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新婚6日目、ミーシャは戦場に行った~貞操逆転世界で出征した妻のために夫のすべきこと~  作者: つゆたま
ビウクニツ編

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275日目②

 エカテリーナが満足するまで、ルカとどんなやり取りをしたか説明した後。一行は先日と同じ会議室を訪れていた。


「さて、大使から預かっている人員は30名。ここにいる職員の中でも、特に戦歴の長かった者を選んでいただきました。備蓄の攻撃用魔導具も、好きに使っていいと許可をいただいています」


 いざという時は大使館職員は帰国せず、この大使館で籠城戦を行う。そのため職員は皆、退役軍人か予備役である。その中でもベテランを集めてくれたらしい。


「一個小隊ってところですわね。ルキーナ、貴女は指揮官の経験、ありますの?わたくしは基本的に、魔法使い兵と組んで突撃兵か前線衛生兵をしてきましたから、部隊を率いた経験はあまり無いですけど、基礎知識くらいはありますわね」


「わたしは『ルキーナ』の人格と記憶を一部引き継いでいるので、ある程度は。もっとも、教本の知識に毛が生えた程度ですが」


 ウーノは少し驚いた。普通の二重人格では、本人の知り得ない知識を知っていることはあり得ない。つまり、『ルキーナ』の知識を引き継いでいると言うのは、ただの二重人格では無いのだろう。

 以前にカツラが人格切り替えのスイッチと聞いて、ミーシャの髪を燃やした時のことを思い返したが……カツラになるだけの量があると、色々と影響するのだろうか?『ルキーナ』がルカにお守り代わりに渡したと言う髪にも、弟を心配する思いがこめられていて、それが影響している……?

 いや、今考えるべきことでは無いか。ウーノは頭を振って思考を切り替えた。


「それなら、最上位指揮官はルキーナに譲りますわね。わたくしは兵士の方々と面識が無いですし、それが妥当……あ、ウーノは……」


「留守番していた方が良いって言うなら、仕方がないけど待ってるよ。でも、俺はきっと役に立つ。魔導車知識が一番あるのは、俺だしね。スーラフの陰謀に魔導戦車が関わっているなら、俺も現場に行った方が良いと思う」


 言いよどむエカテリーナに対して、『絶対について行く』とは言わない。この作戦がミーシャのためになるとはいえ、直接的な行動では無い。それに、大勢の人が絡んでいるのだ。プライドを優先して出しゃばるべきではない。必要性は主張するが。


「私も妻人には同行していただいた方が良いかと思います。知識はもちろんですが、発想力やアイデアの引き出しに優れていますし、男にしては度胸もある。足手まといにはならないでしょう」


 思わぬ援護射撃に、ウーノは目を激しくまばたきさせてルキーナを見た。今までさんざん『慎みを持て』『生意気』と評価を下してきた彼女だったが、昨日の称賛と言い、少しは認めてくれたのだろうか。


「……そう、ですわね。ウーノは『戦友』、そう認めた以上、本人に行く意思があるのなら、尊重しませんと」


 エカテリーナは悩まし気にしつつも、ウーノの出撃を許可した。やはり保護対象と言うか、守るべき弱者と扱ってしまう心境はあるようだ。しかしそれでも彼の気概を汲んで、最終的には同意した。


 同意はしたのだが、不安からか無意識の欲望からか、彼女は椅子をずらしてウーノと太ももが触れ合う距離に、接近した。


「……本当に、作戦中は慎んでくださいね?作戦中もべったりだと、兵の士気に関わりますから」


「わ、分かってますわよ!ともかく、人員配置はどうしますの?ウーノを連れて行く以上、わたくしは側に居たいですわね」


 白い目を向けるルキーナに対して、エカテリーナは追及を避けるべく話を前に進めた。


「はぁ……工場下の地下水路が十字型なのは、昨日地図を見ていただいた通りです。私の考える割り振りは、北の部隊に10、東の部隊に10、西の部隊に10、そして南の部隊に私とエカテリーナ武官、そして妻人に来ていただきます」


「あら、偏っていますわね。わたくしとルキーナ、それにウーノだけですの?南の部隊は」


「理由としては2つあります。まず、戦力の配分として、30名の一般兵より、エカテリーナ武官の一人の方がお強いということです。妻人に鼻の下を伸ばしている普段の様子からは信じがたいことですが、先日の倉庫での跳躍などを見る限り、『雷女帝』の勇名に偽りは無さそうですしね」


 30名の兵士より1人の魔法使い。エカテリーナの直接的な戦闘を、塹壕での一戦——大魔法の『灰咬む灼舌』を使って気絶——しか知らないウーノには、そこまで強かったんだと意外に思えた。しかし思い返せば、ミーシャも20人の徴兵か魔法使い1人という条件で徴兵されていたのだ。歴戦の古強者であるらしいエカテリーナなら、30人換算でもおかしくないのだろう。


