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新婚6日目、ミーシャは戦場に行った~貞操逆転世界で出征した妻のために夫のすべきこと~  作者: つゆたま
ビウクニツ編

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275日目⑤

 ルキーナやエカテリーナは、ジャガーノートの姿に体が怯んでしまったこと、事前情報が無かったことで、ブレスを避けるのに苦労してしまった。

 しかし、今回は違う。兵士は安全な内にジャガーノートに十分ビックリし、そしてルキーナから情報共有を受けていた。


 そのため、2連撃のブレス攻撃は、問題なく避けることができたのだが……


「ぐわっ!?」


 その混乱の最中、二人の男を拘束していた兵士は、謎の女性に襲われて拘束を解いてしまった。

 女性は流れ水の民らしく、風と水の魔法に優れるようだ。水場が近くにあるこの状態だと、大規模な水魔法を行使できた。巨大な水球を無数に操り、兵士たちを押しのける。


「んな!?」


 その女性は男性二人を抱えたまま、水の流れに乗って猛スピードで去っていく。

 ルキーナが追いかけようとした時には、もう暗闇の向こうである。


「くっ……出遅れましたわね」


「エカテリーナ、足は?」


「おかげさまで、十分休ませられましたわよ。雷縮地……を使うのは、まだちょっと難しいですわね」


 足を休ませていたエカテリーナも、慌てて立ち上がる。追いかけるべきか、一瞬悩んだが、地の利は向こうにある。


「仕方がありません!この場でこのジャガーノートを撃破し、証拠とします!」


 証人を逃がしてしまった今。スーラフの魔導戦車技術の結晶であろうこのジャガーノートを倒さなければ、今回のガサ入れの目標は達成できないのだ。


 ルキーナは兵士たちに指示を飛ばし、陣形を指示した。




「……で、早いとこ何とかしないと、不味いですわね」


 後方に下がったエカテリーナは、ため息をついた。彼女含むルキーナ、ウーノの三人は、防御陣地が安定したことで、一度後ろに下がって相談会をしていた。


 ジャガーノートはブレス攻撃をしつつ、暴れ狂っている。幸いにも広い水路でも、巨体のジャガーノートには狭いようで、四肢や尻尾はそれほど脅威では無い。距離と角度に注意すれば、問題ない。

 しかしそれは、人に対しての話だ。水路の壁や天井は、動かずそこにある以上、ジャガーノートが暴れるたびにガタガタとぶつかり、ひび割れる。水路の崩落は、時間の問題であった。


 魔導戦車の弱点は頭部。エカテリーナは戦場での経験からそう判断していたが、ドラゴンを模した長い首のジャガーノートは、ブレス攻撃のために頭をあちらこちらへと向けるので、狙うのも難しい。

 短期決戦は、難しい問題だった。


「もう水路ごと爆破するなりして、生き埋めに出来ないかな?」


 しかし、それならいっそ崩落させてしまえ。ウーノの提案に、ルキーナは首を横に振った。


「それも考えましたが……それこそ我々が懸念していた、偽旗作戦によるラシスカが犯行のテロ攻撃、になってしまいます。崩落した土砂を片付け、ジャガーノートという証拠を解体して分析するまで、ラシスカ人が地下水路を大規模に破壊した、という一部事実の噂が出回ることになります」


「確かに……解体と分析を考えると、なるべく原形を留めた形で、無力化しないといけないのか……」


「そして、こちら側も攻撃用魔導具の出力を下げなくてはなりません。私とエカテリーナ武官も、威力を絞って魔法を使わなければ同じく崩落リスクに繋がるので、加減が難しい所があります」


 火と雷は火力、氷と土は防御力、風と水は応用力、というイメージが魔法の世界にはある。

 そして、魔法で攻撃する際に手加減するのは、難しい。特に火力向けの火と雷では。


 ただでさえ手強い相手を、周囲への被害を抑えながら相手しなくてはならない。しかし属性的に、それは不向きなのだ。


「そう言えば、エカテリーナのあれ、『灰咬む灼舌』だっけ。あれを使えば、破壊範囲は限定的にして、ジャガーノートを倒せるんじゃない?反対側で、防壁とか相殺用の魔法を用意しとくとかして」


