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新婚6日目、ミーシャは戦場に行った~貞操逆転世界で出征した妻のために夫のすべきこと~  作者: つゆたま
シュチェン編

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278日目⑨

「ぶはっ!アカン!やっぱ最終調整が済んでないねん!ヘンリク!助手!もう逃げるやで!」


 取れた首が川岸に倒れ、その口からホウホウの体で老人が這い出て来た。全身体液塗れだが、顔の周囲は血まみれ。痛がる様子はないので、もしかしたら直接アジ・ダカーハの視界を共有するような、何かしらの生体デバイスを頭に装着していたのかもしれない。


「エカテリーナ!その男を拘束なさい!」


「言われずともですわよ!さ、お縄についてくださいまし!」


 エカテリーナは既に鱗が剥げ上がり、中央の首を落とされ全身から血を流すアジ・ダカーハを蹴りつけ、岸にいる老人へと跳躍した。


「くっそ!離さんかい!」


 老人が暴れ、その手がエカテリーナの頬を狙った。非力な男の老人、勢い余って殺してしまわないように慎重になっていたエカテリーナは、その貧弱な抵抗を避けようともせず、無力化しようとしたが……


「アッジィッですわ!?」


 老人と言えども男性。ウーノに対する一方的な貞淑な淫紋を刻んでいる彼女は、刻印の発動により無警戒の下腹部に強烈な熱と痛みを受けて、思わず手を離してしまった。


「うっし!ほなさいなら!」


「グギィ……逃がしませんわよ!」


 老人は立ち上がると、逃げ出そうと走り始める。のたうち回っていたエカテリーナも痛みをこらえて立ち上がり、追いかけようと足に雷をまとわせた。


「अहं भवतः प्रतिद्वन्द्वी अस्मि 」


 しかしそんな彼女の前に、ビウクニツの地下水路で現れた流れ水の民の女性が、再び姿を現した。老人とそれを追うエカテリーナの間に。言葉の意味は理解できずとも、その意図は明白だった。


「……死なないでくださいましね?」


 川辺の近く、水が潤沢にある。相手は水と風の魔法を得意とする流れ水の民、地の利は向こうにある。

 エカテリーナは手加減して勝てる相手では無いと判断し、せめて尋問できるように死んでくれるなと口にして。瞬時に飛び掛かった。


 エカテリーナが流れ水の民の女性と戦闘を開始した一方で、アジ・ダカーハとの戦闘にも動きがあった。

 老人の言葉が聞こえたのか、左の首は自らの首を結ぶと、ブレスを放つ動作をさせて、その結び目で首を爆散させた。頭部は爆風に押されて、老人が逃げて行った方角へと飛ばされる。

 地面に叩きつけられた頭部から、ヨタヨタと中年男性が這い出て逃げて行った。アレキサンドラはそれを追いかけようとするも、エカテリーナの攻撃を凌ぎつつ、女性は彼を庇うため大規模な水壁を展開して進路を塞いだ。


「チッ……いえ、都合がいい。さぁ、ヘンリク!お前は逃がさんぞ!」


 アレキサンドラは、残された右の首、ヘンリクがいるであろう大蛇の頭を見上げて吠える。

 しかしアジ・ダカーハは、目の前の脅威で無く、ウーノが隠れている岩に向けて首をもたげた。


『BGUUUM!!』


 リンゴ、あるいは人の頭のような、固いが水気を含んだ何かを、無理やり後戻りできない形に壊すような、水っぽい音の混じった粉砕音。その悍ましい咆哮上げながら、アジ・ダカーハの最後の首は、岩に向けてブレスを放った。