「やっぱりエカテリーナって、強かったんだね……」


 小さな呟きは、幸いにも本人には届かなかった。もし聞いていたら、『疑ってましたの?』とむくれるか、『当然ですわよ』と胸を張っていただろう。そしてどちらの反応でも、ウーノに激しめのボディタッチをしていたはずだ。


「しかし流石に一人では取り逃がしの恐れもありますし、それに妻人の安全への配慮も必要です。その点、私が同行すれば問題ないでしょう。エカテリーナ武官からしても、いざという時に妻人を任せるなら、一般兵達よりも体は男の私の方が、安心できますでしょうし」


「あら、ルキーナ貴女、政治的配慮ができますわねぇ。そういう気の回し方ができるのは、数少ない貴族の長所ですわね。男日照りの飢えたケダモノに、ウーノを近づけさせたくありませんもの」


「飢えたケダモノは貴官のことでしょう」


「飢えてませんわよ!満たされてますわ!」


「あのー、理由は2つある、と言うことでしたけど、もう一つは?」


 食ってかかるエカテリーナに、どうだかと鼻で笑うルキーナ。このままでは話が前に進まないと察したウーノは、二人の間に割って入って声をかけた。


「ああ、もう1つの理由ですが、私もエカテリーナ武官も指揮官としての経験が浅い。よってどこかの部隊を率いるより、単純に強駒として動いた方が混乱が少ないと言う判断です。兵からしても、経験の浅い私やポッと出のエカテリーナ武官にあれこれ指図されるより、裁量を任せられた方がやりやすいはずですし」


「なるほど、それもそうですわね。ろくに現場を見てない上官の無茶な突撃命令ほど、虚しいことはありませんもの。目標と作戦だけ聞いて、自分の判断に任された方が、彼女たち兵士からしても動きやすいですわね」


 とりあえず座りなおしたエカテリーナは、ルキーナの言葉にウンウンと頷く。その相槌には深い実感がこもっていた。

 そんな彼女を横目で見つつ、ウーノは気になった点を質問した。


「全体としては、十字路の4方向から真ん中に追い詰めていく感じになりますよね?それなら地下水路にスーラフ関係者が居ても、取り逃がすことはなさそうですけど、タイミングをどうやって合わせるんですか?それに、接敵した場合の連絡手段とか」


 ウーノの問いにルキーナは悩むそぶりを見せず、直ぐに口を開いた。


「タイミングについては、水時計で合わせられます。地下の詳細な地図もあるので距離は分かっていますし、歩行速度を一定にすればそれで他の部隊が今どこにいるか、分かります」


 水時計は、魔導具で水を少しずつ作り、その貯まり具合で時間を測る。大型だと一日一回ひっくり返して時刻を知れるが、携行用だと砂時計と同じで、時刻を知るよりは時間を測る道具である。

 しかし、その距離が分かる地図は信用できるのだろうか?ここはポツカ領の都市である。それに一定の速度で歩いていくのはそんな簡単に言うようなことなのだろうか?

 ウーノの疑問を察したわけでは無いだろうが、エカテリーナは納得したようにポンと手を打った。


「確かにこの都市のことは、手に入れたばかりのポツカの行政府より、もともとの所有者のこっちの方が詳しいですわね。元軍属であれば、一定の速度で行進するのは慣れているはずですし、問題無さそうですわね」


「そういうわけです。それで接敵した場合の連絡手段ですが、敵に発見されてしまった場合は大声を出すなり魔導具で音を発すればいいでしょう。地下なので、反響で十分遠くまで届くはずです。秘密裏に伝える場合は、水路の流れに何かしらを流す予定です。水路の流れは、北から南、東西から中央に向かって流れ、中央で合流し南に流れて行きます。南から進む私たちに伝われば、すぐさま現場に急行できますから」


 事前に調査計画を立てていたのか、ルキーナはスラスラと質問に対する答えを用意する。南の部隊を魔法使い2とウーノにしたのも、救援時のスピードを意識してのことなのだろう。

 ウーノは感心しつつ、自分も役に立てればと思い、作戦の細かい部分を詰めていく議論に参加した。


 何度か意見を挟み、それが採用される。

 戦力に欠ける身で軍師面をするのも恥ずかしいが、それでも戦いの場で必要とされて、自尊心が満たされた。


「……さて、こんな所ですね。そろそろ時間ですし、一度休憩を挟んでから、正午の鐘が鳴ったら先日の倉庫の方にいらっしゃってください。装備を渡します。そしてそのまま兵士たちにブリーフィングを行い、作戦を開始します」


