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剣と魔法と怪異譚  作者: 岩クラゲ
第二部、浮浪者と冒険者編
27/61

27-冒険者のせいで治安が悪くなる

一向は地下水路で幽鬼探索を行ったが、成果は得られなかった。

 地下水路を出ると、外はもう夜になっていた。

 宿への帰り道で計六人ほどの悪漢が襲ってきたけど、私が障壁の魔法で封じ込め、無事に宿に帰れた。

 そして翌朝、私と師匠はリリアンさんの部屋に集まり、作戦会議をした。そこで私は、ずっと気になっていたことをリリアンさんに質問してみた。


「リリアンさんって、この街に居て長いんですよね? どうしてこんなに街の治安が悪いんですか?」

「この街には冒険者ギルドがあって──」

「あ、すみません。私の国には冒険者ギルドなんて無かったので、そこから説明してもらえると助かります」


 冒険者というのは、魔物を討伐したり行商人を護衛する武装集団だと聞いたことがある。だけどドリアードは素で魔物より強いので、ベルメグン公国には冒険者ギルドなんて組織は無かったのだ。


「そうさねえ、どこから話すか……。ルヒナちゃんは冒険者について、どれくらい知ってるんだい?」

「冒険者ギルドは人間族の国に存在する組織で、魔物を討伐したり行商人を護衛する武装集団だとか。冒険者の力が必要な人はギルドを通して依頼を出し、その依頼はギルド内の掲示板に張り出される。そして冒険者たちは気に入った依頼を引き受け、成功した暁には報酬を貰う。薬草の採集とかって依頼もありますが、それで貰える報酬は雀の涙。ですが上級の冒険者ともなると、家が買えるほど稼げるとか。身分性別経歴不問、腕っぷしさえあれば一獲千金、人生逆転、勝ち組確定だとか」


 よく考えたら私って強いし、冒険者に向いてるかも? その道を考えてもいいかも……。


「あー……、そういうふうに伝わってるかあ」

「ベルメグン公国は他国との国交をほとんど絶ってたんだ。ルヒナがこういう認識でも仕方ない」


 あれ? あれ? 師匠もリリアンさんも、「あちゃー、そういう認識かあ」ってリアクションをしてる。

 私は何か変なことを言ったみたいだけど、噂ではそう聞いてたんだから仕方ない。


「まず、アタシら人間族からしたら、その辺の草原や山には魔物が沢山いて危険な訳よ。特に町から町へ商品を運ぶ行商人は命懸け。だから高い金を払って傭兵を護衛につけてた。だけど傭兵からしたら、護衛の仕事よりも戦争に参加した方が儲かる。だから戦争がある時期は護衛料は跳ね上がる。だからといって護衛を渋った行商人は魔物の餌食になる」


 人間族って大変だなあ。弱くて。


「そこである時、商人ギルドは『どうにかして護衛料を安くしたい』って考えた。そして金を出し合い、設立されたのが冒険者ギルドって訳さ。そこで冒険者を募り、格安で護衛の依頼を受けさせた。そうしたら予想以上に人が集まって大繁盛。今では護衛以外にも魔物の討伐や素材の採集なんかもやってる。ちなみに微塵も冒険をしてないのに『冒険者』ギルドって名前なのは、単にかっこよさげで人が集まりそうだったからだとか」

「冒険者ギルドって、商人ギルドが作ったんですね」


 意外な事実だ。それじゃあ立場的には、冒険者ギルドは商人ギルドの下なのか。


「冒険者ギルドではさっきルヒナちゃんが言ってた通り、身分性別経歴不問、腕っぷしさえあれば一獲千金、人生逆転、勝ち組確定さ。間違ってはいない。ただし、実際に冒険者として食っていけるのは、上澄みの上澄みの上澄みだけ。ほとんどの冒険者はその日の宿にも困窮してる有様さ」

「え、それって、魔物の討伐や行商人の護衛とかをしても稼げないってことですか?」

「命懸けの重労働でも、ただでさえ少ない元の依頼料から冒険者ギルドの取り分が引かれ、商人ギルドへの上納金分が引かれ、税金が引かれ、冒険者の手に届くのは雀の涙未満さ。比較的安全な薬草採集なんて依頼もあるけど、手押し車一杯の薬草を集めても貰える報酬は五百ロアって聞いたことがあるね」

「たったの五百ロアですか……」


 そんな金額じゃあ、三食食べることもできない……。


「あれ? ですが冒険者って、ギルドに併設された酒場で楽しく飲み食いしてるって噂も聞いたことがあるような……」

「それは本当だね。まあ、職場に酒場が併設されてるのもどうかと思うが……。ギルドの酒場で冒険者が飲み食いしてるのは、見栄だよ」

「見栄……?」

「そう。『俺はここで豪勢に飲み食いできるくらい儲かってるんだ、だから強いんだ』、『俺をなめるんじゃねえ』っていう見栄……。蓋を開けてみれば報酬の全てを食費につぎ込んでいて、実は帰る家も宿も無く路上暮らしなんて奴ばっかりらしい。食費のために借金までしてるって奴もいるらしいね。ちなみにそういう奴は宿なしだってバレないよう、色々と工夫してるらしいね」


 えー……。


「それ、逆になめられるでしょう。身内ではなめられてなくても、外部の人からは。だから依頼料が……」

「冒険者はなめられてるのさ。命懸けで重労働の日雇いを格安で請け負ってくれる、都合のいい使い捨てってね。実際、その通りだし」

「うわー……。そんなのでよく人が集まりますね」

「冒険者には三つの種類があるらしい。一つめは、本当に一獲千金を目指して切磋琢磨してる奴ら。ほんの一握りの、上位の上位の強さを持つ冒険者だけは稼げるってのは事実だからね」

「おお!」


 上位の上位の強さを持つ者……。私のことかな?