 名案だと思ったが、エカテリーナは渋い顔で首を振る。


「あの魔法は、本当に心の底から、気が高ぶらないと使えませんのよ。何というか、身を焦がすほどの憎悪とか、全身全霊の殺意がありませんと。今までの人生で使ったことがあるのは、実家にいたころにわたくしのお気に入りのぬいぐるみコレクションを、お姉さまに全部ズタズタにされた時。それとこの前にウーノを助けようとした時の、二回しかないんですの。意識的に使用するのは無理ですわね」


 大魔法は大魔法なりに制限があるらしい。ウーノは、『なら自分がジャガーノートの前に飛び出して、わざとピンチになってエカテリーナに魔法を使わせれば良いのでは?』と一瞬考えたが、直ぐに首を振った。

 女性の好意や善性をダシに力を振るわせる、紳士的とは言えない。クズの所業だ。それにそんなことをしたら、せっかく戦友として過保護を慎もうとしているエカテリーナの気持ちを、踏みにじることになる。


「うーん……ルキーナさん、とりあえず、壁や天井の補修工事をするのはどうでしょう?ヒビも増えて来たし。防御陣地を作った魔導具で、ヒビ割れを埋めると言うのは」


 とりあえずの更なる時間稼ぎとして、ウーノはそう提案した。

 速乾性のコンクリートを作るような魔導具や、解けにくい氷を作る魔導具で、防御陣地の壁は作られていた。その分厚さによって、ジャガーノートのブレスも一回は防げる頑丈さがある。


「速やかな事態の収束が望めない現状、それも必要ですね。しかし、そうした土木工事的な経験のある兵士がいるでしょうか……」


「それは問題ないと思いますわよ。退役軍人あるある、塹壕掘りとトンネル工事の経験で、戦後は土木工事関係の職に就きがち、ですもの。地下掘り技術はガマニアに次いで、ラシスカが優れてますわ。それこそ、無能な貴族将校の脱出トンネル掘削の経験がある方も、いらっしゃるのではなくて?」


 ゾーヤの顔を思い浮かべながら、エカテリーナは言った。そしてルキーナは彼女の口の悪さに、ため息をつく。


「口を慎んでください、まったく……妻人、何か思いついたのですか?」


 ルキーナは兵士に壁や天井の補修指示を出した後、地面を眺めているウーノに期待半分で声をかけた。


「ああ、それなんだけど……原理は分からないけど、あのジャガーノートは一人で動いている。それでも、魔導戦車に変わりない。つまり生物の死体を魔導具で強引に動かしているんだ。だから、魔物、と言うか生物に効く攻撃は、同様に有効なはずだ……」


「まあ、それはそうでしょうけど」


「例えば、エカテリーナの雷。電気で筋肉を麻痺させれば、動きを止められるはずだ。その間に、それこそ防御壁の魔導具とかで、ジャガーノートを埋め立てることができれば……」


 そう言って、ウーノはエカテリーナを見た。そしてルキーナも。近くに居て話が聞こえていた兵士まで。

 周囲の期待の視線を受けて、エカテリーナは頬を掻いた。


「いやぁ、そうですわね……その、わたくしの雷、一点集中型ですの。だから多分、あのジャガーノートに雷を放っても、一部にしか効かないと思いますのよね……試しに……はぁ!」


 エカテリーナは右手に紫色の雷を、左手に金色の雷を集めると、二つ同時に投げつけた。雷球は暴れ狂うジャガーノートの、これまでの攻撃により鱗がはげた左足に命中する。一瞬、ジャガーノートは怯んだように見えたが……命中箇所以外は元気に動き回る。これでは意味がない。


