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剣と魔法と怪異譚  作者: 岩クラゲ
攻防戦
55/61

55-防衛戦の決着

 私と師匠は、魔物の大群の親玉と思われる魔人と対峙する。


「おっと、下手な気は起こすなよ? 俺様に手を出そうとしたら、後ろに控えている大群を一気に攻めさせるぞ」


 魔物たちの攻勢により師匠は戦薬を使い尽くし、私は魔力が尽きかけていた。二人とも満身創痍……。ここは魔人との会話で、少しでも体を休めないと……。


「用があるのはそこの女だ」

「私ですか……?」

「俺様の上司が尊敬する魔人が、緑髪の女に殺されたんだ。だから上司は俺様たちに、『緑髪の女を探し出して捕まえろ』と命令を出した。今のお前は青髪だが、前は緑髪だっただろ?」


 緑髪の女……。もしかして、私のこと? だけど、これほどの魔物を従える魔人の上司が尊敬する魔人ってことは、おそらく魔王の幹部クラスの大物だろう。私はそんな強力な魔人を殺した覚えはない。もしかして、私以外のドリアードの生き残りがいて、そいつが? もしくは、単に髪の毛が緑色の人間族か……。

 それに私の見た目は緑髪が目立つけど、それ以上にこの可愛さが印象に残るはずだ。もしも私の特徴を人に話すなら、『緑髪の美少女』となるはずだ。やっぱり、人違い? っていうか、今の私は気分で髪を煽色に染めてるのに、どうしてもとは緑髪だと知ってるんだろう。


「どうして私が青髪にしたことを……?」

「遠くから見ていたからさ。お前が髪を青く染めているところを」


 質問に答えた。この魔人、自分が有利に立っていると饒舌になるタイプかも。


「ルヒナ、奴を──」


 師匠が魔人に気付かれないよう、小声で作戦を伝えてきた。自然な動作で耳を傾ける。


「──で、俺が──。──ってことで、頼む」


 なるほど、それなら……。


「遠くから見ていた……。それじゃあ西の都市を出た後、すぐに見付かっていて……。それじゃあ、どうしてその時すぐに襲ってこなかったんですか?」

「その男が問題だった」


 師匠が?


「そいつは髪色を変える妙な薬を使っていた。俺様はピンときたよ。奴は異術師だってな。異術師は搦手を使う、油断ならない相手だ。だから魔物どもを集め、準備を整えてから相手にすることにしたんだ」

「確かに師匠は、奇妙な薬を使って戦ったりしますからね」


 まだ? もう少しかな?


「で、お前が例の下手人かどうかだが……」


 魔人はいつの間にか手に持っていた虫メガネを構え、レンズ越しに私を見る。一瞬、何かの攻撃かと思ったけど、この会話の流れでそれはないか。


「これは上司から貰った秘策道具だ。どうやら下手人は魔法に長けているらしくってな。これは相手の魔法の才能を見抜くことができるんだ。むむむ……」


 魔法に長けている? やっぱり、魔人が探しているのは私じゃないってことか。私、魔法の才能なんて微塵も無いし。簡易魔法しか使えないし。


「……魔法の才能無しか。簡易魔法くらいしか使えないのか? いや、魔物との戦いで見せた強力な魔法は……。まさか、魔力を上乗せして威力を底上げしていたのか? なんて力業な……」

「見ての通り、私には魔法の才能はありませんよ。貴方が探している下手人じゃありません」

「そのようだな」


 それじゃあ、見逃して──。


「それじゃあ、殺しておくか」


 え?


「え、殺す? 私を? いえいえ、私は貴方が探している下手人じゃありませんって!」


 私は諸手を振り、慌てふためく演技をする。


「俺様は魔人だぞ? 殺戮こそが本懐だ。それに、これだけの魔物を殺しておいて見逃される訳がないだろう」

「兵士の死は指揮官の責任ですよ!」

「む。言われてみれば、こんな攻めにくい場所で戦わずに、街道を移動中にでも奇襲しておけばよかったな……。まあ、何はどうあれ死んだ魔物たちの敵討ちも指揮官の務めだ」

「そんな! み、見逃してくださーい!」


 という、情けなく後ずさりする演技。もっと後ろに。いや、もう少し左かな?


「うえーん、助けてください、お師匠様ー!」

「くそー、愛弟子を助けたいが、戦闘に仕えそうな薬は使い果たしてしまった―。どうしようどうしよう。うわー、このままでは愛弟子がやられてしまうー。わー、わー、わー」


 師匠の演技は私以上に下手だった。


「観念しろ!」

「きゃー!」


 魔人から逃げるふりをする。目指すはもう少し手前の左側……。よし、ここだ!


