291日目①
昨日のうちに、監獄に到着するはずだった。
にも拘らず、1日遅れた。
道中で例の『助手』と呼ばれていた中年男性——ビウクニツ、シュチェンでも姿を見せ、氷象に搭乗し最後には自決した彼——の滞在拠点だったと思われる場所を、偶然発見したからだ。
先を急ぐ気持ちはある。1日の遅れが、ミーシャの命に関わるかもしれない。
しかし、蒸発委員会が何か企んでいるのは事実。放置するわけにもいかない。
ウーノは涙を呑んで、調査に時間を割くことに同意した。
あらかじめ破棄を予定していたのだろう、資料の大半は焼却されていた。しかし、一部、焼け残りがあった。
廃棄のしやすさより頑丈さを選ぶあたり、重要だが他者に露見しても構わない内容なのだろうか。あるいは、単に急いでいて確認が甘かったか。
資料の解析は後回しにして、とにかく家探しだけを行い、その日は終わった。
そして翌朝。
陽が昇る直前に、ウーノは目を覚ました。
隣を見る。エカテリーナは、寝る寸前まで書類の解読に勤しんでいたのだろう。枕元に紙束が散らばっている。
スーラフ語と、もう一つ見慣れない言語……ヘンリクから渡されかけた知恵の実の、流れ水の民の古い言葉、サクリド語と思われる言語で書かれた文書だった。
散らばった紙を片付けていると、先にエカテリーナが目を覚ました。
「おはようですわ、ウーノ。早いですわね」
「おはよう……書類、何か分かった?」
エカテリーナは眉をひそめ、焼け残った紙を手に取った。
「断片的ですけれど……魔導戦車と魔法使いについての研究、のようですわね。ウーノがスーラフ語を読めれば、もう少し判断できそうなのですけれど」
「そっか。俺はポツカ語とラシスカ語しか、分かんないからなぁ」
「仕方ありませんわね。それと、もう一つ気になる記述がありましたの」
エカテリーナは別の紙を示した。
「スーラフから蒸発委員会に、西端の海沿いの一部地域を恒久的に譲渡する、とありますわ」
「西端の海沿い……」
スーラフの西端で海沿い。元の世界で言えば、ポルトガルだろうか。
「流れ水の民の国を作る気ですかしら」
エカテリーナの推論に、ウーノはあぁなるほどと頷いた。
蒸発委員会は、流れ水の民が中心の組織だ。旅をする文化を持つその民族は、特定の国家を持たない。
しかしその各国を渡り歩き、知恵の実と言う外国語学習アイテムを生産できる彼女ら彼らは、ラシスカでは政府のプロパガンダの影響もあって、最近では寄生虫と迫害されていた。他国でも似たような現象が起きても、不思議では無い。自分たちの国を持とうとするのは、十分理解できる。
「魔導戦車技術に秀でたスーラフに戦争協力をして、端っこに土地を貰って建国、か。ありえそうな話だね」
「色々と想像しがいのある陰謀ですわね、蒸発委員会という秘密結社は。まっ、詳しい解析は、後ですわ。ほら、ブランシェ。朝ですわよ」
エカテリーナはブランシェの枕を揺らす。しかし彼女は起きない。『長い塹壕暮らしのおかげで、寝ずの番を立てずとも異常があれば飛び起きる』と豪語していたが、一体それはどこに行ったのだろう。