「役に立たずですね……」


「ちょっと!わたくしは対人特化の肉弾戦志向ですの!タイマン最強なんですの!」


「つまり、魔導戦車相手だとあまり強くないと」


「新兵器なんだから対策できてないの当然ですのよ!」


 ウーノの前で強さをけなされたせいか、エカテリーナはムキになって反論した。

 しかしウーノは、まだ下、地面を見ていた。


「……大量の水があるし、行けるか?」


「まだ何かあるんですか、妻人?」


「ああ、ジャガーノートは一瞬マヒしていたし、出力は足りてるはずだ。そして足元には水路の水がある。水の中に落として、そこを雷を流せば……」


「水って、雷通しにくいんじゃありませんの?」


 ウーノの言葉に、エカテリーナは不思議そうな声を上げた。


「えっ?俺の知ってる常識と違うな?」


「あら、だって水の防壁とか、雷を通しにくいですもの」


 エカテリーナは答えた。そう、彼女が戦場で目にする水は、魔力で作られた水ばかり。つまり純水なのだ。

 通電性が良いのは塩水に代表される、イオンが溶け込んだ水であって、純水は通電性があまり高くない。

 塹壕で水の竜を爆散させたときは、地下水なのでそこそこ通電していたが……中にいるエカテリーナには、それが分からなかった。


「……魔法で作った水は、抵抗がある?それとも純水で……よし、それなら塩を入れよう。塩水は、すごく通電性が良いからね」


「そうですの……?塩水……でも塩はどこに……?」


「……そこのあなた、塩を買ってきてください。なるべく多く」


 とりあえずやってみるか。そう判断したルキーナは、近くの兵士に財布を渡した。

 選ばれた兵士は戸惑いながら、とりあえず敬礼して走っていく。


「……で、それまではこの地下水路が崩落しないことを祈って、時間稼ぎですの?」


「……かなぁ。他に方法も、思いつかないし」


 とりあえずの方針が決まり。ルキーナは陣頭指揮のために前線に戻っていった。エカテリーナも、蹴ったり雷を飛ばしたりしつつ、ジャガーノートの暴れ具合を抑止する。

 ウーノが一人になる時間もあったが、招集時のひと悶着で、ウーノに話しかける者はいない。仮にいたら、エカテリーナにぶちのめされるだろうし。


 そんな感じで腫れもの扱いで後ろで寂しくしていたウーノの耳に、複数の足音が聞こえて来た。

 お使いに行った兵士が戻ってきたのだろうか?いや、複数だし……大使館から応援でも連れて来たのか?


 そう思って通路の奥を見ようと目を細めると、その集団は大声で叫んだ。


「おいおい、何よこの騒ぎ!」「あそこにいるの……誰だ?」「奥に見えるの、なんだいありゃ?」


 なんだか見覚えのある制服を着た一団。ウーノは顔を引きつらせた。


「あー……自警団の人?」


「おう、兄ちゃん、こんなとこでなにしてんのかしら?」


 エカテリーナを見て叫んだ、戦場帰りも参加するビウクニツの自警団。ラシスカの大使館に色々と投げ込んでいる、スーラフとのつながりがあるかもしれない、ビウクニツ自警団。今一番会いたくない、武装勢力だった。