 ウーノはタチアナと一緒に、慌てて岩の中心部に逃げ込む。雷と炎に炙られて、岩は端から赤熱しながら砕けていく。岩肌を伝って火がチロチロと、二人に寄って来た。


「ウーノ兄さん、伏せて!」


 タチアナを守るため、ウーノは彼女を抱きかかえようとしたが、逆に押し倒され。

 彼女はウーノを守ろうと、なけなしの魔力を総動員して風を吹かせ、火の粉を払った。


「人の男に何してますのよ!おりゃ!」


 ウーノが攻撃対象にされている。それに気が付いたエカテリーナは、雷縮地を発動させてアジ・ダカーハの首の中腹に飛び蹴りを放った。

 雷速で放たれる超速度の攻撃は、ブレスを放出中だった首に大きなダメージを与えた。首がくの字に折れ曲がり、損傷個所がブレスのエネルギーに負けて、爆散する。


 予期せぬ爆発だったせいか、ヘンリクが搭乗しているであろう頭部はダムの下、下流の川へと飛んで行って、水面に落ちた。


 ボチャンッ!ブクブクブク……


 そのまま上がってこず、水面に血の色と水泡を見せるだけだ。


「逃がさないと言ったはずっ……邪魔をするなぁ!」


 アレキサンドラは自分を裏切った娼夫を捕えようと、目を血走らせてダムから飛び降りようとするが、彼女の鼻先に水のレーザーが展開される。エカテリーナが相手していた流れ水の民の女性が、妨害を仕掛けたのだ。


 アレキサンドラは雷撃を放つも、流れ水の民の女性は川の水を盾にして受け流す。水辺という地の利を最大限に活かした防御は、そう易々と破れる物ではない。


 アレキサンドラとて伯爵家当主。一対一で後れを取るような実力では無い。しかし、それはそれとして、相手の防御を崩せるかは別問題だ。


「逃がすものですか!ヘンリク共々、絞り上げて差し上げます!」


 鞭のようにしなる金色の雷が、女性に襲い掛かる。しかし彼女は水流を纏って身を翻し、攻撃を躱しながらじりじりと後退していく。

 明らかに、倒すことより時間稼ぎを優先した動き。


「भवन्तः अस्मान् अत्र रोद्धुं न शक्नुवन्ति।पुनः मिलामः」


 流れ水の彼女は、何かしら言い残すと、ダムを飛び降りて水底へと落ちて行った。


 それを追いかけてアレキサンドラが慌てて下流を覗き込んだ時には、川に落ちたアジ・ダカーハの頭部、ヘンリクが乗っていたはずの頭部の痕跡は、消えていた。泡も血もとうに流されて、そこにあった大蛇の首の目印は既に無い。

 流れ水の民の女性が、回収したのだろう。


「くっ……逃げられましたか」


 歯噛みしながら、アレキサンドラは視線を移した。

 アレは雷縮地を使っていた。あの技は確か、使用後に足が疲労して動けなくなるはず。その状態で落ちてしまったら、溺れ死ぬかもしれない。


 妹が溺死と言う最も苦しい死因の一つによってこの世から亡くなるかもしれない、という期待に、アレキサンドラは喜び8割心配2割で、着水地点の辺りを見た。


 しかし、その心配は杞憂だった。地下水路の時と違い、今回は軽い旅装に身を包んでいた彼女は、落ち着いてそこら中に浮かべられていた凍った木材の足場に寄り掛かっていた。それをすぐさま、3人娘が協力して引き上げた。


