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新婚6日目、ミーシャは戦場に行った~貞操逆転世界で出征した妻のために夫のすべきこと~  作者: つゆたま
日常編

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5日目①

 村長への挨拶をしてから2日後。ウーノとミーシャは村の働き手たちと、すっかり打ち解けていた。


「ウーノ君、これはどこに繋げるんだい?」「ああ、それは足の筋肉と取り換えるんです」「うっし、この魔導具は、風の魔力だから……」


 彼は今、村の女性が生け捕った魔物を、男性陣と一緒に魔導車に改造している最中だ。

 購入するとなると、半年分の稼ぎがかかる魔導車だが、一番金がかかるのは魔物の生け捕りで、2番目は改造費だ。改造用の魔導具自体は、それなりに安価で購入できる。

 その2点を自分たちでしてしまえば、ずっと安くできるのだ。


「しかし、ウーノ君は度胸があるね。血が恐くないのかい?」


「はは、慣れですよ、慣れ」


 特にウーノは、男性陣から血を見てもひるまずに魔導車の改造ができる、という点で一目を置かれていた。その度胸に助けられたエルモライは、ウーノのことを年の離れた弟のように、親し気に接してくれていた。




「なんだ、ミーシャ、あんた昨晩も負けたのか?教えてやった腰振りはどうした?」「だって、ウーノさん、大人しくしてくれないから……」「あーね、そういう時は、始める前に首絞めると……」


 一方でミーシャは、女性陣と一緒に森の入り口で罠猟の準備をしながら、下ネタ談義で盛り上がっていた。

 村長の口利きもあって、村の仕事を手伝うことで少しずつ輪に入れたミーシャだったが、夜の営みで毎回負けていることを白状すると、完全に仲間の一人として迎えられていた。

 森の魔女、と気味悪がられていた少女が、ベッドの上で夫にいいようにされている、と言うのは女たちにとって最高のゴシップだった。


 それに、臆病でも口下手でもベッドの上で雑魚でも、魔法使いとしての能力は確かだ。

 臆病さは男性にとって、いざと言う時に自分を守ってくれない最悪な特徴、として忌み嫌われる。しかし女同士ではそこまでではない。ちょっと揶揄からかうくらいだ。

 故に、イジられキャラとして、しかし魔法使いとしての実力を評価され、ミーシャも女性陣の中に居場所を持っていた。




 そうして村の一員として、少し離れた場所に住んでいるだけの仲間、として受け入れられるようになった、結婚5日目。

 日が暮れ始め、そろそろ家に帰ろうかと、ミーシャとウーノが乗って来た魔導車に乗り込もうとしていた時、見慣れぬ一団が村を訪れた。

 重装甲の甲冑を身に着けた女騎士の一団で、先頭に立っているのはいかにも貴族官僚、といった服装の、豪華な法衣を身にまとった人物だった。


「『タイガ森寄り村』の村民に告ぐ!我々はラシスカ帝国徴兵局だ!この度、スーラフの野蛮人どもが、偉大な祖国、ラシスカに宣戦布告した!これは祖国を守るための戦いである!ゆえに、帝国は臣民の献身を欲している!誰か、身を捧げる者はおらぬか!?」


 その先頭の貴族官僚が、魔導具で拡張した大声で志願兵の公募を叫ぶも、ザワザワと村人たちは困惑するばかりだ。

 新聞では、スーラフとガマニアの戦争は伝えていた。しかしそれは、隣国のそのまた隣国の話。ラシスカまで戦争状態になるそんな兆候ちょうこうはどこにもなかった。


「ミーシャちゃん、スーラフって……ラシスカと国境がつながってないよね?」


 ウーノは頭の中の地図を思いだしながら、ミーシャに尋ねた。

 ウーノが住んでいるラシスカ、その西にポツカ共和国、その更に西にあるのが、ガマニア連合とスーラフ人民国だ。いわば、地図の上では国境を接していない、国を丸まる一つ挟んだ国と、戦争状態にあるというのだ。

