40-自宅爆散!
無詠唱の魔法使いの所に行くため、準備を整えた。
翌朝、宿の部屋で出発の準備をしていたら、村長が大きな袋を抱えて訪ねてきた。
「村長、それは?」
「ドレン殿の食料と日用雑貨じゃ。普段は岩山の途中に置いてきて、入れ替わりに来たドレン殿がそれを持って行くんじゃ。しかし、今回は異術師殿がドレン殿の所へ行くフガフガ。頼めるかの? フガフガ……、中にドレン殿の家への地図も入っておる」
「一応、中を確認しても?」
師匠は村長から袋を受け取り、中身を確認する。私も師匠の肩越しに中を覗き見る。中には確かに数日分の食料や衣類、そして岩山の地図が入っていた。
「村長さん、この村って、税は何で納めていますか?」
と、師匠の肩に顎を乗せて質問する。
「基本的には食糧で納めてるのう。しかし、どうして急にそんなことを?」
「この村、小さくて貧しそうだなあと思いまして」
「どうして急にそんなこと思うんじゃ!?」
ここの村は小さくて、食料的な余裕がなさそうな印象だった。なのによく、こんな袋一杯の食料を用意できたものだ。服も簡素だけど丈夫そうだし。そのドレンって魔法使い、魔物避けとして村から重宝されてるんだなあ。
◆
私と師匠は、岩山へ。岩山の斜面はなだらかで、道もよく整備されていたので歩きやすかった。
ちなみに師匠は食料の入った袋を紐でくくり、薬箱と一緒に背負っている。重そう。
「地図によると、この先に魔法使いが住んでいるらしい。そろそろ準備しておくか」
師匠は懐から例の魔法防御を高める薬を取り出し、栓を抜く。
「その薬、飲むんですか? それとも、塗るんですか?」
「これは首筋に垂らすタイプだ。ルヒナ、髪をかき上げてくれ」
言われた通り、髪をすくって襟をずらし、首筋を見せる。
「よし、そのままじっとしててくれ」
どばっ!
「どひゃう!?」
首筋に垂らすって言ったから、てっきり一滴二滴くらいのものだと思っていたけど、瓶の中身を半分くらいぶちまけられた。しかもその薬は、何故か氷のように冷たい!
私は思わずのけ反り、美少女にあるまじき奇声を上げてしまった。
「ちょっと! そんなにかけるなら事前に言ってくださいよ! しかも氷みたいに冷たいですし!」
「お、おう……。すまん」
「もう、服もビチョビチョに……。って、あれ?」
背中が全面的に濡れた感覚はあったけど、水分いつの間にか消え去っていた。背中に手を回して確認してみても、服も体も全く濡れていない……。
「あれ? あれ? 背中が濡れてない……」
「充分な表面積が外気に晒されると、体温で揮発する薬なんだ」
「また不可思議な……」
「さあ、次は俺の首筋にかけてくれ。残った薬を全部」
師匠は私に瓶を渡し、首筋を見せた。さっきのお返しにと、首筋に薬をぶちまけてやったけど、師匠は大したリアクションを示さなかった。事前に知っていれば流石にか……。くそう……。
「かーっ。やっぱ冷たいな、これ。よし、この上からさらに障壁の鎧を張ってくれ。念のため、強めのやつを」
「それじゃあ、手を握ってください」
障壁の鎧を二人にかけるには、手を握っていなくてはいけない。私は師匠に右手を差し出す。
「ん? ……?」
「ちょっと、師匠……!」
師匠は左手で私の右手を握ろうとするも、上手くいかない。手の甲を握ろうとしたり、指を握ろうとしたり……。何この手を握る握らないの攻防……。
「真面目にやってください!」
「真面目にやってるよ!」
「ああ、もう! そうじゃないです! 師匠、左手をパーにして、指を開いてください! そのままじっとしてて!」
言われた通りに開かれた師匠の左手。その指と指の間に私の右手のそれぞれの指を通し、しっかりと握った。指と指を絡め合う感じで。
「普通に握ったんじゃ駄目です。これくらいしっかり握らないと。途中で障壁の鎧が解けて張り直すにしても、魔力はタダじゃないんですからね。温存しておかないといけませんよ」
「……あんたって、身持ちが硬いのか緩いのかわかんねえ時あるよな」
「はい? いいから、いきますよ? 簡易魔法、障壁・鎧」
二人まとめて障壁の鎧で包む。二人分なら消費魔力も単純に二倍ってものじゃないな。もっと多くの魔力を消費してる気がする。ただでさえ通常よりも強固な障壁を張ってるし、これは日に何回も張り直せるものじゃないな……。
◆
師匠と手をつないで山道を歩いていると、開けた盆地に出た。盆地の中心には、木造一階建ての簡素な小屋がポツンと建っている。十中八九、あれが魔法使いの小屋だろう。
私たちは手を繋いだまま、早速玄関先へ。
こんこん。
「魔法使いさーん、いますかー? 少し用があるんですがー」
「……」
師匠が声をかけるも、ドアの向こうからは無言が返ってきた。
こんこん。
「魔法使いさーん」
「魔法使いさん、絶対に居留守ですよね。ここ以外に行く所もないでしょうに」
「ああ、俺もそう思う」
こんこん。
「……帰れ。私は危険だ。魔法が無意識に暴発しかねん」
あ、中から返事があった。
「食糧を持ってきたのか? それなら玄関先に置いて、さっさと帰れ。というか、ここに来るまでの道中に犬小屋みたいなのがあっただろ。食料の入った袋は、そこに置いておく決まりだったはずだが?」
道中に犬小屋? あったような、なかったような。
「帰れ! とにかく、帰ってくれ! 私に近付くな!」
その時、一陣の風が吹き、私のスカートの裾を軽くめくった。
「いやん、いたずらな風っ」
「かわい子ぶるな。太ももまでしか見えてねえだろ」
「イタズラな風!?」
魔法使いの叫び声がしたと同時に熱波を含んだ爆風が起こり、小屋が粉々になって吹き飛んだ。
私と師匠は手を繋いでいたので飛ばされずに済んだけど、お互い尻もちをついてしまった。
「ああ、だから言ったのに……。魔法が暴発して人を……。なんてこった……」
瓦礫の中心で壮年の男が膝をついて顔を覆い、打ちひしがれていた。彼が例の魔法使いか。顔はよく見えないけど、濃い金髪髭面で耳には赤いピアスをしている。服装は村人よりも少し上等そうだ。
「対策をしてなかったら、熱波で肌が焼けてたかもな。俺は無事だが、ルヒナはどうだ?」
「十全に無事です。これなら直撃を受けていても、障壁の鎧で防げてましたよ。エルフとも渡り合ったって話だったので、どんな魔法がくるものかと思っていたら……」
「無意識に暴発した魔法だから、本来の威力を出せてないんじゃないか?」
私と師匠は立ち上がり、土埃をパンパンと払う。
「え……。君ら……。私の魔法を受けて無傷?」
魔法使いはゆっくりと──恐る恐る顔を上げ、私たちの姿を見た。その顔には、驚きの色が見える。
上空に舞い上がった小屋の残骸が、パラパラと落ちてきた。
魔法使いの小屋、壊れちゃったけど、どうするんだろう……。