しかしエカテリーナが金髪を弾かせ、左手に巨大な雷球を作り始めると、ブランシェは飛び起きた。
「殺気っ!?って、なんだエカテリーナかぁ。おっはー」
軽い調子の彼女を小突きつつ、一行は朝食を手早く済ませ、最後の行程を歩き始めた。
数時間後、森を抜け、視界が開けた。
切り立った崖が眼前にそびえている。断崖絶壁に沿うように、崖下に灰色の要塞が張り付いていた。
「……あれが、監獄」
周囲を囲む堀と塀。等間隔に配置された見張り塔。崖の上を見上げれば、そちらにも見張り塔がある。
魔物を寄せ付けず、囚人を逃がさない。そのために設計された、陰鬱な建造物だった。
「監獄来るの、ひっさしぶりー。あ、守衛室兼窓口はあそこ。監獄には外部の魔法使い、同時に1人までしか入場できない規則だから、あーしもあそこで待ってるよん」
ブランシェが指さした先、監獄の堀の外側に、トーチカのような小型のドームが建っていた。
「分かりましたわ。さて、それでは……」
敵意が無いと伝えるため、3人でゆっくりと守衛室兼窓口だというドームへと歩いて行く。
ある程度近づくと、風に乗った女性のがなり声が聞こえて来た。
「止まれ!何用だ!」
「仲間を迎えに、参りましたわ!一人分の身代金がここに!」
エカテリーナが大声で応じる。
しばらくして、トーチカから武装した守衛の女性が出て来た。ブランシェは冒険者のランク章を見せ、エカテリーナもウーノと二人分の、シュチェンの名誉市民の証書を見せた。ラシスカ外交官の肩書より、ポツカ人には受けが良いだろう。
それを確認した守衛は慌ててトーチカに戻って行く。少しして、監獄側から跳ね橋が下りてきた。守衛がどうぞどうぞとジェスチャーをする。通って良いそうだ。
手を振るブランシェと別れ、魔導車を預け、ウーノとエカテリーナは橋を渡った。
石造りの門の頭上にはポツカ語で、『誠実な労働は早期釈放への道』と標語が掲げられていた。この監獄が終身刑囚や死刑囚専用、今は戦争捕虜も収容している監獄だと知っているウーノは、その欺瞞的な標語に少しゾッとする。
門をくぐり、内部に足を踏み入れる。続く廊下はどこかかび臭い空気が漂い、壁には魔導具の明かりが点々と灯っているが、それでも陰鬱な雰囲気は拭えない。
伝声管か風の魔法で声を伝えたか、廊下の先の曲がり角、案内役の看守が迎えてくれた。彼女に連れられて、ウーノとエカテリーナは先へと進む。
ここはまだ、事務作業などをする区画なのだろう。途中すれ違う人々は皆、看守の制服を着ており、牢屋のような部屋は見受けられない。
そうして歩く中、説明されながら待合室へと向かう途中、明るい声が聞こえてきた。職員の家族だろうか、男性や子供も交じって、大部屋の中で何かに興じていた。どうやら輪投げと双六を合わせたような、ポツカではメジャーな遊びをしているらしい。
「……また奴か!お二人、しばしお待ちください。おい、イネッサ!またお前はそうやって!」
看守はエカテリーナとウーノに短く、ここで待ってろと告げると、大部屋の中に肩を怒らせ入って行く。
一方で置き去りにされたウーノの脳裏に、ある女性の姿が思い起こされた。いや、同名の別人か……?