「ぎゃふん!」


 と、転ぶ演技。


「これで終わりだな。せっかくだから、盛大に屠ってやる。攻城魔法、城塞両断」


 魔人が右手を掲げると、天を突く巨大な炎の剣が生成された。その熱量、巨大さ……。確かに城塞を両断できそうな強力な魔法だ……。万全な状態だったとしても、私じゃあこの魔法は防げなかっただろうな。


「ですが、貴方は詰みです」

「何だと? この期に及んで……。ん? うお!? な、何だ!?」


 魔人は急に体感を崩し、その場に倒れ伏した。炎の刃は転んだ瞬間に掻き消えた。


「な、な!? 体が勝手に……!」


 勝利を確信した者は手の内を饒舌に話すけど、今その気持ちがわかった。めっちゃ話したい。ある意味、勝利宣言みたいなものだから。


「貴方には見えていなかったでしょうね。足元に芽吹いた怪異が」


 立ち上がり、服の土埃を払う。そして虫のように地を這う魔人を見下ろす。ふふ、私の演技に気付かず、こうもあっさりと誘導されるとは。


「貴方の足元には黒爪アサガオという、双葉の芽のような怪異が芽吹いては枯れ、芽吹いては枯れを繰り返していました。それに触れると、右半身が西を目指して勝手に動き出すのです」

「何だよ、その滅茶苦茶な……! くそ、くそ!」


 魔人は左半身で抵抗するけど、右半身に引きずられてどんどん西へ西へ。


「魔物たち、まももらち! そうこうえきら! こいつらをももせ!」


 今のは総攻撃の命令かな? でも口の右半分の自由が利かず、なんとも舌足らずな発音になった。


「なお、治す方法はないのら!?」


 治す方法は無いのか? って言いたいのか。


「なあ? 右半身を切除すればいいんじゃないですか?」

「その手があったな」


 え!? そっか、相手は魔人だ! 生命力が強いから、体を両断されても致命傷にはならない!?


「って、んなことできるかあああぁぁぁ……」


 魔人は右脚に力を込めて跳躍し、ノリツッコミをしながら西の空へ吹っ飛んでいった。見た目はセミみたいな魔人だったけど、あの跳躍力はまるでバッタだな。


 あわあわ、あわあわ……。


 主人の意味不明な行動を目にした魔人たちは困惑していた。魔人を追って西へ行くのが半分、尚もこちらに敵意を向けるのが半分。


「ルヒナ、魔力は回復したか?」

「あ、師匠。魔法を数発撃てる程度には、魔力は回復しましたが」

「それじゃあ、少しの間だけ魔物を防いでいてくれ。俺は少し、村に行ってくる」

「えー……。半減したとはいえ、まだ結構な数の魔物が残ってますが……」


 村の周囲には、まだ数千の魔物が残っている。流石に私一人で全てを相手にはできない。


「統率を失った烏合の衆だ。何とかなるだろ。すぐ戻るから、待ってろ」


 師匠はそう言い残し、村の方へ駆けて行った。まったく……。

 手に負えなかったら、私一人だけでも逃げ出そうかな……。



 ◆



 結果から言うと、何とかなった。指揮官を失った魔物は有象無象の獣でしかなく、日光によって魔力を回復しつつ応戦できた。


「よ、待たせたな」


 待つこと数分。師匠が麻袋を担いで村から戻ってきた。


「師匠、その麻袋は?」

「黒爪アサガオが生える条件は覚えているか?」


 えーっと、この村に来た時に師匠が何か言ってたな……。


「特定の条件の海で採れた塩を踏み固めた地面に撒く……。確か、そんな条件でしたよね」

「ああ、そうだ。村で話を聞いてみたら案の定、数日前にここで行商人の馬車が横転し、商品である塩をぶちまけていたらしい。で、俺が今担いでいる麻袋の中身が、その時村人が購入した塩だ。村人に事情を話し、かき集めた。塩は生活の必需品だが、今はそんなこと言ってられないからな」


 村、塩……。あ、もしかして……!


「ここに発生した黒爪アサガオは、行商人が運んでいた塩が原因で発生しました。その時、村人が購入した塩ってことは、それを地面に撒けば……!」

「そうだ。村に続くこの道に塩を撒き、黒爪アサガオを発生させて魔物どもを食い止めるぞ」


 師匠が道に塩を撒くと、ものの数秒で黒い芽が生えてきた。そして物凄い勢いで発芽と枯死を繰り返す。

 そこからは戦闘というよりも作業だった。


「村から弓矢も借りてきた。これで攻撃して、魔物たちをおびき寄せる」

「師匠、弓なんて扱えるんですか?」

「弓は素人だが、これだけ魔物がいればどれかしらに当たるだろ」


 私は魔法で、師匠は弓矢で魔物たちを攻撃し、黒爪アサガオの群生地帯に誘い込む。黒爪アサガオを踏んだ魔物たちの右半身は勝手に動き出し、西を目指した。

 どんどん魔物たちの数は減っていき、日が沈む頃には数千はいた魔物の半分が戦闘不能に、もう半分は戦意を喪失して何処かへ去っていった。こうして、村は守られた。

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