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剣と魔法と怪異譚  作者: 岩クラゲ
第二部、浮浪者と冒険者編
26/61

26-少女火葬

一向は幽鬼討伐のために地下水路へ。

リリアンは以前も地下水路に来て、幽鬼捕縛のための罠を張っていたらしいが……。

 カラン……。


 リリアンさんは左手にランプ、右手に地下水路の地図を持って奥へ奥へと進んでいった。彼女に師匠、私の順で続く。


「この先の狭い通路に一つ、幽鬼を捕まえる罠が置いてあるんだ」

「その罠ってどんなのですか?」

「土の入った植木鉢だよ。土には怪異由来の種が植えてあって、死体が近くにあると蔓が伸びて締め上げる」

「幽鬼は怪異によって動かされてる死体なので、近くを通りかかったら罠にかかるってことですか」

「そういうこと。……って、あれ? 無くなってる……」


 リリアンさんの横から通路の先を見てみると、そこには円状の奇怪なマークが床に描かれていた。


「このマークの上に植木鉢を置いてたんだけど……、無くなってる……」

「こりゃあ、浮浪者にでも盗まれたな」

「アタシはそいつらを助けようとしてるってのに、なあんでそういうことするかねえ……」


 その後もいくつかの罠を確認したけど、植木鉢は盗まれているか、蹴っ飛ばされて割れているかだった。幽鬼を捕まえる罠は、奇怪なマークの上から鉢を動かされたり、中の土がこぼれたりすると効果を失うらしい。


「何なんだい、ここの奴らは!」


 罠の全滅を確認したところで、リリアンさんがキレた。人が二人通れる位の狭い通路の中を、彼女の怒号が木霊する。


「失敗したのは仕方ない、次の方法を考えよう」

「あの罠を張るために、アタシは結構な金と時間を使ったってのに……。ったく!」


 リリアンさんが八つ当たりで足元の石を蹴っ飛ばした。石は通路の壁や床をバウンドし、曲がり角で動きを止めた。


 ぬっ……。


 その曲がり角の闇の中から、ボロを纏った男が現れた。男の肌は爛れていて、見た目から年齢は予想できない。そして手にはノコギリを持っている。


「……」


 男は私たちを見ると、無言のまま近付いてきた。彼の意図はわからないけど、放っておいても状況は良い方には転がらないだろう。


「止まりな! アタシたちに近付くな!」


 リリアンさんが苛立ち交じりで警告するも、男はこれを無視。歩調を変えないまま、こちらへ近づいてくる。


「ルヒナちゃん」

「わかってますよ、障壁の魔法で──」

「いや、ドリアードは魔力が底無しらしいけど、今は温存してくれ。アタシが対処する」


 リリアンさんが私たちの前に躍り出て、男に向けて手の平を向ける。すると宙に黒い手が出現し、男の顔に掌底をくらわせた。男の方ばかり見ていたけど、リリアンさんも黒い手と同じ挙動をしていたみたいだった。


 ばたり……。


 男はその一撃でノックアウト。その場に仰向けで倒れ込んだ。

 結局何だったんだろう、この人。


 カラン、コロン……。


 倒れた男からチェーンで繋がれた小さな金属プレートが落ちた。


「冒険者タグ……。コイツ、冒険者だったのかい。落ちぶれたもんだねえ」


 あの金属プレート──と言うか、タグが冒険者の証しなのか。

 元冒険者か現役かはわからないけど、落ちぶれてこんな地下で浮浪者みたいになったのかな。

 この場ではそれ以上の収穫も無く、私たちは来た道を引き返して地上に戻ることにした。



 ◆



 来た道を戻ることはできなかった。水路から溢れた水が通路を冠水させ、私たちの行く手を阻んだのだ。


「この通路は使えないねえ。こっちの道を行こう」

「リリアンさん、こんな複雑な通路なのに、よく迷いませんね」

「地図があるだろ?」


 そう言って彼女は持っていた地図を私に示す。


「いえ、地図があっても……」

「リリアンは方向感覚が鋭いらしいな。俺だったら地図があっても迷ってたと思う」

「私は迷ったら地上に向けて熱火線を放って穴を開け、脱出していたと思います」

「いや、地上の被害……」

「師弟漫才なんてしてないで、さっさと行くよ」


 リリアンさんが選択した通路の先に、それは落ちていた。

 こんな浮浪者の吹き溜まりには似つかわしくない、あるはずがない、あってはならない……。


「師匠、これ……」


 それは少女だった。一糸纏わぬ少女の身体が、通路の脇でゴミと一緒になっていた。

 乱暴の跡が見受けられる髪は長い金髪で、見開かれた瞳は緑色だった。それに加えて磁器人形のように整った顔立ちから一瞬だけエルフかとも思ったけど、耳が長くないので人間族のようだ。

 彼女がどうしてこうなったのか、想像に容易い……。地上の街で悪漢に捕まり、この地下水路に連れ込まれて……。


「人間族の男って、本当、最低ですね」


 彼女への哀れみとか、同情とか、悲しみなんかじゃない──ただ純粋な嫌悪が、私の心の中で渦を巻いていた。


「リリアン、流石の俺でも、これはモチベーションが下がる……。こんなことをする奴らのために……」

「……それについては、アタシも思わなかった訳じゃなかったさ。今までこの手の犯罪を、幾度となく目にしてきたからね。だけど、幽鬼を放置すれば地上で暮らす善良な人たちにも被害が及ぶ。そう割り切った……」

「ルヒナ」


 師匠に名前を呼ばれた。それだけで、今この場で私に何を求められているのかわかった。

 私は右手で少女を指さす。


「簡易魔法、着火・球」


 直系は人一人分、内部の火力は最大、周囲に漏れる熱波は最小限に。かつ、充分な魔力は残して。

 こんな場所では土葬もできない。私は超高温の火の玉で少女を火葬にした。

 火球が消えた跡には骨も残っておらず、通路の石だけが真っ赤に溶解していた。


「これが底無しの魔力を利用した、ドリアードの魔法かい……。驚いたね」


 そう言えば、リリアンさんに戦闘用の魔法を見せるのは初めてだっけ。



 ◆



 その後の道中でも幽鬼の手掛かりは見つからなかった。

 私たちは最初に来た階段を上り、分厚い鉄扉の前まで来た。リリアンさんが合図をすると、すぐに兵士が扉を開けてくれた。


「どうだった? と聞きたいところだが、その辛気臭い顔を見るに、進展なしか」

「……ああ、そうだった」


 返答したのはリリアンさんだった。


「頼むぜ、リリアン。もしも幽鬼が地上に出てくるとしたら、真っ先に殺されるのはこの出入り口を見張ってる俺かもしれないんだからよ」

「幽鬼が怖いなら、殺されないくらいに体を鍛えな」

「ヤなこった。俺は見張りって名目でここに閉じこもって、ダラダラしてる生活が好きなのさ。これでもれっきとした仕事だから、体を動かさなくても金が手に入る」


 こんな時だけど、その生活は羨ましいと思ってしまった。


「アタシらは宿に帰る。明日か明後日、また来るよ」

「おう。外はもう真っ暗だから、気を付けて帰んな」


 夜かあ……。一仕事終え、日の光を浴びたかったんだけどなあ。

金のない冒険者、追放された冒険者の浮浪者化問題。

そしてそんな奴らが今度は依頼で地下に来た冒険者を襲って……。

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