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剣と魔法と怪異譚  作者: 岩クラゲ
因習村
52/61

52-性善説を信じるか否か

 青年を治療した後、私たちは魔人の人が家にしている大穴に移動して話し合いをした。


「……ってな訳なんだ! がはは!」


 話を要約すると、麓の村では一年に一人、この山に誰かを追放するらしい。そしてこの村は、そんな追放者たちが集まって作った村だとか。

 魔人の人もそんな追放者の一人だったけど、山で例の白いリンゴを食べてから今の姿になり、追放者らのために麓の村から食糧を強奪するようになったとか。


「麓の村では、やはりまだ……」

「師匠、さっきから『やはり、やはり』って……。一人で考察してないで、私にも教えてくださいよ」

「五十年前に麓の村に来た時も一年に一人、山に村人を追放していたんだ。当時の村は貧しかったから、口減らしのためにな」


 「五十年前」というワードを魔人の人が疑問に感じたんじゃないかと思って顔を見てみたけど、特に気にした様子はなさそうだった。聞き流されたらしい。


「ですが、今の村は豊かになってますよね? 口減らしをする必要はあるんですか?」

「それが村の伝統なんだよ! クソみたいな伝統だ!」


 答えたのは魔人の人だった。


「口減らしの時代から続く伝統なんだ! 年に一回、村長とその取り巻きが追放する村人を決める! 選ばれるのは病気の若者、怠け者の若者、仕事ができない若者だ! 昔は山に追放されたら野垂れ死んでたらしいが、今じゃあ山も豊かになって、何とか生き延びられてる! それでも、生活は厳しいがな!」


 貧しい時代ならいざ知らず、豊かになった今そんな伝統を残してたって……。


「それで、師匠は今の話を聞いてどうしますか?」

「俺は基本的に現地の伝統や文化には口出ししない方針だが、これは明らかに悪習だ。ざっと見ただけでも、今の麓の村には充分すぎる余裕があった。毎年の追放をやめさせ、ここの住民を村で受け入れられないか村長と交渉しようと思う」

「おお! そいつは助かるな! ここの村人たちにため、よろしく頼む!」

「もちろん、あんたも含めてな」



 ◆



 私と師匠は山を下り、麓の村に戻った。村の入り口では、兵士たちがバリケードの手入れをしていた。


「おや、お二人さん。出かけてたんですか?」

「おはよう、異術師さん」

「お、異術師さんかい? 昨日はどうも!」

「見てくれ、あんたが治してくれた怪我、もう治ったよ!」


 兵士たちは村に入る私たちに気持ちよく挨拶をする。おはよー。


「お、異術師。村長が探してたぞ? 家に顔を出したらどうだ?」


 村に入るとすぐに、通りかかった村人の一人がそんなこととを告げた。こっちは不愛想だ。


「ちょうど村長に用があるし、早速行ってみるか」


 そうして私は師匠に続き、村長宅へ。



 ◆



 村長宅の客間に通され、村長と対面する。


「領主が寄越した兵士どもは役に立たん。ここは異術師に一肌脱いでもらいたい方々を回り、各地のごたごたを解決するのが異術師の役目なんだろう? あの魔人を何とかしてくれないか?」


 相変わらず、不愛想で高圧的な老人だ。これが人に頼みごとをする態度?


「そのことで俺も話があります。聞きましたよ? この村では年に一人、山に村人を追放してるとか。どうしてそんなことを?」

「……今、それを話す必要があるか?」

「話してくれないなら、今すぐ俺たちは帰ります」

「……」


 少しの逡巡の後、村長は口を開く。


「……伝統だ。儂が若い頃、この村はもっと貧しかった。皆生きるのに精一杯で、毎日必死で、常に全力だった。それでも生活は楽にならなかった。だから毎年、若者を一人、口減らしに山に追放していた。追放者には村の役に立たない者が選ばれる。だから儂は当時の村長に悪い意味で目をつけられないよう、必死で働いた。自分の畑だけじゃなく、村長の畑仕事も手伝った。苦労に苦労を重ねてきたんだ。つらい時代だった……」

「ですが、今のこの村は豊かになっています。口減らしをする必要なんてないでしょう?」

「今の豊かさがあるのは、儂らが苦労して畑を耕し、土地を切り開いたおかげだ。今の若者どもは何の苦労もせず、儂らの功績にただ乗りしておる」


 師匠によると、この村が豊かになったのは偶然ここに棲みついた怪異のおかげらしい。運良く怪異が棲みついただけで、この人の功績ではないのに……。でも、怪異のことをこの村長に言っても無駄なんだろうな。聞く耳を持たなそう。


