝て無いでしょ?ミーシャちゃんに回復魔法を、ってお願いした立場で言うのもあれだけど……それだって、1日くらい無くたって問題ないし。冒険者家業だって戦闘職なわけだし、そんな状態だと危険だよ」
エカテリーナはそっとミーシャのガラスの頬を撫で、微笑む。
彼女はゆっくりと振り返り、ウーノの顔を見た。
疲労で陰った顔に、それでも確かな輝きが、その紫色の瞳にはあった。
「ありがたいお言葉ですわ。でも、平気ですわよ」
「平気には見えないけど……」
エカテリーナは視線をミーシャに戻し、それからウーノに戻した。
「先ほども言いましたわね、満たされると。こんな状況でも……いえ、こんな状況だからこそ、かしら。ウーノがミーシャに尽くしているのを見ていると……満たされますのよ。身も心も。だから、わたくしは元気ですわ」
「そうは言っても……」
「推しの献身を、間近で見られる幸せ。カプ厨冥利に尽きますわ」
真面目な話をしていたはずなのに、最後の一言で台無しだ。
しかしエカテリーナの目は笑っていなかった。それは彼女の宗教的正義、信仰の決意なのだろう。
ウーノはただ、深く頭を下げた。
「……ありがとう。本当に」
「お礼なんて、不要ですわよ。でも、お言葉に甘えて、少し仮眠を取りましょうかしら。ふぁーあ……何かあったら、起こしてくださいまし」
エカテリーナは奥の部屋へと消えた。扉が閉まる音。
そして静寂が、部屋を満たした。
掃除洗濯をしたり、付け焼刃のスーラフ語知識で書類の整理や分析をしていると、昼前にイネッサが来た。
彼女もまたドアを3回、リズミカルに叩く。『アタシだよ』、短い声で告げる。
ウーノは再び走って行き、ドアを開けた。
彼女の服装は旅装ではなく、街で調達したらしい濃紺のブラウスに、革のベストを着て、めかしこんでいた。
「おかえり、イネッサ。エカテリーナはさっき帰ってきて、仮眠をとってる」
「そうかい。雷女帝サマは健気だねぇ。男遊びもせず酒もひっかけず、直帰なんだから」
イネッサは肩をすくめ、ウーノに息を吹きかけた。酒臭い。
よく見ると、オシャレな服もところどころ解れている。娼夫の一人でも捕まえてから、帰って来たのだろうか。
「飲んで来たのか。食事はどうする?軽食ならすぐ作れるけど」
ウーノはイネッサの荷物を受け取りながら質問した。
すると彼女は、クツクツと小さく笑った。
「クク、アンタミーシャとは6日しか一緒じゃ無かったのに、随分と人夫らしさが板についてるじゃないかい。シャワー浴びて来るから、その間に作っといてくれよ」
「ああ、分かった」
ウーノがパンに野菜とチーズ、魔物肉を挟んだサンドイッチを手早く作っていると、しばらくしてイネッサも出て来た。
下着姿で、水滴をポタポタと黒髪から滴らせながら、タオルを肩にかけて歩いて来る。
「そんな恰好で……」
「良いだろう、別に。おーよちよち、ミーシャ、ちゃんとオマンマ食べまちたかー?オムツは?」
イネッサはそのまま隣室のミーシャの様子を、赤ちゃん言葉で喋りながら確認した。
「ちゃんと出来てるだろ?」
ウーノがサンドイッチをテーブルに置くと、少し濡れた体のまま、ウーノが寝ていたソファにイネッサはドカッと腰を下ろした。
「あぁ、まあ及第点さね。しっかし、こうしてると、アタシが旦那になった気分だねぇ。えぇ?自分じゃ何にもできない赤子がいて、夫に子育て家事を任せてアタシは外に働きに出て、さ」
ニヤリ、揶揄うようにイネッサは口角を上げる。
それに対してウーノは肩をすくめた。
「君と夫婦?あんまり気乗りしない想像だな」
「つれないねぇ、少しくらい媚び売ってくれたっていいじゃないかい。それとも、アタシが媚びてやろうかい?」
イネッサはブラに包まれた胸を、手で揺すって見せる。
ウーノは視線が吸い込まれそうになるが、首を振って目を閉じた。
「外で男ひっかけて来たんじゃないのか、君は?」
「おや、バレてたのかい。おいおい、へそを曲げんじゃないよ、アンタが一番さぁ」
サンドイッチを頬張りながら、イネッサは相変わらず人を食ったような笑顔。
ウーノはそれを相手にせず、小さくため息をついた。
「はいはい。それで、調査の成果は?」
イネッサもまた、エカテリーナと一緒に冒険者家業をしていた。もっとも彼女は、自分の遊ぶ金を優先しているので、路銀を稼いできている、とも言い難いのだが。