「今、イネッサって……?」
呟きを拾ったエカテリーナが、首をかしげる。そう言えば、聞いたことがあるような……彼女もまた、記憶を探るように顎に手を当てていた。
「おいおい、スザンナさんよぉ!そう堅苦しいこと言うなって!アンタも、アタシが傷心中だって知ってんだろ?ずっと面倒見て来たペットが、連れてかれたんだからねぇ」
しかしその、どこか人を食ったような話し方と声の調子は、記憶の中にあるままだった。ウーノは思わず叫んだ。
「イネッサ!」
「おやおや、どこからかアタシを呼ぶ男の声が聞こえるね。へへっ、モテる女は辛いよ。はいはい、どなた……っ!?」
ミーシャと同じ、流れ水の民特有の黒髪碧眼。背中まである髪を後ろで一つに結んだ、自信に満ちた表情のスタイルの良い女性。
囚人服を着ながら、若い少年と肩を組み鼻の下を伸ばし、シャバの人々と遊戯を楽しんでいたイネッサは、ウーノを見ると目を見開いた。
「あぁ、生きてたのか、君は!まさかこんな所で会うなんて!」
ミーシャの古い友達……と言うより腐れ縁のイネッサ。街に滞在する時、ウーノはしばしば虎の王城を利用していたし、妻の昔の話を聞きたくて、しばしば彼女とも会話をした。出征時にはばったり居合わせ、ポツカ語の知恵の実を譲り受けもした。
ただの知り合い、と呼ぶには縁の深い女性との再会に、ウーノは喜びの声を上げた。
「あ、あぁ……ウー、ノ……久し、ぶり、だねぇ……元気、かい?」
「まあ、何とかね!いや、本当に驚いたよ、無事でよかった!ああそうだ、それよりイネッサ、ミーシャ……」
どこか歯切れの悪い、目の泳いでいるイネッサ。しかしウーノは、再会の驚きでそれに気が付かなかった。
畳みかけるようにしゃべりかけ、そして本題を思い出し最愛の妻の名を出そうとしたところで、イネッサはウーノに飛びついた。
「ああ、助けに来てくれるなんて!アタシは良い夫を持ったよ!……話を合わせな、ミーシャ目当てだろう?……わざわざポツカまで!」
瞬時にエカテリーナが動こうとするが、イネッサは小声を風に乗せて、彼女を押しとどめた。戸惑うウーノも、とりあえず大人しく受け入れる。
イネッサは深く強く、親密そうにボディタッチをする。しかしウーノの刻印が発動しないように肌には決して触れず。まるで感動の再会を喜ぶ夫婦のように、振る舞った。
「あ、あぁ……そう、だね?」
「いやはや、もう二度と浮気なんかしないよ、アンタ!へへ、そう言うわけでよ、スザンナぁ。悪いが、家族団欒、させてくんないかねぇ?ああ、夫の付き添いですかい、そちらの女性は?へへ、ウチのウーノがどうも……そう睨むなよ、肌は触っちゃいない……あぁ、みんな、悪いがアタシはちょっくら、夫婦水入らずさせてもらうよ。スザンナ、個室借りてくよぉ」
プルプルと拳を震わせるエカテリーナに、イネッサは囁き声を届け。スザンナと言う看守に馴れ馴れしい態度を取って、彼女の腰から鍵を拝借する。スザンナは嫌そうな顔をするが、囚人の蛮行を黙って見過ごした。イネッサと遊んでいた子供や男性らも、それを当然のように受け入れて、また後でと言って遊戯に戻る。
「……イネッサ。あぁ、虎の王城の……とんだ曲者ですわね」
エカテリーナは少し遅れて、イネッサと言う名前を思い出した。
ミーシャが良く利用した宿『虎の王城』の娘で、貞淑な淫紋を刻む後押しをしたとか。
自身もウーノへ手紙を届けるとき宿を利用したが、その時は『一人娘が帰ってこない』と宿の女将が嘆いていたが……どうやら捕虜の収容所内で、男を侍らせ看守を骨抜きにして、楽しくやっていたらしい。
一番長い付き合いの同性だというのに、ミーシャが頑なに『友達』とは言わなかった理由が、少し分かる。エカテリーナはミーシャとの雑談を思い出し、ため息をつきつつ、ウーノの肩を押すイネッサの後を歩いた。
慣れた手つきで鍵束を操り、イネッサは廊下の端の個室を開けた。