 村人たちが困惑するのも、無理はなかった。


「はい、そうです……変ですね?この間、街に行った時も、そんな雰囲気はなかったのに。去年の戦争のときは、開戦前の1か月は街中がピリピリしてました」


 村人の芳しくない反応に焦ったのか、貴族官僚の女性が再び声を張り上げた。


「これは、1年前の戦争とは違う!以前の戦争は我らが土地を不当に占拠する、ポツカの愚民どもを征伐せいばつする戦いであった!しかし、此度こたびの戦争は、スーラフの野蛮人が、ポツカを傀儡として我々の土地を奪わんと攻め入っているのである!奴らはすでに、ガマニアの軟弱者を蹴散らし、我がラシスカの国境に兵を展開しているのだ!臣民よ!父なる祖国のために、立ち上がれ!」


 スーラフとガマニアの戦争。そんな遠い異国の戦争が、ラシスカに迫っていた。貴族官僚によれば、ガマニアを下しポツカに影響力を持ったスーラフ人民国が、ラシスカに侵攻を始めたというのだ。


 村民の間でも、どうやら本当のことらしい、とヒソヒソ話が出回り始めた。

 しかし、誰も兵役に志願するようなものはいなかった。


 1年前の戦争は、半年で終わった。それだってその時は、開戦前のずっと前から新聞がプロパガンダを掲載し、村の中でも戦争に向けた覚悟が醸成じょうせいされていた。そのため村の女手が戦争に駆り出されることを見越して、蓄えを作ったり、他の村と助け合う約束事をしたり、戦争に備えていた。


 しかし、今回はあまりにも急だった。何の準備もできていない状態で、志願兵と言う名の徴兵に、応じることができるはずがない。


「どーするよ」「別に私が行かなくても……」「アタイ、行ってみようかしら?」「やめてくれよ、お前。残された俺や子供はどうするんだ」「ほら、ガキは家に帰んな!」


 ヒソヒソガヤガヤ


 噂話ばかりで、誰も名乗りを上げない。かくなる上はと、貴族官僚は懐から紙を取り出して掲げて見せた。それは、この村の領主の地税にかんする覚書だった。


「志願兵20人、あるいは魔法使い1人の志願が得られない場合、代わりの献身として、徴税額を3倍とする!」


 新しく追加された条件に、再び村民たちの騒ぎは大きくなった。

 この村は人口100人ほど。その中で、女はだいたい50人、そして子供と老人を除いたら、働き手になる女性は30人程度だ。そんな中で、20人も兵士に回せるわけがない。1年前の戦争は、5人しかとられなかったというのに、今度は急な上にその6倍だ。明らかに無理があった。


「3倍!?」「でも20人よ?そんなに女手を取られたら……」「でも、魔法使い1人って……」


 誰かの呟きに、ざわめきが止んだ。子どもが泣きかけて、誰かの手がそっと口を押さえる。鎧のぎしりだけが、風の中に残った。

 村人の視線が、1点に集中する。ミーシャの方へと。


 お前が行け。そんな無言の圧力に、ミーシャはビクリと身をすくませた。

 そんな彼女を守るように、ウーノはミーシャを胸の中に抱き寄せた。


「……ミーシャちゃん、どこか遠くに、逃げる?」


 ウーノは周囲に聞こえないように、ミーシャの耳元にささやいた。

 仲良くなり始めた村民と関係を切るのは、心苦しいものがある。しかし臆病なミーシャを戦地に送り出すくらいなら、また新しい土地でやり直す方が、ずっとましに思えた。


「……いいえ。ウーノさん、大丈夫です」


 しかしミーシャは、ギュッと目をつぶった後、自分の頬を張って気合を入れた。そして、ウーノの腕をすり抜けて、貴族官僚の前に歩み出た。


「おお。ソチが志願兵か?魔法使いか?」


「はい、私、ミーシャ・ソーヤーが、志願いたします。私は、魔法使いです」


 緊張した面持ちながら、つっかえることなく、ミーシャは名乗りを上げた。


「ほうほう、素晴らしい。しからばまずは、魔法剣を見せよ」


 広義の意味で言えば、この世界の住人のほとんどは魔法使いだ。髪色に合った属性の魔法を、誰もが使える。ウーノのような黒髪は、属性魔法が使えない代わりに、身体強化魔法が他の髪色より上手いとされている。