 助け出された彼女は、風魔法の使い手のリベリカのドライヤーを断って、直ぐにブレスに晒されていた巨岩へと走り寄って行った。


「ウーノ!怪我は無いですの!?」


「あ、ああ……大丈夫だよ。タチアナちゃんが守ってくれたから」


 煤だらけになりながらも、ウーノは無事だった。その腕の中には、魔力を使い果たしてぐったりとしたタチアナがいる。

 小さな体で必死に風を起こし、火の粉からウーノを守り続けた彼女は、限界まで魔力を使ったのだろう。今にも気を失いそうなほど消耗していた。


「……少しは、役に立ちましたのね、貴女」


 今まで散々にタチアナと口論をしてきたエカテリーナも、これには賛辞を贈らざるを得ない。

 自分がウーノの側にいてやりたかった、そんな嫉妬とも羨望ともつかない気持ちを抱きながら、素直で無い誉め言葉を送った。


「タチアナちゃん、ありがとう。君のおかげで助かったよ」


 ウーノは心からの感謝を込めて、そう言った。

 先ほど『頼る気になれない』と突き放したばかりだというのに、結局タチアナに守られてしまった。妹のように思っている、遥か年下の彼女に。

 身体強化魔法を覚えたと言っても、やはり魔法を使える女性には、敵わない。


 葛藤交じりながら、それでも心からの感謝をこめて、灰を被った彼女の若草色の髪を、梳いてやる。


「……えへへ、守れた……私、ウーノ兄さんを、守れた……よね?」


 疲労困憊のはずのタチアナは、その言葉を聞いて、へにゃりと笑った。

 嬉しそうに呟きながら、彼女はウーノの胸元に縋りついた。


「ああ、おかげさまで、傷一つ無いさ。本当にありがとう」


「うん、えへ……これで私のこと、少しは、女として意識した?」


「いや、それは無いかな……」


「むう……イジワル……」


 グリグリと、タチアナはウーノの腹に頭を押し付けた。そんな彼女の頭を、ウーノは困ったように笑いながら、優しく撫でた。

 拒絶されないことに甘えて、タチアナは更に強く、深く、具体的には下腹部の方へと、頭をこすりつける位置を移動させていった。


「ちょっとタチアナ!それ以上は一線を越えますわよ!?」


「スンスン……あ、ウーノ兄さんの匂い……生きてる匂い……良かった、本当に……」


「この変態!ちょっと感心してたら直ぐこれですわ!何ウーノの匂い嗅いでますの!?離れてくださいまし!」


 ウーノを全力で守ったタチアナに譲歩して、彼女のベッタリとした甘えぶりを見逃していたエカテリーナ。しかし流石にじゃれつきでは済まなくなって来た少女の振る舞いに、エカテリーナは眉を吊り上げて吠えた。


 エカテリーナはタチアナの首根っこを摘み上げて、ウーノから引き離した。


「あっ……んむぅ、もうちょっとくらい、ウーノ兄さん吸いが許されてしかるべき。私が守ったんだから、ご褒美!」


「ご褒美じゃありませんわよ!というかウーノも何ボーっとしてますのよ、引き剥がしなさいな!」


「いや、でも、助けてもらった直後だし……」


「甘いですわよ!そうやって優しくするから、付け上がるんですの!学習してくださいまし!」


 ウーノもウーノで、一度突き放そうとしたものの、やはり身を挺して守られてしまうと、強く拒絶できない。

 そもそも、妹のように可愛がってきた子なのだ。わざと冷たくするのは、元々心苦しかった。そこに来て、こうまで献身ぶりを見せられると、心を鬼にしてもまだ可愛げが勝ってしまう。


 ギャーギャーと騒ぐエカテリーナと、意地でも離れようとしないタチアナ。その間で右往左往するウーノ。

 命懸けの戦闘が終わった直後とは思えない、いつも通りの光景だった。


「……やれやれ。戦闘が終わったと思ったら、これですか。リベリカ、ミディ、ポリーナ。アジ・ダカーハの残骸を回収しなさい。証拠として持ち帰ります」


 アレキサンドラは呆れたようにため息をつきながら、3人娘に指示を出した。


「「「了解です、ボス」」」


 作業が進む中で、怖い上司そっちのけで猛抗議していたタチアナ。

 エカテリーナに掴み上げられていた彼女は、本当に限界だったらしい。言い合いをして体力を使い切ったのか、すぐにうつらうつらと船を漕ぎ始めた。


「はぁ~……寝顔の方は、年相応に可愛げがありますわね」


 この秋、12歳になったタチアナ。15歳で成人とされるこの世界では、そろそろ大人に近づいてきた年ごろ。しかしそうは言っても、まだまだ子供。疲れ切って眠りこける彼女の寝顔には、あどけなさがまだ残っていた。


「はは、まだ子供なのに、本当にすごいね、タチアナちゃんは。さてと、エカテリーナ、怪我は無い?ずぶ濡れだけど、もしかして地下水路の時みたいに……」


「あら、ウーノったら本当に察しが良いですわね。ええ、雷縮地キックでアジ・ダカーハに止めを刺しましたの。そして川にポチャン!まあ、今回は鎧じゃありませんでしたし、直ぐに浮かんで、足場に掴まれましたわ。冬の川に足を浸したおかげで、クールダウンもできましたわよ。怪我も特には、問題無いですわ」


