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剣と魔法と怪異譚  作者: 岩クラゲ
芸術の都
58/61

58-国の存亡より芸術が優先

 レストランで朝食を取った後、今日は何処の展覧会に行こうかと師匠と話しながら歩く。芸術の都と言うだけあって、美術館も充実していた。私たちはひときわ大きな絵画の美術館に入る。入場料は師匠持ちで。

 畑仕事をする農夫を描いたもの、川遊びをする子供を描いたもの、美しい女性を描いたもの。どれもリアルで、その時の風景をそのまま切り取って額縁の中に納めたみたいだ。


「凄いな、こんなリアルに描けるなんて……」


 師匠は感心した様子で絵画を見ているけど、私の目にはどれも同じに見えていた。もちろん描かれているものも作者も違うけど……、何て言えばいいんだろう……。退屈……? 例えばここに絵を連ねている芸術家たちが同じ人をモデルにして描いたら、全て同じ絵になるんじゃないだろうか。うーん……。やっぱり私には、芸術はわからない。


「おい、見てみろ。ブッフェが描いた絵も飾ってあるぞ」

「ブッフェ?」

「ほら、さっきあんたに声をかけてきた芸術家の男だよ。あんたをモデルに、絵を描きたいって言ってた」


 ああ、あの男か。


「あいつ、軽薄そうな第一印象だったが、描く絵は重厚で写実的だな……」


 ブッフェが描いた絵には、物置みたいな部屋で椅子に座る女性が描かれていた。ドレスで煌びやかに着飾った、美しい女性だ。でも、私の方が美人だ。



 ◆



「師匠、あれは……」


 美術館を出た後、私は路地裏の壁に落書きをする青年を発見した。脚立にバケツ、各種絵の具や筆などを用意し、かなり本格的に落書きをしている。芸術の都ともなると、落書きにしても気合を入れてるのかな。


「ちょっとあんた、何やってるんだ?」


 師匠が青年に注意をする。青年は筆を走らせる手を止めた。


「何って……。ああ、お兄さん、もしかして観光客ですか? ストリートアートとか、知らない系ですか?」


 私は見逃さなかった。「お兄さん」と言われ、少し嬉しそうにした師匠の表情を。外見の年齢はお兄さんって言われるギリギリの歳だからなあ。


「ストリートアート?」

「そうですそうです。どこから話しましょうかねえ……。バクシンっていう芸術家がその辺の壁に描いた落書きがめちゃくちゃ良くって、めっちゃ評価されたんですよ。そりゃあもう、凄いくらい」


 この人の語彙……。


「それで、彼を真似て若者がストリートアートって言って、同じように壁に落書きをするようになったんですよ。ブームが起こったんですよ。ですが、ストリートアートは賛否両論でしたねえ。めっちゃ凄い落書きもあれば、文字通りただの落書きもあり……。それに、人の家の壁とかに勝手に落書きすんのも問題ですし」


 そりゃあそうだ。自宅の壁に落書きされたら、私だったら怒る。


「なので、ストリートアートを描くのは許可された壁だけにしろって決まりができたんですよ。で、オレ、ストリートアーティスト。これ、落書きしていい壁。そういうことです」

「な、なるほどな……。これだけ大っぴらに落書きをしていて兵士が咎めに来ないのなら、あんたの言う通りなんだろう……」

「そういうことです」


 説明を終え、青年は落書き再開した。彼は壁に写実的な城塞の絵を描いている。

 ストリートアートかあ……。


「それ、私も描いてもいいんですか?」


 私もちょっと落書きしてみたくなった。


「うお、可愛いっ……。じゃなくって……。うんうん、いいですよ。お嬢さんも何か描いても。ストリートアートはオープンですからね」

「筆と絵の具を借りてもいいですか?」

「どうぞどうぞ、好きなのを使ってくださいよ。あ、でも黄色と青の絵の具は使わないでくださいね。在庫がないんで」


 青年はノリノリで道具を貸してくれた。可愛いとこういう時、お得だなあ。


「おい、ルヒナ……」


 と、咎める口調の師匠。


「いいじゃないですか、合法的に壁に落書きできる機会なんて、他にないんですし」


 さらさらさら……。


 青年の邪魔にならないよう、壁の端の空白に筆を走らせる。使うの黒い絵の具だけでいいや。どうせ落書きだし。


「できました」


 私は釣り竿を担いで野原を駆けるカエルとウサギの絵を描いた。


「本当に落書きだな」

「いえいえ、ポップな感じで、なかなか良いじゃないですか」


 師匠は酷評し、青年は褒めてくれた。


「筆と絵の具、ありがとうございました。簡易魔法、水球」


 私は水球の魔法で筆を洗い、青年に返却した。



 ◆



 午前中は美術館を巡り、昼食後は演劇を楽しむことにした。適当な劇場に入り、適当な劇を見る。

 劇の内容は何というか、しっちゃかめっちゃかだった。とある中年夫婦のギスギスした結婚生活に始まり、夫の浮気、妻の浮気、息子の同性愛、娘の失恋、隣人夫婦の策略による土地買収などなど……。こんな物語をどう収拾をつけるのかと思っていたら、終盤になると天井から神様役が舞台装置によって降りてきて、登場人物たちの運命を決めていったのだ。「あなたは清廉潔白に生きなさい」、「あなたは夫を許しなさい」って感じに。