「ただしそれでも、依頼内容と報酬は見合ってない」

「それって、依頼の報酬が低すぎるって意味ですよね?」


 コクンと頷くリリアンさん。

 私、やっぱり冒険者になるのはやめておこう。


「二つめは、腕っぷしはあっても社会適性が無くて碌な仕事に就けない荒くれ者だ。そんな奴らでも、魔物の討伐くらいはできるからねえ。たびたび問題は起こしてるみたいだけど」


 確かに冒険者って、荒くれ者の集まりみたいなイメージもあった。


「三つめは逃亡農奴だ」

「逃亡農奴? 名前からして、土地から逃げ出した農奴ですか?」

「その通りだ。農奴ってのはその土地に縛られた農民のことで、勝手に土地を離れたら罪になる。だけど実は農奴ってのは一定期間逃げ延びれば、もとの領主から追われることはなくなるんだよ」

「変な法律ですね。それじゃあ、農奴って逃げるが勝ちじゃないですか」

「それがそうでもない。土地も人脈も無い見知らぬ場所で、身一つで生き延びなきゃならないからね。当然、まともな職場は身分が不確かな者を雇わない」

「あ、それもそうですね」


 自分が人間族の農奴の立場だったら、ある程度生活が苦しくてもその土地に縋ってたかも。


「だからこそ農奴は街へ忍び込み、冒険者になって日銭を稼ぐんだ。身分不問の冒険者だけが、逃亡農奴の生きる道って訳だね。で、ここからが問題な訳だけど……」


 あ、そうだった。別に私、冒険者について聞きたい訳じゃなかったんだ。


「さっきも言った通り、冒険者は稼げない。だから大半の冒険者は宿も借りれず、路上での生活を余儀なくされるんだ。つまり、浮浪者同然になる。もしくは問題を起こして冒険者ギルドを追放され、浮浪者になるって場合もある」

「ですが浮浪者って、人間族の街だと割と見かけるんじゃないんですか? 問題は問題ですけど、そこまでじゃあ……」

「ああ、普通ならそこまで問題にはならない。この街だって、冒険者ギルドができる前は家のある者と無い者である程度住み分けられてた。一番の問題は、そんな冒険者に武器の所持を認めたことだ。討伐や護衛をするためには、武器が必要だからね」

「武器の所持……」


 あ……。


「荒くれ者や金のない逃亡奴隷に武器を持たせたらどうなると思う?」

「治安が悪くなりますね」

「ああ、そうだ。武器を持てない一般人は金銭目的、体目的、もしくは単に気に食わないからって理由で襲われる」


 その話を聞いて私の脳裏に、昨日会った老婆の記憶がよぎった。娘を冒険者に殺された老婆……。

 私はその時、彼女はどうやって冒険者と一般人を見分けてるんだろうと思ったけど、もしかしたら武器を所持しているかどうかで……。


「一般人は鎧を着てたり武器を持ってたりすると捕まるんだ。一応、護身用の短いナイフは所持できるが、そんなので剣や槍を持った暴漢には太刀打ちできない」

「そんな状況が放置されてていいんですかね?」

「この街を治めてるのは商人ギルドで、そいつらは冒険者ギルドから多額の上納金を得ているんだ。市民の安全なんか二の次なんだろうね。そんなこんなで、この街の治安はとんでもなく悪化しましたとさ。まあ、最近だと市民が自警団を作ったり、魔法学校に高い金を払って戦闘魔法を身に着けたりして、以前よりかは治安が良くなってるみたいだけどね」

「はいはーい、リリアンさん。私思ったんですけれど、市民も冒険者になれば武器を持てるんじゃないですかね?」

「冒険者ギルドは副業禁止らしいよ。それから自警目的で冒険者になった者は、他の冒険者から嫌われるらしい。嫌われて、夜道で後ろから刺されたりね……」

「……」


 なんかもう、言葉も出ない……。そこに来て地下水路で暴れまわる幽鬼でしょう? それ、善良な市民からしたら……。ん?


「そして幽鬼が現れて、地下水路の浮浪者を殺して回り……。ふと思ったんですけど、幽鬼は本当に幽鬼なんですか?」

「何?」

「ルヒナちゃん、それってどういう……?」


 私の一言に、師匠とリリアンさんが反応した。


「強いのでこんなこと言えるんですけど、私が市民の立場だったら幽鬼のふりをして地下水路で暴れまわると思ったんですよ。恨みの発散とか、治安を脅かす者を減らすためだとかで」

「リリアン、敵が幽鬼だってのは確定した情報なのか?」

「……襲われた浮浪者の目撃情報からの推測らしい。アタシが直接、幽鬼を見たって訳じゃない」

「ふむ……。街の治安を脅かす浮浪者に恨みを抱き、幽鬼のふりをしてか……」


 もしかして、私の今のちょっとした思い付きって的を射ていた? それじゃあ──。


 どんどんどん!


「リリアン! 居るか!? 大変だ!」


 突然部屋のドアが叩かれ、昨日の兵士の叫び声がした。何事?


「あの兵士だ。緊急時のため、アタシがここに泊まってるのは伝えてあったんだが、何かあったんだろうか」


 リリアンさんがドアを開けると、そこには昨日の兵士が息を切らして立っていた。かなり急いでここに駆け付けたようだ。


「はあ、はあ……。リリアン、大変なんだ! 地下水路に大量の幽鬼が!」


 え?

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