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新婚6日目、ミーシャは戦場に行った~貞操逆転世界で出征した妻のために夫のすべきこと~  作者: つゆたま
日常編

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5日目②

「ミーシャちゃん、本当に、良かったの?無理してない?」


 ミーシャと結婚して以来、ウーノは初めてのピロートークをしていた。

 夜の森は危ないので、村人から家を借りていた。家主一家は別れを告げる夫婦に気を利かして、村長の家で寝ている。

 しかし、それは純粋な親切心では無かった。村から離れた森の家に帰すと、ミーシャが心変わりして逃げ出すかもしれない。それを防ぐための監視も兼ねた、圧力の一つでもあった。


「ごめんなさい、一人で決めてしまって……確かに、少し不安です。私、対人戦闘は経験ないし、部隊の人と、上手くやって行けるか……でも、それ以上に……」


 ミーシャは脱力しきった状態ながら、意識を保っていた。

 色々と話したかったので、ウーノが全力を出さず、普段の10%程度の力に抑えていたのだ。


 ちなみにミーシャは、自分が強くなったと勘違いしていた。


 言いよどむミーシャを見て。ウーノはコミュ障なだけに、再び孤独な旅に戻るのが不安なのかと考えた。だけど、今は自分もいる。ウーノはぽつりぽつりと、口を開いた。


「……ミーシャちゃんは、この村……ていうか、この土地に、愛着があったの?別に俺は、ミーシャちゃんとなら、流れ水の民らしく、放浪生活でも……」


 ウーノがそう言うと、ミーシャは首を横に振った。


「それも、すごく素敵な生活、だと思います……ウーノさんと一緒に、色々な土地に行って、色々な国を見て……でも、それは、子供にはあまり良くない、と思うんです。少なくとも私は、自分の子供に、そんな生活をさせたくありません。村の一員として、子供が受け入れられる状態にしないと……気が早い、って思うかもしれないですけど。でも、早く、無いんです」


 ミーシャは自分の下腹部を撫でた。そこにはあの刻印がある。


「ミーシャちゃん?」


「……2日前の時なんですけど……受精、してました」


 どこか悲し気に語るミーシャに、ウーノは驚いた。


「え!?そういうのって分かるの!?」


 ミーシャは上体を起こすと、寝っ転がっているウーノの頭を、そっと撫でた。


「ふふ、女の人は身体強化魔法をずっとかけてるから、体の変化に敏感なんです。……でも、私……子供を作る覚悟が、出来てなかったんです……女の人が子供を作りたい、って思った時、無意識にかけている身体強化魔法を解除しないと、ちゃんと妊娠できないんです……それで、ウーノさんとの子供ができるかもしれない、って思った時……このままだと、子供にも、私と同じような苦労をさせる、って思うと……身体強化魔法を、解除できなかったんです……」


 少し寂し気に語るミーシャには、流れ水の民の子供として、生活に苦労した実感がこもっていた。

 急に、村にも結婚報告をしようと言い出したのは、いずれ生まれてくる子供の、居場所を作るためだったのだ。そして、徴兵を受け入れたのも。


「ミーシャちゃん……それなら、俺にも……」


 相談してくれたら。


 一人で背負い込もうとするミーシャを抱きしめようと、ウーノは起き上がった。しかし、彼女はすっと身を引いてしまった。


「この前の朝言った、謝らないといけないこと、っていうのは、このことだったんです。ウーノさん、ごめんなさい……私の勝手で、あなたの子供を、流して、しまいました……」


 唇を震わせながら、ミーシャはうつむく。ポトリポトリと、彼女の青い瞳から、涙が零れ落ちた。

 ウーノは街から帰って来た翌日の朝、罪悪感を感じているミーシャの姿を思いだした。あれは、生まれそうだった命を摘んでしまったことへの、罪の意識だったのだ。子供だけではなく、その父親である、自分に対しての。