「てめぇら!ラシスカ人ね!」「こんな武器持って地下で、何してんだわよ!」「あの暴れてる化け物はなんだい!」


「すっこんでなさい!」「今お前らの相手してる場合じゃ無いのよアタシら!」「アレが何かウチらが聞きたいわよ!」


 ギャーギャーワーワー。武装した兵役経験者の元交戦国同士の一団が、地下水路で言い争いをしている。

 悲しいかな、男はすっこんでろと押し出されたウーノは悔しくも、ルキーナとエカテリーナに泣きつくのだった。


「って感じで、早く来て欲しい!」


「ああぁ!次から次へと!今向かいます!」


「あ、ちょ!持ち場を離れたら……んもう!ウーノ、危ないからあそこ!その窪みに隠れていてくださいまし!」


 前線近くに伝令に来たウーノは、大人しくエカテリーナの指示した場所に身を潜めた。


 そこは特撮の世界さながら。双頭の黒竜と言うファンタジーな化け物相手に、魔法の武器で兵士が何とか攻撃している。

 画面越しに見れば胸が熱くなるが、鼻先に火の粉が散りガラス棘が掠めるスレスレの状況下では、男心がくすぐられるにも限度があった。


「ぐあぁっ!」


 丁度、ウーノのすぐ近くに女性兵士が吹き飛ばされてきた。骨折してしまったのか、立ち上がれない様子。ジャガーノートは丁度ブレス攻撃をし始めて、周囲の兵士も援護する余裕が無さそうだ。


「……ナムサン!」


 ウーノは腹をくくって、窪みから少し這い出て、兵士を安全地帯に引きずり込んだ。


 しばらくして、先ほど兵士がいた場所を、ジャガーノートの尻尾がビュンと風を切って通り過ぎる。助けてよかった。ウーノはゾッとしつつホッとした。


「う、ぐぅ……き、貴殿は……雷女帝の……夫とか……?」


「ああ、そう言うことになってます、はい。大丈夫ですか?回復用魔導具は……」


 ウーノがそうやって、鞄を漁っていると頼りになる声が聞こえた。


「あら、あらあらららら。こんな非常時に、人の夫を連れ込んで、物陰で何をしてますの……?」


 やたらと髪の毛をバチバチ言わせたエカテリーナがやって来た。


「ああ、エカテリーナ。この人、骨折してるみたいなんだ。回復魔法をかけてあげてよ」


「い、いえ!小官は問題ないであります!それではお達者で!」


 しかし兵士は慌てて立ち上がり、ジャガーノートに突撃していった。そしてそのまま、腕に吹き飛ばされる。

 今度は仲間が駆け寄って治療しているようだ。


「……で、何してましたの?変な事、されてませんわよね?大丈夫でしたかしら?」


「あの人が吹き飛ばされたから、治療してあげようとしてただけさ。あの様子なら、余計なお世話だったかな」


 自分たちがいる方から離れるように、果敢にジャガーノートの向こう側の陣地に移動しようとする元気な兵士を見て、ウーノは肩をすくめた。


「ウーノったら、無防備でドスケベですのよ。だから、人目のない所で他の女と二人っきりになるのは止めてくださいまし。襲われないか心配ですもの。さあ、行きますわよ」


 どこか不機嫌そうなエカテリーナに腕を掴まれて。ウーノは否定したいが今までの指摘を踏まえて、言葉を飲み込んだ。




 ウーノが戻ってきても、自警団との一触即発の雰囲気は変わっていなかった。

 げんなりした顔でルキーナがにらみ合う両集団の間に立っている。そんな状況でエカテリーナを見つけた彼女は、こっそりそこから逃げ出すと弱弱しく手招きした。


「……今私は、とても悩んでいます」


「見りゃわかりますわよ。うーん、もしかしてわたくしの出番ですの?」


「正直、期待してしまっている自分が悔しいですが、その通りです。百貨店で現場を収めたように、ここもどうか収めていただきたいです」


 よほど疲れたのか、ルキーナは正直にエカテリーナが頼りだと白状した。


「……とっても強くて頼りになる、このわたくしに?」


 チラチラとウーノを見ながら、エカテリーナはそんなこと言う。まーた色目使って!そう突っ込む気力もわかず、ルキーナは投げやりに頷いた。


「ええ、そうですよ。戦争の英雄で伝説の兵士である雷女帝たる、エカテリーナ大尉に頼んでいます。ええ、夫婦ともども、頼りにしていますとも、ええ」


「そこまで言われちゃ、仕方がないですわね。ちょっとウーノのこと、頼みましたわよ」


 ノシノシと、渦中の中へとエカテリーナは歩いていく。


「……上手いですね、彼女の扱い方」


「……あなたありきですよ。さて……媚びを売った分、役立っていただきたいものですが」


 二人の視線の先、エカテリーナは両手を広げていた。

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