「座りな。長旅で疲れてんだろう?」
彼女は二人に席を勧めつつ、自身は一番大きなソファにドンと腰かけた。
ウーノはソワソワしつつ、エカテリーナは呆れ半分警戒半分で、対面のソファに腰かける。
「それで、ミーシャちゃんは?先に解放された捕虜の人の話だと、収容されているって噂だけど、姿を見たことが無いって」
尻が座面につく前から話し始めるウーノ。それを見て、イネッサは僅かに唇の端を歪めた。
「マジで、ラシスカのあの田舎の村から、ミーシャを買いに遥々(はるばる)来たってのかい」
「ああ、そうとも。ちゃんと資金も用意して来た」
ウーノはエカテリーナが持つ鞄に視線を向けた。金の交換手形がびっしりと詰まった鞄。ミーシャの身代金として、貯蓄を切り崩し、色々な人から借りて来た。
イネッサは飄々(ひょうひょう)とした態度のまま、エカテリーナに視線を向けた。
「それで、アンタは?ウーノの愛人兼お守役かい?」
「戦友、ですわよ。ウーノの、そしてミーシャの」
イネッサは足を組み、背もたれに深く体を預けた。
「戦友、ねぇ……アタシはイネッサ。こいつの、まあ知り合いで。ミーシャの腐れ縁さ」
「聞き及んでますわよ、ミーシャから。わたくしはエカテリーナ……雷女帝、と名乗った方が、通りが良いかしら」
イネッサの目が一瞬見開かれた。しかしすぐに、口元に笑みを浮かべる。
「へっ、随分と大物のお出ましだぁ……あの泣き虫ミーシャが、かの雷女帝サマの戦友とはねぇ。世の中、分からないもんだ」
「それで、ミーシャはどこに居ますの?あんまりはぐらかされると、切れてしまいますわよ。ウーノが」
エカテリーナの声には、僅かに苛立ちが滲んでいた。
ウーノは確かに、ソワソワと落ち着かない様子だった。膝の上で拳を握り、視線はイネッサの顔から離れない。今にも立ち上がりそうな、そんな危うさがあった。
それを見て、イネッサは大げさに肩をすくめた。どこか小馬鹿にしたような態度。
「ウーノ、アンタ、マジでミーシャを助けに来たんだね」
しかしその言葉は、少し早口だった。
「当たり前だろう」
イネッサは天井を見上げる。表情は見えないが、しかしその声は少し掠れているように思えた。
「そりゃまた……それほどの価値があるかね、アイツに。終戦直前の戦場で本人に聞いたよ。そちらのエカテリーナ・サンに、お前を譲ったって」
ウーノの眉が跳ねた。
「会ったのか、戦場で」
ブランシェの話だと、禁術を体の周りに展開させる、自爆めいた方法を使って敵陣に突撃したらしい。その直前だろうか、会話したのは。
「ああ、『私じゃ幸せに出来ないからー』って。『刻印を消す髪も預けました』てさ。ミーシャの奴、半ベソかきながら言ってたよ。『エカテリーナさんなら、ウーノさんを幸せに出来ますから』って」
小馬鹿にしたように、ミーシャの声真似をするイネッサ。しかし、彼女は身振りまで交えて大仰に演じた割に、その顔に笑顔は無かった。
「……ああ、知ってる」
「で?その髪、どうしたんだい。使ったのかい?」
イネッサの目が、ウーノとエカテリーナの間を行き来する。
もうヤッたのかい?そんな視線だ。
「燃やした」
「……はぁ!?燃やしたって……そしたら、二度と他の女と……!」
どこか下卑た意味深な視線を向けていた、余裕ぶった態度が、一瞬で吹き飛ぶ。
目を見開くイネッサに、ウーノは普段通りの声音で返事をする。
「それで良いんだよ。ミーシャちゃんを救えないなら、一生、彼女に操を立てて生きる。ミーシャちゃんは、俺のため、いつか生まれる俺との子供のため、戦争に行ったんだ。それで彼女が死んで、俺だけ他の女に乗り換える?」
「……」
イネッサは押し黙る。茶々を入れる気力もないのか。ウーノは短く、強く、言った。
「出来るわけない」
沈黙が落ちた。