「だから年に一人、役立たずの若者を山に追放しているんだ。そうすれば他の若者は追放されまいと、仕事を頑張る」

「今のこの村はそこまで頑張らなくても、充分に生きていけるように思いますが」

「そういう問題ではない」


 自分が苦労してきたんだから、今の若者も苦労すべき。村長の顔にはそう書いてあった。


「昔は痩せた山に追放された者は野垂れ死んでいたでしょうが、今は山の自然も豊かになっています。俺は今日、山で追放者たちの村を見ました」

「何だと?」

「この村を襲った例の魔人は、そこの住民たちを養うためにこの村から食料を略奪していたそうです」

「魔人が人間族の味方を? 信じられん話だな」

「それについては……」


 師匠は例の魔人の人が元は村から追放された者だったこと、怪異の影響で魔人のような見た目になったことなどを話した。


「相手が本物の魔人なら、俺も対処に当たったでしょう。しかし、今回の相手は人間族です。俺は手を出しません」

「……」

「魔人の人は兵士が何人束になってかかっても止められないでしょう。このままでは、村から食料を奪われ続けます。それならいっそのこと、魔人の人と追放者たちを村に受け入れた方が得策ではないですか? 彼らは何も、全く働かない訳ではないはずです。自分たちの食い扶持分くらいは食料を生産できるでしょう」

「ふむ……」

「それに魔人の人の怪力をもってすれば百人分の働きをするでしょう。さらに、村を魔人や盗賊から守ってくれると思いますが」

「……」


 村長は再び黙りこくり、何やら思案し始めた。


「……山にあるという、追放者の村には何人が暮らしていた?」

「魔人の人も含めて、十人前後でしたね」

「……それなら、もう年に一人の追放をやめよう。それと毎週、十人分の食料を用意する。それくらいの余裕はある」


 お、意外と素直に……。


「とは言え、すぐに十分な食料を用意するのは難しい。とりあえず、三日後に二日分の食料を用意しておく。魔人に取りに来るよう、言っておいてくれ」

「それはつまり、追放者らは村には受け入れず、食料だけ提供するってことですか? この村に利がないように思えるんですが……」

「食料欲しさに毎回村を襲撃されてたんじゃかなわん。そういうことだ」


 村長宅での話し合いの後、私たちは再び山を登り、魔人の人に話をつけた。


「三日後に、食料を取りに行けばいいんだな! がはは! 食料を用意してくれるってんなら、これからは村を襲わない!」


 とのことだった。

 魔人の人の話を聞いて山を下る時には、もう夕方になっていた。日に二回の登山はきつい……。



 ◆



 魔人の人との話し合いの翌日、村長は村の入り口に陣を張っていた兵士たちに事情を話し、帰ってもらった。村の家で寝ていた兵士も、その時には歩けるまでに回復していた。

 そして三日後、村の入り口に追放者たちのための食料が用意された。村で取れた野菜に麦が山積みだ。


「来ますかねえ、あの魔人の人。約束のこと、ちゃんと覚えてますかね」

「流石に覚えてるだろ。……お、噂をすれば」


 私と師匠が村の入り口で魔人の人を待っていると、地響きが起こり始める。そしてバキバキと木を押し倒しながら魔人の人が現れた。


「ぶはははははは! 食糧がこんなに! しばらくは山の村の連中も、食うに困らんな! これなら最初から、話し合いをしておけばよかったな! ふはは! 二人のおかげだ、感謝する!」


 魔人の人は山積みの食料を担ぎ、ズカズカと山に帰っていった。


「それにしても、よくあの村長は食料を提供する気になりましたね。怪しいです」

「またそうやって人を疑って……」

「師匠は人を信用しすぎなんですよ」

「だが、現に村長は今までの行いを悔い、追放者たちに食料を提供してるぞ?」

「そうですけどー……」


 確かに以前訪れた異術師アンチの町では、嫌な奴だとお持っていた神父が実は善人だったけど……。だからって、今回もそうとは限らない。

 どうも師匠は、どんな人でも根は善人みたいに考えてるところがある。そんなんだと、いつか足元をすくわれるかもしれない。



 ◆



 翌日は大雨だった。私たちは村を出る予定だったけど、足止めを食らって宿でのんびり。

 雨は五日間降り続いた。そして六日目にようやく晴れた。魔人の人が持ち帰った食料はとっくに尽きているはずなのに、彼は現れなかった。

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