「……謝らないで、ミーシャちゃん。君が不安を感じてしまったのは、俺の責任でもあるんだから。俺が、頼りないから……」


 ウーノがそう言うと、ミーシャはバッと顔を上げた。充血した白目が痛々しい。


「そんなことないです!全部私が……んっ……」


 反論しようとするミーシャの小さな口を、ウーノはキスして塞いだ。そのまま優しく、彼女を抱きしめた。変顔よりは、撫でたり抱きしめてくれる方が嬉しい。以前聞いた、その要望に応えて。

 唇を離したあと、ウーノは震える声で、ミーシャにささやいた。


「俺はっ……薄情って、思うかもしれないけど……そんなことより、ミーシャちゃんが、心配だ……子供は、また作れば良い……でも、ミーシャちゃんは、一人しかいないから……」


 しかし、やはり変顔をするべきだったかもしれない。熱くなり始めた鼻の奥を誤魔化すように、ウーノは顔を歪めた。そんな夫の頭を、ミーシャはその平たい胸に抱き寄せた。

 そしてそのまま、ベッドに倒れこむ。赤子が寝る母の乳房に吸い付くように、小さな子供のように抱きしめて。


「ふふ……嬉しい、です……私、子供ができて、ウーノさんが子供のことばっかり、心配してたら……嫉妬して、子供が嫌いになってたかも、知れないです……でも、私の方が心配って、言ってくれるなら……次はきっと、安心して、産めますから……」


 出征するミーシャの方が不安で怖いに決まっている。だから、自分は泣くべきではない。そう決めていたのに。

 やはり、酒を飲むべきでは無かった。アルコールで感情の栓が緩んでいたウーノは、とうとう涙をこぼしてしまった。


「ミーシャちゃん……お、俺……俺は、どうしたらっ……!」


『女子供を守るのが男の役目だ』


 昔気質の親父の言っていた教え。『男らしさ』の根幹を担う言葉。

 この世界に来てから、それがどれだけ無謀なことか、何度も押し付けられてきた。女尊男卑な社会に傷つくことはあった。

 しかし、戦争という命がけの場面で。守りたい最愛の人をただ見送り、待つしかできない、という現実が、重く押しかかってきた。

 男は女よりも弱く劣った存在だと、世界そのものに『分からせ』られている、そんな思いだった。


「……私は、絶対に、生きて帰ってきますから。ふふ、魔法使いは、そう簡単に、死なないんですよ。お腹に穴が開いても、腕がもげても、しばらくしたら、回復魔法で元通り、ですから。絶対に、帰ってきます……だから、ウーノさんの刻印は、解かないで、行っちゃいますからね……ふふ、ウーノさん、エッチだから……ふふふ、耐えきれるか、不安です」


 ウーノに気負わせないように、イタズラぽく笑うミーシャに、彼は見惚れてしまった。

 胸のふくらみこそ目玉焼きサイズだが、母性や愛情の大きさはメロンやスイカですら収まりきらないだろう。

 自分よりも年下の少女に、母性を感じてしまったことが恥ずかしくて、ウーノは鼻をすすってワザと挑発的な笑顔を浮かべた。


「……はあ、心外だなぁ……ミーシャちゃんこそ、大丈夫?ただですらザコザコヨワヨワなのに、間が空いたら……戦場から帰ってきて、感動の再会、そのままベッドイン!ってなった時、感じすぎて死んじゃうかもよ?」


「な、な……わ、私も、成長しました!今日だって、気絶してません!」


「それは俺が手加減してただけだよ。せっかくだし、もう一回やろうか。今度は全力で行くから」


「の、望むところ……あっ……」


 ミーシャが白目をむくまで、5往復もかからなかった。


 