イネッサは口を開きかけ、閉じ、また開いた。その顔には、困惑、そして別の何かの感情が、入り混じっていた。
どうにかして、いつもの調子を取り戻そうと、小さく鼻で笑う。
「ヘンッ、良いじゃないか、乗り換えたら。確かにアイツは、顔は悪くなかったけどさ。そっちの雷女帝様の方が、胸もでかいし、稼ぎもあるだろう。アイツが譲るくらいだ、愛人とか妾じゃなく、ちゃんと第一夫として扱ってくれるんだろう?ラシスカの英雌の夫。その名誉ったら、どれだけの男が欲しがるか。分かってんのかい、アンタ」
イネッサはエカテリーナを指差した。
エカテリーナは、ただ静かに、ウーノに視線を向ける。彼は真っ直ぐイネッサを見据えていた。
「俺が欲しいのは、名誉でも金でもない。愛する妻の身柄、それだけだ」
ウーノは言った、言ってやった、言い切った。
イネッサはただ口をパクパクと動かして、言葉が出てこない。
彼女は視線を逸らし、天井を仰ぎ、それから大きく息を吐いた。
「……はぁ」
何かを諦めたような、疲れたような、そんな吐息だった。
イネッサは今度はエカテリーナに向き直った。相変わらずの、からかうような半笑い。しかし、口角が上がり切ってない。
「良いのかい、アンタ」
「何がですの」
「さっき、アタシがウーノに抱きついた時。随分と色っぽい顔したじゃないか」
エカテリーナの眉がピクリと動いた。
「……あら、そうでしたかしら」
「とぼけんなよ、ありゃメスの嫉妬だ。アンタだって、コイツを欲しいと思ってんだろう?ああ確かに、肩を抱いただけでも、良い体してんなって思ったよ。奪えばよかったじゃないか。力ずくでも何でも。なのになんで、ノコノコここまでついて来てんのさ」
挑発的な言葉。しかしその声には、純粋な疑問が滲んでいた。
エカテリーナは一瞬、目を閉じた。
かつて、タチアナにも同じことを問われた。あの時は、自分でも分からなかった。迷いがあった。
でも、今は違う。目を開く。迷いのない、澄んだ瞳。
「わたくしがウーノを憎からず思っているのは、事実ですわ。でも、真に愛しているのは、ウーノとミーシャ、二人の関係ですの」
かつてラシスカの首都のホテルで涙を流した後のように。その瞳は、音もなく揺らめく朝日に照らされる霧のような、悠々たる光が宿っていた。
「……は?」
「わたくしが惚れたのは、ミーシャを愛しているウーノですもの。そして、ウーノを愛しているミーシャも、同じように好んでますの。二人の関係性そのものを、わたくしは愛してるんですわ」
迷いのない回答。
一片の曇りもない、晴れやかな声。
「……ちっ!なんだよ、それ!アタシには、さっぱり分かんないね!」
イネッサは舌打ちをして悪態をつく。今までの余裕ある態度はすっかり消えて無くなり、苛立たし気に髪を掻きむしっていた。
「イネッサ、一体何があったんだ。教えてくれ」
声を低くして尋ねるウーノ。イネッサはギリギリと歯ぎしりをしながら、噛み潰すような、唸るような声で答えた。
「……死んだよ。あぁ、死んだんだ!アイツのことはもう忘れな!」
ウーノはとっさに上着をまくり上げた。そこにあるのは、刻まれた時のままの姿の、黒々とした貞淑な淫紋。
「刻印は黒いままだ!ミーシャちゃんは生きてる!まだ生きてるんだ!イネッサ!何があった!言え、言うんだ!」
その手があったか。イネッサは苦々しそうに顔を歪めた。
ウーノは詰め寄り、彼女の肩を激しく揺する。
一拍置いて、イネッサはウーノの手を叩き落し、立ち上がって吠えた。
「売ったんだよ!ミーシャを、スーラフに!つい昨日、ここを出た!あぁ、クソが!」
彼女は自分が座っていたソファを、強く蹴飛ばした。ソファの足は衝撃に耐えきれず、ボキッと折れる。
ズンッ!
ソファが床に落ち、鈍い音がする。埃が舞った。
ウーノはただじっと、イネッサを見つめる。女は男の眼差しに耐え切れず、視線を横に逸らした。