 ルキーナはそう言って別れを告げ、ロングスカートを蹴り上げながら部屋を出て行った。色々と最終調整があるのだろう。


「さて、お昼ごはん……は軽く済ませた方が良いですわね。重たいお腹では、戦闘に支障が出ますもの」


「はは、それもそうだね。残りの時間で、俺は工具の点検でもしてようかな」


「分かりましたわ。それならわたくしは、準備体操でもしてますわね。今度こそ……貴方を毛先の一本たりとも、傷つけさせませんわ」


 エカテリーナはウーノの左頬に残る傷跡を、涙を拭うようにそっと撫でるのだった。




 各々の準備が終わり、集合の時間になった。

 ルキーナの忠告を思い出したエカテリーナは、ウーノの腕を抱いて歩きたい欲求を抑え、手もつながず倉庫に向かった。


 二人が到着すると、現場はすでに装備の支給中。戦闘服に身を包んだ女性たちが、物々しい攻撃用魔導具を持って動作の確認やらをしている。


「準備は進んでいるようですわね。装備は……あっちの方ですわね」


「あ、すみません、通ります、通りまーす……」


 エカテリーナはそんな兵士の横を通って、装備の配布受付に向かった。その後ろを、『なんでここに男が?』という好奇の視線に身を縮めつつ、ウーノが歩く。


 受付ではチェックシートとにらめっこしながら、ルキーナが職員にあれこれと指示を飛ばしていた。


「……それは大きすぎて地下水路に入りません。中型の物を……ああ、エカテリーナ武官、来ましたか。貴官の装備もあります。あちらでサイズの調整をしてください」


「サイズの……あら、アーマードレスがあったんですのね。修道騎士団のとは違いますけど……悪くないですわね。手甲の作りも……頑丈そうですし。ありがたく受け取りますわ」


「妻人にも護身用として……こちら、一回限りですが、巨大な氷の防壁を瞬時に形成できます。地下水路ですと水場が近いですし、大きな効果を発揮するでしょう」


「ありがとうございます。氷か……因果なものだな」


 忙しそうにしているルキーナを見て、エカテリーナは会話もそこそこに脇に退いてアーマードレスを持っていく。ウーノもまた、氷の魔導具を手に持って苦笑しながらもしっかりと受け取って、彼女の後を追った。


 エカテリーナは職員の手を借りて、アーマードレスを着替えていく。ウーノは手伝おうかとも思ったが、過度に触れ合ってもいけないと自制した。受け取った攻撃用魔導具を工具箱に入れて、取り出しやすいように並び替えて時間を潰す。

 しかし女所帯の中、男一人というのは目立つもので、比較的若い女性兵士の一人が声をかけてきた。


「へい、彼氏!こんなとこで何してんのさ。従軍娼夫か何か?」


「俺は……」「あら、わたくしの『夫』に話しかける時は、『妻』のわたくしの許可を取ってからにしてくださいまし」


 ウーノが返事をする前に、着装中の中途半端なアーマードレスのまま、エカテリーナがすっ飛んでくる。

 子熊を連れた母熊もかくやだ。


「あんたは……最近来たっていう新人?何、あんたも作戦に参加すんの?なんか男を見せびらかしてるって聞いたけど、こんな出陣前まで?正気を疑うね……」


「ねえ、止めときなよ。その人は……」


「いいや、止めないね!誰であろうと、こんな非常時まで娼夫連れて気が緩んでるやつには、一言言ってやらなきゃならないよ!」


 同僚なのか同じくらいの年の女性兵士が腕をつかむが、彼女はその腕を振り払う。そして腰に手を当て、エカテリーナを睨んで見せた。


「……気は緩んでませんわよ。それと、その耳クソの詰まった穴をかっぽじってよく聞いてくださいまし。こちらの彼、ウーノはわたくしの『夫』であって、断じて娼夫なんかじゃありませんわ。次の訂正は、口では無く拳でやりますわよ」


 一方のエカテリーナもあからさまな不機嫌オーラを出して、腕を組んでアゴを引き、その高い身長から兵士を見下ろした。意中の異性を娼夫呼ばわりされてオカンムリだ。雷を使って脅しつけないのは、ここ最近自分がウーノとベタベタしてルキーナに小言を言われていたことの、せめてもの反省か。