 翌朝、身支度を整えたミーシャは、村人に囲まれていた。

 お守りや、道中で食べる弁当、いざと言う時の回復薬、色々な品を持たされて、ミーシャのバッグはいっぱいいっぱいだった。

 そんな中で、貫禄ある老婆、村長がミーシャの前に進み出てきた。


「オッホン……ミーシャや、ミーシャ……今回は、村のために、よくぞ名乗りを上げてくれたぞや。お主が留守の間、夫のことは心配せんで良い。じゃから、安心して行け。そして……無事に帰ってこい。無事に帰り、子を産むのじゃ。その子の名づけは、ワシがしちょる」


 村長が名付け親になるのは、村長の家系と縁戚関係にあるものだけだ。そうでないミーシャとウーノの子供の名付け親になる、というのは、その子は村長の親戚同然、そしてその親も親戚だと表明するものだ。

 正式に、村の一員として、それも特別な地位で迎え入れる、という宣言に他ならない。


 村長の言葉に、ゾーヤを始めとした村の女性陣が、ミーシャの肩をバンバンと叩いた。


 ウーノと出会うまで、不気味な森の異民族だった自分が、こうして村の一員として迎えられている。

 そのことが不思議で、温かくもあり、ミーシャははにかんだ。すべて夫のおかげであると思うと、より一層、この縁が尊く思えた。


「ありがとうございます、村長。きっと戻ってきます」


「あんたがいないと、大型の魔物を仕留めるのが手間取るんだから、早く戻ってきてよね!」「向こうに行っても、私が教えた豊胸マッサージ、欠かさずやるのよ!」「前回は半年で終わったんだから、今度は秋の収穫祭までに帰れるわよ!」


 もみくちゃにされながら、ミーシャは励ましの言葉に一つ一つ頷いた。

 そうしてもうすぐ正午、となった時、周りで騒いでいた女衆が離れた。


 街で買ったスーツを着て、髪を整えたウーノが歩み出てきた。


「ウーノさん……い、いつも、格好いいんですけど……きょ、今日は、すごく、格好いいです……!」


「はは、良かったよ。こうやってちゃんと整えたの、久しぶりだから、変だったらどうしよう、って……じゃあ、ミーシャちゃん」


 ウーノはミーシャに歩み寄ると、彼女のあごをクイっと持ち上げた。この動作を練習するために、朝からエルモライのような親しい男性陣に、手伝ってもらったのだ。その滑らかな動作に、演技指導をした男衆は深く頷いていた。

 イケメンにだけ許されるアゴクイ。本来ウーノには分不相応なそのムーブはしかし、しっかりと容姿を整えて、ミーシャへの心からの愛情をこめて行われた結果、ちゃんと様になっていた。


「ウーノさん……んっ……」


 愛する人の真剣な表情に、ミーシャはすっかり蕩けていた。

 ウーノにされるがままに、短くも激しい口づけを交わした。


 キャーキャーワーワーと、周囲がはやし立てる歓声を気にせず、ウーノはミーシャの耳元にささやいた。


「愛してる、ミーシャちゃん。ずっと待ってるから……俺、村の人とも、もっと仲良くなって……ミーシャちゃんと、俺たちの子供が安心して暮らせるように……居場所を、作っておく」


 『守る』とは、必ずしも物理的な力ではない。ミーシャが安心して帰ってこられる場所を作ること。それもまた、『守る』ことなのだ。

 ウーノは自分の中の葛藤に、ひとまずは区切りをつけた。


「……は、はい。私も、愛してますから……待っていてください」


 正午になり、騎士が時間だと言って、魔導車に乗り込んだ。名残惜しむように、ウーノはミーシャを最後に力いっぱい抱きしめた後、彼女を離す。ミーシャもまた、風の魔法で浮き上がって騎士の後ろに座った。

 そしてすぐさま、土煙をあげて魔導車は走り出す。


「……っく!愛してる!愛してる、ミーシャちゃん!」


 小さくなっていく影に向かって、ウーノは力の限り叫んだ。少しでも長く、ミーシャに自分の声を覚えていて欲しくて。


 新婚6日目、ミーシャは戦場に行った。

閲覧していただきありがとうございます!ひとまずタイトル回収まで進みました!

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