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剣と魔法と怪異譚  作者: 岩クラゲ
無詠唱の魔法使い
39/61

39-会いに行くにも一苦労

魔法が暴発してしまう魔法使いが岩山に隠居しているらしい。

村長の頼みで、師匠とルヒナは彼の悩みを解決することにした。

 師匠は宿の二階の部屋を取った。一部屋しか空いてなかったので、私と師匠で同室だ。室内は広かったけど、窓とベッドが一つしかない簡素な部屋だった。ベッドに腰掛けてみたら、シーツに日の温もりがあった。さっきまで外で干してたのかな。


「今更ですが、私がベッドで寝て、師匠が床で寝るってどうなんでしょう。とは言え、ベッドは譲りませんが」

「ん? 別にいいよ。俺は寝ないから平気だし」


 かちゃかちゃ……。


 師匠は部屋に入るなり、床に素材や器具を並べて調薬を始めた。


「ルヒナ、この枝を弱火で炙ってくれ」

「了解です」


 師匠から小麦色の枝を受け取り、着火の魔法で弱火で炙る。変な色の枝だけど、これも怪異関連の何かしらなんだろうか。


「うん?」


 枝の火が当たった部分が、半透明のガラス質に変化していった。何これ、大丈夫なの?


「師匠、火で炙った枝が、ガラスみたいに変化してくんですが、大丈夫なんですかね?」

「ああ、問題ない。ちょうどいい火加減で炙ってる証拠だ。そのまま続けてくれ」


 一方で師匠は、乾燥した葉っぱをすり鉢で潰して粉にしていた。


「急に調薬を始めましたけど、何の薬を作ってるんです?」

「魔法に対する防御力を高める薬だ。この薬に加え、あんたの障壁の魔法を使って無詠唱の魔法使いに会いに行く」

「魔法に対する防御力を高める薬って、単純に強力な薬ですね。それを売ったら大儲けできそうです。それを戦場の兵士に提供して戦に貢献すれば、異術師の地位も上がるんじゃないですか?」

「そんな都合のいい薬じゃねえよ。めったに手に入らない素材を使うから量産は不可能だ。作り方もかなり面倒だし」


 そう言えば師匠、私を治療した時にも何十年に一度しか手に入らない素材で薬を作っていたような。貴重な素材を使うことに、躊躇が無いみたいだ。


「よし、そろそろ枝を炙るのはいいだろう。次はこの貝殻に風を当ててくれ」


 そうして瓶一本分の薬が出来上がった。

 薬は無色透明で、瓶の内壁に細かい泡を発生させていた。


「完成ですか?」

「いいや、まだだ。最後の仕上げに、岩山に行くぞ」


 岩山へ?



 ◆



「この辺がいいな」


 私は師匠に連れられて岩山の麓へ。

 師匠は先程作った薬の瓶を、岩の隙間に差し込んで固定した。そして瓶から充分に距離を取る。


「よし。ルヒナ、あの瓶に魔法を当ててくれ。一日で回復できるくらいの魔力を込めて、強いのを一発頼む」

「え、そんなことしていいんですか? 割れちゃいません?」

「いいや、大丈夫だ。問題ない。あ、だが岩とか風の魔法で瓶を吹っ飛ばすなよ? それ以外の魔法で頼む」


 相変わらず、何がしたいのかよくわからない。まあ、師匠のことは信用してるから言われた通りにするけども。


「簡易魔法、着火・球」


 着火の魔法を発動し、超高温の火の玉で瓶を包む。


「あんた、着火の魔法をよく使うよな」

「使い勝手がいいので」

「ドリアードって半分植物みたいなもんだろ? 植物は火で燃えるイメージあるから、相性悪そうなのに」

「人間族にも、火の魔法が得意な魔法使いはいるんじゃないですか? 火に弱いのに」

「そりゃそうか」


 そろそろいいか。私は火の玉を消滅させる。


「おや?」


 普通なら瓶は溶解し、中の薬液は蒸発しているはずなんだけど、瓶は無傷だった。さらに周囲の岩も表面が黒く焦げただけで、形を保っていた。岩石も赤く溶解させるほどの火力を出したんだけどなあ。ここの岩は魔法に強いらしいけど、ここまでとは。


「師匠、あの瓶……」

「ああ、あれでいいんだ。あの薬は仕上げに、高威力の魔法をぶち当てる必要があるんだよ。さてさて……」


 師匠は布を手に巻いて手袋代わりにし、瓶を岩の隙間から抜き取った。瓶は溶けてはいなかったけど、熱は籠ってるのか。

 師匠は瓶を揺らし、中身をよく観察する。


「よし、中の泡が消えてるな。成功だ」


 どうやら成功らしい。

 火球の熱に瓶が耐えられたのは、中の薬がなんかいい感じに作用してどうにかなったんだろう。師匠の薬が不可思議なのは今更だ。


「それにしても、仕上げでこんな高威力の魔法が必要になるって……。確かに大量生産には向いてませんね」

「そうなんだよ。あんたがいなきゃ作れなかった薬だ。ありがとうな」

「どういたしまして」


 師匠は魔法防御の薬を布でくるみ、薬箱に仕舞った。


「例の魔法使いさんのために、ここまで手間暇かける意味ってありますかね?」

「そいつが困ってるって言うんなら、助けてやろうぜ? それに、相手は都で幅を利かせてた魔法使いらしいじゃないか。悩みを解決してやったら、いい額の報酬を貰えるかもしれないぞ?」


「悩み事を抱えている人がいたら、放ってはおけませんよね!」


 私は拳を握り、力強くそう言い放った。


「あんたって本当、わかりやすいよな……」

「それじゃあ、早速向かいますか! 岩山に隠居してるという魔法使いさんの所へ!」

「いや、行くのは明日だ。何が起こるかわからないから、あんたの魔力の回復を待つ」

「さいですか」



 ◆



 私は平らな岩の上に腰を下ろし、日光浴をした。日差しが美味しい。


「師匠も隣に来て、日向ぼっこすればいいのにー」


 私は声を張り、師匠を誘った。


「俺はいい。暑い」


 師匠は少し離れた木陰に座り、薬箱を開いて薬の手入れをしていた。


「つーか、村に帰ろうぜー? 日光浴なら村でもできるだろー?」

「ここで日を浴びるのが気持ちいいんですよー」

「わっかんねえなあ」

「師匠だけでも、村に帰ればいいじゃないですかー」

「あんたを一人にして帰れるかよー。村の近くとは言え、油断ならん」


 ふと木陰の方を見ると、師匠は作業の手を止めて私を眺めていた。

 さんさんと降り注ぐ日差しの下、私は斜に座り直して足を投げ出し、絵になるポーズを取ってみた。


「簡易魔法、送風」


 離れた場所に居る師匠からはわからないよう、こっそり送風の魔法を発動し、風で髪をなびかせる。一本一本が絹のように子細で美しい長い髪が、まるで緑色のカーテンのように風と遊んだ。

 まあ、それでも師匠は私に対し、可愛いの一言も言ってくれないんだけどね。あーあ、そろそろ誰かから褒め称えられたいなあ。


「そんなに日を浴びて、日焼けしないのかー?」

「植物が日の光を浴びて日焼けしますかー?」

「そういうもんなのか……」


 かくして私は夕暮れまで日光浴をし、魔力を蓄えた。

 さて、明日は無詠唱の俺とご対面だ。どうなることやら。

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