 しかしその魔法の力は、大きな個人差がある。基本的に、魔法使いか否かの基準は、魔力を実体化させるだけの力があるか、すなわち魔法剣を作れるかどうかである。


 貴族官僚の問いかけに、ミーシャは左右の手を合わせ、そして引き離していく。その手の間に、青白い光を放つ魔法剣が生み出された。

 その時丁度、仕掛け罠に獲物が捕まったのか、大きな叫び声がした。

 音の衝撃で、森から一斉に鳥が飛び立つ。


 そんな無数の鳥の群れを見上げて、ミーシャは髪を揺らめかして、魔法剣を振るった。

 即座に水と風の刃が群れを切り裂き、羽音と鳴き声が消えた。重力にひかれ、ボトボトと鈍い音を立てて鳥が地面に墜落していく。


 その数40羽以上。すべてが奇麗に、首を切断されていた。


「これで、証拠になりましたでしょうか?」


 魔法剣を作るだけでなく、大量の空飛ぶ鳥を切り刻むその魔法の正確さと規模を見れば、十分に戦える魔法使いと証明できる。

 思わぬ掘り出し物を得られたことに、貴族官僚はホクホク顔で頷いた。


「うむ、良かろう。ソチの献身を認め、この村の徴税は例年通りとする。別れの準備も必要であろう。案内の者を残すゆえ、明日の正午、村を出発せよ。いやー、助かったわよ」


 最後の最後、貴族官僚は大仰なしゃべり方を忘れて、素が出てしまっていた。そんな彼女は、次の村に向かうと言って、騎士団を率いて出ていった。


 残された案内役は、村長に促されて彼女の家に向かっていった。


「……ミーシャちゃん」


「ああ、皆さん。せっかく狩った鳥が、もったいないですから。焼き鳥にでもしませんか?ふふ、いっぱい切ってしまいました!」


 ウーノの呼びかけに答えず、ミーシャは明るい口調で村人に呼びかけた。


「あ、ああ、そうだな」「出征祝いだ、祭りだ!」「ミーシャ、助かったわよ」「悪いわね、貧乏くじ引かせて」


 ミーシャはすっかり村人の中心になっていた。村を重税の危機から救った彼女は、今や村の英『雌』だ。

 そんな妻を、ウーノは何とも言えない気持ちで見つめていた。


「……気持ちは分かるよ。妻を戦地に送り出すのは、辛いよな」


「エルモライさん」


 この数日ですっかり仲良くなったエルモライが、ウーノの肩を叩いた。


「俺も、1年前の戦争でゾーヤを送り出した時は、毎日気が気じゃなかった……」


 彼もまた、1年前に妻を戦地に送り出した一人だった。そのゾーヤは今では、ミーシャに酒を勧めながらガハハと笑っている。


「そう、ですね。ミーシャちゃん、魔物相手でも怖がるのに、戦争になんて行って、人間相手に戦うなんて……俺が、俺が代わりに、戦争に行ければ……!」


 ウーノは村の女性陣からモミクチャにされて、目を回しているミーシャが見ていられなかった。

 逃げようか、そう提案したとき、自分がもっと強ければ、ミーシャから頼りになると思われていれば、受け入れてもらえたのだろうか。


 そう考えると、自分の無力さが悲しくて仕方がなかった。


「……ウーノ君は、本当に強い男だね。君と同じ立場になった時、俺はゾーヤの無事を、祈るしかできなかったのに……酒、苦手なんだって?でも、今は飲まないかい?飲んで……嫌なことを忘れた状態で、夜を楽しんでおいでよ」


「……はい、そうします」


 しかし、出征するミーシャに比べたら、自分の悲しみなどいかに下らないものか。最後の夜を、みっともなく泣き喚いて辛気臭くさせるわけにはいかない。

 かつて、自分に滝壺へ飛び込む蛮勇を与えたアルコールを頼って。エルモライに勧められるまま、ウーノは渡されたグラスを、グイッと傾けた。


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