「それなら良かった。さてと、アジダカーハの回収は、アレキサンドラさん達がやってくれるとして……このダムを、何とかした方がよさそうだね。化け物退治を終えたとしても、このダムが破壊されれば、結局洪水なり鉄砲水なりで騒ぎになるには違いないし」


「そうですわね。でも、どう解体したら良いかしら。要塞やトーチカならともかく、ダムを崩すのは初めてですわね」


『要塞やトーチカならともかく』。さらりと言ってのけるあたり、やはりスケールが違う。ウーノは苦笑した。


「そうだね、俺も詳しくはないけど……ともかく水位を下げて、ダムとしての機能をゆっくり喪失させれば、大丈夫かな。まずは中央にU字型に切れ込みを入れて、それを徐々に広げながら……」


 ウーノはエカテリーナに手順を説明して、実践してもらうことにした。ダムの上は急流だが、先ほど使用した凍結木材足場がある。エカテリーナはそこに陣取って、指示通りにダムを削りだした。

 アジダカーハの残骸を、川に流して運搬することにしたらしいアレキサンドラ側も、ダム解体に参加して。西日が強くなってきたころに始めた作業は、夕暮れ前には完了できた。


「ウーノのおかげで、良い感じに終わりましたわね。後は、アジ・ダカーハをシュチェンまで川に流していけば、問題解決、ですわ」


「ふむ……男は男らしく、女の影で大人しくしていれば良い。今でもそう思っていますが、何事も例外はあります。ウーノ、お前はその例外だと認めましょう。中々の手際でした」


 アジ・ダカーハ討伐時の助言と言い、ダム解体の作業指示と言い、男のウーノが口出しすることに何か言いたげだったアレキサンドラ。しかし彼女もウーノの貢献は無視できないらしい。


「ありがとうございます。でも俺は、本当に口しか出していませんから、褒められるようなことでは……」


 しかしウーノは謙遜でも何でもなく、心の底からそう思って、頭を掻いた。

 アジ・ダカーハを倒すのもダム解体で肉体作業をしたのも、全部女性陣。男の自分は、見守るだけだ。

 男は女の後ろで守られている。それがこの世界の常識で当たり前なんだから、仕方がないことだ。そう割り切っても、だがしかし、とウーノは思ってしまう。


 そんな自省の効いた反応に、アレキサンドラは感心し、エカテリーナはもっと威張れとウーノの背をバンバンと叩く。


「まったく、ウーノの数少ない欠点ですわよ!称賛は称賛として、受け取って胸を張ってくださいまし!」


「いてっ、はは、分かったよ。さあ、帰ろうか」


 タチアナは、まだ夢の中。3人娘が交代でおぶって、運んでいる。


「ウーノ兄さん……んむぅ……もう食べられない……」


 小さな恩人の、暢気な寝言に笑ってしまいながら。ウーノは背中にエカテリーナの熱を感じながら、川を下って行った。



 日の落ちたシュチェンの街は、大騒ぎになっていた。

 川上から流れて来た、巨大な怪物の死骸。それを引き連れた、ラシスカの巡礼者たち。

 一行は川岸にアジダカーハの残骸を引き上げた。市民が集まって遠巻きに、恐怖と好奇心が入り混じった目で、その光景を見つめていた。


「皆さん、落ち着いてください!この怪物は、スーラフの陰謀によって作られた、特別な魔導戦車です!我々ラシスカのアモリア教巡礼者が、ポツカの平和を守るために討伐しました!」


 周囲を囲む群衆に対して、アレキサンドラが声を張り上げる。

 彼女はアモリア教を信奉する国で共通して地位を示す、巡礼祭祀長である証拠の黄色いタスキと錫杖を持っていた。エカテリーナがお使いで先回りして、ホテルから持ってきたのだ。