しかしエカテリーナの手伝いで、蒸発委員会の調査はしているらしい。独自のルートで、色々と情報を集めていた。
「ああ、今日は良い物、持って来たのさ。さっき渡した手荷物の中に、スーラフ語の知恵の実が入ってる。アンタの分だ、食っときな」
「スーラフ語の……!ありがとう!これで俺も、書類がちゃんと読めそうだ!魔導戦車の技術書とか、気になってたんだよ!」
ウーノは先ほどしまったイネッサの鞄を開けて、中を探った。
その中にある、歪んだリンゴのような果実。知恵の実だ。
ウーノはそれを早速口にして、かみ砕いて飲み込む。
ラシスカ語、ポツカ語、次いでスーラフ語。人生3度目の、知識の強烈な焼き付けにしばらく呆然としていた。
「Vous comprenez ce que je veux dire ?(アタシが何を言ってるかわかるかい?)」
「Oui, je comprends……(ああ、分かるよ……)Je vous entends très bien!(良く聞こえているとも!)」
高揚に声を上ずらせ、ウーノはスーラフ語で返事をした。
ウーノは早速、エカテリーナの持って来た書類の整理に取り掛かった。今まで付け焼刃で、ポツカ―スーラフ語翻訳辞典を引きながら、書類を整理していた。
しかし今は、スーラフ語を理解したことで、整理どころかしっかり読み込むことが出来る。
技術書を読み進めながら、ウーノはふと手を止めた。
ミーシャちゃんに話しかける新しい話題が、また一つできた……
そう思って、すぐに苦笑した。そのために覚えたわけじゃないのに。
そうしてしばらく夢中になって読んでいたが、鐘の音が聞こえて来て気が付いた。
もう正午だ。いつの間にか、随分と時間が経ってしまったらしい。
ウーノはすり鉢を手に取って、お昼ご飯分の流動食を作り始めた。
完成したそれを、慎重にミーシャの喉の穴に、注ぎ込む。
「今回のには、チーズを入れてみたんだ。ミーシャちゃんはチーズ好き?はは、食の好き嫌いも、ちゃんと知る前に離れ離れになっちゃったからね。ミーシャちゃんは、ポツカの黒パンは……って、朝もしたか、この話は」
ウーノは自分で言いつつ、苦笑した。
ふと物音が聞こえて振り返ると、イネッサがソファの上で寝返りを打ったようだ。彼女も仮眠をとっているのだろう。
室内は暖房と加湿が魔導具で十分とは言え、下着姿のままでは寒々しい。この世界の成人女性は頑丈なので基本的に風邪はひかないが、それでも心配になってしまう。
ウーノはイネッサに毛布を掛けてやった。寝ている彼女をそっとしておき、ウーノは食事を与え終えるとオムツを確認しながら、再び口を開いた。
「子育てとか、未来の話だと思ってたけど……結構自信が付いてきたよ、俺。でもあんまり子供に構うと、ミーシャちゃん嫉妬しちゃうって言ってたね。出征の前の夜に。あの夜、俺も子供に戻ったみたいに泣いちゃってさ……って、何度もしたか、この話も。何回目だっけ、はは、ハハハ……」
空笑いをして、手が止まった。
ミーシャに確認する術がない。目が見えない。耳が聞こえない。頷きも、首振りも出来ない。
最初の一週間は、話題が溢れていた。村のこと、旅のこと、出会った人々、戦った敵。
しかしいつの間にか、同じ話をしてしまうようになっていた。6日間の新婚生活の思い出話なんて、何度しているのか、もう分からなくなっていた。
ウーノは黙って、オムツを閉じた。次は、体を拭いてやらないと。
ガラス部分を拭くと、ウーノはミーシャの下腹部を洗い始める。
生身の肌。この部分だけが温かく、柔らかい。刻印が刻まれた、その場所を。
優しく、丁寧に。毎日洗っているので、垢も多くは無い。直ぐに終わってしまう。
ウーノは布巾を横に置いて、指先でゆっくりと文字を書く。
『ウーノ』
反応はない。
『ここにいるよ』
反応はない。
『愛してる』
反応は、ない。
2週間。毎日、同じ言葉を書いた。一度も、反応は返ってこなかった。
「今書いたのは、ウーノ、ここにいるよ、そして……愛してる、だよ。分かったかな?」
ウーノは、小さく微笑んだ。
愛してる、愛してるんだ。返事が無くても、反応が無くても。それは変わらない。
「……ああ、気にすることは、無いか。別に、同じ話ばっかりでも、良いよね?」
一人で納得して、ウーノは優しく、ミーシャのガラスの額を撫でた。
また後ろで、物音がした。振り返ると、イネッサが再び寝返りをうっていた。