 にらみ合う二人。ウーノは今自分が声をかけても状況が悪化する気がして手を出せず、制止に入った兵士の方も同僚の無謀な行為に顔を青くしている。

 そして女性兵士の方が、言い返そうと口を開いた時、救いは来た。


「何をしているのですか、エカテリーナ武官。見たところまだ装着が不十分なようですが。早く準備を終えてください」


 作業を終えたルキーナがやってきたのだ。この場で一番の権威者の登場に、当事者の陰で慌て悩んでいた二人はホッと息をついた。


「……こちらの彼女、わたくしのウーノを娼夫呼ばわりしましたのよ。それが気に食わなかっただけですの。直ぐ支度しますわ」


 本当はちゃんと訂正と謝罪を要求したいところだが、エカテリーナはルキーナの顔を立てて矛を収めた。今回の最上位指揮官は彼女だと決めたのだから、その言葉には従わなくてはならない。軍人としての判断だった。

 しかし兵士の方は、不服な様子で頭をガシガシと掻いた。


「ルナチャルク副官!こいつは何なんですか!?こんな場所に男を連れ込んで!」


「『雷女帝』の名を、聞いたことはありませんか?あなたも軍属であったのなら、覚えがあるかと思いますが」


「雷女帝!?単独で敵の総司令部まで浸透して、1週間無補給で暴れ散らかしたって言う、あの伝説の!?あんな男に鼻の下伸ばしてるやつが!?」


 兵士の反応に、ルキーナはため息をついた。


「ええ、その雷女帝です。彼女は確かに『夫』に骨抜きにされてますが、大使閣下とも既知の人物。彼女こそが、当の雷女帝その人です」


「し、信じられません!いえ、仮に信じたとしても、これから出陣って時に、男を連れ込んでるやつとは一緒に戦えません!」


 アーマードレスの調整をしているエカテリーナを指さして叫ぶ兵士。ウーノが絡んでいなければ特に言うことは無いのか、エカテリーナは素知らぬ顔で留め具を確認していた。


「気持ちは分かりますが、何もただ乳繰り合っていた訳ではありません。そこに居る男性は、魔導車技師です。今回のガサ入れに必要な人材ですので、同行を頼んでいます」


「だからって……とにかく私は、一緒に戦いたくありません!」


 ちゃんと理由があって男を連れていた。そう理屈は分かっても、やはり気に入らない。女らしく感情論で拒否を告げる彼女。ルキーナが少し視線を巡らせると、頷きこそしないものの、同情的な表情を浮かべている兵士がちらほら見えた。

 やはり大使館に来てからのウーノにべったりの態度、そしてこれから戦場に赴くと言う時にまで男を連れ込んでいたというのは、悪印象だったようだ。ただ性欲や自己顕示欲で男を連れて来たわけでは無いと説明しても、一度芽吹いた嫌悪感は拭い難い。


「はぁ……エカテリーナ武官。準備は終わりましたか?何かしら、パフォーマンスをして見せてください。自分で蒔いた不信は、自分の実力で証明するべきでしょう」


 ルキーナはため息をついて、エカテリーナに声をかけた。

 感情論で否定されているなら、感情論でそれを覆すしかない。そして特に戦闘職の女性は、度を越えた強さには抗いようのない憧れを持ってしまうものだ。


「あら、パフォーマンス……そうですわね、でも魔力を使いすぎますと、今後に響きますし……」


「ふん!なんだ、自信が無いんだ!やっぱり雷女帝だってのも嘘なんじゃない?そんでもって、やっぱり男の方も娼夫……」


 パンっ!ドゴォ……


 どうしたものかと悩むエカテリーナに、挑発的な笑みを浮かべる兵士。しかし彼女の姿は、途中で消えた。彼女が居たはずの場所には、エカテリーナが拳を突き出して立っていた。

 その拳の先に視線を動かせば、大使館を囲う壁に兵士がのめりこんでいた。


 音を置き去りにする拳により、吹き飛ばされたのだ。


「……忠告はしましたのに。次は拳が出る、と」


「医療班!治療してやってください!はぁ……私はパフォーマンスしろと言ったのですよ、エカテリーナ武官。人員が一人減ってしまったでは無いですか」


「文句ならあの方に言ってくださいまし。ウーノを娼夫呼ばわりするなんて、それもこれで3回目!死なないように手加減しただけ、褒めて欲しいですわね」


 エカテリーナは肩をすくめた。実際のところ、彼女は今回、拳に雷をまとわせていなかった。もしもそうしていたのなら、吹き飛ばすのでは無く、そのまま腕が胴体を貫通していたはずである。


 ルキーナは再びため息をつきながら、そっと周囲の兵士の顔色をうかがった。もうエカテリーナが居ることに不服を感じる者は居なそうだ。押しなべて驚愕と畏怖に目が見開かれている。パフォーマンスにしては被害が大きかったが、事態の収拾はできたらしい。


「……まあ良いでしょう。しかし次に兵士を減らすような真似をしたら、独房送りにしますからね。さて!それでは、整列!今回の作戦概要を伝えます!」


 ルキーナは気持ちを切り替えて、今回の作戦を説明し始めた。

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