 物語終了後、演者たちがステージに並んで一礼し、劇は幕を閉じた。


「少し強引ではありましたが、斬新な物語でしたね」


 と、隣に座る師匠に感想を言う。


「うん、まあ……。初見だとおういう反応だろうな」


 おや、師匠は面白くなさそうにしている。


「今のは萎える三大オチの一つ、機械仕掛けで登場する神様オチだな」

「萎える三大オチ?」

「夢オチ、作者オチ、機械仕掛けで登場する神様オチの三つだ。三つとも、収拾がつかなくなった物語を強制的に終わらせるために使われる。夢オチってのは、『この物語は誰かの夢の中での出来事でした』ってオチだ。作者オチってのは、『最後に部屋でその劇の脚本を書く作者が、<なんちゃって、流石にこれはないな>と言って脚本を修正する』ってオチだ」


 作者オチは、今まで観客が見ていた劇は作者が修正する前の滅茶苦茶なストーリーでしたって感じのオチか。


「機械仕掛けで登場する神様オチってのは、今見た通りだな。別にそれ単体で見たら悪くはないオチなんだが、他の作家も同じ手法をマネするもんだから陳腐化している」

「確かに、それは萎えますね……」


 席を立つ他の観客の顔を見ると、確かに萎えたような表情が散見した。


「俺は昔、この街にきていくつか劇を見たことがあったんだが、まだ機械仕掛けで登場する神様オチが使われてるんだな……」

「そんな昔から……」

「この劇はハズレだったな……。隣の劇場では『リニア王』って有名な劇をやってたから、見に行かないか? 王族の継承権争いを描いた物語で、登場人物は最後には大体死ぬんだが……」

「あー……。申し訳ないですが、それ、師匠だけで見に行ってください。私は午前中の美術館巡りで疲れたので、先に宿に戻って休んでいます」

「そうか。じゃあここからは別行動だな」


 劇場で分かれ、私は宿に、師匠は引き続き観光に向かった。

 宿も良いし、ご飯も美味しいけど、芸術はもう充分かな……。明日にでも、いつ出発するか師匠に尋ねてみよう。



 ◆



「明日の朝、この街を出るぞ。すぐに出発できるよう、準備しておけ」


 夜、私の部屋を訪れた師匠がそう告げた。


「明日の朝? また急ですね」

「この国が滅ぶかもしれないんだ」

「え、もっと詳しくお願いします」

「観光してる途中、噂を聞いたんだ。どうも隣のヌラ王国が大軍を率いて攻め込んできてるらしい。軍事力的には五分五分か、ウェルズ王国が少し負けているくらいだとか。地の利を生かせばどうにかなりそうなものだが、この国の王は焦土作戦を決行したんだ」


 焦土作戦? たしか戦線を後退させつつ、敵軍が利用しうる物資を焼いていき、疲弊させる作戦だっけ。


「そして敵軍が攻め込んだ村や町の住民は、この都市の広大な城壁の内側に避難させてるらしい」


 あ、そう言えば私も、「国が亡びる」とか、「避難民」とかって話をどこかで聞いたかも。いつ聞いたんだっけか……。


「しかし敵軍は後方の補給がしっかりしていて、焦土作戦が効果を上げていないみたいなんだ。このままだと、ヌラ王国の軍が近い内にこの首都まで攻め込んできちまう」

「それ、一大事じゃないですか! なのに街の人たちは、何を暢気に……」

「それなんだよ……。王は何故か戦争のことを市民に伝えず、芸術に力を入れるばかりで……。まったく、何を考えていることやら……」


 こんな時にまで芸術を優先するなんて……。芸術って、そこまで重要なことなの?


「それじゃあ、明日なんて言わずに今すぐにでも街をでませんか?」

「いいや、明日の朝にする。俺は一晩かけて、できるだけ多くの人に今の情報を伝えて回ろうと思う」

「その噂、本当なんですか?」

「ああ、間違いない。実際に郊外に行って、避難民のキャンプを見てきた。キャンプ地は人目を避けるようにひっそりと建てられてて、周りには見張りの兵士がいた。俺は隠密効果のある薬を使ってキャンプ地に忍び込み、避難民から直接話を聞いたから間違いない」


 えらいことになってきたぞ……。



 ◆



 翌朝、私は師匠と共に早々に宿を出た。師匠は一晩中、酒場などを巡って例の噂を吹聴していたらしい。もちろん声を上げて言って回ると目立ってしまい、兵士に捕まる可能性があたので慎重に事を進めたとのこと。


「まあこれで、俺の噂を信じてくれた何人かは逃げてくれるだろう」


 

 私は師匠に連れられ、街の外周へ。そして出入り口に差し掛かった時、足を止めた。街から出るための道が兵士たちによって封鎖されていたのだ。


「あれはどういうことですかね?」

「囚人でも逃げ出したのか? とりあえず、兵士に理由を聞いてみる」


 師匠が兵士に封鎖の理由を聞くと、『王宮がとある芸術家を探しており、そいつを街の外に逃がさないため』とのこと。そんな指名手配犯みたいな……。その芸術家は何をやらかして、兵士に追われてるんだ?


「ん? 待てよ……。白い髪の男と、青い髪の女の二人組……。女の方はとんでもない美人で……」


 兵士が私のことをまじまじと見ている。私が可愛いからだろうか。


「おい、こいつらだぞ! 囲め囲め!」


 え、え?


「師匠、これは……。どうします? この人数なら一瞬で無力化できますが」

「待て、落ち着け。まだ手は出すな。とりあえず、ここは大人しく様子を見るんだ……」


 瞬く間に兵士が集まり、私たちは囲まれてしまった。まだ力づくで逃げることはできるけれど、どうしたものか……。


「あのー、俺たちは芸術家でも何でもない、ただの観光客なんですが……」

「黙っていろ。話なら後で聞く。今はとりあえず、オレたちについて来い」


 兵士たちに連行される私と師匠……。これはどういうことだ……。

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