211日目①
昨日、気落ちして帰った後、そのまま寝てしまったらしい。
妹も弟も、寝ている私を起こして晩御飯を食わせる気はなかったようだ。薄情な奴ら。
そのせいで私は空腹で目を覚ましたけど、気分は悪くなかった。
だって、夢の中で、私は大人で、ウーノ兄さんと結婚してたから。
「……正夢になればなあ」
早く寝たから、早く目が覚めたみたい。私はまだ寝ている弟妹を起こさないように、そっとベッドを出ようとしたところで、違和感に気が付いた。
ぺちゃ、股間が湿っていた。
「……え、噓でしょ……!?」
この年でおねしょなんて!
弟妹はもちろん、強気に出れるようになった友達にまで、笑われてしまう。
私が慌ててシーツと股間を確認すると、そこには想像してた色とは違うものがあった。
「え……血?」
赤いシミが、シーツとパンツにこびり付いていた。
「いやはや、タチアナもようやく大人になったか……母さん嬉しいよ」
病気かと不安になったけど、どうやらこれは正常な体の作用らしい。
不安になってお母さんを起こしたが、朝早く起こされて不機嫌だったお母さんはベッドを見ると一転して、上機嫌になった。
「大人……?」
「ああ、子供を産める体になったのさ。体がだるかったり、腹は痛むかい?」
「んー……ちょっとお腹痛い」
「そうかそうか。後で、村長の家に行って、薬貰ってきな。あと、本も借りて読んどいで。大人になった、っていえば、貸してくれるから」
お母さんはそう言って、鼻歌交じりにシーツを洗ってくれた。
その後、友達と遊ばず、家の手伝いもせず、村長の家に行った。教わった通りの言葉を言ったら、本を貸し出してくれた。
その本によれば、本当に私は、大人になったらしい。
男の人を押し倒してアレをアソコに入れる、のは知っていたけど、それで子供ができるのは知らなかった。
ともかくとして、私は大人になった。
そう、大人になったんだ。
そう考えて村長の家を出ると、お昼だった。
私はご飯を食べに帰ろうと、家に戻る途中で、ウーノ兄さんが魔導車で森に戻っていくのを見かけた。
もしかして。
急いで家に帰って、手紙入れの籠を確認した。私の家のこの籠が、この村のポストだ。みんなここに、手紙とか送りたいものを入れる。
私は籠の蓋を開けた。母さん経由で集配した出荷待ちの束に混ざっていた。一番上、一番新しい郵便物……そこに、ウーノ兄さんの手紙……というより、小包があった。
誰も見てないことを確認すると、その小包を取り出した。そしてそのまま、私は小包を納屋に持って帰った。
寝室は弟妹共用だ。絶対に見つかるわけにはいかない。
ほこりっぽくて、かび臭い、薄暗い。そんな中で私は、小包を開けた。その瞬間、胎を鷲掴みするような、芳醇な香りが納屋の中に広まった。私は照明の魔導具もつけず、差し込む光を頼りに、小包の中を探った。
中から、湿り気のある布切れが出てきた。何かべちゃッとしたものが付いている。
「あ、ああ……これ……」
ああ、これがそうなんだ。私は本能で理解した。私は、自分の体をどう触れば幸せになれるか、分かった。
『大人』の人は、『子供』に対して、『これ』をするのはとても恥ずかしいことだと教える。それもそのはずだ、だって、『これ』にハマったら、ずっと『これ』のことしか考えられなくなる。
でも、結婚したり、恋人がいる『大人』は、『これ』よりもっとすごいことを、するらしい。
「ウーノ、兄さん……」
ウーノ兄さんと、『それ』をしたい。彼と結婚して、家族になりたい、家族を作りたい。
そのためには……
満足した私は、小包の中の他の荷物が気になった。
ガサゴソ探すと、一緒に封筒も入っていた。流石に文字は、この暗さだと見えない。布切れを小包に戻して封をした後、私は封筒を持って、外に出た。
随分と長いこと、楽しんでしまっていたらしい。すっかり夕暮れ時になっていた。
昼ご飯を食いそびれた私は、お父さんに頼んで多めに晩御飯を作ってもらった。
そして、みんなが寝静まったころ、私は魔導具の一番小さい明かりをつけて、封筒を開けた。
手紙。『会いたい』がつまった、ラブレター。ミーシャに向けた、愛の言葉の羅列。
私はペンを取り出した。
『ミーシャ』の名前を黒くつぶして、上に『タチアナ』と書き換える。
雪が降って、会うのが難しくなった。会えなくて寂しい。ウーノ兄さんが、そう伝えてきている。
そうだ、ミーシャなんかより、ウーノ兄さんは、私に会いたがってる。
私だ。私なんだ!私が!私こそが!私だけが!ふさわしいんだ!
「あはっ……ははは!ウーノ兄さん、本当に私のこと、好きなんだ!あはは!大丈夫、私が幸せに、してあげるから……私も、好き、大好きだから……守ってあげる、養ってあげる!」
机の上の、ウーノ兄さんが『私』を求める文章を読んで、私は心の底から、歓喜した。
「後は……あはは、大丈夫、ウーノ兄さんは、すぐに私のことで、頭がいっぱいになる……」
翌朝、私はお母さんに、言った。
「ねえ、お母さん。私、もっとお母さんの仕事、手伝いたい。郵便の仕分けとか、街に出しに行くの、私がやりたい」
吐き気に似た熱が、お腹の中に感じられた。大丈夫、まだ何も気づかれていない。
自分に言い聞かせながら、返事を待っていると、お母さんは笑顔で言った。
「おや、タチアナ、大人の自覚が出て来たね。よし、じゃあ、教えるから、しっかり覚えるんだよ!」
お母さんは喜んで、私に仕事を任せてくれた。