 巡礼祭祀長の肩書は、ポツカでも宗教的な権威を持つ。地位ある彼女の言葉には、群衆にヤジを飛ばさせないだけの説得力があった。


「ラシスカが……?」「あいつらの言葉なんて……」「そういや、ビウクニツでも……」


 ヤジこそ無いが、ヒソヒソと住民の間で話声がする。この前まで戦争していたラシスカ人、と言う部分が引っかかっているようだ。


「明日の式典を妨害するために、この怪物は用意されていたのです!しかし我々は、それを未然に防ぎました!ラシスカとポツカ、そしてガマニアの友好のために!この首を御覧なさい!この怪物は、アジ・ダカーハの似姿!これはガマニアとポツカの関係を引き裂くために作られた、陰謀なのです!」


 アレキサンドラは3人娘に指示をして、回収した首を掲げさせる。ヘンリクが搭乗していた首を除いて、2つの大蛇の首が。

 ウーノは合図を受けて、氷の壁を作る魔導具を発動させた。2mちょっとの氷壁の上に、ミディが首を冷凍結着させた。集まって来た民衆の誰の目にも明らかに、巨大な蛇の頭が晒される。


「アジ・ダカーハって……」「ガマニアの……?」「他の都市ではジャガーノートが……」


 耳の早い市民が、ビウクニツとの一件の類似点を語ったようだ。ラシスカを疑う声より、スーラフへの疑念の声が増えて来た。

 囁きが広がる中、アレキサンドラは自信ありげに声を張り上げる。ポツカ共和国、ラシスカ帝国、ガマニア連合、3国の融和を声高らかに唱えていた。


 すでに住民から疑いの噂話は消え失せ、高位の宗教家の言葉を、じっと聞いていた。

 氷壁に上って、上から演説をするアレキサンドラに、市民の視線は集中していた。その隙にエカテリーナは、ウーノの手を取って人垣からいち早く抜け出した。


「上手くいきそうですわね。お姉さまも、たまには役に立ちますわ」


「うん。これで、明日の式典も無事に開催できそうだ」


「ええ。そしてその後は……いよいよ、ワスフ川を渡りますわよ」


 エカテリーナの言葉に、ウーノは強く頷いた。

 捕虜解放の見込みが無く、妻が処刑されるかもしれないと知って救出を決意してから、9日目。

 まだ2週間も経っていないにも関わらずすでに、かつて西部新領と呼ばれたラシスカ帝国の旧領の最西端、ワスフ川に到達し渡河する見込みが立っている。


 とても良いペースで前に進んで来た。しかし、ワスフ川以西から先は、ラシスカが知らないポツカの土地。ここからが、本当に事前情報の無い異国の地なのだ。


 ウーノは身を引き締める思いで、ギュッとエカテリーナの手を握った。


「ああ。必ず、ミーシャちゃんを助けに行こう」


「もちろんですわ。あっ、良いこと思いつきましたわ!塹壕で、ウーノはわたくしに、『何でもする』って言いましたわよね?」


 閃いた!そんな風に顔を明るくしたエカテリーナは、もう片方の手も取りあって、ウーノと向き合った。


「あー……言ったね、何でも……な、何をすればいいのかな?刻印が反応しない奉仕とか何とか……」


 ウーノの言葉に、エカテリーナは頬を膨らませて抗議した。


「もう!お姉さまとは違いますのよ!わたくしがお願いしたいのは……ミーシャとウーノのキス、真横で見せて欲しいんですの!それもとびっきり、ディープなキスを!オホホ、それさえ見れれば、もう死んでも良いですわね!」


「ははっ、分かったよ、ミーシャちゃんは照れるだろうけど……エカテリーナに、とびっきりのキスを、見せてあげるさ。あ、でも死なれたら困るな。1度と言わず、何度でも見せてあげるから……なるべく長く、俺とミーシャちゃんの友人で居て欲しいね」


「あら、それは長生きしなきゃいけませんわね。そうですわね、今後のわたくしの誕生日プレゼントは、毎年二人のディープキスにしてくださいまし。わたくしの誕生日は春の終わりですの。だから……それまでには、ミーシャを助けますわよ!」


 いつの間にか小雨は止み、雲の合間から半月が地上を照らしていた。

 肌寒い冬の夜風の中、二人はいずれ来る春の日を想像して、笑いあった。

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